マイクロブタを飼い始めた夫婦に訪れた心境変化

しおりさん宅のマイクロブタ、おもちくん5歳(写真提供:しおりさん)
思った以上にブタらしくなる「マイクロブタ」
ブタの肌は、驚くほど人間に似ていた。華奢な体つきのしおりさん(仮名)の背後からはみ出したピンク色の肌、うっすらと生えた体毛と黒い斑点がなければ、裸の西洋人が寝そべっているようにも見える。
【写真を見る】犬のように尻尾を振り、好奇心旺盛で人懐こいマイクロブタのおもちくん(全21枚)
マイクロブタは、2000年代にイギリスでミニブタの交配により作出された40キロ程度のブタで、近年は日本でもペットとして人気がある。いつのまにかブタカフェも増えた。
カフェにいるブタは、犬のように尻尾を振り、好奇心旺盛で人懐こい。ちょっと変わった犬種だと言えば通じるかもしれない。しかし、「マイクロブタ」は成長すると思った以上にブタらしくなるため、注意が必要だ。
「おもちも、2歳になるまでは1カ月で1キロずつ増え続けて、今年の年始に測ったときは、37キロでした」
しおりさんがおもちくんを迎えて5年。体重6キロだった彼は毎日元気にもりもり食べ続け、しっかりとした雄豚に成長した。

(写真提供:しおりさん)
100キロから300キロ程度まで成長する家畜豚に対し、40キロから100キロ程度の個体を「ミニブタ」、そして40キロ以下のものを「マイクロブタ」と呼ぶ。
「マイクロ」という言葉は誤解を招きやすいが、ほとんどの個体が大型犬以上の大きさに育つ。例えば、ゴールデンレトリバーは30キロ程度。40キロまで成長すれば、超大型犬のバーニーズ・マウンテン・ドッグと同程度の大きさだ。
マイクロブタをできるだけ小さくとどめるためにエサの量を少なくすることは、虐待に近い行為だ。特に成長期である4カ月齢から2歳ごろまでに必要なエネルギーを摂取していなかった場合、発育不良となり内臓疾患や呼吸器障害をもたらし、短命となる危険性もある。
「マイクロ」という名称は、家畜豚と比較したときにのみ効果的な表現となる。成長したブタは、決してマイクロサイズではないことは、飼育前に知っておかなければならない。
家畜豚もマイクロブタも、体の大きさを除けば大きな違いはない。気を付けるべき病気も同じだ。特にイノシシやブタが感染する豚熱(豚コレラ)は要注意。強い伝染力と高い致死率で、感染が広がると殺処分などの防疫措置の対象となる。
基本的には定期的なワクチン接種で予防できるが、感染リスクを下げるために屋外での散歩を控える飼い主もいる。
ブタは頭がよいためトイレの場所もすぐに覚え、飼い主の指示にもよく従う。草食に近い雑食で、体臭もほとんどない。よく汚れた部屋が「ブタ小屋」と揶揄されるが、実際のブタは非常にきれい好きな生き物だ。
犬猫アレルギーの救世主・マイクロブタ
大阪府でフリーランスとして働くしおりさんは(仮名)、幼いころから動物に囲まれて育った。犬、猫、鳥、時にはうさぎまで、そばにもふもふした生き物がいない日はなかったという。実家を出て友人とルームシェアを始めたときに初めて、動物がいない生活を経験した。
飼える環境になったら、猫と暮らしたい。そう思うようになっていた。
「結婚して夫婦で暮らし始めたので、これでようやく猫が飼えると思ったんですけど、夫に犬猫アレルギーがあることがわかったんです。それで、もうペットを飼うのは諦めていました」
動物を飼いたいのに飼えない。そんな人たちの心を満たしてくれるのが、SNSだ。YouTubeやインスタグラムなどで次々に流れる動物動画が、もふもふを飼えない寂しさを紛らわせてくれた。
「そこで初めて、マイクロブタの動画を見たんです。夫婦で、『ブタってめっちゃかわいいやん』ってなって。調べたら、ブタはアレルギーが出にくいらしいと知りました」

生後6カ月頃のおもちくん(写真提供:しおりさん)
ブタの肌は人間の肌とよく似ており、実際に皮膚炎の薬理試験などにも活用されている。人に近いからか犬や猫と比べて、ブタにアレルギー反応を起こす人も少ない。また体毛は剛毛で、脱毛しても空気中に舞うことはなく、吸い込む量も少なく済む。
ブタならうちでも飼えるかもしれない。
5年前、まだ大阪にはマイクロブタカフェがなかった頃、東京にあるブタカフェのインスタライブである子豚を見つけたしおりさんと夫は、同時に「この子しかいない!」と確信した。それが現在の「おもちくん」だ。しかし、実際におもち君をお迎えするまでには、いくつもの試練を乗り越えなければならなかった。

