渋幕・武蔵・灘も…有名進学校が「現地集合・現地解散」を選ぶワケ 生徒の乗り間違えも「想定内」

秋の修学旅行シーズンが始まった。一般的に遠足や修学旅行は、生徒が学校や最寄りの駅に集合してから出発することが多い。ところが、有名進学校では「現地集合・解散」が少なくない。そこには有名進学校ならではの事情があった。
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■中学1年から「現地集合・解散」
千葉市にある渋谷教育学園幕張中学校・高等学校は、東京大学など難関大学への合格実績で知られる中高一貫校だ。同校の校外行事(校外学習、宿泊研修、修学旅行)は、「現地集合・解散」が基本だ。
現在、同校で入試対策室副室長を務める真鍋清司先生は、16年前の赴任時をこう振り返る。
「中学1年生から現地集合・現地解散を実施していること、そしてそれを実行できる生徒の能力に驚きました」
学校の校外行事は、生徒が学校や最寄りの駅に集合してから出発し、帰着まで集団行動することが一般的だ。その大きな理由の一つに「安全管理」のしやすさがある。遠足や修学旅行では、学校や教員に引率責任がともなうからだ。
現地集合・解散をするとなると、教員の目が生徒に届きにくい。実践するには生徒と教員間の連絡手段を確保しなければならないなど、教員の負担は大きくなる。
■自分で調べ、自分で考える
なぜ、同校は現地集合・解散を伝統としているのか。
「教育目標は『自調自考』だからです。自らの手で調べ、自らの頭で考える。校外学習でも同じです」(真鍋先生)
だが、実は渋幕の生徒たちは、入学するまでは、「自調自考」とは対極の状況に置かれていることが多いという。
■「中学受験」から脱却する
「中学受験は『親の受験』と言われるくらい、親が子どもの生活や行動に関わります。特に最近はその傾向が顕著です」(同)
中高の6年間で、生徒が親から独立し、自分自身で考えて行動できるようになることが必要で、そうでなければ「将来の進路選択もままならない」と言う。
「そのための取り組みの一環として、開校以来、現地集合・解散を実施し続けているんです」(同)

■「シート」を作り提出
現地集合・解散は、中学1年生での、千葉県内の日帰り校外学習から始まり、年を重ねるにつれ、徐々に遠方になっていく。高校2年生の修学旅行は、九州と中国の選択制で、特に九州への旅行は「現地集合・解散の集大成」(同)だという。中国を選んだ場合は、目的地が国外ということもあり、成田空港での集合・解散になる。
中学1、2年時の1学年は約300人、9クラス。校外行事では5人前後の班を作り、班ごとに集合する。
校外行事では、事前に「現地集合・解散シート」を作り、行動予定を学校に提出することになっている。生徒は家から集合場所まで移動手段(徒歩、自転車、路線バス、電車など)と乗り換えの時刻などを記入する。
「生徒は自分たちで交通機関を調べ、当日は、同じ班のメンバーと途中で合流しながら、集合場所にたどり着きます」(同)
■路線図を見たことのない生徒も
紙の時刻表が必要だったかつてとは違い、今なら、パソコンでもスマホでも検索ひとつで、最適な交通手段と時刻はすぐにわかりそうだ。だが、これが「そう簡単ではない」という。家族旅行に自家用車で行く家庭が多く、路線図を見たことのない生徒もいる。
「何の指導もない状態で中学1年生に現地集合・解散シートを書かせるのは難しいので、路線図を配布して、家の最寄り駅から集合場所の駅までをなぞらせるところから始めます」(同)
生徒はシートに鉛筆で下書きをし、それに教員が目を通し、無理なく乗り換えや合流ができるかなどを確認する。
教員のOKが出れば、生徒はボールペンで清書したシートを提出する。それをPDF化して、校外学習で引率する教員全員が共有し、当日、携帯する。万一の場合も、生徒の居場所を把握しやすくするためだ。
■生徒の力につながる
中学2年生になると、10月に「東北研修」に行く。前年に比べ、現地集合・解散のハードルは上がる。
たとえば、集合場所がJR盛岡駅(岩手県)の新幹線改札なら、新幹線の指定席きっぷを購入して、発車・到着時刻、号車、座席をシートに記入しなければならない。生まれて初めて長距離きっぷを買う生徒が大半だ。事前に、教員は集合時刻に間に合う新幹線の情報を伝え、早めの行動を促す。
「きっぷの買い方がわからず、不安な生徒は、同じ班員と一緒に買いに行くこともあります」(同)
教員が駅員に「生徒がきっぷを買いに行くので、よろしくお願いします」と伝えることもある。間違ってきっぷを買ってしまった場合は、払い戻しを案内するなど、教員がフォローする。生徒たちが安全に行動できるよう、教員たちもかなりの労力をかけているのだ。
「生徒が自分で考え、行動するための安全管理は必要ですし、手間もかかります。けれども、生徒が成長するうえで大切な力につながると、教員全員が認識しています」(同)

