【料理研究家コウケンテツさん】食費カットのコツは「使うお金を減らすのではなく」。 「特価のワナ」とは?

料理研究家のコウケンテツさんに独占インタビュー。日本の料理好きでこの方を知らない人はほぼいないのではないか?【本記事はアエラ増刊「AERA Money 2025冬号」から抜粋しています】
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コウケンテツさんが「料理上手のかっこいい男子」として注目されはじめたのが約20年前。料理研究家の母から受け継いだ韓国料理の味とノウハウをベースに、和食からスペイン料理、エスニック料理まで幅広くカバーする。
ユーチューブの公式チャンネル「コウケンテツ キッチン」は登録者数224万人(2025年10月31日現在)を数える料理界のスターだ。
コウケンテツさんのメディアデビューは2005年。料理雑誌の『オレンジページ』で焼き肉丼のレシピを紹介した。
「母のアシスタントをしていたとき、大阪の自宅兼スタジオで撮影があったんです。そのとき編集者さんから声をかけていただきました。
男性料理人のリレー連載があったんですよ。当時は家庭料理といえば今より圧倒的に女性でした。
『これからは男性も家庭料理をもっと作る時代になってほしい』と編集長からも伺いました」
料理研究家の大半が女性だった時代。でも、小林カツ代さんの息子のケンタロウさん、おしゃれなフードスタイリストでもあるマロンさん、「料理男子」の先駆者である鮫島正樹さんらの露出も増えていた。
■最近は節約レシピが人気
そのときから20年。当時と今の人気レシピに違いはありますか?
「以前はおもてなし系の、ひと手間かけた料理が人気でした。あとは……女性が作ることが前提で男性ウケする料理。
たとえば『彼氏が喜ぶレシピ』とか『ほめられごはん』とか。男性が喜ぶ味ということでガッツリした料理を頼まれることが多かった」
2006年に出版された『コウケンテツ流男がよろこぶおかず&どんぶり』(宝島社)、わかりやすい例がこれだろう。
「最近は特に節約志向が強まっています。鶏むね肉、もやし、キャベツ」
人気レシピにも世相が反映される。もちろん、変わらない面もある。

「名前を聞いてパッと頭に浮かぶような定番料理の人気は変わりません」
ユーチューブチャンネルの一番人気は、「永久保存版!飛び出す肉汁!柔らか極旨ジューシーなハンバーグの作り方」。2021年2月にアップされ、閲覧数はもうすぐ900万回に届く勢いだ。
取材当日、筆者の母(77歳、熊本県在住)に「今日はコウケンテツさん取材でーす」とLINEを送った。すると、母からポロン。
「わ~大変だーあの人の料理美味しいよねーあの人のハンバーグ一味違うよねー保存してるよーユーチューブで紹介していたよー」(原文ママ)
まさにファン代表のような返信であった。コウケンテツさんの料理は「一味違う」。
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ユーチューブではそんなに人気がないけれど、実はおすすめのレシピは?
「豆もやしのスープ。僕も妻も子どもたちも大好きですが、再生回数は5万6000回と少なめ。すごく簡単で朝ごはんにもぴったり」
コウケンテツさんのレシピは少ない材料で簡単にできるものばかりだ。でも、本格的な和食や韓国料理、フランス料理のフルコースも作れるんでしょう?
「作れます。ただ、視聴者のみなさんは難しい技法やたくさんの材料を使うレシピを僕に求めていないと思う」
■服は白と黒だけ
しかし、常に穏やかな人だ。声のトーンも一定。この人、怒ることあるんだろうか。
グイグイ押すタイプの料理研究家を「動」とすれば、コウさんは完全に「静」だ。
「地味なんです(笑)。朝の情報番組にレギュラー出演していた頃、ある方に『あなた本当に前に出ないね』と言われました」
服は白と黒が好み。
「プライベートで外出するときは黒い服に黒い靴。パジャマも黒。仕事のときは白シャツです。クローゼットの中身は黒と白だけです」
撮影にお邪魔したキッチンスタジオは色使いが統一され、おしゃれすぎた。
木、ステンレス、黒、白、差し色に青。モノが少ない。服の色選びもそうだが、無駄がなくシンプルだから美しい。素敵だぞ。
ところでコウケンテツさんは、子どもの頃から料理男子だったのだろうか。

