高羽悟さんを苦しめるネット上の中傷、ウソ情報…名古屋主婦殺害事件の被害者の夫 「被害届」も検討

 名古屋市西区のアパートで1999年に住人の主婦、高羽奈美子さん=当時(32)=が刺殺された事件は、容疑者が逮捕されてから間もなく1カ月がたつ。この間、インターネット上では高羽さんの夫・悟さん(69)への「身内を売った商売」「闇がありそうな人物」といった誹謗(ひぼう)中傷が相次いでいる。虚偽の内容の書き込みもあり、悟さんは愛知県警に被害届を出すことを検討している。(伊勢村優樹、大野沙羅)

インターネット上の自身への誹謗中傷について話す高羽悟さん=名古屋市港区で(黒田淳一撮影)

◆SNS上に根拠のない書き込みが次々に…

 「2025年、高羽悟氏はついに再婚した。再婚相手は同年代の女性で、長年彼を支えてきた人物」。あるブログはこう断定していた。だが悟さんは事件後に再婚をしていない。にもかかわらず、交流サイト(SNS)上で拡散され、「女関係でだいぶ罪をつくってそう」「被害者遺族の会で知り合った人と再婚した情報がある」と根拠のない書き込みも確認されている。

 悟さんは「奈美子のために活動を続け、再婚するつもりもない。奈美子との結婚指輪の写真が再婚と誤解された」と困惑している。

 悟さんは現場アパートの保存のために2000万円超の家賃を払い、殺人罪の公訴時効撤廃に向けた活動にも取り組んできた。メディアにたびたび取り上げられる一方、26年間、誹謗中傷は特になかったが、高校の同級生だった安福久美子容疑者(69)が逮捕された10月31日以降、被害が目立つようになった。

◆デマの書き込み、拡散は「遺族を傷つける」行為

 本紙がSNSを調べると、「逮捕までの26年、お疲れさま」などといたわる投稿が多かったが、安福容疑者との恋愛関係を疑うような記述もあった。

 さらに悟さんを苦しめるのは、「安福容疑者の存在を警察に隠してきたのでは」と指摘する記述だ。逮捕直前、悟さんが捜査員に安福容疑者の名前を言い当てたとの映像が繰り返しテレビで流れた。これを見たとみられる人物らによる「この旦那、最初から犯人を知っていた気がする」との投稿が目立つ。

 悟さんは「すぐに名前が出たわけではなく、捜査員との間で、安福容疑者以外は思い付かない長いやりとりがあった」と明かす。「彼女が犯人だと分かっていたら、26年間も家賃を払ってきていない」と憤る。

 他にも情報発信に積極的な被害者遺族が標的になる例があり、悟さんは「遺族は黙って、泣いているものという先入観が背景にあるのでは」とみる。最近はインターネットを見ないようにしている。「一番悪いのは最初にデマを書き込んだ人だが、拡散する人も、遺族を傷つける可能性があることを自覚してほしい」と訴えた。

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◆池袋事故で妻と娘を亡くした松永拓也さん 嫌がらせや殺害予告が今なお

 インターネット上で、被害者遺族に追い打ちをかける行為は近年、後を絶たない。東京・池袋で2019年に起きた乗用車暴走事故で、妻子を亡くした松永拓也さん(39)も加害者の厳罰化を求める署名活動を続け、「金目当て」などと中傷を受けてきた。

 ニュースサイトのコメント欄や自身の交流サイト(SNS)などで攻撃を受け、侮辱罪などで愛知県扶桑町の20代の男に有罪判決が出ている。松永さんは「妻も娘も侮辱されてきた。内心でどう思うかは自由だが、攻撃に憤りを感じる」と話した。

思いを語る松永拓也さん=2025年1月、東京都豊島区で(福岡範行撮影)

 全国で講演する中、今も嫌がらせや殺害予告が続く。書き込んだ人物と対面したことがあるが、「批判と中傷の境が分かっていない感じだった。被害者への理解も追いついていないと感じる」と打ち明けた。

 山梨県道志村のキャンプ場で2019年、行方不明になった女児を巡っても、「母親が犯人」との根拠のない投稿が相次いだ。母親はSNSの運営会社を相手に、発信者情報の開示を求める訴訟などを起こしている。

 新潟青陵大の碓井真史(まふみ)教授(社会心理学)は「被害者側には落ち度がないのに、『悪いことをしたから罰が当たった』と思い込むことで、自分は安心したいとの思いがある」と指摘する。さらに「同情を集める遺族と親切にされていない自分を比較し、引きずり降ろしたくなる心理が中傷につながっているのでは」と分析した。

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