■武蔵は校外行事で現地集合・解散
現地集合・解散を通じて、生徒の行動力を育てる進学校はまだある。御三家のひとつ、武蔵高等学校中学校(東京都練馬区/以下、武蔵)は関東近辺の三つの校外行事、「学校山林遠足」(埼玉県入間郡)、「山上学校」(群馬県前橋市)、「天文実習」(山梨県北杜市)で現地集合・解散を実施している。
武蔵が現地集合・解散を続けてきた理由は、有名進学校ならではの「通学範囲の広さ」にあると、広報担当の高野橋雅之先生は言う。
「公立校の場合は学校の近くに住んでいる生徒が多いですが、本校の場合、埼玉県や神奈川県住の生徒は多数いますし、その他の関東各県から通学するケースもあります。軽井沢(長野県)から新幹線通学の生徒もいました」(高野橋先生)
たとえば、山上学校の場合、JR前橋駅に集合する。仮に学校集合にした場合、大宮駅(埼玉県)近辺に在住の生徒は、都心まで行ってから自宅方向に引き返すことになる。
「であれば、自宅から集合場所に直接行ったほうが合理的です。それが現地集合・解散の一番の理由です」(同)
■群馬に行くはずが栃木に
乗り換える駅や電車を間違えるなどして、集合時間に遅刻してしまう生徒が毎年、1、2人出るという。たとえば、都内から群馬県方面のJR高崎線ではなく、JR宇都宮線に乗ってしまい、栃木県に行ってしまった生徒がいた。
「私が担任だったのですが、生徒から電話連絡を受けて、『慌てないで、安全第一で来なさい』と伝えました」(同)
生徒は1時間以上遅れて到着したが、そうしたケースも「想定内」だという。
「遅刻する生徒用に車を用意して前橋駅で待っていますから、大きな問題はありません。そんな生徒の体験も、われわれは大切にして、現地集合・解散の伝統を守り続けています」(同)
■灘は合理性を重視
全国トップクラスの難関校、灘中学校・灘高等学校(兵庫県神戸市)も校外行事は現地集合・解散が「原則」だ。
「生徒が主体的に判断して行動するのが基本なので、教員が引率しなくても、自分で最適な方法を考えて現地に行きなさい、ということです」と、教頭の久下正史先生は言う。
一方で、遠足は学校に集合してバスで行くことも珍しくない。
「たとえば、兵庫県丹波篠山市の丹波焼の窯元を訪ねるとします。交通の便がよくありませんから、現地集合・解散は現実的ではない。つまり、本校は合理性を重視しているわけです」(久下先生)
かわいい子には旅をさせよ――昔から言われるように、現地集合・解散は、さまざまなトラブルを乗り越える力を養うに違いない。
(AERA編集部・米倉昭仁)