じつはアメリカにとって、日本は「親友国ではない」…外務省がもたらした、知ってはいけない「日米同盟の真実」

戦後以降、日本は特定の国に偏らず、世界の主要国と対話できる信頼関係を築いてきた。欧米と対立する国とも対話チャンネルを維持しており、これは日本の大きな強みだ。一方、多くの日本人が感じている「アメリカと日本は大親友」という枠組みは大きな間違いだ。

日米同盟を基軸としながらも、多角的な関係を築いてきた戦後外交のあり方をさらに強化するにはどうしたらよいのか。前駐オーストラリア特命全権大使・山上信吾氏、第30代航空幕僚長・外薗健一朗氏、危機管理コンサルタント・丸谷元人氏が、「日本と世界の関係性」について語り合う。

書影:山上信吾、外薗健一朗、丸谷元人著『官民軍インテリジェンス』(ワニブックス刊)

※本記事は、山上信吾、外薗健一朗、丸谷元人の共著『官民軍インテリジェンス』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

外務省のインテリジェンスの「強み」と「弱み」

山上信吾(以下山上): 一般的なイメージとして、外務省は外交の最前線で外国情報に接する機会が多いため、職員もインテリジェンスの素養がある、あるいはインテリジェンスに精通している、と思われているふしがあります。しかし、実態は本当に千差万別です。つまり、「人」によります。

ただ、大前提として、インテリジェンス業務を経験する職員は、実はそれほど多くはいません。外務省のキャリアパスは多岐にわたるので、政策立案、経済協力、条約業務など、インテリジェンス部門とは直接関わらない部署でキャリアを積む職員もたくさんいます。

特に組織の中枢を歩んでいるような人は、インテリジェンスを通らないことも珍しくありません。「インテリジェンスなんてやったことがないからわからない」という人間の方が多いくらいです。そこはやはり外務省が改善しなければいけない点です。

一方、優秀な人材も間違いなくいます。私も国際情報統括官というインテリジェンス部門のヘッドになって初めてそれがわかりました。

かつて国際情報統括官組織は省内で「サナトリウム」と揶揄されていました。本来ならチャイナスクールやロシアンスクールの本流を歩んでいたのに、心身の不調や親の介護等の理由から仕事に専念できなくなった職員たちが、次々と国情組織に流れ着いていたからです。

とは言え、彼らはロシアや中国をはじめとする諸外国に長期留学し、在外公館勤務を何度も経験してきた人材です。生半可な大学教授やシンクタンカーよりもよほど任国の言語や文化、歴史、社会情勢、生活習慣、政府の人事に精通しています。つまり、人材の質としてはものすごく高いわけです。

しかし、いかんせん少数精鋭で、私が現役の頃にはわずか80名弱しかいませんでした。防衛省や警察、公安調査庁などと比べると、外務省のインテリジェンス部門は圧倒的に人数が少ないのが弱みです。

一方、外務省という組織全体で見た場合の強みは、やはり語学のスペシャリストを多数育成していることでしょう。ロシア語や中国語だけじゃなくて、アラビア語、ペルシャ語、トルコ語、ヒンディー語、ウルドゥー語、ヘブライ語、朝鮮語の専門家もいる。

現地の言語を理解し、情報源と直接コミュニケーションを取れる能力は、情報収集・分析の質を大きく左右します。語学力はインテリジェンス活動において極めて重要な要素。その語学の専門家を多数抱えているというのは、外務省の一番の強みだと言えます。

「対話チャンネル」の保有は、日本全体の強み

山上: 2つ目の強みは、日本という国そのものの強みだと思いますが、世界中のほぼすべての主要アクターと対話できる信頼関係を築いていることです。特定のブロックに偏らず、多角的な外交を展開し、多くの国と良好な関係を維持しています。

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例えば中東地域では、日本は、イスラエルと外交関係を維持しつつ、パレスチナ自治政府への支援も継続しており、双方と対話可能な稀有な国の1つです。

