「テロの拠点になる」「町が乗っ取られる」ムスリムのモスク(礼拝場)新設をめぐり各地で偏見による分断の危機

■保守系の国会議員がXに投稿, ■インバウンド増加でモスクがキャパオーバーに, ■一部の問題行動が拡散されていく, ■神奈川県藤沢市に抗議が殺到, ■日本国内で暮らすムスリムは約42万人, ■重要はのは「互いを知ること」

 ムスリム(イスラム教徒)の礼拝の場であるモスクの新設をめぐり、排他的で偏見に満ちた言動がSNSを中心に過熱している。インバウンド訪日外国人客が増加し、そして外国人の労働力が欠かせなくなりつつある日本で、いま求められているものは何か。

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「怖すぎる」

「御徒町が乗っ取られる」

「巨大モスクなんていらない」

 東京都台東区上野3丁目の御徒町に建設中のモスクをめぐり、SNS上にこんな投稿が相次いでいる。

 モスクは、ムスリム(イスラム教徒)にとって神と人をつなぐ礼拝の場。同時に、コミュニティーの交流や学びの場としても機能する、なくてはならない場所だ。台東区によれば、建物は「建築基準法に基づいて建てられている」という。それにもかかわらず、不安や反対の声が広がったのは、ある投稿がきっかけだった。

■保守系の国会議員がXに投稿

 10月上旬、保守系の国会議員が自身のXに「新築モスクが御徒町駅前に」として、「信仰の自由を無制限に認めていると、日本は蝕まれます。新たな規制の枠組みを作らねばなりません」などと投稿した。

 これを機に、SNSに批判的な投稿が急増。台東区役所にも苦情が寄せられるようになった。

「残念で悲しいです」

■保守系の国会議員がXに投稿, ■インバウンド増加でモスクがキャパオーバーに, ■一部の問題行動が拡散されていく, ■神奈川県藤沢市に抗議が殺到, ■日本国内で暮らすムスリムは約42万人, ■重要はのは「互いを知ること」

 そう話すのは、建設中のモスク「御徒町モスク(仮称)」代表のモハメッド・ナズィールさんだ。

 スリランカの出身。40年ほど前の18歳のとき、同国で採れる宝石を売るために来日した。当時、御徒町にモスクはなく、ムスリムであるナズィールさんらは礼拝のたびに遠方のモスクにまで足を運ばなければならなかった。そこで仲間たちと資金を出し合い、2008年に台東区内に5階建てのモスク「マスジド・アッサラーム」を開設。ナズィールさんが代表になった。

■インバウンド増加でモスクがキャパオーバーに

 礼拝者は多い日で100人ほどだったが、7~8年前からインバウンドの増加に伴い、訪れるムスリムは急増した。多い日には約800人にのぼり、礼拝を3回に分けて行ったが対応しきれなくなった。

 そこで世界各地に寄付を募り、マスジド・アッサラームの近くに新たなモスクを建設することにした。それが、「御徒町モスク」だ。9階建ての商業ビルで、4フロアがモスクになる。

 ナズィールさんによれば、1階はコンビニやイスラムの戒律に沿ったハラルフードを扱う店、2階は日本食が食べられるフードコート、7階は博物館など、礼拝以外にも多くの人が利用できる建物になるという。

「モスクが完成すれば、旅行で日本を訪れる人たちも助かります。私たちは日本が大好き。この国をよくしようと、一生懸命考えています」(ナズィールさん)

■保守系の国会議員がXに投稿, ■インバウンド増加でモスクがキャパオーバーに, ■一部の問題行動が拡散されていく, ■神奈川県藤沢市に抗議が殺到, ■日本国内で暮らすムスリムは約42万人, ■重要はのは「互いを知ること」

■一部の問題行動が拡散されていく

 そんなナズィールさんらの素直な思いがあるにもかかわらず、なぜ今、モスクをめぐり、こうした排他的な言説が拡散しているのか。

 ナズィールさんは、日本に住む一部のムスリムによる問題行動や事件がSNSで拡散されることで、「ムスリムは怖い」「ムスリムは悪い」などの否定的なイメージが広がっていったと話す。

 福岡県内を拠点に活動する「NPO多文化共生プロジェクト」(福岡市)代表の深江新太郎さんは、背景には「メディアとSNSの連鎖がある」と指摘する。

「過去にイスラム教徒によるテロが起きた際、新聞やテレビなどのメディアは『イスラム教徒』という属性を強調して報じてきたことがあります。その結果、ムスリムは過激な思想を持っているという印象がつくられてきました。それが、SNS時代になってさらに増幅されています」

