米国防長官、海軍大将を事実上更迭か

アルビン・ホルシー四つ星海軍大将
ピート・ヘグセス米国防長官が10月中旬、カリブ海地域を管轄するアルビン・ホルシー四つ星海軍大将が就任から1年たらずで退任すると発表したことは、政府関係者を驚かせた。
だが国防総省の関係者2人によれば、ヘグセス氏はホルシー氏に身を引くよう求めており、事実上の更迭だったとみられる。両氏は数カ月にわたり対立を続けていたという。
ヘグセス氏とホルシー氏のあつれきは、ドナルド・トランプ大統領が1月に就任して数日後に始まっていた。またカリブ海で麻薬密輸船とされる船舶へ致命的な攻撃を加えることの合法性を巡り、ホルシー氏が当初懸念を示したことで、対立が深まったと事情に詳しい複数の元当局者は述べている。
ヘグセス氏はその後、ホルシー氏が退任すると発表した。
一連のヘグセス氏の判断はこれまでに報じられていないが、カリブ海での軍事作戦の合法性を巡る論争に新たな光を当てるものであり、攻撃に懸念を抱く軍関係者の意見が聞き入れられているか疑問を投げかけている。
ヘグセス氏は国防長官に就任して以降、複数の軍幹部を解任してきたが、軍事作戦が進行する中で司令官を解任するのは異例の措置だと複数の議員や専門家は指摘している。
1月まで国際麻薬・法執行問題担当の国務次官補を務めていたトッド・ロビンソン氏は、「この時期に、国防総省がこの半球で最も重要と考える行動の最中で(ホルシー氏)が退任するのは、ただただ衝撃的だ」と述べた。
国防総省の報道官はコメントを控えた。

ヘグセス国防長官(右)とトランプ大統領(ホワイトハウスで2日)
海軍のヘリコプター操縦士出身で、「ブル(Bull)」の愛称で知られるホルシー氏は、就任後のトランプ氏が麻薬密輸業者に対する軍事作戦を強化する中で、その任務を遂行するのに適任とみられていた。ホルシー氏は麻薬密輸の阻止を強化することを支持し、そうした任務の経験も持っていた。
同氏は2024年9月の上院承認公聴会では、「私が初めて南方軍の責任地域に派遣されたのは33年以上前で、麻薬対策任務を遂行していた」と議員らに説明。数万人の米国人の死に責任を負う「麻薬カルテルを解体する」ため、より強力な方針を打ち出すべきだと主張していた。
ジョージア州出身のホルシー氏は、空母打撃群を指揮した経験を持つ。トランプ政権の1期目にイランがペルシャ湾で石油タンカーを拿捕(だほ)を開始したことを受け、ペルシャ湾とその周辺海域で商業航行を保護するための国際海軍艦隊の初代司令官も務めた。
同氏は南方軍司令官に就任して数週間後、新たに承認されたヘグセス氏とオンライン上で会談を行い、指示を受けた。会談の参加者のメモによれば、ヘグセス氏はその中で、「チームに加わるか、外れるかだ」と発言。さらに「命令を受けたら迅速に行動し、質問はするな」とも伝えていた。
トランプ氏が3月の議会演説でパナマ運河を「取り戻したい」と述べると、ヘグセス氏はホルシー氏に対し、戦略的水路である同運河への自由なアクセスを確保するため、軍事的な選択肢を策定するよう命じたと元関係者2人は明らかにした。だがヘグセス氏はこの際、ホルシー氏が迅速な対応をしなかったと感じていた。
またこれらの方針がメディアで報道されるとヘグセス氏は、ホルシー氏が情報漏えいの出どころである可能性があると疑ったと、関係者の1人は述べた。
ホルシー氏が計画をまとめた後、4月に同氏とヘグセス氏がパナマを一緒に訪問した際、両者の関係は良好だったとその関係者は明らかにしている。

4月にパナマ運河のミラフローレス閘門(こうもん)を視察したヘグセス国防長官(中央)とホルシー四つ星海軍大将
だが夏の終わりに米軍が麻薬密輸船とされる船舶を攻撃し始めた際、当初ホルシー氏は攻撃作戦の法的権限が不明確であることに懸念を抱いたと、複数の元関係者は述べた。また作戦には別の指揮系統に属する他の軍部隊も関与しており、特殊作戦部隊を含む一部の作戦が自らの直接的な管理外にあることにも同氏は異議を唱えたという。
一方でヘグセス氏は、船舶への攻撃が始まる前からホルシー氏への信頼を失い、交代を検討していたと政府関係者の1人は述べた。
船舶への攻撃が9月に始まって以来、国防総省は地域での大規模な軍事増強を命じ、麻薬を運んでいるとされる船舶に対し少なくとも21回の攻撃を実施。合わせて80人以上が死亡している。
ホルシー氏はこの件に関し、インタビューに応じることを控えた。同氏は辞任理由を公に説明していないが、退任の12月12日が近づく中で、軍事作戦を広く支持する声明を出し続けている。
複数の元当局者によれば、ホルシー氏とヘグセス氏の関係は緊迫し、10月初めには国防総省での衝突する事態に発展した。これら関係者によれば、その会合にはダン・ケイン統合参謀本部議長も出席していた。
ヘグセス氏は10月16日に、ホルシー氏の退任に関してXに投稿したが、その中で両者の間に生じている摩擦を一切示さなかった。ホルシー氏も同日には、別の声明で辞任を発表したが、船舶への攻撃については言及しなかった。
下院軍事委員会の民主党トップであるアダム・スミス議員(ワシントン州)は、「20年以上委員会に所属しているが、これほど早くしかもこのような混乱の中で戦闘部隊の司令官が離任するのを見たことはない」と11月に述べていた。