【NHK朝ドラ「ばけばけ」第13週開始】両片思いに忍び寄る影 銀二郎(寛一郎)とイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)の来訪が揺らす心模様

 怪談好きのヒロイン・松野トキ(高石あかり)が明治の松江で懸命に生きる朝ドラ「ばけばけ」(毎週月~土曜午前8時、NHK総合ほか)。第13週「サンポ、シマショウカ。」では、トキとヘブン(トミー・バストウ)の間に静かに流れる“両片思い”の空気が濃くなる。一方で、4年ぶりに松江へ戻った銀二郎(寛一郎)や、遠路はるばるやってきたイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)により、登場人物たちの心の距離が奇妙なほど交差していく。すれ違い、察し合い、遠回しに想いを届けようとする彼らの関係性は、どこか“怪談”のような切なさを帯びていた。

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■写真のない机、交わらない本音

 まるで、月の光だけが互いの姿をぼんやりと照らすような距離感。「ばけばけ」第13週は、トキと銀二郎、ヘブンとイライザという4人の関係性が交差し、ひとつの臨界点へと向かう週だった。

 第61回、夜な夜なヘブンに怪談を語るトキは、ついに問いかける。「日本滞在記が完成したら、帰るのか?」と。しかしヘブンは、わざと日本語が聞き取れなかったふりをして、その問いをごまかした。

 ふたりのあいだに流れるのは、明確な拒絶ではなく、“察しの文化”がもたらす沈黙という拒否。ヘブンの表情には、素直に帰るとは言えない苦悩が確かに宿っていた。

 思えばここ最近、ヘブンの机の上から、かつて何度も彼が語りかけていたイライザの写真が見えなくなっている。それが物語るのは、彼の感情の変化かもしれない。怪談を通し、言葉を超えてトキと心を通わせる時間が増えるにつれ、過去への未練が後景に退いていったことが、ひそやかに演出されているのだろう。

■戻ってきた夫と招かれた“同僚”

 その一方で、トキの過去もまた、大きく揺れる。4年ぶりに、元夫・銀二郎から手紙が届いたのだ。かつて東京で別れたままだった彼が、松江へ来るという。

 第62回では、銀二郎が松野家を訪ねてくる場面が描かれる。そこで語られたのは、想像を超えた成長の軌跡だ。なんと彼は会社を興して、月に200円は稼げるような社長になっていた。実は銀二郎の籍は未だに松野家から抜けておらず、前の夫というよりは現在も夫であるということが、ひそやかなホラーなのだが、ともあれ、彼はトキとの関係をやり直すつもりで戻ってきたようだ。

 演じる寛一郎の穏やかで誠実な佇まいが、銀二郎の変化を際立たせる。彼の真摯な姿勢には、過去の過ちを反省した男の覚悟が滲んでいた。しかし、果たしてトキの心は? 彼女自身もまた、自分がどこに立っているのかを測りかねているように見える。

 その迷いに拍車をかけるように、イライザも松江にやってくる。第63回、トキが銀二郎と思い出の地を訪れた際、偶然にもヘブン、イライザ、そして通訳の錦織友一(吉沢亮)と鉢合わせする場面は、まさに“すれ違いの美学”の真骨頂だった。誰もが相手の心を推し測り、同じ場所にいながらもそれぞれの思惑を抱えていて、目線が噛み合わない。

 おそらくイライザも、ヘブンに対して同僚や友人以上の好意を抱いているはずだ。だからこそ、「大切な人」として紹介されなかったことに苛立ちを見せたのだ。彼女の言葉には、長年抱えてきた“理解されない寂しさ”がにじむ。そしてその寂しさは、実はトキもまた抱えているものなのだ。文化も、言語も、過去も違うふたりが、同じ男性を前にして、同じ傷を感じている。

■偶然の交差が明かす、すれ違い

 銀二郎とヘブンが、トキをめぐって間接的に交錯していく構図も、非常に秀逸だ。ヘブンはトキが「知り合い(銀二郎)に会うので4月初めの土曜に休みがほしい」と話した時にはいったん「ホリュウ」と応じ、そして同じ日にイライザを呼び寄せている節がある。まるで、お互いの過去を同じ日に持ち寄ることで、いまの気持ちを試し合うかのように。

 誰ひとり、本心を明かさない。問いかけは沈黙やごまかしで返され、感情は視線の揺れや立ち去り際の背中で表現される。それはまるで、怪談の登場人物たちのようだ。はっきりと現れては消える、真実を語らずに残される余韻。すれ違いが続くことそのものが、物語の「怪異」を深めていく装置になっている。

 今週のタイトル「サンポ、シマショウカ。」の意味もまた、含みを持っている。誰と、どこを、どんな思いで歩くのか。答えは誰の口からも語られないが、誰の心にも問いかけられている。物語はいよいよ、それぞれの決断に向けて動き出している。

(北村有)

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