JR東「Suicaのペンギン変更」悪手を選択した背景

ドン・キホーテの「ドンペン」の引退は撤回されたが…, 企業がキャラクターを変更する理由, キャラクター変更は“いばらの道”, イメージキャラは「変えないほうがいい」

25年近くにわたり親しまれてきたJR東日本のSuicaのペンギン(画像:JR東日本公式サイトより)

JR東日本は、同社の電子マネー「Suica」のイメージキャラクターのペンギンが2026年度末で“卒業”し、新しいキャラクターに変更になることを発表した。

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26年秋に「モバイルSuica」アプリに新たなコード決済機能を搭載するなど、サービスを大幅拡充する計画があり、それに伴ってキャラクターの変更を決定したとのことだ。

ペンギンのキャラクターは、01年のSuica導入とともに登場した。四半世紀にわたって愛されてきただけに、多くの人々から“卒業”を惜しむ声が出ており、卒業撤回を求めるオンライン署名まで立ち上がっている状況だ。

キャラクターを変更する必要性は本当にあるのだろうか?

ドン・キホーテの「ドンペン」の引退は撤回されたが…

ペンギンキャラクターの引退で思い出されるのが、22年に起きた大手ディスカウントストアのドン・キホーテの公式キャラクター「ドンペン」の引退騒動だ。

ドン・キホーテは、オリジナルブランド「情熱価格」のさらなる浸透のために、ドンペンのキャラクターを「ド情ちゃん」に変更すると発表した。

これに対して、消費者から批判が殺到した。運営会社は緊急会議を開き、ドンペンの続投を決定、謝罪とともにキャラクター継続の発表を行った。

このドンペンのキャラクター変更騒動は、ネタ、つまりは話題作りための狂言だったのではないか? という疑問も飛び交ったのだが、会社側はネタ説を否定している。

ドン・キホーテの「ドンペン」の引退は撤回されたが…, 企業がキャラクターを変更する理由, キャラクター変更は“いばらの道”, イメージキャラは「変えないほうがいい」

当時のツイッターの公式アカウントで「『ドンペン』から『ド情ちゃん』に交代する事が決定いたしました」と発表したドン・キホーテ(画像:同社公式アカウントより)

JR東日本についても、「ネタ」でキャラクター変更を発表することはないだろうから、「Suicaのペンギン」の引退は紛れもない事実だろう。

大幅なサービス変更・拡充に伴い、マスコットキャラクターも変更する――という説明は一定の説得力がある。

一方で、25年間も使用され、愛され続けてきたキャラクターを変更することに対しては、大きなリスクも伴うのも事実であるし、それに伴うコストも大きい。

筆者の周辺の広告・マーケティング界隈の人たちからも「なぜキャラクターを変更するのか」「変更の必要はないのでは?」といった疑問の声が複数出ている。筆者も同じ疑問を抱いている。

ドン・キホーテの「ドンペン」の引退は撤回されたが…, 企業がキャラクターを変更する理由, キャラクター変更は“いばらの道”, イメージキャラは「変えないほうがいい」

グッズも手広く作られるなど人気キャラクターだった(画像:JR東日本公式サイトより)

企業がキャラクターを変更する理由

デメリットも大きい決定だけに、「公表されていること以外の裏事情があるのでは?」という推測も出ている。JR東日本の「裏事情」は定かではないが、一般的に企業がキャラクターを変更する場合、以下のような理由が背景として考えられる。

1. コスト削減

2. 契約条件の制約

3. 事業内容とキャラクターイメージのズレ

上の1と2は裏表なのだが、キャラクターを維持、活用するには、使用料や管理・運営コストがかかる。

キャラクターの契約条件としては、使用期間、使用範囲、ライセンス料などが含まれる。契約更新に当たって改めて条件をすり合わせたところ、折り合わなかったので、キャラクターの使用を終了するということはある。

「契約条件が折り合わなかった」というのは、キャラクターに限らず、ビジネス上の取引ではよくある話ではある。

そう考えると、26年以降は新たなキャラクターは設けない、という方向性もあるように見えるが、JR東日本の発表では、キャラクターの廃止ではなく、あくまでも「刷新」とのことだ。

いずれ新しいキャラクターが発表されるはずだが、1、2の課題は今後も多かれ少なかれ付いてくるはずだ。

キャラクター変更は“いばらの道”

