大阪・関西万博「楽しかった」が8割 500人アンケートでわかった「感動」の原点

■「万博」の理念とは, ■大屋根リングに評価, ■世界は一つになれる, ■コロナ禍を超えて

 大屋根リングの建設費や、埋め立て地から噴出したメタンガスによる事故など、議論も百出した大阪・関西万博。来場者の不満も報じられたが、終わってみれば、多くの人が国際的なイベントを楽しんだようだ。AERA 2025年10月20日号より。

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 米国パビリオンはすでに長蛇の列だった。宇宙ロケットの打ち上げが疑似体験できるというのが目玉で、開催間もない5月の週末、記者と家族も長い行列に並んでいた。1時間が過ぎ、疲れてきたころ、米国人らしいスタッフが流暢な日本語でこう話しかけてきた。

「どこから来たの? ぼくはバーモント州出身なんだけど、日本には『バーモントカレー』なるものがあるのを知って、びっくりしたよ」

 米国北東部のバーモント州はニューヨークに近いながらも、緑豊かな地域だという。

「日本人はあまりなじみがないけれど、アメリカの田舎の雰囲気を味わいたいのだったら、バーモント州はお勧めだよ」(スタッフ)

 たわいもない会話だったが、その国の人と個人的に「交流した」という思い出が深く心に刻まれた。

■「万博」の理念とは

「万博」とは世界中からたくさんの人やモノが集まるイベントで、さまざまな地球規模の課題に取り組むために世界各地から英知が集まる場だという。大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。いのちのつながりを再認識し、多様ないのちが共存・発展する持続可能な社会を国内外の参加者とともに共創することを、博覧会協会は理念に掲げた。

 計画には批判もあった。万博に関連する経費は、国と地方を合わせて3千億円を超える。「巨額の公費をつぎ込んだからには、成果は厳しく問われるべき」という報道もあった。

 4月の開幕当初の来場者数は1日あたり15万人を下回る日が続いたが、5月の連休から徐々に増加傾向になり、9月になった終盤は駆け込み需要で連日20万人を超えた。

 万博協会が目標とした総来場者は2820万人。9月28日には、一般来場者数が運営費の黒字の目安としてきた2200万人(速報値)を突破したと発表した。関西財界系シンクタンク「アジア太平洋研究所」は、万博による経済波及効果を約2兆7400億円と予想する。

■「万博」の理念とは, ■大屋根リングに評価, ■世界は一つになれる, ■コロナ禍を超えて

 万博を実際に訪れた人の満足度は高かったようだ。

 9月、AERAが行ったアンケートには、531もの回答が集まった。来場者にとって万博は、「非常に楽しかった」は31.6%、「楽しかった」は48.1%、「どちらともいえない」は12%、「つまらなかった」は3.8%、「非常につまらなかった」は4.4%だった。

「猛暑の中の待ち行列で誰一人声を荒らげることもなく、落ち着いて時間を過ごす様子は、万博で感動したことの一つです。出会った方はみなさん幸せそうな表情が印象的でした」(大阪府・60代女性)

 万博のシンボルである1周約2キロの「大屋根リング」を「印象に残った」と挙げた人も多かった。実物は圧巻の高さで、下から見上げても遠くから見ても印象に残る建造物だ。

「想像以上にすばらしかった。日本が誇る『和の技術』が光っていた。リングの上から見渡す会場の景色も美しい。混雑時もリングの下を通ればスムーズに移動できました」(兵庫県・70代女性)

■大屋根リングに評価

 大屋根リング沿いのパビリオンの多くが、待ち行列をリングの下に誘導していた。リングの下なら、強い日差しや雨も避けられる。

 大屋根リングの今後についてアンケートで希望を尋ねると、「全て残す」は42.4%、「一部を残す」は26.9%、「全て解体する」は12.2%、「どちらともいえない」は18.5%だった。

 いまのところ、大屋根リング北東の約200メートル部分を残し、その周辺を大阪市が市営公園として整備することが検討されている。

 大屋根リングは世界の象徴でもあった。リングの内側には、海外パビリオンのすべてが建てられた。

 先端技術を体験させるパビリオンがある一方、伝統的な手工芸品や豊かな自然の紹介など、国によって展示の方向性は大きく違った。それぞれに予想を超える驚きと感動があったように思う。