「関西の食雑誌『あまから手帖』(現在はDaigasグループのクリエテ関西が発行)はよく読みました。
関西版の『dancyu』(プレジデント社)って雰囲気ですね。こだわって何時間もかけて料理する感じです。
『オレンジページ』などの家庭料理のレシピを見るのも大好きでした」
コウさんはプロのテニス選手を目指していたが腰を痛めて断念。飲食などさまざまな仕事を経て母親の李映林さんのアシスタントとして料理界に軸足を移す。
「母が忙しくしていて、最初は雑用係として手伝っていました。材料の買い出し、撮影の手伝い。料理の撮影って本当に手間がかかるんですよ。
多忙な母を家族みんなでサポートしていました。僕が小さい頃から、家族で買い出しに行って一緒に料理を作るのが当たり前の家でした」
料理研究家の母を中心に忙しくも温かく流れていった時間を今でも思い返す。
■特価のワナに注意
日本はインフレの真っただ中。2025年はG7(先進7カ国)で消費者物価指数の上昇率が最も高い水準と報じられた。
食費を上手にコントロールするポイントがあれば、教えていただきたい!
「食費を削るのではなく、食材を上手に残して使うと考えたほうが建設的ですよ~」とニッコリ。
「キャベツは丸ごと1個買って3日に分けて使う。外側の堅めの葉は炒め物、内側の柔らかい部分はサラダにする。
大根もカット済みではなく1本買う。葉が付いていれば菜飯に使えるし、本体はサラダに煮物に大根おろしに。
買い物1回の出費は大きくなりますが、きっちり使い切れば1食にかかる材料費はとてもお安くなります」
便利でロスが出ないカット野菜もアリだが、節約という観点からなら丸ごと買い。
使うお金を減らすという考え方ではなく、使い切ることを重視する。
ってことは、まとめ買い最強。肉も100~200グラムのパックより1キロ以上で買えば単価が安くなるし。
「ただし『特価のワナ』には注意してくださいね。『もう1つ買うとお得』とか、よくありますよね。つい買っちゃいがちな」
買う。買う買う。

特価につられてたくさん買い、食べきれなくて捨てるほうがもったいない。
さらに思考を発展させれば、日持ちするからといって大量に買い、使い切れずに眠っているトマト缶、サバ缶、レトルト食品。
ちょっとマネー誌っぽい書き方をすると、損切りできない塩漬け株のようだ。
永遠に使わなければ捨てたも同然。賞味期限ギリギリに慌てて無理やり食べるのも、なんだか違う気がする。
■お米選びを楽しむ
2025年は米の値段も急騰した。政治問題にまで発展したが、結局、今も米は安くない。国産米と外国米、どのように付き合っていけばいいのだろうか。
「値段の高さに目をつぶって国産米、安いから仕方なく外国米ではなく、お米選びを楽しむ方向がいいと思います」
コウケンテツさんは世界各地の味に詳しい。当然、米の味、特徴も把握している。ここで日本の気候の変化に触れた。
「ここ数年、これまでにない暑さと湿度ですよね。夏場はうま味がそれほど強くない米のほうがさらりと食べられて、体にやさしいと思います。
猛暑日が続くときはタイ米なんか、合うと思いますよ」
仕事やプライベートで30カ国以上を食べ歩いてきたからこその柔軟な発想だ。
「日本の食文化全体で『うま味』という言葉にこだわりすぎているのかもしれません。甘くて味の強い米はおいしいですが、それが重たくなる季節もあります」
刺し身や漬物などで米自体の味を楽しむときは日本米。カレーや炒飯は外国米。
「炒飯をパラパラに作れませんか、っていうリクエストを何度もいただくんです。でも、粘り気が特徴のもっちりした日本米でパラパラの炒飯を作るの、大変ですよ。
水を少なめにして炊き、あえて冷凍すればパラパラになるなどのテクニックはありますけど。それなら最初からタイ米やインディカ米などを使うのはどうでしょう」
では、今夜は外国米で炒飯にしようと思う一方、動画みたいにおいしく作れるのか自信がない。レシピ通りに作ったのにいまひとつだったこともあるし……。
「レシピ通りという言葉はすごく難しいですね。レシピはガイド役です。
僕は他の料理家さんのレシピが大好きで、よく読みます。音楽家は楽譜を読みますが、料理研究家はレシピを読む。
わかるんですよ、こういう意図でこう書いているんだなって。そういう行間の読み取りをみなさんに求めるのは酷ですよね」

