ハワイの鉄道「スカイライン」延伸で巻き返せるか

ダニエル・K・イノウエ空港付近を走るハワイ・ホノルルの鉄道「スカイライン」。10月の延伸で空港駅が開業した(記者撮影)
10月16日(現地時間)、ハワイ・ホノルルを走る鉄道路線「Skyline(スカイライン)」の第2期延伸事業となるアロハスタジアム―ミドルストリート・トランジットセンター間の4駅、約8kmの区間が開業した。
【よくわかる図と写真はこちら】▶空港を通る第2期区間が開業したハワイ・ホノルルの鉄道「スカイライン」の路線と延伸の計画は?▶住宅開発が進む沿線や延伸予定区間の現状▶バスとの乗り継ぎが改善された駅の様子など
延伸事業の目玉がダニエル・K・イノウエ空港(ホノルル国際空港)に鉄道駅が設置されたことであるのは間違いない。空港従業員1万人と旅行者に利便性の高い交通手段が提供されるからだ。しかし、2023年6月30日に開業した第1期区間のイーストカポレイ―アロハスタジアム間、9駅、約17kmの区間も合わせて開業初日に乗り通してみると、2年3カ月前には見られなかった大きな変化に気がついた。
沿線で進む住宅開発
イーストカポレイ駅から2駅先にあるホオピリ駅の周辺は宅地造成の真っ最中。開業前の2019年7月にこの場所を訪れたときには見渡す限り田畑が広がっていた。第1期開業時には一部で土地の整備が始まっていたが、重機や作業員の姿はなく、活気が感じられなかった。しかし今回は広大な敷地内でブルドーザーなどの重機がひっきりなしに動き回っており、ニュータウンの誕生を予感させた。
この一帯の住宅開発を手がけるのは全米最大のデベロッパー、DRホートン。サッカーグラウンド1600個分に相当する広大な土地におよそ1万2000戸の住宅を建設する計画で、2012年から開発が始まった。すでに完成した区画が多いが、ホオピリ駅周辺の開発はこれからだ。
100万人に迫るホノルル市郡の人口は現在も増加が続く。そのためホオピリ駅周辺のニュータウン開発は住宅不足解消の決め手として期待されている。最終的な完成は2032年の予定だ。
この住宅開発は公共交通指向型開発(TOD)と呼ばれるもので、鉄道駅など公共交通の拠点を中心に、住宅、商業施設、オフィスなどを集約させるという手法だ。ハワイ大学ウエストオアフ校や日本の東海大学系列である短期大学、ハワイ東海インターナショナルカレッジのキャンパスもこのエリアに誘致された。
ハワイは典型的な車社会であり、朝夕の通勤時間帯は主要な道路が大渋滞する。これ以上の渋滞を防ぐためにも、新たな住宅開発においてTODの採用は必然といえた。TODという用語は1990年代から用いられるようになったが、日本で古くから実践されてきた阪急や東急の沿線開発もTODの成功事例である。スカイラインは国と時代を超えて、その系譜を継ぐことになる。将来、新たに開発されたエリアに移り住む人たちは、スカイラインを当然のものとして日常的に使いこなすのだろう。

スカイラインの沿線では大規模な宅地開発が進む(記者撮影)
利用者数少なくても「10分間隔」維持
第1期の開業時、初日から数日間は物珍しさも手伝って多くの乗客でにぎわったが、その後の状況はお世辞にも好調とは言えなかった。例えば2025年9月の1日当たり利用者数は3983人。1列車当たり27人にすぎない。4両編成なので1両に6〜7人しか乗っていない計算だ。
ホノルル市のリック・ブランジャルディ市長は「第1期の利用者数は1日5000~1万人程度」と見込んでいたが、その予測には達しなかった。市民の間からは「誰も乗らない」「空気を運んでいる」という指摘が相次いだ。
こんな状況下でもスカイラインは朝5時から夜7時まで10分間隔で運行していた。そのため、「コストを削減するために運転本数を減らしてはどうか」という声も上がった。しかし、ブランジャルディ市長は意に介さず、「第1期は利用者数にはこだわらない。利用者数という指標が重要になるのは第2期からだ」と話し、10分間隔の運行を継続した。
利用者が少ないのは理由がある。そもそも第1期区間の沿線には旅客需要を喚起しそうな場所が少ないのだ。目ぼしい施設はカレッジフットボールの試合が行われるアロハスタジアム、ハワイで2番目に大きいショッピングモールのパールリッジセンターといった集客施設もあるが、毎日通うという人は少ないだろう。利用者を増やすためには空港など通勤需要が期待できる場所に駅がある第2期区間の開業が必須なのだ。

