「小さな高級車は売れない」と言われた時代から四半世紀…トヨタ“常識を覆した1台”が世界で快進撃
大ヒットを記録しているLBX
「小さな高級車なんて売れない」――かつてはそう言われていた時代がある。1998(平成10)年の「プログレ」は志半ばで姿を消した。しかし2023年に登場したレクサス「LBX」は、欧州販売の3割を占める大ヒットとなった。
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その差は何か。SUV全盛の市場、価値観の変化、そしてグローバル戦略がすべて今という時代に噛み合った結果である。小さな高級車はもはや矛盾ではなく、未来の主役となり得るのだ。
かつて小さな高級車という言葉には矛盾を感じる人も多かった。高級車とは大きく、ゆったりとして、威厳のある存在――そんな固定観念が長く支配していた。しかし2023年に登場したレクサス「LBX」は、その常識を打ち破った。今やブランドを代表する人気モデルのひとつとなっている。
LBXは「Lexus Breakthrough Crossover(ブレークスルー・クロスオーバー)」の頭文字を冠する、レクサス史上最もコンパクトなスポーツタイプ多目的車(SUV)だ。トヨタ「ヤリスクロス」と共通のGA-Bプラットフォームを採用し、全長は4190mmとBセグメントに収まるサイズである。それでも内外装や走行性能にはレクサスらしい上質さが注ぎ込まれている。小さいが
「本物のレクサス」
であることが、国内外で高く評価されているのだ。
発売当初からLBXは国内外で人気を博し、2万台以上のデリバリーを達成した。エントリーモデルながら平均購入層は若く、女性オーナー比率も高い。小さな高級車はもはや矛盾ではない。むしろ時代が求める答えとして、確固たる地位を築きつつある。
かつてのプログレの販売低迷

トヨタ プログレ(画像:トヨタ自動車)
だが、同じ小さな高級車でありながら、成功に至らなかった前例が存在することを忘れてはならない。その代表格が、1998年に登場したトヨタ「プログレ」である。
プログレは全長4510mm、全幅1700mmの5ナンバーサイズのセダンで、当時のセルシオ(初代・二代目)と同等の高級装備や静粛性を備えた野心的なモデルだった。「高級車の小型化」というコンセプト自体は、LBXと驚くほど似ている。しかし結果は芳しくなかった。
登場当初は注目を集めたものの、販売は期待を大きく下回った。月販目標は3000台だったが、実績は1000台前後にとどまることが多かった。トヨタは2001(平成13)年に上級仕様「ブレビス」を追加しテコ入れを図ったが、状況は改善せず、プログレとブレビスはいずれも2007年に生産を終了した。約9年の歴史に幕を下ろしたのである。
当時のユーザーにとって大きな高級車に乗ることが成功の象徴だった。プログレの車格や価格は、ユーザーにとってポジショニングが曖昧だった。また当時の市場は小さな高級車に新たな価値を見出さなかったことも、販売不振の要因である。それでもプログレが示した本質的な方向性、
「大きなクルマだけが高級ではない」
という思想は決して間違ってはいなかった。むしろ四半世紀を経た今、それを証明したのがLBXである。
プログレの失敗とLBXの成功

トヨタ セルシオ(画像:トヨタ自動車)
大きな違いは、車種の選び方そのものにある。プログレが登場した1990年代後半、日本の自動車市場はすでにセダンブームの終盤に差し掛かっていた。クラウンやマークIIなど伝統的なセダンは依然として根強い人気を誇ったが、ミニバンやRVが急速に伸び、ユーザーの嗜好は多様化していた。
そのなかでの小さな高級セダンというプログレの提案は、ややタイミングを逸していた。顧客が求めていたのは小さくて高級なセダンではなく、より自由で使いやすいクルマだったのである。
一方、LBXが登場した2020年代初頭は、SUV(クロスオーバー)が市場の主役となる時代である。あらゆるセグメントでSUVが支持を集め、特に欧州の都市部ではコンパクトSUVのシェアが急速に拡大している。小さくて高級なSUVは、まさに今の市場が求める中心的な提案だった。形式そのものが時代と噛み合っていた点で、プログレとは大きく異なる。
クルマに対する価値観も、この20年で大きく変化した。1990年代の日本では「高級車 = 大きくて立派」という意識が根強く、サイズが小さいと格下と見なされる傾向があった。プログレが
「セルシオ級の装備をコンパクトに詰めた」
と訴えても、多くの人には響かなかったのである。
現代は異なる。ダウンサイジングやサステナビリティの意識が広まり、必要十分なサイズで上質なモノを選ぶことがスマートな選択とされるようになった。高級時計でもコンパクトサイズが人気を集め、住宅でも小さくても快適な空間が支持される。自動車も例外ではない。
LBXが受け入れられた背景には、こうした時代の空気がある。小さくても本物の高級車として完成度が高ければ、むしろ好まれる。価値観の変化こそが、プログレの時代との最大の違いである。
市場の広さという点でも、プログレとLBXには決定的な差がある。プログレは日本専売モデルとして開発されたため、市場規模が限られていた。高級車セグメントのなかでもさらにニッチな小さな高級セダンに的を絞った結果、販売ボリュームにはどうしても天井があったのである。
これに対し、LBXは最初からグローバル市場を視野に入れて設計された戦略車である。欧州、とりわけBセグメントSUVが主力のイタリア、スペイン、フランスを主戦場と想定している。実際、2025年上半期には欧州でLBX1万4757台を販売し、計画を大幅に上回った。
加えて、LBXはレクサスというブランド力を最大限に活用している点も重要である。プログレはトヨタブランド内の上質モデルという位置付けだったが、LBXはプレミアムブランドとしてのレクサスから登場する。小型車であってもブランド価値が担保されるため、「サイズが小さい = 格が低い」という印象を抱かせにくいのである。
LBX成功における時代の見極め

LEXUS LBX(画像:トヨタ自動車)
小さな高級車というアイデア自体は決して新しいものではない。1990年代末のプログレも、その理想を追い求めた一台であった。しかし時代はまだ、それを受け入れる準備が整っていなかった。
・セダン人気の陰り
・市場の縮小
・価値観の壁
・ブランドの制約
――プログレはこれらに阻まれ、志半ばで終わったのである。
アプローチの違いも象徴的である。プログレは「大きな高級車(セルシオ)を小さくする」という発想から出発した。一方、LBXは
「小ぶりな大衆車(ヤリスクロス)を高級に仕立てる」
という逆方向のアプローチを採用している。同じ小さな高級車でも、起点の違いが仕上がりや受け止められ方に大きな差を生むのである。
LBXは小さな高級車を、時代に即した形で再構築した。SUVという勢いのあるジャンルを選び、グローバル市場を視野に入れ、現代の価値観を的確に捉えた。小さいけれど本格的な高級車というコンセプトを時代適合性、ブランド戦略、グローバル志向の三つの要素で支えたことが、LBXのブレークスルーを可能にしたのである。
いい換えれば、LBXの成功は単純に小さな高級車が受け入れられたという話ではない。時代の空気を読み、顧客の価値観の変化を敏感に捉え、世界規模で通用する文脈を設計した結果の成功である。
かつてプログレが掲げた、小さくても本物の高級車をつくるという志は、時代を超えてLBXに受け継がれ、いま再び花開いている。