いつも呼びかけているのは「変化を感じてほしい」ということ。
「玉ねぎを炒める自分をイメージしてください。シャキシャキで仕上げたいのか、甘味を出したいのか。
炒めていくと、見た目が透明になってきます。もっと炒めると香り、甘味も増します。
レシピ通りにきっちり作る方にこそ、そういう変化を感じ取ってほしいんです。自分の五感を信じて」
ガスコンロなのか、IH調理器なのかで熱の通り方が違う。人それぞれで使う鍋の大きさ、材質も違う。
「厳密にレシピ通りに作るって、本当はできないんです。それを前提として、料理研究家は最大公約数のみなさんにおいしく作ってもらえるレシピを目指します。そこが料理研究家の腕の見せどころだと思います」
■「最後に味見」じゃダメ
もう1つ。「味見」の大切さ。
「料理教室を開いて気づいたのですが、作っている途中で味見をしない方が多い。
最後に味見をされる。味付けしちゃったあとでは、調整できないですよね」
ドキッ。筆者もその一人だ。
「味付けをする前に一度、味見をしてもいいぐらいです。
スープを作るなら、塩を入れる前に飲んでみて、素材の味を確認する。
調味料はきっちり計り、入れたあとでまた味見をする。そうすると、塩分や甘味の変化がよくわかるようになります」
料理研究家のレシピの塩分や甘味は「万人にちょうどいいと思われる分量」で調整されている。レシピ通りの塩や砂糖を加えていったん味見しよう。そこで薄いと思ったら、自分がおいしいと思うまで、調味料を足す。
コウケンテツさんは「レシピはガイド役」と言ったが、目的地周辺まで連れて行ってくれる意味に近い。最後は自分の好きな味にすればいいのだ。
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正月はおせちを食べ、酒を飲み、という人も多いだろう。正月明け、ごちそうに飽きたらどんなレシピがいい?
「シンプルなだしと野菜のやさしい味。七草がゆなんて、本当にうまくできていると思います。
僕の動画でもおせちのあとの料理を何品か紹介しています。鶏肉と白菜のスープのようなやさしい味が染みますよ」
正月を待たず、自分の五感を信じて作ってみることにした。
取材・文/中島晶子(AERA編集部)、大場宏明

コウ・ケンテツ/1974年生まれ、大阪府出身。料理研究家の母のアシスタントをきっかけに料理の道へ。31歳で独立。雑誌初登場は『オレンジページ』。「ふだんのごはん」を簡単においしく作るレシピが老若男女に愛されている、正統派の料理研究家。2020年にはじめたYouTube「Koh Kentetsu Kitchen【料理研究家コウケンテツ公式チャンネル】」のチャンネル登録者数224万人(2025年10月31日現在)。いつもの料理をちょっぴりおいしくしたいなら、コウケンテツさんの動画がおすすめ!

編集/綾小路麗香、伊藤忍
『AERA Money 2025冬号』から抜粋
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