ウラン235なら、思いっきりぶつければいい…じつは、「かなり早い段階」で考案されていた。広島で原子爆弾を起爆させた「ガン式起爆装置」
「凄まじい破壊力」はどこから生まれるのか?
核分裂の発見(1938年)から原爆投下まで、わずか6年8ヵ月。「物質の根源」を探究し、「原子と原子核をめぐる謎」を解き明かすため、切磋琢磨しながら奔走した日・米・欧の科学者たち。多数のノーベル賞受賞者を含む人類の叡智はなぜ、究極の「一瞬無差別大量殺戮」兵器を生み出してしまったのでしょうか。
近代物理学の輝かしい発展と表裏をなす原爆の開発・製造過程を、予備知識なしでも理解できるよう解説したロングセラーが改訂・増補され、『原子爆弾〈新装改訂版〉 核分裂の発見から、マンハッタン計画、投下まで』として生まれ変わりました。
ブルーバックス・ウェブサイトでは、この注目書から、興味深いトピックをいち早くご紹介しています。前回の記事で解説したように、わずか1kg、ゴルフボール程度の大きさで臨界質量となるウラン235。連鎖反応を起こしやすいウラン235を爆弾に応用した場合は、「意図したタイミングで爆発させる」ことが問題となります。
今回は、オットー・フリッシとルドルフ・パイエルスが考えた、ウラン235を爆弾に使用した場合の起爆装置について解説します。
*本記事は、『原子爆弾〈新装改訂版〉 核分裂の発見から、マンハッタン計画、投下まで』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
原子核分裂をめぐる「ある仮定」
今、濃縮度100パーセントのウラン235を臨界質量である1kg用意し、これに外から1個の(そう、たった1個の)中性子をぶつけることを考えてみよう。そのたった1個の中性子がウラン235の原子核に吸収され、核分裂が起きたと仮定してみる。
分裂1回あたりに放出される二次中性子の平均数を2.6とし、そのうちの2個は確実に核分裂を引き起こすとすると、二次中性子数と核分裂数は、連鎖反応によってネズミ算式に増加していく。残りの(平均)0.6個は外に漏れ出ていくか、あるいは原子核に無駄食いされるかである。
これは、初めからすべての核分裂において、どの原子核が分裂しようとも、分裂を起こすと必ずピタリ2個の二次中性子が放出され、しかもその2個は必ず核分裂を引き起こすという仮定と同じ状況である。
この条件下で、最初の1個の中性子が原子核に吸収されて核分裂を起こすと、2個の高速二次中性子が放出され、その一つひとつが他の原子核に吸収されて次の分裂を起こし、それぞれ2個ずつの高速二次中性子を放出して合計4個の二次中性子が放出される。
この4個の中性子は、4回の核分裂を引き起こして8個の二次中性子が放出される。
8個の中性子は8回の核分裂を引き起こし、16個の二次中性子が放出される……という具合に、二次中性子数と核分裂数は2、4、8、16、32、64、128、256……と、ネズミ算式に増加していく。
この核分裂が起こる順序は「世代数」によって表される。
「世代数」とはなにか
最初に核分裂を引き起こす中性子のことを「第1世代の中性子」といい、第1世代の中性子が次の核分裂を引き起こし、そこから出てくる二次中性子を「第2世代の中性子」という。第2世代の中性子が引き起こす分裂から生じる二次中性子は「第3世代の中性子」……というように、連鎖反応が進むにつれて世代数は増加していく。
世代数が一つ増えるごとに、中性子数(および核分裂数)は倍になって増えていく(ネズミ算式)。