「オマーンやトルクメニスタンの映像展示、カザフスタンの音楽、ヨルダンのデーツ(ナツメヤシの実)が添えられたスパイスコーヒー、ハンガリーの歌声、ポルトガルの『海からのメッセージ』──それぞれの国のスタンスが出ていてすばらしかったです」(島根県・50代女性)

 マレーシアパビリオンの外にはダンスステージが設けられていた。

「ダンサーと観客が一緒に踊るダンスタイムがあり、私も踊って、『すごく万博に参加した!』という気持ちになりました」(京都府・50代女性)

 記者はアイルランド館で、沼地のコケや植物の展示のなかに小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の「知られぬ日本の面影」の初版本(1894年)を見つけた。スタッフに尋ねると、自由に手に取ってよいという。胸を高鳴らせてページをめくった。

■「万博」の理念とは, ■大屋根リングに評価, ■世界は一つになれる, ■コロナ禍を超えて

■世界は一つになれる

 開幕以来、「技術的な理由」で、2カ月にわたり閉館していたアンゴラ館は、正面に大きく漢字で「健康教育」と、テーマを掲げていた。シアターでは、小さな村の大家族で幸せに暮らしていた少女がマラリアにかかり、生死の淵をさまようという実話をもとにしたアニメーションを見て、国によってあまりに違う現実を改めて考えた。

「我々の存在の真意とは。」という高尚なテーマを掲げたブラジル館では、1908年に始まった日本人の移民の歴史や両国の友好の絆を紹介する展示が心に響いた。

 スタッフたちの親切な対応で、その国に好印象を持った人も少なくない。

「夏の会場は暑くて大変でしたが、外国パビリオンの方が頑張って来場者の列をできるだけ日陰に誘導していました。そんな万博がなくなるのは残念です。もっと行きたかった」(東京都・50代女性)

「たくさんの国の人がいて、会場ではみな笑顔! 政治抜きなら、こんなに世界は一つになれるのになあ……」(大阪府・60代女性)

 課題も指摘された。たとえば、「予約」の問題だ。

 今回の万博は「並ばない万博」を目指し、入場やパビリオンに積極的に事前予約制が導入された。だが、その「予約を取るのが至難の業」(大阪府・70代男性)という声も多かった。

「1回しか万博に行けなかったのに、パビリオンの予約が全く取れなかった人は会場の混雑を味わっただけで終わった。『2カ月前予約』で第5希望まで受け付けるなら、訪れた人がせめて一つくらいパビリオンの予約を取れるようにしてほしかった」(福岡県・50代女性)

■コロナ禍を超えて

 万博チケットの購入に必要な「万博ID」の取得やパビリオンの予約が難しいという声もあった。

「『高齢者やアナログ人間にはご遠慮いただきたい』ということかと思った」(大阪府・60代女性)

「予約システム上で相当な時間を費やした」(神奈川県・60代女性)という指摘もあった。万博をこよなく愛し、通期パスを購入して通い詰めた記者の妻も、予約開始時間の深夜や早朝にパソコンの画面と格闘していた。

 だが、20年前の愛知万博では予約制は一部のパビリオンだけで、混雑時は入場待ちの列が玄関口の駅まで広がった。少しでも混雑を避けようと、夜明け前から入場ゲート前に並んだ記憶がある。当時と比べれば、今回の大阪・関西万博はずっとスムーズに入場できたと思う。

 大阪・関西万博の開催が決まったのは2018年。

 その後のコロナ禍で、人々は人と会うことができないつらさを知った。海外との行き来はほぼなくなった。

 万博に行って、たとえたくさんのパビリオンを見られなくても、大屋根リングの周辺で、それぞれが「異文化」を体験できた。万博会場には、実に約160カ国もの人々がいて、同じ時間を過ごした。まさに世界の祭典だった。

(編集部・米倉昭仁)

■「万博」の理念とは, ■大屋根リングに評価, ■世界は一つになれる, ■コロナ禍を超えて

※AERA 2025年10月20日号