3点目については、「裏事情」というよりは、JR東日本の発表の延長線上の話である。イメージキャラクターは、想像以上に綿密に設計され、厳格に管理されるものだ。

しかしながら、時代が変わり、事業展開も変わっていくとなると、これまでのキャラクターのイメージとのズレが生じてくる可能性はある。継続性と合わせて、変化への対応も重要になっていく。

新サービスの導入、サービス拡充に伴い、あえてキャラクターも刷新して、新たなイメージをアピールしていくというやり方は「先行投資」として意義がある――と考えることもできる。

一方で、キャラクター変更は“いばらの道”でもある。

25年3月、京都の老舗肌ケアブランド「よーじや」は、60年前に誕生したロゴマークを刷新し、あぶらとり紙の表紙の女性「よじこ」(24年に命名)をリニューアルしてコーポレートキャラクターに設定した。やはり、ロゴとキャラクターの変更に対して、反対の声も大きかった。

ドン・キホーテの「ドンペン」の引退は撤回されたが…, 企業がキャラクターを変更する理由, キャラクター変更は“いばらの道”, イメージキャラは「変えないほうがいい」

お馴染みのレトロなデザインから変更された、よーじやのロゴ(画像:同社公式サイトより)

現段階でブランド刷新が成功したか否かを論じるのは時期尚早だが、「よじこ」のキャラクターを活用したグッズを販売したり、「靴下屋」とのコラボソックスを発売したりといった、さまざまな試行錯誤が行われている状況だ。

ちなみに、「よじこ」のデザインを行ったのは、偶然ながら、Suicaのペンギンのデザイナーと同じ坂崎千春氏だ。

ドン・キホーテの「ドンペン」の引退は撤回されたが…, 企業がキャラクターを変更する理由, キャラクター変更は“いばらの道”, イメージキャラは「変えないほうがいい」

どことなくSuicaのペンギンを思わせるキュートなデザイン(画像:よーじや公式サイトより)

キャラクター名は維持しつつも、リニューアルを行った例として、発動機メーカー・ヤンマーの「ヤン坊マー坊」がある。

「ヤン坊マー坊」は1959年に誕生し、長らく天気予報番組を中心に親しまれてきたが、14年に放送を終了。現在に至るまでキャラクターのデザインは何度も更新されており、現在で9代目となる。

現在のデザインは23年に一般投票で決定され、24年から切り替わっているのだが、2年近くを経ても、定着しているとは言いがたい状況だ。

Suicaのキャラクター変更は、上記の事例と比べても、規模が大きく、影響が及ぶ範囲も広範になる。大きな困難が伴う大きな挑戦であることは間違いがない。

ドン・キホーテの「ドンペン」の引退は撤回されたが…, 企業がキャラクターを変更する理由, キャラクター変更は“いばらの道”, イメージキャラは「変えないほうがいい」

グローバルな一般投票を行い、2024年にリニューアルされた現在の「ヤン坊マー坊」(画像:ヤンマー公式サイトより)

イメージキャラは「変えないほうがいい」

消費者の愛着を考えると、現状のペンギンキャラクターから大きくは変更せず、兄弟的なキャラクターを導入するというやり方も想定できる。ただ、これだと刷新感はなくなるし、そもそも「変更した意味はあるのか?」という疑問が湧いてくる。

ペンギンのキャラクターを生かしつつ、新たなキャラクターと併存させるというやり方もなくはないが、イメージの分散や、管理の手間やコストを考えると賢いやり方とは言いがたい。

また、過去のイメージに引きずられてしまうと、現在の「ヤン坊マー坊」デザインのように、かえって人々に受け入れられづらくなってしまう可能性もある。

一方で、Suica事業は拡充であって、廃止ではないため、継続性も重要になる。「刷新性」と「継続性」という2つの要素のバランスをとるのと同時に、現状のペンギンのキャラクターに勝るとも劣らない、親しまれやすいキャラクターを導入し、定着させる必要がある。

筆者だけでなく、多くの人々は「変える必要はあるのだろうか?」という疑問が拭えないだろう。イメージキャラクターは「変える必要がなければ、変えないほうがいい」という類のものだ。

ただ、一度「変える」という判断をしたのであれば、不退転の決意のもと、腰を据えて取り組まなければならない。

Suicaが導入された当初は、唯一無二のキャッシュレス決済サービスだったが、現在ではPayPayをはじめとするコード決済が普及し、キャッシュレス決済が乱立する状況となっている。

新キャラクターの導入とともに、Suicaが再び存在感を増すことができるのか、他のサービスの中に埋もれていくのか、今後も注視しておきたい。