ホラー好き漫画家が「墓石を持ち上げ」考えたこと

人はなぜ「怖い」ものに惹かれるのでしょうか(写真:Graphs/PIXTA)
世間を沸かしたバツ3の叶井俊太郎氏との結婚から14年と半年。漫画家・くらたまに降りかかったのは、夫の死と、残りの人生をどう独りで生きるかという「新たな人生設計」だった――。
夫亡き後の日々の暮らしや感じたこと、そして新たな挑戦の日々を漫画とエッセイでお届けする(漫画はエッセイの最後に)。【連載第8回】
夜眠れなくなるような怖い絵
ホラー漫画を描こうとしたことが何度かあります。
【4コマ漫画で見る】人生で一番怖かった夫の話
その度に、真っ先に「絵柄」で断念してきました。ホラーは子どもの頃から大好きなジャンルなのに、やはり私の絵では怖さを十二分に表現しきれません。
楳図かずお先生や伊藤潤二先生のような、たった一コマでも夜眠れなくなるような絵が描けたら、私の人生も大きく変わっていたかもしれません。
唯一、私が描いたものでは『凶母(まがはは)〜小金井首なし殺人事件16年目の真相〜』というミステリ漫画が、ホラーっぽさを有した作品になります。
16年前に首を切られて殺された女の娘が、現代でまた同じ首なし死体で発見されるという事件を、反社会的見た目の売れっ子(自称)霊能者が解決するという謎解きミステリです。
自分にとって過去作品の中でもとても気に入っているものの1つで、いい評価もいただきましたが、「この絵で」というのが良くも悪くもチラホラご意見の中に見られました。
なぜ人は「怖さ」を求めるのか
「怖い」って、本当は忌むべき感覚のはずなのに、なぜ人間はあえて求めてしまうんでしょうか。ホラー映画、漫画、小説……決して少なくないファンがこのジャンルにいるのはどうしてなんでしょうか。
ホラーファンの1人として「怖い」を味わうべく、この秋、スカイツリー内にある東京ソラマチのイベントスペースで行われた「ホラーにふれる展-映画美術の世界-※」に行ってきました。
※現在はイベントを終了しています。
ホラー映画に出てくるホラー的な美術を再現、その展示物を「見て」「撮って」「触る」というコンセプトの体験型イベント。お化け屋敷は「見る」以外基本許可されていないので、「撮れて」「触れる」というのが新鮮です。
何より私はお化け屋敷も嫌いじゃないんだけど、「ワッ!」と脅かされることは苦手なので、そういうビックリなしに自分のペースで怖さを楽しめるのがありがたいです。

「撮れて」「触れる」ホラーの世界(写真:筆者提供)
行ったのが休日だったこともあり、ソラマチは混んでいました。イベント会場の入り口にも人は少し並んでいましたが、ほぼ待たずに入場することができました。入場料金は2400円、ちょっと高い気もするけど、場所代を考えると仕方ないのかな。
お化け屋敷のように暗く、「いかにも怖い演出」を施してあるかと思っていたけど、中はそれほど暗くなく、小さい子を連れた家族の姿も見られました。
入り口付近には作り物の墓石が展示してあり、「墓石を持って写真を撮る」という今後一生できそうにない体験ができました。重くないのに重そうに見えるように、ちゃんと作ってあります。

持てる「墓石」とくらたま(写真:筆者提供)
一番の恐怖は大量のゴキブリが…
中には、ほかにいくつも「ホラー映画に出てくるセット」が設置されていました。和服のお化けとか、天井を這う子どもとか。ガラス窓についた血染めの手跡とか。障子に浮かぶ霊の影とか。
「怖いか?」というと、怖くはありませんでした。一番恐怖を感じたのは「大量のゴキブリが湧き出るプロジェクションマッピング」でしょうか。
ほかすべて「知恵を絞って作ってあるな」という感想でした。
そして同時に、CGどころかAIがすっかり台頭して、映画ではこの手の「大道具」は作られなくなっていくこの時代、消えゆく遺物としての存在意義を考えさせられました。
AIには身体がありません。どんなに本物っぽくても、絶対に触れることはできません。「触れることができる創作物」って、たとえAIの創作物よりリアルさは劣っていても、存在感は圧倒的です。だって、実際に存在しているんですから。
1時間ほどかけて展示物をじっくり堪能したあと、イベント会場を出てレストラン階に昼食をとりに行きました。でも、どの店も長蛇の列でかなり並ばないと入れそうになかったため、早々にあきらめ、隣町の錦糸町に行き、絶品のとんかつ定食を食べて帰途につきました。
恐怖を体験することはなかったけど、創作物としてのホラーを楽しむことはできました。

ホラー漫画のヒロインのよう…(写真:筆者提供)
ホラー好きの夫とホラー嫌いの娘
「このイベント、夫が生きていたらきっと行きたがっただろうな」
夫もホラーは大好きで、家には夫が仕事で関わったホラー映画のDVDが何枚もあります。私が20代の頃に観て、印象色濃く残っていたホラー『八仙飯店之人肉饅頭』という映画にも、夫が配給宣伝で関わっていたことを結婚してから知ったときは、ちょっとした衝撃でした。
夫とは映画や漫画の趣味がかなり合っていて、それは夫との相性のよさに関わる重要なポイントの1つだったように思っています。
ちなみに夫似の娘は、ホラーはまったく好みません。今回のイベントも「一緒に行く?」と聞いたけど「いや、いい」と断られました。
1人で行くイベントもいいけど、趣味の合う人といろいろ話しながら、そして帰ってから「ああだった」「こうだった」と感想を語り合うのは大きな喜びです。
夫が存命中はあまり意識したことなかったけど、ぜいたくな時間を過ごしていたんだなとつくづくその時間が思い出されます。

©倉田真由美