また、サウジアラビア、UAE、カタールなどの湾岸諸国とも、エネルギー供給源としての関係だけでなく、経済協力や投資を通じて非常に良好な関係を築いています。トルコ、エジプトとも伝統的に友好的な関係を維持しているほか、イランやシリアも日本となら会って話をしてくれるという関係にあります。

特にイランは欧米諸国との関係が厳しく、核問題や地域情勢(中東の紛争への関与など)をめぐって対立が深まることが多いため、自由民主主義陣営の多くの国にとっては直接的な対話が困難な相手です。だから、日本がイランと比較的安定した関係を維持し、対話チャンネルを確保していることは、欧米諸国から見ると、時として懸念やフラストレーションを招く面もあるものの、期待値が高いポイントでもあります。

この日本の信頼度の高さ、世界のどこにでもアクセスできる強みは、私も現役時代に実感しました。この認識はおそらく外務省だけでなく防衛省や警察庁、あるいは政府全体でも共有されていると思います。

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冷めた言葉で言えば、日本はどの地域に行っても“親友”はいないけど“そこそこの友達”ならいる、ということですね。相手から見れば利用価値がある国とも言えるでしょう。対立アクターの双方や、多様な政治体制の国々との関係を維持し、対話チャンネルを持っているという多角的・多層的な対話能力は、日本という国家全体の強みだと思います。

日本はアメリカの「最も親密な同盟国」ではない

山上: こういう話を聞くと、日本人の中には「いや、アメリカが日本の親友じゃないか」などと言う人たちが一定数います。

アメリカから見れば、日本程度の付き合いの国はいっぱいいるんですよ。その現実を日本人は本当に噛み締めないといけません。

ご存じの通り、アメリカとイギリスは「特別な関係(Special Relationship)」と呼ばれる歴史的な結びつきを持ち、外交・軍事・情報共有の面で深い協力関係にあります。でも、あるアメリカの識者が言うには、アメリカから見たイギリスは、時々自分たちに歯向かってきて言うことを聞かず、説教までしてくることもあるから、カチンとくるのだとか(笑)。

一方、オーストラリアは、アメリカからすると、自分たちが戦争する時には常に一緒に武器を取って戦ってきてくれた存在です。第二次世界大戦以降、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争など、アメリカが関与した主要な紛争において、常にアメリカをサポートしてきました。

丸谷元人: イギリスはベトナム戦争に参加しなかったですからね。

山上: オーストラリアは2001年の9・11同時多発テロ事件でも、当時のジョン・ハワード首相が、アメリカへの攻撃がANZUS条約(太平洋安全保障条約)第4条に基づく集団的自衛権の対象となると表明し、対テロ戦争への全面的な支持と参加を表明しました。これはオーストラリアの対米コミットメントの強さを示す象徴的な出来事です。

そんなオーストラリアに対するアメリカの信頼感を日本人はあまり理解していません。日米同盟が最も緊密だと“信じて”います。でも、アメリカから見れば、オーストラリアもいれば、イギリスもいるし、日本もいる。そういう関係性です。ちなみに、そのアメリカの要人は日本について、「戦略的に最も重要な同盟国(strategically most important)」という面白い表現をしていましたね。

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だから、日本も今後は日米同盟を基軸にしつつ、外交の裾野を広げていく努力がますます必要になってくると思います。その意味では、日本が世界の各地域に友達をいっぱいつくってきた戦後外交のあり方は、ひとつの強力な基盤になると思います。

やはり日米同盟の一本足打法では、あまりにも情けないし、頼りない。日本の国益の実現という観点から見れば不十分です。トランプ大統領のような個性とアクの強いリーダーが登場するたびに、振り回されるハメになります。

…つづく<知っていはいけない「世界の常識」…なぜ日本人は、国益を損ねる「国際的なプロパガンダ」に抵抗できないのか~「商業捕鯨の批判」から考える>でも、官僚、民間、自衛隊、それぞれの組織でのインテリジェンスの世界に迫ります。