わがまま言わない美人AI女優に揺れるハリウッド

人間と見紛うような自然な演技をするティリー・ノーウッド(公式インスタグラムより)
“次のスカーレット・ヨハンソン”こと駆け出しの若手美人女優が、論議を呼んでいる。
【写真を見る】次のスカーレット・ヨハンソン? その美貌でハリウッドを揺るがしているAI女優ティリー・ノーウッド
その名は、ティリー・ノーウッド。突然現れ、インスタグラムで瞬く間に約5万人のフォロワーを獲得した彼女の正体は、なんとAI。彼女のインスタグラムに投稿された、服をショッピングする写真やアクション映画に出演してモンスターと戦う動画は、すべて作り物だ。
俳優や脚本家たちが怒りの声
これにハリウッドの俳優や脚本家たちが激怒した。そもそも、2年前に起きた全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)と全米脚本家組合(WGA)のダブルストライキの大きな争点のひとつは、AIだったのだ。
最終的に、SAG-AFTRAは、俳優のデジタルレプリカを制作するにあたり本人の許可を取ること、何に使われるのかを明確にすること、本人に報酬が支払われることなどで、製作者団体と合意に至り、ストライキは終わった。
全員を納得させる内容ではなかったが、いつまでも映画やテレビドラマの撮影をストップするわけにもいかないし、「この件についての会話を継続する」との条件も盛り込んで、とりあえず解決としたのである。
と思っていたら、それから2年も経たないうちに、こんなものが登場したのだ。しかも、ハリウッドのタレントエージェンシー各社は、このAI女優との契約に興味を示しているともいう。
その恐ろしい可能性について語ったのは、ティリー・ノーウッドのクリエイターで、AIタレント会社「Xicoia」の創設者エリーヌ・ファン・デル・フェルデン。次のスカーレット・ヨハンソンあるいはナタリー・ポートマンと呼んだのも、このクリエイターだ。

カフェでくつろぐショット(公式インスタグラムより)
先月下旬、彼女は、チューリッヒ国際映画祭中に開催された業界サミットで、表立っては口にしないものの、ハリウッドのスタジオやメディア会社はこのテクノロジーに強い興味を持っているのだと明かした。
「私たちは(ミーティングのために)多くの役員室に行きましたが、2月頃は相手にされませんでした。それが5月になると『あなたたちと何かをやりたいかもしれない』になり、ティリーを立ち上げると、『これは何?』と(興味を示す)反応を得ました。これからの2カ月ほどの間に、どのエージェンシーがティリーと契約するのか、発表されることでしょう」(ファン・デル・フェルデン)
AIは人間のようにわがままは言わない
AI俳優は、ギャラも安く、ホテル代、飛行機代、食費もかからず、ヘアメイクも不要。歳も取らず、病気もケガもせず、レジデュアルと呼ばれる印税(これも2年前のストライキの大きな争点だった)を払う必要もない。
仕事に遅れてくることもないし、不満も言わない。業界の変化を受けて利益率を上げるために経費の見直しをはかっているうえ、以前から大物スターのわがままに悩まされてきたスタジオや配信会社にとって魅力的なのは、言うまでもないだろう。だが、俳優たちにしたら、たまったものではない。
SAG-AFTRAは、「これは俳優ではありません。大勢のプロの役者の演技のトレーニングを受けた、コンピューターの創造物です。(演技に使える)人生経験も、感情も持ちません。人間の経験につながっていないCGの創造物を見ることに、観客は興味を持たないでしょう」と声明を発表して抗議した。
『オッペンハイマー』で昨年のオスカーにノミネートされたエミリー・ブラントは、業界サイト「Variety」のポッドキャストで、「これはAIなんですか? すごい問題かも。恐ろしい。エージェンシーの人たち、お願いだからこれを止めて。人間のコネクションを奪わないでください」と懇願した。
配信の人気ドラマ『ポーカー・フェイス』に主演するナターシャ・リオンも、「すべての組合は、これを検討するタレントエージェンシーをボイコットしましょう」と、エージェンシーに対して警告を発信した。

アクションシーンもお手の物(公式インスタグラムより)
また、『イン・ザ・ハイツ』の女優メリッサ・バレラは俳優仲間に向け、自分が所属するエージェンシーがその行動に出たならそのエージェンシーと契約解除しようと呼びかけた。ほかにも、トニ・コレット、ウーピー・ゴールドバーグなどが声を上げている。
AIの採用には批判されるリスクもある
彼女らの発言には、一定の効果があるはずだ。タレントエージェンシーにすれば、売り上げをもたらしてくれているこれらの俳優たちの機嫌を損ねるのは、ビジネス上、大きなリスクである(ハリウッドのエージェンシーは、タレントのギャラの10%程度をコミッションとして受け取る)。
AIに人間の職が奪われることへの恐怖はこの業界に限ったものではなく、積極的に推進したなら、俳優たちだけでなく、世間からも批判されるのは必至とも思われる。
ジェイコブ・エロルディ(『プリシラ』、『Saltburn』に出演)、真田広之などを抱えるガーシュ・エージェンシーのプレジデント、レスリー・シーバートは、「私たちは、そのエージェンシーにはなりません」と、AI俳優との契約の可能性を否定した。その一方で、シーバートは、「この件は常に浮上してきます。私たちはこれにどう正しく対応していくか、考えていかなければなりません」ともコメントしている。
それもまた現実だ。ファン・デル・フェルデンが言ったように、スタジオは密かにこの新たなテクノロジーに関心を持っている。また、AIはすでにハリウッドに入ってきてもいるのだ。
その現象は、今年のアカデミー賞でも見られた。候補作のひとつ『ブルータリスト』はエイドリアン・ブロディとフェリシティ・ジョーンズのハンガリー語のせりふをより正しい発音にするために、そして別の候補作『エミリア・ペレス』はカルラ・ソフィア・ガスコンの歌声を調整するためにAIを使用したことが指摘された。
それでも、結果的に『ブルータリスト』は主演男優、撮影、作曲部門で、『エミリア・ペレス』は助演女優と歌曲部門で受賞し、祝福されている。たしかに、これらにおけるAIの使用と、ティリー・ノーウッドのようなAI女優の誕生とは次元が違う話だ。とはいえ、今後、どこで線引きをしていくのが正しいのかは不透明である。
ジェームズ・キャメロンはAIをどう活用?
テクノロジーに関して誰よりも先を行くジェームズ・キャメロンは、人間の職業を奪うことなく製作費を削減するためのAIの使用のしかたを模索していると語っている。
同時に彼は、AIが人間の脚本家の代わりを務めることはできないとも断言する。事実、12月公開の彼の最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』では、冒頭に「この映画に生成人工知能は使われていません」とうたわれるともいう。
『アバター』はパフォーマンス・キャプチャーのキャラクターが主人公ながら、演じているのは人間の役者。人間の職を奪ってはいない。誰も不幸にせず、人間ならではのクリエイティビティとコネクションを失わない、ポジティブなAIとの関係を、私たちが見つけていくことはできるのだろうか。