50歳を過ぎたら受けたほうがいい…専門医が勧める「寝たきり」を防ぐ“検査の種類”

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高齢者が寝たきりになる最大の原因は、骨折だ。ちょっとした転倒がきっかけで骨が折れ、そこから体のバランスが崩れ、歩けなくなってしまうケースは少なくない。しかし、骨の衰えは、日々の習慣である程度防ぐことができる。自身や高齢の親を「骨折→寝たきり」にしないための習慣を、専門医が教えてくれた。※本稿は、野尻英俊『人は背中から老いていく 丸まった背中の改善が、「動ける体」のはじまり』(アスコム)の一部を抜粋・編集したものです。
背中の骨が曲がってしまうと
日常生活は一気に破綻する
私が声を大にして、何度でもお伝えしたいのは、次のひと言に尽きます。
「背中の変化に早めに気づいて、すぐに対策をとってください」
目指すべきは、バランスのとれた強い脊椎を維持すること。
人は加齢などによって脊椎が変形してきても、それをほかの部位が代償して、自立歩行や水平視を保とうとします。ほかの部位で代償できているうちは、あまり不自由なく生活を送れるので、自分の身体はいたって健康だと思ってしまいがちです。
しかし、それはあくまでも代償によって保たれた健康です。脊柱後弯(編集部注/脊椎が曲がって猫背を引き起こしている状態)がさらに進行し、筋力などが衰えて、いよいよ代償ができなくなると、それまでの日常は一気に破綻してしまいます。
腰はどんどん曲がっていき、体のバランスがとれなくなり、転倒する危険性が増え、杖や歩行器がないと歩けなくなる、もしくは車いすや寝たきりの生活に陥ってしまう……。
実際、来院する患者さんには、こう口にする人がいます。
「私の体はどこも悪くなかったのに」
「こんなはずじゃなかった」
いきなり襲いかかられたように見えても、実際には体の中では着々と進んでいた――そんな老化現象を信じられないのです。
早く病院に行っていれば
治ったかもしれないのに
背中が老化して歩行が不自由になると、活動量が減るので、肺炎などの感染症や、慢性呼吸不全にもつながります。もちろん生活習慣病のリスクも高まります。
脊柱後弯が進むと、寿命も縮まります。
また、腰が大きく曲がってからの対策は、大きな手術がメインになります。高齢の患者さんが多いので、身体への負担は大きく、場合によっては手術すらできないこともあります。
「もっと早く来院してくれれば……」
そう思った回数は数えきれません。
これが軽症のうちに対応を始めてもらえると、老い出し体操(編集部注/著者が考案した体操。背中が丸まる要因となる、代償筋を重点的に強化する)など、負担の少ない方法で対策できます。
私が勤めているのは大学病院なので、ほかの病院から紹介されてくる大手術が必要な重症患者さんが多いのですが、その一方で、軽症の場合は手術をせずに回復できた患者さんもたくさんいらっしゃいます。
「背中の丸まりチェックシート」は、変化を知るひとつの目安になるでしょう。
背中レベルが【イエロー】の段階であれば、代償筋を鍛えることで、まだまだ回復が見込めます。
すべての病気にいえることですが、背中の老いに関しても、早期発見・早期対策が、もっとも効果的なのです。
回復をあきらめた瞬間
背中はますます衰える
すでに腰の曲がっている人のなかには、回復をあきらめている人も多くいるようです。
ご家族や医師から「年をとったのだから仕方がない」と、何度も言われると、「そういうものなのかな」と、あきらめてしまいがちですよね。
でも私は、すべての患者さんが希望を持てるような声かけや指導をしていくべきだと考えており、つねにそう心がけています。
確かに、すでに脊柱後弯がかなり進んでしまい、手術をしても劇的な回復は望めない患者さんもいます。
しかしそんな患者さんでも、筋力トレーニング、ストレッチ、電気刺激など、現在の能力を維持する方法や、痛みを和らげる方法はあります。
一生懸命に改善に取り組んでいれば、部分的ではあっても、回復する見込みはあるのです。自身の状況を知ってうまくつき合う、または立ち向かうという気持ちが重要だと考えています。
それをやめてしまうと、状況がよくなることはありません。あきらめた瞬間、悪化のスピードは加速してしまうのです。
ましてや症状が軽い人、進行していない人は、とても高い確率でよい効果が出ます。医師にかからず、取り組みをやめてしまうのは、もったいないことなのです。
歩行器を使ったとしても
歩き続けることが何より大事
自分ではウォーキングをして筋力や体力をつけようと思っているのに、「転んだら危ないから、家でじっとしていて」と、家族から止められているという話もよく耳にします。
もちろん、忠告するご家族の気持ちも理解できます。高齢者が転倒すると、そのまま寝たきり生活になるような、取り返しのつかない骨折を起こすことがあるからです。
でも、歩くのをやめてしまうと、あっという間に筋力が落ちてしまいます。筋力が落ちると、さらに歩けなくなるという悪循環に陥り、その先にはやはり寝たきり生活が待っています。
このジレンマを解消するためには、「安全に」歩くしかありません。
歩きましょう。ただし、室内なら手すりを持ちながら「安全に」。屋外なら舗装された交通量の少ない「安全な」道を。
