2ちゃんねるに「きさらぎ駅で降りた」と書き込んだ<はすみ>だが、見知らぬ中年の車に乗り込んだのち実況が途切れる。しかし皆が忘れつつあった7年後…

昨今、書籍や映画、ネット動画などを通じ、空前のホラーブームに。実はその恐怖の根底には、私たちの多くが知る「怪談」があるといえるでしょう。イザナミの祟り、四谷怪談、雪女、牛の首、口裂け女、生き人形、きさらぎ駅、そしてバックルーム……。もはや教養ともいえる怪談を、怪談の名手・吉田悠軌さんが厳選したのが『教養としての最恐怪談』です。今回その本より「きさらぎ駅」を紹介します。

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温泉旅館でくつろいだ夜、ほろ酔いでベッドに横になると聞こえてきたのは…

きっかけはある投稿

「気のせいかも知れませんがよろしいですか?」

2004年1月、2ちゃんねるオカルト板のスレッドに、そんな文章が投稿された。

「先程から某私鉄に乗車しているのですが、様子がおかしいのです」

いつも通勤に使っている電車が、なぜかずっと駅に停まらず走り続けているというのだ。不安になった投稿者が、リアルタイムで携帯電話から2ちゃんねるへ書き込んでいるらしい。

興味を示したスレッド住民たちは固定ハンドルネームとトリップを付けるように依頼。相談者は「はすみ ◆ KkRQjKFCDs」として、奇妙なやり取りを続けることとなる。

電車は「きさらぎ駅」へ

はすみの乗った電車はこれまで通った覚えのないトンネルを過ぎ、速度を緩めた。そして聞いたことも見たこともない「きさらぎ駅」なる無人駅に停車する。

きっかけはある投稿, 電車は「きさらぎ駅」へ, トンネルを抜けた先で, 似たような怪談が幾つも報告されていくように…

『教養としての最恐怪談 古事記からTikTokまで』(著:吉田悠軌/ワン・パブリッシング)

ホームに降り、掲示板にどうしようかと相談するうち、先程の電車は走り去っていった。周囲には誰もおらず、時刻表もなければ電車が来る気配もない。

その後、はすみはスレッドの住民と相談しながら4時間にわたって実況を続けていった。

だが誰も「きさらぎ」なる駅を知らず、状況は好転しない。

駅の外に出てみるも、周囲には草原と山があるばかり。公衆電話もタクシーも見当たらず、110番通報は繋がったものの、いたずら電話と思われてしまう。

トンネルを抜けた先で

仕方なく線路の上を歩いていると、遠くで祭囃子(まつりばやし)のような太鼓と鈴の音が響き、片足の老人がこちらに向かって「おーい」と叫び声をあげてきた。恐怖にかられたはすみは振り返ることもできず先へ先へと進んでいく。

そうこうするうち「伊佐貫」と書かれたトンネルにたどり着く。

きっかけはある投稿, 電車は「きさらぎ駅」へ, トンネルを抜けた先で, 似たような怪談が幾つも報告されていくように…

(イメージ写真:stock.adobe.com)

意を決して中を通り抜けていくと、向こう側には見知らぬ中年が乗る乗用車が停まっていた。ようやく普通の人に会えた喜びから、その車に乗せてもらう。

しかし運転手の様子は次第におかしくなり、なぜか車は山へと向かっていく。スレッドの住民たちは早く降りろと忠告するのだが。

――そこで、はすみの投稿はプッツリと途切れてしまう。

はすみを心配する声もありつつ、そのスレッドは終了。以後もこの体験談について大きく話題になることはなく、次第に皆の記憶から忘れ去られていった。

それから7年

しかし7年後の2011年3月、やはり2ちゃんねるオカルト板のスレッドにて、きさらぎ駅を通り過ぎたという体験談が投稿された。ただ今回はリアルタイムの報告ではなく、2005年暮れの出来事なのだという。

その時、地元の電車に乗っていた投稿者がふと気付くと、周りの乗客が全員眠りこけ、窓の外には見知らぬ風景が広がっていた。

きっかけはある投稿, 電車は「きさらぎ駅」へ, トンネルを抜けた先で, 似たような怪談が幾つも報告されていくように…

(イメージ写真:stock.adobe.com)

この不自然な状況に首をひねっているうち、電車は駅に到着。

「ホームが二つあって、その奥に古い日本建築の駅舎が見えてて、ホームの柱にひらがなで『きさらぎ』と書いたプレートがありました」。

また前後の駅を示す立て札には、「やみ駅」「かたす駅」と記されていたそうだ。

不安に思った投稿者は、駅に降りることなくそのまま電車に留まる。結局、きさらぎ駅を出た電車はかたす駅に停まることなく現実世界へと帰還した。

そして7年後、きさらぎ駅にまつわるログをインターネットで見つけて驚いたのだという。

似たような怪談が幾つも報告されていくように…

こちらの場合はトンネルを抜けておらず、ホームや駅舎に人がいて、周りには住宅もあった。

はすみが乗っていたのは静岡県、新浜松駅を出る遠州鉄道だが、今回は福岡県の久留米へ向かうJRだ。

「それでも駅の名前は『きさらぎ』だったのをはっきり覚えています」と投稿者は言う。

「オカルト的な意味のある駅名なんでしょうか? この世とあの世の接点とか? その駅で降りていたらどうなっていたかと思うと、とても恐ろしいです」

これを皮切りに、似たような怪談が幾つも報告されていくようになる。きさらぎ駅だけでなく、数多くの存在しない駅に迷い込んだという体験だ。

いつしかそれらの駅は、まとめてこう呼ばれるようになった。

きっかけはある投稿, 電車は「きさらぎ駅」へ, トンネルを抜けた先で, 似たような怪談が幾つも報告されていくように…

(イメージ写真:stock.adobe.com)

異界駅、と。

※本稿は、『教養としての最恐怪談 古事記からTikTokまで』(著:吉田悠軌/ワン・パブリッシング)の一部を再編集したものです。