世代数
「時間」というファクター
注意しなくてはならないのは、前項では「世代ごとにどのように中性子数と分裂数が増加していくか」ということだけを考えた点である。そこには、「時間」というファクターが入っていない。
ネズミ算式に連鎖反応が進行する場合、世代から世代への時間間隔が100万分の1秒であろうと10年であろうと、中性子数と分裂数は世代ごとにネズミ算式に増加していくのであり、時間には関係なく、単に世代ごとに倍増していく。
世代間の時間間隔が5時間であるなら、連鎖反応の進行はきわめて遅くなるが、最終世代で最も多くの原子核が分裂を起こすので爆発現象は起こるかもしれない。
しかし、最終世代に入る前の段階でも核分裂は起きているので、たとえ連鎖反応の進行が遅くても、その途中で分裂片などによる分裂エネルギーが放出されており、最終世代に入る前にすでにウラン塊の温度がかなり上がってしまっている事態が考えられる。
そのような場合、まだ大部分の原子核が分裂を起こさないうちに、ウラン塊が「未熟爆発」を起こしてしまう恐れがある。未熟爆発から発せられるエネルギーは、明らかに大した量にはならない。
純ウラン235なら、世代間の時間間隔がきわめて短い
しかし、フリッシとパイエルスが考えていたのは、純度100パーセントのウラン235による減速材なしでの連鎖反応であるから、世代間の時間間隔は相当に短いはずである。
核分裂から生じた高速二次中性子の平均スピードは光速度の30分の1程度で、秒速1万kmときわめて速い(「時」速ではなく、「秒」速であることに注意)。
分裂から生じた高速二次中性子がほとんど減速されることなく、秒速1万kmの速度で次の原子核に到達するまでの時間はきわめて短く、10億分の1秒程度である。このことからも、世代間の時間間隔がきわめて短いことがわかる。
パイエルスの計算によると、連鎖反応における一つの世代からすぐ次の世代までの時間間隔は400万分の1秒である。パイエルスはさらに、1kgのウラン235塊中の全原子核が分裂を起こすのにかかる全世代ののべ時間を約10万分の1秒と算出している。
連鎖反応によって、二次中性子数と分裂数が時間とともにどのように増加していくのかを数学的に表すと、指数関数的に増加することがわかる。
時間を考えずにネズミ算式のみを考慮すると、二次中性子と分裂数は世代ごとに倍増していくが、時間的にどのように増加していくのかを考えると、1秒ごとに倍増することはなく、指数関数的に増加するのである。
野球のボールをやや上回る程度のサイズ
フリッシは、ウラン235の臨界質量を約1kgと算出している。
分裂エネルギーの総量と、表面から漏れ出ていく中性子の数を考えると、ウラン塊の量(質量)が大きいほど中性子漏れの割合は少ないのであるから、できるだけ威力のある原子爆弾を製造するには、臨界質量を上回る量のウラン235を用意したほうが賢明であろう。
つまり、ちょうど臨界質量になる量だけを用意したのでは心許ないだろうから、実際は臨界質量を上回る量、たとえば5kg程度は必要だろう。 5kgのウラン・ボールはその直径が8cmほどとなり、野球のボールをやや上回る程度のサイズである。

臨界質量を上回る量として5kg程度と想定すると、ウラン・ボールは野球のボールをやや上回る程度のサイズ感となる photo by gettyimages
「原子爆弾の起爆」問題
ここですぐに気づくのは、初めから臨界質量以上の純度100パーセントのウラン235を用意してしまったら、宇宙線などからもたらされる少数の(おそらくは1個でも)中性子がそのウラン塊に入り込んだだけで、ただちに分裂連鎖反応が起こり、爆発してしまうリスクを秘めていることである。
つまり、そのまま放置しておくと、いつ何時、爆発を起こすかわかったものではない。爆弾として使用するかぎり、必要なタイミングでだけ爆発を起こしてもらわなければ困ってしまう!
ここでフリッシとパイエルスは、「原子爆弾の起爆」という問題を考えた。
臨界質量をどう「超えさせる」か
ウラン235塊の量が臨界質量未満であれば、たとえ中性子が入り込んできても連鎖反応を持続することができず、爆発は起きない。
今、このような臨界質量未満のウラン235塊を2個用意する。個々の塊は臨界質量未満だが、2個を一緒にくっつけてしまうと臨界質量以上になるような量にしておく。このような臨界質量未満の2個のウラン塊が十分に離れて置かれていれば、中性子が入り込んできても爆発が起きずに安全である。
しかし、二つがくっついてしまうと全体の質量はとたんに臨界質量以上となり、いったん連鎖反応がスタートすると、減速材がないためにアッという間に連鎖反応は広まり、爆発を起こす。
一方の塊の中に中性子源を内蔵させておき、それをもう一方の塊(こちらは固定しておく)に勢いよくぶつけて2個の塊を結合させてやれば、一挙に臨界質量以上になって連鎖反応が急速に進行し、爆発が起きる。
広島型原爆の起爆方式、そのアイデアが「生まれたとき」
このような起爆方式は、のちに「ガン・タイプ(ガン式)」とよばれるようになった。広島に投下された原子爆弾が、まさにこのガン式である。
フリッシとパイエルスは、固定されている塊に対して、ぶつかる側の塊のスピードは相当に大きくなくてはならないだろうと予測した。

広島型原子爆弾のガン式のしくみ illustrtion by gettyimages
スピードが小さいと、結合するまでに時間がかかり、2個の塊がまだ完全に結合しないうちに(臨界質量にならないうちに)ある程度連鎖反応が進んでしまう。そうなると、塊の温度が上がって未熟爆発を起こしてしまう可能性があるからである。
他方、ウラン塊のスピードが弾丸のスピード程度であれば、未熟爆発を起こさずに結合し、爆弾となりうるだろう。
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こうして、核分裂の発見からわずか1年ほどのちには、連鎖反応の研究と並行して、兵器への応用についての研究も進んでいきました。
原子爆弾〈新装改訂版〉 核分裂の発見から、マンハッタン計画、投下まで
核分裂の発見から原爆投下まで、わずか6年8ヵ月ーー。
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