たとえ、杖やカート(手押し車)、歩行器を使ったとしても、歩くのと歩かないのとでは、筋肉に与える効果に大きな差があります。
格好悪いなんていわず、杖やカートでバランスをとりながら、転ばないようにして「安全に」歩いてください。
ことわざにあるように、まさに「転ばぬ先の杖」なのです。
もしも歩くときに痛みを感じるのであれば、痛みを和らげる方法がないかを医師に相談して、歩ける状態をつくってみてください。
そして、ご家族の方は、歩こうとする本人の気持ちを削がないように注意してください。たしかに、歩く量が増えれば転ぶリスクも増えるのですが、歩かなければ筋力は衰えていきます。
禁止するのではなく、安全に歩けているかを確認しながら見守る――それが、あなたの大切な人の希望と未来を守ることにつながるのです。
もうひとつ、ご家族にお願いしたいのは、メンタル面のケアです。
私たち医師も、患者さんのメンタルをケアするように心がけています。しかし、治療にあたるだけで精一杯なときもあるというのが本音です。
とにかく、よく話を聞いてあげましょう。
がんばったときはほめて、くじけそうになっているときは励ます。家族が本人にとっての心の杖になるのが理想的です。
50歳を過ぎたら
定期的に骨密度検査を
超高齢化社会なので、当たり前といえば当たり前ですが、昔に比べると高齢の患者さんが増えています。
それにともない、脆弱性の骨折での来院が目立っています。とくに脊椎の圧迫骨折、骨盤の骨折、脚の付け根の大腿骨の骨折が多いです。
若いときなら折れないような衝撃でも、高齢者は骨が弱くなっているので折れてしまいます。先ほどもお伝えしましたが、くれぐれも歩くときは「安全」に注意してください。
「いつの間にか骨折」(編集部注/骨粗しょう症などにより骨が弱くなり、転倒などの大きな外傷がないにもかかわらず骨折してしまう状態)もよく見られます。
X線撮影で「骨折していますよ(していましたよ)」と指摘するケースもしばしばです。
これは年をとって痛みに鈍感になっているわけではありません。
背骨の前側の椎体は海綿骨というスポンジ状をしているのですが、ここが体重に耐えられなくなって徐々に縮んでいき、痛みらしい痛みはないにもかかわらず、骨折しているのです。
大きな衝撃による骨折が地震だとすれば、「いつの間にか骨折」はゆっくり進んでいく地盤沈下のようなもの。それゆえに、なかなかそれに気づくことはできません。
骨粗しょう症は、予防できる時代になっています。そのためにも、50歳を過ぎたら、定期的に骨密度検査をしてください。
適度なエクササイズが
老いた骨を強くする
骨粗しょう症のおもな原因は、加齢です。年齢を重ねると骨をつくる力が弱くなるので、骨密度が低下します。とくに女性の場合は、閉経後に女性ホルモンのエストロゲンが減少するため、骨の代謝が崩れやすくなります。
そのほかにも、骨をつくる栄養素(カルシウム、ビタミンDなど)の不足、運動不足、喫煙や飲酒などの生活習慣も影響します。
そんな困った病気の骨粗しょう症ですが、近年になって新しい薬が開発されて、投薬による予防や治療が進んでいます。
そのきっかけになったのが、1990年代から使用され始めたビスホスホネート薬(薬物名:アレンドロン酸、リセドロン酸、ミノドロン酸、イバンドロン酸など)です。
この薬は、骨を壊す破骨細胞の働きを抑え、骨吸収抑制の効果が実証されています。現在でもよく使用されているメジャーな治療薬です。
2000年代以降に開発された薬に、SERM(薬物名:ラロキシフェン、バゼドキシフェンなど)があります。
これは骨に選択的に働く、エストロゲン様作用によって骨を守る薬です。骨密度の維持、椎体骨折予防に有効な薬として知られています。
同じく2000年代中盤に開発された、骨の形成を促進する薬が副甲状腺ホルモン製剤(薬物名:テリパラチドなど)です。
自分で打つ必要のある注射薬ですが、椎体の骨密度の増加効果が高く、椎体骨折を減らす働きがあります。骨折リスクが高い患者さんにとくに効果的な薬です。
抗RANKL抗体(薬物名:デノスマブ)という薬もあります。
2010年代に開発されたこの薬には骨吸収抑制の効果があるのですが、皮下注射を6カ月に1回おこなうという特徴があります。
また、2019年にはロモソズマブという薬も開発されました。これは骨吸収抑制と骨形成促進、両方の作用を持つ薬です。骨密度の改善が非常に早く、高リスク患者の初期治療に有効と考えられています。

『人は背中から老いていく 丸まった背中の改善が、「動ける体」のはじまり』 (野尻英俊、アスコム)
かつて、骨粗しょう症は「治らない病気」と思われていた時代もありました。年齢とともに静かに進行していき、骨折したときに初めて気づく病気だったからです。
しかし、骨密度を測定する方法が一般化され、治療薬が進歩した90年代以降は、コントロールできる病気に変わっています。骨折リスクを下げるためにも、骨密度を測ったことがない人は、一度測ってみてください。
骨粗しょう症は、早期に発見できれば、多くの選択肢のなかからあなたに合った治療法を選択することができます。それぞれに合った薬があると思いますので、主治医に相談してみてください。