しおりさんに抱っこされ、安心してうたた寝するおもちくん(写真提供:しおりさん)
「前例がないから」…なかなか難しい物件探し
まず、ブタを飼育できる賃貸物件がなかなか見つからなかった。ペット飼育可能と掲げている部屋に問い合わせても、「ブタは前例がないから」と断られる日々が続いた。
「数十件電話し続けて、ようやく見つかったのが2件だけでした。だから、実質2択しか選択肢がなかったんです」
ブタの飼育が可能な賃貸物件をようやく見つけて引っ越しを済ませた。ブタは寂しがりやな生き物だ。特に子豚のうちは、留守番時間は長くて8時間と言われていたため、同じくフリーランスとして働く夫と協力して仕事のシフトを工夫した。
その後、しおりさんは本業の傍ら、近所にできたブタカフェでオープニングスタッフとしてアルバイトも経験した。おもちくんを迎え入れる前に、ブタのしつけや基本的なお手入れ方法などを学ぶことが目的だった。
「大阪のブタカフェにもかわいい子ブタはたくさんいました。私は、東京まで迎えにいかなくても……という気持ちも芽生え始めましたが、とにかく夫が『おもちじゃないとダメだ』と主張したんです」
実際にお迎えにいったとき、おもちくんは生後半年になっていた。一番かわいい時期を逃したとしても、夫婦はほかの子に目移りすることはなかった。

迎え入れる当日の記念写真。まだ体重6キロの頃のおもちくん(写真提供:しおりさん)
ブタは「家畜」扱い。保健所への届け出が必要
ブタは飼いたいからといって次の日から飼えるわけではない。マイクロブタは行政上、牛や馬などと同じように「家畜」として扱われるため、家畜伝染病予防法に基づき、居住する都道府県の家畜保健衛生所への報告が必要となる。
「県によって基準は違うみたいで、厳しいところだと庭に広いスペースがなければだめ、というところもあるようです。大阪府はそれほど厳しくはありませんが、ブタを飼うために県をまたいで引っ越しをしたという人の話も聞いたことがあります」
家畜としての届け出は初回だけではなく、年に一度現状報告をしなければならない。また、豚熱予防のため、定期的なワクチン接種が推奨されている。豚を診察できる動物病院もそれほど多くはないため、迎える前にあらかじめ確認しておく必要があるだろう。
生体価格は10万円から40万円程度。実際に飼育を始める際には、以下のものを用意しよう。
【マイクロブタ飼育に必要なもの】
・飼育用のケージ(大型犬用)
・ベッド、毛布
・トイレシーツ
・食器、給水器
・エサ
・ハーネスとリード
・キャリーケース
「マイクロブタ専用」のグッズを見つけるのは難しいが、エサ以外はほぼ犬用のもので代用できる。ただし、大型犬用のしっかりしたものを最初からそろえたほうがいい。マイクロブタは思った以上に力が強く、中型犬用のケージでは耐えきれないため、すぐに買い替える羽目になる。

おもちくんのお迎えセット。ケージやソファは大型犬用(写真提供:しおりさん)

外出するときはハーネスを装着。写真はマイクロブタ用ハーネス(写真提供:しおりさん)
「おもちの場合、キャリーケースはすぐに使わなくなってしまいました。その代わり、最初から丈夫なペットカートを購入すべきだったと思います。また、体重が重いのでベッドはすぐにダメになります。結局今では人間用のマットレスをベッド代わりにしていますね」
飼育を始めるまでに一式20万円程度
なんだかんだで、初期費用だけで10万円は下らない。しおりさんの場合は結局一式20万円程度かけたという。
よく食べるので、エサ代もばかにならない。当初はブタカフェでエサ代に飼育相談をプラスしたプランに加入していたため、月8000円程度かかっていた。
「ブタ用のペットフードは栄養価が高い分、与える量が少ないんです。おもちは四六時中食べ物を欲しがるので、2歳以降は手作り食に変えました」
2021年3月におもちくんを迎えてから3年間、夫婦で仕事を調整し、なんとか留守番時間を8時間以内にしていた。しかし留守番中落ち着かず、ケージ内をウロウロし、時に悲しそうに鳴いているおもちくんを、しおりさんは留守番カメラ越しにやるせない気持ちで見ていた。
そして夫婦はある決心をする。お迎えしてから3年後の2024年4月、夫婦で店を開店したのだ。
(後編に続く:「マイクロブタと川の字で眠る幸せ…」ストレスの多かった共働き夫婦がたどり着いた穏やかな日常)