蒸気で変える、日本の食卓 ーせいろ革命を起こした料理クリエイターの挑戦ー

蒸気で変える、日本の食卓 ーせいろ革命を起こした料理クリエイターの挑戦ー
「これだけ流行ってもまだハードルが高そうとか、めんどくさそうみたいなイメージがあると思うんですけど、本当に簡単なので」
クックパッド食トレンド大賞2025「今年の顔」に選出されたりよ子は、確信を持って語る。会社員として働きながら始めたInstagramが1年半で10万人のフォロワーを獲得。初めての著書が発行部数30万部を突破し、料理レシピ本大賞で大賞を受賞。クックパッドで「せいろ」の検索数を2年で9.3倍に押し上げた女性が今、日本の家庭料理を根本から変えようとしている。
自炊ゼロOLの覚醒
忙しく働く会社員時代、りよ子は「自炊ゼロ」だった。健康上の悩みから蒸し料理に出会い、すべてが変わる。料理経験がなかったからこそ、「誰でもできる」という視点が生まれた。
「せいろを使い始める1年ほど前から健康的なご飯を食べようって思っていたので、揚げたり焼いたりしない食生活自体は4、5年続けています」
転機は引っ越し先でのDIY。自ら作った木のキッチンで、せいろと出会う。「フライパンや鍋って使い終わった後に洗うのが重たくて。賃貸の狭いキッチンででっかい鍋を洗うのは大変だったんです」。この実感が、のちに20万人の共感を呼ぶ。
夏野菜まみれの衝撃

りよ子さんのInstagramより 2023年8月、運命の動画が公開される。「真夏のお昼ご飯、夏野菜まみれ」。翌日、フォロワーが一気に2000人増えた。
なぜこれほどの反響があったのか。りよ子には明確な戦略があった。
「BGMは動画の雰囲気に合うものを選んでいます。冒頭の10秒、5秒ぐらいは音ハメっていうのもちょっと意識していて」
包丁のリズムと音楽を完璧にシンクロさせる。この技術が、料理動画に新しい体験価値を生んだ。最も再生されたのは「痩せたいOLのせいろごはん」。タイトルの率直さが、見る者の心を掴む。
失敗という概念を消す

「野菜は基本5分、10分でいけちゃう」
りよ子が提案したのは、失敗しない料理という新しい概念だった。
「蒸し時間が長すぎると、多少色がくすんだり、すごく柔らかくなったりはするんですけど、おいしくないわけじゃない」
焦げない。火加減は不要。タイマーを忘れても大丈夫。この寛容さが、料理恐怖症の人々を解放した。
木のぬくもりが教えてくれた癒し
りよ子の最大の発見はせいろの持つ「癒し」という価値だった。
「癒し効果がある気がします。湯気と、なんかこの丸い木の見た目」
そして気づく。「木ってよく考えてみると日常であまり触れる機会がないなと思って。いつも手元にあるのはスマホやパソコン、紙ですよね。」
現代人が失った「木」との接点。せいろがその断絶を埋める。「心の余裕がちょっと生まれます」。10分の調理時間が、小さな癒しの時間となる。
21センチの哲学
「21cmサイズのせいろをすごくお勧めしてるんですが、これが冷凍うどんや焼きそばの袋麺がきれいに入るサイズなんです」
実用性への徹底したこだわり。初心者は21センチ、2段使い。この具体的な提案が、せいろを「特別な道具」から「日常の相棒」に変えた。
みたらし団子も蒸す自由
「みたらし団子をせいろで蒸してみたら、すごくおいしかったんです。それなら、ほかの和菓子も絶対合うと思って」
パンも、焼き菓子も、麺もなんでも蒸す。ときには失敗もある。「生魚のサバをそのまませいろで蒸した時は臭みがもろに出てしまって…」。でも、その実験精神が新しい食文化を生む。

著書『すべてを蒸したい せいろレシピ』より
「みんな野菜を食べたいって意識があるけど、実際には自分で思うほど食べられてない」。そんな普遍的な悩みに、デジタルネイティブの感性で答えを出した。
クリエイターという選択
なぜ料理研究家ではなく「料理クリエイター」なのか。
「SNSでの発信がメインだったこともあって、クリエイターという呼び方がしっくりきます」
料理を作る、撮る、編集する、発信する。すべてがワンセット。「動画を作ること自体も好きで、撮影することも好きで、編集することも好き」。この総合力が、新しい食文化の伝道師を生んだ。
週4〜5回はせいろご飯。それでも飽きないと言う。「風邪はほぼ引かないです」。自身の体験が何より説得力となる。
革命は続く
「今、せいろブームと言われて一時的な流行り物のような印象を受けていますが、鍋やフライパンと同じように一般家庭に普通にあるものとしてせいろを広めていきたい」
りよ子が目指すのは、一過性のブームではない。日本の調理習慣そのものの変革だ。
著書『すべてを蒸したい せいろレシピ』が今年の料理レシピ本大賞に選ばれた要因をこう分析する。
「これまではプロが作る点心とか、本格的なせいろ本が多い中で、一般家庭のキッチンで気軽に、日常的に楽しめるせいろ本だった。それが革命的というか斬新だったのかな」
自炊ゼロのOLが起こした小さな波紋は、今や大きなうねりとなって日本中の台所を変えている。りよ子が示したのは、誰もが料理を楽しめる新しい道。せいろは単なる調理器具ではなく、日本の食文化が向かう未来の象徴となっている。
【りよ子流・革命の3原則】
「冷蔵庫の残り物が主役」- 特別な食材という概念を捨てる
「失敗は存在しない」- 許容範囲の広さが恐怖を消す
「癒しの10分」- 心の余裕が生まれる調理時間
りよ子/料理クリエイター

せいろの魅力にとりつかれたOL。2023年4月に始めたInstagramで、すべてを蒸したい気持ちを投稿。野菜を蒸すだけのシンプルレシピから、一度に主菜と副菜が完成する同時調理レシピ、ごはんもの、スイーツまで、パパッと作れるレシピが共感を呼び、フォロワー数20万人超えと大人気に。初著書『すべてを蒸したい せいろレシピ』(Gakken)は、累計発行部数30万部越えの大ヒット。「第12回 料理レシピ本大賞 in Japan 2025」において、「料理部門 大賞」を受賞。
Instagram:@musu_riyoco