自宅介護している高市早苗新総裁の「ワークライフバランス発言」に思う「高市さんに言ってほしかった言葉」
10月4日の自民党総裁選で高市早苗さんが女性として初めて自民党総裁に選ばれた。若いころはヘビメタバントのドラマーやバイクを乗りこなしてきた素顔も多く報じられている。神戸大学在学時に松下政経塾に入塾。1992年に無所属で参院選に初めて立候補するも、落選。キャスターをつとめたのち、1993年に無所属で衆院選に立候補しトップ当選を果たした。新進党の結党に参加したのち、離党して自民党に入党したのは1996年だ。
2003年に落選したときに自民党の山本拓氏と結婚。「交際0日婚」と話題になった。2005年に再度当選すると、2006年に第一次安倍内閣で初入閣。以降、福田内閣、麻生内閣、第二次、第三次安倍内閣以降、多くの「女性初」を成し遂げてきた。
2017年に山本拓氏と離婚するも、2021年に再婚。山本氏が高市姓を選んだことも話題となっている。
こうして並べてみても、「女性初」を実現させたその道には、凄絶なる努力があったことが想像できる。その努力に対して敬意を抱く人も多いし、実現させたことは素晴らしい。
では高市氏が「女性初の自民党総裁」に選ばれ、「日本初の女性総理大臣」に選出される見込みの中、SNSでも多くの女性たちがもろ手をあげて歓迎していない理由はどこにあるのか。
ジャーナリストの浜田敬子さんが分析し、「女性初の自民党総裁」高市さんだからこそ言ってほしいことを伝える。
選択的夫婦別姓に反対する「女性初の総裁」
高市早苗さんが初の自民党総裁に選ばれた。自民党が少数与党とはいえ、このまま私たちが待ち望んだ「初の女性総理」になる可能性も高い。だが、私の周りでは高市総裁が誕生した後、お通夜のような空気が流れた。それは1年前、総裁選の決選投票で石破茂現首相が高市さんを破った時の熱狂とは対照的だった。なぜか。

夫婦別姓で通称使用で問題がないのなら、なぜ山本氏が高市姓になったのだろう Photo by Getty Images
これまでの高市さんの言動を見ると、女性首相が誕生したとしても、それが真のジェンダー平等に寄与すると思えないーー多くの女性たちが初の女性総裁を素直に喜べないのは、そのような不安があるからだろう。閣僚への女性の登用を打ち出してはいるが、選択的夫婦別姓の導入に関しては明確に否定し、通称使用の拡大を主張し、同性婚に対しても反対。「家族制度を守ることが社会の安定につながる」と伝統的家族制度の維持を強調している。医療・介護職の待遇改善については言及しているが、男女の賃金格差解消など具体的な政策は聞こえてこない。
それが彼女が本心なのか、ガチ保守の支持者、支持団体を意識してのことなのか、本当のところはわからない。こうしたイデオロギー色の強い政策を実現するには、党内でも社会的にも反発も大きいだろうからすぐには難しいとは思うが、それも彼女の政権が長期化して盤石になればわからない。その不安はつきまとう。
一方で、児童ポルノの単純所持禁止の法制化など、高市さんが尽力した部分にも目を向けるべきだという意見は、フェミニストの中にもある。北原みのりさんは、自分とは政治信条的には違う!と強調しながらも、「高市さんの政治家としての仕事には、『女でなければできない』ものもある」と「AERA」の記事に書いている。
ただ、こうした性別役割分業の固定化、強化につながるような価値観には、彼女も自身も苦しんでいるのではと思う。

