ロンドンのカーン市長とトランプ大統領が多様性をめぐって大論争

ロンドンのカーン市長とトランプ大統領が多様性をめぐって大論争

パキスタン移民を両親に持つ左派の市長であり、多様性を擁護する政治家となれば、トランプ大統領の世界観にはそぐわないのは当然だ。しかも、その人物は米国の主要都市に匹敵する世界都市ロンドンを統治しているのだからなおさらだろう。そんなわけで、トランプ氏は事あるごとにサディク・カーン市長を猛批判してきたが、今回は辛辣な反撃を受けることになってしまったようだ。

サディク・カーン市長はニュースメディア「ポリティコ」の取材に対し、「トランプ大統領がなぜこれほどロンドン市長に執着するのか、まったく理解できません。(…)自由で進歩的で、多様性に富み、成功を収めているロンドンという街の何が気に入らないのでしょうか」とコメント。その口調には、トランプ大統領が仕掛ける不毛な文化戦争の標的になり続けてきたことへの疲れがにじみ出ている。

一方、トランプ氏はカーン市長を「ひどい市長」「無能」「凶暴で嫌悪すべき人物」と酷評。欧州でも注目度が高いカーン市長に対する侮辱は2016年以来つづいてきた両者の確執を再燃させている。

カーン市長にとって、トランプ大統領の発言は単なる悪口ではなく、明確なイデオロギー対立だ。カーン氏はロンドンの強みは多文化性であり、開放的な文化のおかげで成功していると主張しているが、これはトランプ大統領がしばしば語る「古き良き」欧州像とは相容れない。

カーン氏はさらに、多くの米国人がトランプ大統領の嫌う「リベラルな価値観」を求めて「ロンドンに押し寄せている」とし、こうした動きからもトランプ氏の世界観が持つ問題は明らかだとした。

反移民レトリックに対抗するロンドン

トランプ大統領はロンドンやパリについて、「かつての面影はない」と述べ、無制限の移民流入が都市を変質させていると主張。こうした発言は多様性が欧米の安定に対する脅威となるという、同氏のMAGA派レトリックを反映したものだ。

一方、カーン市長はロンドンの市長選で投票できるのは合法的な居住者のみだと反論し、移民が民主主義を歪めているという主張を退けた。なお、直近の選挙でカーン氏は43.8%の得票率で、32.7%の保守系候補を大きく上回っている。つまり、同市長は民族や文化を超えて支持されているということだ。しかも、近年はロンドンを生活や投資、学びの場として選ぶ米国人が増えているというから、トランプ大統領にとっては不都合な真実といったところだろう。

カーン市長の思い描くロンドンはトランプ大統領が主張するような「暗い未来像」とはまったく異なり、多様性を経済・文化の原動力としてポピュリズムを克服する革新・芸術・社会進歩の都を目指している。

2つのビジョンの攻防

多くのアナリストにとって、トランプ氏とカーン氏の衝突は単なる個人間の争いではない。トランプ大統領が国境管理や失われた文化的統一性への郷愁を語るのに対し、カーン市長は多層的で動的、そして世界とつながる都市を掲げているからだ。ナショナリズムとグローバリズムの激突と言ってもよいだろう。

カーン市長は今回の対立を、世界都市が包摂の場であり続ける意義を再確認するチャンスだと捉えている。ロンドンは世界中から集まった才能のある人々と寛容を基盤とする共同体のおかげで成り立っているという主張は、人々を分断ではなく統合へ導くリーダーシップの理念の発露でもあったのだ。

一方のトランプ大統領は移民を「文明の侵食」だとみなすレトリックに依拠し続けている。この考え方は最新の「国家安全保障戦略」にも反映されており、欧州は多様性によって弱体化し、衰退しつつあると断じた。しかし、カーン市長はこの前提を退け、統合こそ強さの源泉であり、都市は排除ではなく包摂によって成長するのだと主張する。

結局、両者の対立は価値観の衝突に他ならない。トランプ大統領が安全保障を文化的同質性と結びつけるのに対し、カーン市長は社会的結束と公正を重視する。これは多様化が進む社会の中で民主主義の理念を失わず共存するにはどうすべきかという、世界的な課題の縮図でもある。カーン市長の下でロンドンは「恐怖ではなく、出会いの場」であり続ける道を選んでおり、その姿はトランプ大統領が受け入れようとしない未来像でもある。

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