脳卒中・心筋梗塞の死亡リスクと強い関係がある「意外な数値」とは?【医師が解説】

写真はイメージです Photo:PIXTA

実家に帰って親が元気そうだと安心しても、介護は突然やってくる。そうした事態を防ぐためには、転倒などの危険サインの察知が欠かせない。実は、そのもっともわかりやすい前兆が握力だ。いますぐ親にやらせたい老化のセルフチェックを、整形外科医がわかりやすく解説する。※本稿は、往診専門整形外科医の古賀昭義著『「よくつまずく」「よろけやすい」人のお助けBOOK』(主婦の友社)の一部を抜粋・編集したものです。

つまずきの原因は

バランス感覚の低下

「つまずき」や「ふらつき」は、足の筋肉が弱くなったり、足裏の感覚が鈍くなったり、体のバランスを保つ力が落ちたりすることで起こります。これを放っておくと転倒やけがの原因につながるのです。

 そこで、転倒につながりやすいバランス感覚の低下について見てみましょう。

 そもそもバランスとは、両足のつま先からかかととその間の空間(支持基底面)から体が大きく外れないように制御する能力のことをいいます。うまく制御して姿勢を保てることをバランス感覚がいい、保てないことをバランス感覚が悪いといったりします。

 こうしたバランス感覚には視覚、前庭覚(揺れや回転、スピードを感知する)、体性感覚(皮膚感覚や深部感覚、内臓感覚など)の3つの感覚が作用して成り立っています。

 そこで、自分のバランス感覚を下のバランス力チェックで確認してみましょう。

同書より転載

筋肉が衰えてしまうと

日常生活もままならない

 つまずくことが増えたり、歩いていてふらついたり、立ち上がるとき必ず何かをつかんだりするようになったら、その原因のひとつは筋肉の衰えです。

 筋肉は、特別に意識して運動や食事をしないかぎり、通常は加齢に伴い減少します。それ以外にも病気などによって筋肉量が減る場合があります。加齢や病気によって筋肉量が減り、日常生活に支障をきたすほど筋力が低下した状態をサルコペニア(筋肉減少症)といいます。

 サルコペニアが進行すると、立ったり座ったり、歩いたり、階段の上り下りをするといった、日常生活を送るうえで切っても切り離せない運動や習慣などに不便を感じることが多くなります。そのまま放っておくと、要介護状態になってしまうこともあるので注意が必要です。

 単なる筋力不足と考えるのではなく、「体が弱っている」という危機感をもって、サルコペニアの予防、改善に取り組みましょう。

同書より転載

加齢によって減る遅筋は

有酸素運動で鍛え直す

 歳をとると筋肉が衰えてくるのは、以下の5つの要因があります。

1.筋肉の合成能力の低下

 若い頃は、筋肉の合成と分解のバランスが保たれていますが、加齢とともに筋肉を合成する能力が徐々に落ちていきます。これは、筋肉細胞内のたんぱく質合成に関わるさまざまな機能が衰えることが原因と考えられています。

 また、筋肉の成長を促す成長ホルモンやテストステロンといったホルモンの分泌量も加齢とともに減少するので、筋肉が作られにくくなります。

2.筋肉を構成する筋線維の減少と萎縮

 加齢とともに筋肉を構成する筋線維の数が減り、残った筋線維も細くなります。特に、速筋線維(Type2筋線維)と呼ばれる、瞬発力や強い力を発揮する筋肉が著しく減少するといわれています。

 一方、遅筋は持久力を発揮するときに使われる筋肉で、いくら使ってもほとんど太くなりません。ただ、加齢に伴い減っていく筋肉量の大部分は遅筋なので、有酸素運動などで鍛えることが大切です。

同書より転載

3.運動不足

 年齢を重ねると、体力や活動意欲の低下から、どうしても運動量が減りがちになります。筋肉は、使われないと少しずつ萎縮していく性質があるので、運動不足は筋肉量の減少を加速させます。

4.栄養摂取量の低下と質の変化

 高齢になると、食欲不振や消化吸収能力の低下などにより、食事量が減ることがあります。特に、筋肉の材料となるたんぱく質の摂取量が不足すると、筋肉の合成が十分に行われず、筋肉量の減少につながります。

5.病気やその他の要因

 糖尿病や慢性炎症性疾患などの病気は、筋肉の分解を促進したり、合成を阻害したりする可能性があります。また、特定の薬の副作用によって筋肉量が減少することもあります。

 これらの要因が複合的に作用することで、歳をとると筋肉は少しずつ衰えていくと考えられています。

握力の強さを見れば

全身の筋肉量までわかる

 人間は5本の指を複雑に動かすことができるように進化したため、指を握るために使う筋肉はとても細い筋肉でできています。そのため、握力を鍛えようとしてその筋肉に「筋トレ」を行っても、効果が出にくいとされています。

 スクワットなどを行って、全身の大きな筋肉を継続して動かすと、体内で筋肉を合成する物質が作られます。

 こういった物質がたくさん出ていれば握力もアップしますが、逆に全身の筋肉をあまり動かさず筋肉を合成する物質が出てこないと、握力だけを単独で鍛えることは難しいので、握力は上がりません。

 したがって、握力を測ることで日頃から全身の筋肉を動かしているかどうかが推し量れる、と考えられるわけです。

 筋肉は手や足だけでなく、呼吸に関係する呼吸筋、心臓を動かす心筋、胃や腸を動かす腹筋群や腸腰筋、さらには血管に至るまで、全身のあらゆる場所にあります。だからこそ、握力を見ることが体全体の見えない筋肉の量まで反映し、さまざまな病気のリスクを予測することにもつながっているのです。

同書より転載

握力が弱い人は

死亡リスクが高くなる

 福岡県久山町では、これまで約60年にわたり、町をあげて住民の健康診断と詳しい体力測定を続けています。その膨大な蓄積データは今なお世界のさまざまな医学研究を支えています。

 この久山研究の中で最近、さまざまな病気による死亡リスクと握力に強い関係があるということが出てきました。握力が弱い人たちは、平均値の人たちよりも病気による死亡リスクが高くなってしまうというのです。

 久山町での長年の研究の結果、握力が平均より低いグループでは、男性、女性いずれも脳卒中や心筋梗塞をはじめ、さまざまな病気による死亡リスクが高くなることがわかりました。

 このように、握力が低下すると、さまざまな病気による死亡リスクが増加してしまいます。つまり握力は、全身の見えない筋肉の量を反映するバロメーターだったのです。

同書より転載

『「よくつまずく」「よろけやすい」人のお助けBOOK』 (古賀昭義、主婦の友社)