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自民党議員に対して口にした「馬車馬のように」の背景
総裁当選後のスピーチで高市さんは自民党国会議員に対して、「馬車馬のように」働くことを求め、「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて働いて働いて……」と述べ、社会から大きな反発を受けた。「総裁の仕事に全力で尽くします」とだけ言えばよかったのに、反発を呼ぶに決まっている発言をなぜしたのか。
「現代ビジネス」でも報じているが、高市さんは、夫で前衆院議員の山本拓氏の介護をしていることを明らかにしている。それも介護保険を使わず「家族介護」の形で、自ら3食を用意。帰宅後、夫の食べこぼしを掃除してから入浴介助までしていると講演で述べている。しかも「(夫が)絶対に介護保険を使わないとか、訳のわからないことを言っているものですから、公的な支援が受けられない」(高市さん)というから、国会議員という激務との両立は想像を超える過酷さだっただろう。それでも自ら伝統的家族観を重視しているという建前から周囲にも頼れなかったのではないか。
さらに報道によると、高市さんは前回の総裁選の敗北後、麻生氏から仲間づくりのために「もっと飲み会に行くように」と言われたという。夜の飲み会を通じてでしか信頼関係を作れない古い体質の政界では仕方ないのかもしれないが、この悪慣行こそが家族の事情がある人、ケア労働を抱えている人が登用されるのに「不利な状況」に陥る構造だと思う。介護を抱えていた高市さんはなおさらだったのではないだろうか。
夫の介護で大変なことは党内では知られており、総裁になって両立できるのか、という不安の声もあったという記事を読んだ。彼女はそれを払拭するために、あそこまで「働いて働いて……」と強調したのではないだろうか。
あれが男性なら言わなくてもいい言葉だったのではとも思う。むしろ小泉氏だったら子育てとの両立をする初の総裁(総理)になるとアピールできたかもしれない。
「浜田さんたち世代がそんな働き方をしてきたから、私たちがつらいんです」
私の世代(均等法世代)の女性たちは男性以上に働けることをアピールし、実際働き、体もボロボロになりながらも子育てや介護との両立をせざるを得なかった。先輩世代や同世代の女性記者たちは子どもがいることを周囲に感じさせないよう、親やベビーシッターにフルに頼ってこなしてきた。私もそうだった。そうでなければ圧倒的男性中心の企業社会では、「使えない」という烙印を押され、生き残れなかった。
だが、その行為自体が後輩世代や周囲を苦しめることになることを後に知るのだ。後輩世代の女性を管理職に登用しようとした時に躊躇されたり、別の女性からは「浜田さんたち世代がそんな働き方をしてきたから、私たちがつらいんです」と言われた。休日に働かないでくれ、と若い世代から言われたこともある。

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働きたい人は自由に働けるようにすればいいという声も聞く。だがそれをトップや管理職にあたる人がやってしまえば、日本のように同調圧力の強い社会では組織に無言で「長時間頑張る」働き方を強いてしまうし、長時間働く人が評価される社会が続くことになる。私は常に自分が「働きすぎる人間」だったので、都度我にかえりブレーキを踏むようにしているが、今でもバランスは難しい。
「ワークライフバランスを捨てる」発言を喜んだ声
「WLBを捨てて」という言葉にXでは、あるベンチャー経営者から「この言葉で高市氏はベンチャー界の支持を得た」という投稿があった。社員をもっと働かせたいと思っている人たちは常にいる。そういう人たちには都合のいい言葉だったのだろう。だからこそトップが発するメッセージは非常に重要だ。
ちなみに、7年前の2018年、高市さんは小野田紀美氏との対談で「朝レクを受けると職員が朝3時とや朝4時から出勤しなければならないからやめた」「タクシー代ももったいない」と、職員の働き方改革やタクシー代の無駄を省く対策をしていることも語っていた。大臣が朝レクをすると職員がより大変になることを理解してやめたという。そういう高市さんだからこそ、むしろ「トップのメッセージの重要性」を知っているはずではないだろうか。
「働きたい人が自由に働きたいだけ働ける社会」は一見正しそうに聞こえるが、家族や体調の問題で「働けない」人たち、またプライベートを充実させたい人たちを不利な状況に追い込み、結果的には機会平等すら奪ってしまう。それは新たな分断を生んでしまわないだろうか。
女性の国民の9割が「休んだ」伝説の一日
今からちょうど50年前、ジェンダーギャップ指数で16年連続1位のアイスランドでは、全女性国民の9割が参加したデモ「女性の休日」が行われた。この国が世界で最も男女格差がない国に一歩を踏み出すことになった出来事だ。
1975年10月24日、働いている女性たちは職場を離脱し、専業主婦の女性も家事を休んだ。結果、男性たちは初めて子どもの食事を用意し、保育園も学校も閉まったため(教師や保育士の多くは女性たちだったからだ)、男性たちは子どもを職場に連れて行った。男性たちは右往左往し、職場は大混乱に陥り、社会はどれほど女性の力で回っているのかを知る1日となったという。