Honolulu Skyline Routemap
にもかかわらず、第1期区間だけを先行して開業した。もともとの予定では2017年に開業しているはずだったが、資金難により建設が大幅に遅れており、利用者が少ないという批判を覚悟で、一部区間だけでも先行開業する必要があったのだろう。
その意味で第2期開業が本番であり、運行時間も朝4時から夜10時半までに延長された。利用者数の目標は「1日2万5000人程度」に引き上げられた。第1期の実績と比べると高い目標だが、これが本来の目標といえる。「第1期は機能面で必要性が高い区間とはいえず、第2期が開業してようやくスカイラインの機能が発揮される」とブランジャルディ市長は話す。
運行開始の前日に関係者を招いて行われた開業式典でホノルル市交通サービス局のJ・ロジャー・モートン局長は、「ホオピリ駅の近くに住んでいる人は、今まで渋滞の高速道路を車で1時間運転して、駐車場からシャトルバスで15分かけて空港まで通勤していたが、これからはスカイラインに乗って25分で勤務先に通えるようになる」と具体的なメリットを説明した。

ダニエル・K・イノウエ国際空港の駅名標と空港施設(記者撮影)
第2期開業、出だしは好調
第2期開業から最初の週末となる10月18〜19日は終日にわたって、スカイラインが全線無料開放された。乗車した人に話を聞くと、「地元の人や子供連れで席が埋まる程度に終日混んでいた」という。
交通サービス局が公表した第2期開業日以降の利用実績は、16〜17日が有料で1日平均1万1175人。第1期の実績からは大きく増えた。無料運転の18〜19日は1万9809人であり、目標の2万5000人に迫る数字となった。無料という理由があるとはいえ、市民の期待の表れといえるだろう。
スカイラインは単体で乗客を増やす交通手段ではない。市はスカイラインの駅を路線バスとの結節点として交通ネットワーク全体で利用者を増やそうとしている。スカイラインと路線バスを組み合わせることで、路線バス単体と比べてより短時間での広域移動が可能となるからだ。
すでにイーストカポレイ駅やウエストロック駅などが多くのバス路線と接続しているが、新たにラグーンドライブ駅とハワイ大学マノア校を結ぶ急行路線バスが設定された。モートン局長はこんな例を出してその意義を説明する。「イーストカポレイに住むある学生はホノルルの東側にあるハワイ大学マノア校まで路線バスで90分かけて通学していたが、スカイラインと路線バスを乗り継ぐことで所要時間が20分短縮する」。
ワイキキへのバスも接続
また、ラグーンドライブ駅からダウンタウンやワイキキに向かう急行路線バスも運行を開始した。開業日の同駅ホームでは「ダウンタウンへの乗り継ぎはこちら」というパネルを掲げているスタッフの姿も見られた。当面の終着駅であるミドルストリート・トランジットセンター駅からも東方面に向かう多くのバス路線と接続する。

ラグーンドライブ駅で、パネルを掲げてダウンタウンやワイキキ方面へのバス乗り継ぎ客を誘導するスタッフ。UHはハワイ大学(University of Hawaiiの略)(記者撮影)
ちなみに路線バスもスカイラインも一般運賃は距離にかかわらず一律3ドル。ホロカードという交通パスを使えば、2時間半以内の乗り継ぎであれば3ドルのみで追加料金は不要だ。なお、ホオピリ、アロハスタジアムなど一部の駅には駅前に駐車場が設けられ、自宅最寄り駅の駐車場に車を停めてスカイラインで通勤する「パーク・アンド・ライド」方式も採用されている。
第3期はミドルストリート・トランジットセンター駅からチャイナタウン駅、オフィス街が連なるダウンタウン駅を経て官庁街のシビックセンター駅の6駅、約6kmの区間である。これが完成すると、一般企業や官庁への通勤手段としてのスカイラインが完成する。開業は今から6年後となる2031年の予定であり、その頃にはホオピリ駅周辺の住宅開発もかなり進んでいるだろう。「全線開業すれば1日8万5000人の乗車が見込める」(ブランジャルディ市長)。

車止めが置かれ行き止まりになっている線路。第3期区間は2031年の開業を目指す(記者撮影)
これだけの人がマイカーの代わりにスカイラインを使うようになれば、交通渋滞もかなり緩和されるだろう。メリットはそれだけではない。「自動車を完全に手放すことは無理でも、各世帯が複数台保有している自動車の数が減ることで、その購入・維持資金をほかの分野に充てることで生活の質を高めることができる」(同)。
予定通りに延伸開業できる?
とはいえ、2031年に予定どおり開業できるかどうかはわからない。2023年6月の第1期開業時には第2期区間の駅舎や線路の多くが完成していた。しかし、第3期区間の工事はまだ始まったばかり。ミドルストリート・トランジットセンター駅から先の線路はなく、終着駅となるシビックセンター駅は建設予定地こそ確保されているものの、工事が始まる様子はない。

第3期区間の終点となるシビックセンター駅の予定地(記者撮影)
建設資金の一部については連邦政府からの補助を見込むが、トランプ政権は公共交通事業への資金支援を行わない方針を取り、スカイラインの補助金も打ち切りになる可能性がある。物価高による将来の建設費高騰も心配だ。今後の建設に向け関係者の苦労は尽きない。
しかし、ハワイ州交通局のエドウィン・スニフェン局長は開業式典でこう発言して招待客を鼓舞した。「10年後には誰もがスカイラインから恩恵を受けているはず。そのときにみなさんがしてきた苦労に感謝する人はいないだろう。だが、沈黙は感謝の表れ。それで十分だ」。