 同様の反発は、神奈川県でも起きている。

 JR藤沢駅から北西に十数キロ離れた藤沢市宮原地区。ここでも建設が予定されているモスクをめぐり、反対の声が上がっている。

 

■保守系の国会議員がXに投稿, ■インバウンド増加でモスクがキャパオーバーに, ■一部の問題行動が拡散されていく, ■神奈川県藤沢市に抗議が殺到, ■日本国内で暮らすムスリムは約42万人, ■重要はのは「互いを知ること」

■神奈川県藤沢市に抗議が殺到

 発端は、やはりSNSだった。10月上旬、「神奈川県藤沢市宮原に巨大モスク建設計画が進行中!」という投稿が上がった。そこには、「市民には一切知らされず、着々と工事が進んでいます」として、アザーン(礼拝の呼びかけ)の大音量、土葬問題、治安悪化など、このままでは藤沢が大変なことになるといった内容だった。

 この投稿を受け、SNSでは「ムスリムと共生は不可能」「神奈川のテロ拠点になる」といった投稿が相次いだ。

 藤沢市役所にも抗議が殺到。一時、5回線ある電話は鳴りやまず、市へのメールはこれまで1千を超えたという。モスクの建設見直しを求めるネット署名も立ち上がり、約1カ月で3万を超えた。

 同市によれば、モスクは敷地面積約980平方メートルに鉄骨2階建てで、全国的にみても一般的な大きさ。完成は2027年度中という。

 モスクが建つ場所は民有地で、現在は更地の状態だが、もともと種苗店があった。そこを民間の事業者が買い取りモスクを建設することにした。建物は、日本の法律に基づいて手続きを踏んでいるという。また、同市計画建築部の担当者はSNS上で広がる懸念について、こう否定する。

■保守系の国会議員がXに投稿, ■インバウンド増加でモスクがキャパオーバーに, ■一部の問題行動が拡散されていく, ■神奈川県藤沢市に抗議が殺到, ■日本国内で暮らすムスリムは約42万人, ■重要はのは「互いを知ること」

■日本国内で暮らすムスリムは約42万人

「礼拝時のスピーカーは建物内にしか設置しないので、アザーンの音が外に漏れたりすることはありません。土葬をするのではないかという情報も流れていますが、モスクができる場所は、土葬の許可が下りる場所ではありません」

 前出の深江さんは、「排他的な言動は何も生まない。人を傷つけ、社会の分断を生むだけ」と強調する。

「分断は不信や敵意を生み、結果として地域全体にとってマイナスに働きます」

 人口減少が加速する日本では、外国人はすでに労働や地域社会のさまざまな現場で欠かせない存在となっている。今年6月末時点の在留外国人数は約395万人と過去最多を更新した。ムスリムの人口も増加傾向にあり、現在、約42万人(2024年末)が日本国内に暮らす。

 多様な人々が共に暮らす社会を実現するため、いま求められているものは何か。

 前出のナズィールさんは、国は外国人受け入れの制度を整え、違法行為をした外国人は帰国させることも必要としたうえで、こう言う。

「国は、日本に移住する人たちに日本のルールやマナーを教えることが大切です」

■重要はのは「互いを知ること」

 深江さんは、何より重要なのは「互いを知ること」だと言う。

「SNSの断片的な情報だけで判断するのではなく、地域に暮らす外国の人たちと向き合うことが大切です。なぜ日本に来たのか、どんな思いで日々を過ごしているのかなど話をする。そうした交流を通して互いの姿を知っていくことが、共生への大きな一歩になります」

 NPO多文化共生プロジェクトは、福岡県内の自治体と連携し、各地で「地域日本語教室」の開催をサポートしている。教室では、日本語教師や地域のボランティアが日本語を教えるだけでなく、困り事があればサポートもしながら地域の人たちとの交流を深めていく。

 深江さんによれば、SNS上で排他的な言動が広がるなか、地域日本語教室の中にはそうした空気はまったくない。教室に集う人々の間に対立する雰囲気はなく、教室という「土台」があるからこそ、分断に至っていないという。

「地域日本語教室での地道な交流の積み重ねこそが、SNSで広がる不安や偏見に流されない社会を築きます。相手を排除するのではなく、知り、支え合いながら共に暮らすことが、これからの日本に欠かせません」(深江さん)

(AERA編集部・野村昌二)

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