映画『女性の休日』より © 2024 Other Noises and Krumma Films.
それから50年、ジェンダー平等で世界1位になってもなお、この国は「完全なる平等」を目指して努力を続けている。「女性の休日」もこれまで6回催され、全国から女性たちが集結した。直近では2023年。その時には当時の首相(女性)も参加した。

2018年3月、ドイツにて当時のメリケル首相と会談をするカトリン・ヤコブスドッティル首相。2023年の「女性の休日」にも参加した Photo by Getty Images
私は2024年5月、アイスランドを取材で訪れた。この国がなぜジェンダー平等を実現できたのか、知りたかったから。特にこの平等への一歩となった「女性の休日」になぜこれだけの女性たちが参加したのか知りたかった。
どんな立場の女性でも求めているのは「職場や家庭における真の平等」
女性はとかく結婚しているかどうか、子どもがいるかいないか、働いているかどうか、都市部に住んでいるか地方かなど、状況や立場によって分断されがちだ。それは女性たちが自ら望んでというより、男性中心の社会構造の中で分断した(された)方が男性側に都合がいいのだと思う。分断されていれば女性が抱える問題は細分化され大きな声になりにくく、優先順位も低くなる。何より自分たちの困難は男性優位な社会にあるという本質をかわすことができる。
アイスランド取材では「女性の休日」の主宰団体の一つ、女性権利協会を訪れた。なぜこれほどの女性たちが立場を超えて連帯できたのか、という質問に、会長のタチアナ・ラティノヴィッチさんはこう話してくれた。
「(2023年の「休日」に際しては)職業や働き方の違いを乗り越えるために、どんなスローガンだったら女性たちが連帯できるか、数カ月間、地域で集会を開き、話し合いました。平等が進んでいるとはいえ、まだまだ男女間で賃金格差はあるし、家事育児も女性がより担っている。性暴力やハラスメントへの対応も十分ではない。どんな立場の女性でも求めているのは、職場や家庭における真の平等だ、となったのです」

女性権利協会の代表、タチアナ・ラティノヴィッチさん(左)と事務局長のオイドゥル・マグヌスドッティルさん 撮影/浜田敬子
協会が企業に「女性の休日」への手紙を書いた
印象的だったのは、協会が企業のトップに対して、女性たちが「休日」に参加しやすくなるよう手紙を書いたことだ。特に数時間職場を離れることで賃金が減ることのないよう、要請したという。移民や非正規雇用の女性たちが不利益を被らないことを考慮したのだ。根底にあるのは、自分とは違う立場、それもより立場の弱い女性たちへの想像力、共感力だ。
50年前もそうだったのだろう。だからこそ9割の女性たちが「休日」に参加できたのではないか。その奇跡のような1日を追ったドキュメンタリー映画『女性の休日』が10月25日から全国のミニシアターなどで公開される。

東京・渋谷のイメージフォーラムはじめ、全国で10月25日に公開となる。多くの地域でトークイベントの開催も予定されているという
奇跡の1日はなぜ実現できたのか。なぜ女性たちは連帯できたのか。私はこの映画を1人でも多くの女性に見てほしいと思う。ともすれば分断が深まる今、私たちはどうしたら連帯できるのか。どんな女性総理だったら心から喜べるのか。映画を見て、多くの女性たちで語り合いたいと思う。
高市さんに言ってほしかった言葉
私は彼女が女性初の首相にのなるなら、こんな言葉を発してくれればとよかったのにと思った。
「総裁の仕事に全力を尽くします。ただ私は今夫の介護もしており、子育てや介護と仕事を両立をしている人たちの過酷さを体感しています。これからは介護保険も使って多くの人のサポートを受けざるを得ません。だからこそ、こうしたケア労働についている人たちの待遇改善にも努めます」
実際、医療・介護分野の公定価格を上げるとも言っているのだから。