おば世代が長財布を手放さないワケ キャッシュレス時代でも相棒「生活のすべてが詰まっている」

 世の中のキャッシュレス化が近年、急激に進み、現金の使いどころは減る一方だ。スマホ決済が主流になり、出かける際に財布を忘れても焦ることは少なくなった。おしゃれなコインケースやスリムなカードケースといったミニ財布が人気を集め、財布はどんどん小さくなっている……はずなのだが、ミドル世代の女性の財布事情は違うようだ。

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■半数の66人が長財布を使用

「もうずっと長財布を愛用しています。買い替えるときも長財布以外は選択肢にも入らないですね」

 東京都豊島区に住む会社員の女性(44)が使うのはジッパーで開閉するタイプの長財布だ。開くと中央に小銭入れがあり、手前がカード入れ、奥が札入れになっている。「いろいろ入れられて、結局この形が一番便利なんです」

 こうした女性の財布事情についての調査がある。博報堂生活総合研究所(生活総研)は『月刊!生活総研』の12月号で「おばの財布事情」と題したコラムを掲載。生活総研では、ミドル世代の女性を親しみを込めて“おば”と呼び、その中心層を40~50代と捉えて、ライフスタイルを調査している。生活総研が定期的に実施している衣・食・住などのテーマに沿って撮影された写真を収集・分析する「生活写真調査」で、2025年5月に全国20~69歳の男女443人の「カバンの中身」を調査したところ、“おば”の財布について興味深い結果が出た。

 20代女性31人のうち25人と大多数が折りたたみ財布やミニ財布を使用するなど、「財布のミニ化」が定着している一方で、40~50代の“おば”132人のうち、半数の66人が長財布を使用していたのだ。なぜ、キャッシュレス時代に長財布を愛用しているのか。

 上席研究員の田山さとみさん(39)は、この年代の女性特有の事情があると話す。

「役割がマルチタスクなんです。自身の仕事に加え、子育て、親の介護など、さまざまな日々のルーティンを両立させています。生活全体をマネジメントするため、ただのお金の入れ物としてだけではなく、マルチタスクの頼りになる大切な相棒として長財布を利用しているのではないかと考察しています」

 調べている中で見えてきたのは、“おば”世代の長財布は「パンパンに詰まっている」「長く使い込まれている」という共通点だという。

■財布は単なる金銭入れではない

 今やクレジット機能も、お店などのポイントカード機能も、保険証の利用すらもスマホ一つで足りる時代だ。ならば、実際に財布の中には何が入っているのだろうか。まずは現金から見ていこう。調査によると、“おば”の平均所持金額は1万1291円で、20代女性の平均に比べ約4千円多い。同じく上席研究員で自身も長財布を愛用しているという近藤裕香さん(46)は理由をこう話す。

「“おば”世代はさまざまな場面で現金での支払いの機会があります。たとえば子どもの習い事の月謝だとか、地域の集金だとか、その機会は意外と多いんです。そして、長財布であれば紙幣を折らずに収納できるので、急な支払い対応があってもきれいなお札を出せます。ミニ財布だと、お札に折り目がくっきりとついてしまいますよね。昔ながらの価値観で、相手に心地よいと感じてもらえる振る舞いを心がけていることも、“おば”世代の金銭感覚の特徴かもしれません」

 ただ、“おば”は決して厳格な現金主義というわけではなく、キャッシュレスに抵抗があるわけでもない。24年の生活総研の「生活定点」調査では、「日常的に電子マネーを使っている」と答えた割合は、40代女性が64.7%と過去最高値だった。

 それでも長財布を使うのは、お金を入れるという本来の用途以外での理由が強いからだろう。現金やクレジットカード、保険証のほかに、割引のクーポン券、お店のポイントカード、レシートと、ありとあらゆる生活に関わる“紙”が入っている。

「アプリなどデジタルで管理できるものが増えてきているとはいえ、いまだに紙で発行されているものが多いのも事実です。そうなるとやはり、いっぱい詰め込める容量の多い長財布が効率化には最適解。財布の中にジャバラやポケットがたくさんあり、仕分けられるので整理もしやすく便利なんです」(近藤さん)

 “おば”にとって財布は単なる金銭入れではないのだ。AERA編集部でも、2児の子育て中の50代女性がパンパンに膨らんだ、年季の入った茶色の革の長財布を見せてくれた。

「クレジットカードにキャッシュカード、交通系のICカード、免許証、子どもの保険証、領収書など、目をつむっていても何がどこに入っているかわかります。アプリが便利なのは知りつつも、紙が手元にあるという安心感もあって、財布に何でも入れています。もう5年以上は使っているでしょうか。古くなってきたのを見かねた夫が新しい財布を買ってくれるという話もありましたが……。生活のすべてが詰まっているので、この使い心地を手放すのも難しく、なかなか買い替えに踏み出せないでいます」

■「カードがたくさん入る」長財布の高い支持率

 買い替えないのには使い慣れているという側面のほかに、売り手側の事情もありそうだ。関西地方の百貨店の財布売り場担当者は話す。

「長財布の購入率はミドル世代の女性の比率がもともと高く、メインは40代以上。買いに来る世代の半分くらいは長財布を探しに来られます。ミドルより上の世代になると『病院の診察券が多いから長財布じゃないと無理』という方も。長財布を求めるお客さんの理由は、『カードがたくさん入るから』の一択。ただ、今はキャッシュレスの流れもあって、財布売り場での長財布の割合は年々、確実に減っています」

 長財布の需要は若年層を中心に減少傾向とされ、売り場ではこれといったものを見つけにくい。手元に使い慣れた長財布があるとなれば買い替えも進まないのは当然だ。

 それでも、世の“おば”は長財布を求めている。LINEヤフーが運営する「LINEリサーチ」が今年、日本全国の15~69歳の男女を対象に行った、普段使っている財布に関する調査でも、年代が上がるほどに「長財布」の割合が高くなる傾向があり、特に40代以上の女性では6割台と高い支持率を集めている。

「全体として日本人における財布自体の需要は減ってきていると考えられますが、長財布を深く求めている層の方がたくさんいます。ミニ財布やコインケースにポジションを追いやられていくのは愛用者としても寂しい。関係企業の方に“おば”にとっての長財布の魅力をプレゼンテーションしたいくらいです」(近藤さん)

 “おば”にとっては長財布は現金の入れ物というより、生活道具の入れ物だ。財布の中身を見れば、生活や人生が見えてくる。それぞれの財布事情を語り合い、“相棒”を見せ合うのも面白いかもしれない。

(AERA編集部・秦正理)

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