「ラーメン総選挙」日本一に輝いた店主の新戦略

和食業界で20年腕を磨き、ラーメンの道へ, 「佐野ラーメン予備校」で芽生えた“使命”, 「日本ご当地ラーメン総選挙」連敗を受けて…, 「県外から食べに来てもらう流れを」同志の想い, “ご当地ラーメン日本一”はゴールでなくスタート

「日本ご当地ラーメン総選挙2025」で優勝を手にした佐藤義之さんと息子の威くん。威くんはすっかり佐藤さんの“右腕”だという。2人ともいい笑顔……!(写真:筆者撮影)

2025年11月、「日本ご当地ラーメン総選挙2025」が新宿・大久保公園で開催された。全国各地のご当地ラーメンが集い、日本一のご当地ラーメンを決めるイベントで、今回が3回目となる。

初代王者・山形県の「酒田ラーメン」、2代目王者・福島県の「白河ラーメン」に続き、今回は栃木県の「佐野ラーメン」が日本一に輝いた。澄んだスープに青竹手打ち麺を合わせた歴史ある1杯。結果発表の瞬間、会場には驚きと納得が入り混じった空気が流れた。

その佐野ラーメンの看板を背負い、ブースの最前線に立っていたのが、「佐野らーめん 佐よし」店主・佐藤義之さんだ。実は、この総選挙は佐藤さんにとって3年目の挑戦だった。開業翌年に初出場した1年目は準備不足もあり大きな赤字を抱え、2年目も改良を重ねたものの、トップ3には届かない。それでも諦めず、佐野ラーメンの本質とは何かを問い直し、たどり着いた答えが「青竹手打ち麺を、その場で打ち、打ちたてで提供する」という選択だった。

「やれることは、全部やりました」

佐藤さんはそう静かに語った。この日本一は、単なるイベントでの勝利ではない。これは佐藤さんの挑戦であると同時に、佐野ラーメンという文化全体が再び全国へ踏み出すための大きな転機でもあった。

和食業界で20年腕を磨き、ラーメンの道へ

佐藤さんの料理人人生は、和食から始まっている。20年間、和の世界で腕を磨き、「和の鉄人」として知られる中村孝明氏の店など、名店を渡り歩いてきた。

「ダシを引くこと、素材を見ること。和食で身についた感覚は、ラーメンでもそのまま使えます」

和食業界で20年腕を磨き、ラーメンの道へ, 「佐野ラーメン予備校」で芽生えた“使命”, 「日本ご当地ラーメン総選挙」連敗を受けて…, 「県外から食べに来てもらう流れを」同志の想い, “ご当地ラーメン日本一”はゴールでなくスタート

優勝トロフィーを授与される佐藤さん。3度目の挑戦とあって、喜びもひとしおだろう(写真:筆者撮影)

佐藤さんにとってラーメンは、決して軽い選択肢ではなかった。和食で培った技術をもっとストレートに、もっと多くの人に伝えられる器。それがラーメンだったのだ。

転機はコロナ禍だった。街から人が消え、勤めていたお店の売り上げも急落した。

「このまま東京で仕事を続けるより、家族の近くで生きていきたいと思ったんです」

「佐野ラーメン予備校」で芽生えた“使命”

こうして、実家のある栃木市へ戻ることを決意するが、和食店での独立はリスクが高すぎる。そんな中で知ったのが、佐野市の「佐野らーめん予備校」だった。

「佐野らーめん予備校」は佐野市への移住とお店の創業や事業承継をあわせて支援する市のプロジェクト。佐野ラーメンの作り方や店舗経営の基礎知識を学ぶ研修から、事業承継や独立開業、移住、開業後の経営相談まですべてにわたってサポートしている。

佐藤さんはこの予備校に通って、ラーメン店を開業することを決意する。移住して独立すれば補助金が出る制度もある。家族を説得し、2022年、家族で佐野へ移住する決断を下した。

予備校では、2カ月間、佐野ラーメンの基礎を徹底的に学んだ。青竹手打ち麺、澄んだスープ……シンプルだからこそ、誤魔化しのきかないラーメンだなと感じた。

「授業で、佐野ラーメンの認知度が全国12位だと知ったんです。その時に、『佐野ラーメンはまだまだ知られていないんだ』と強く感じました」

この瞬間、佐藤さんの中に明確な使命が生まれた。「佐野ラーメンを全国に知ってもらう」ということだ。

「日本ご当地ラーメン総選挙」連敗を受けて…

2022年3月10日、「佐野らーめん 佐よし」はオープンした。予備校の出身者としては3店舗目という話題性もあり、地上波はほぼ全局がその挑戦を取り上げた。

和食業界で20年腕を磨き、ラーメンの道へ, 「佐野ラーメン予備校」で芽生えた“使命”, 「日本ご当地ラーメン総選挙」連敗を受けて…, 「県外から食べに来てもらう流れを」同志の想い, “ご当地ラーメン日本一”はゴールでなくスタート

「佐野ラーメン 佐よし」の外観。右手には「日本ご当地ラーメン総選挙2025」日本一の看板も!(写真:筆者撮影)

一方で、佐藤さんは「店の成功」だけを目標にはしていなかった。いつか佐野ラーメンを三大ご当地ラーメンに──。その思いから、若い店主を中心に「佐野ラーメン盛り上げ隊」を結成する。

「日本ご当地ラーメン総選挙」には開業翌年から参加した。しかし、1年目は準備不足もあり200万円の赤字という大敗だった。2年目は現場でしっかりスープを炊く方式に改善したが、トップ3には届かない。

そこで佐藤さんが思いついたのが、佐野ラーメン最大の特徴である「青竹手打ち麺」を打ちたてで提供することだった。

「イベントでは難しい。でも、だからこそ意味があると思ったんです」

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打ちたての麺はコシがあり、食べ応えも十分(写真:筆者撮影)

総選挙の前哨戦として出店した新宿「新宿地下ラーメン」では、現場で手打ち麺を打ちたてで提供し、500食が完売に。続く所沢「ラーメンWalkerキッチン」でも、明確な手応えを感じた。

満を持して挑んだ3度目の総選挙。ブース内にて青竹で打ちたての麺を提供する姿は、多くの来場者の足を止めた。

スープ、麺、具材、すべてを現地で手作りした1杯。食べに来た外国人客がスマートフォンの翻訳を使い、「感動した」と伝えに来てくれた。

「言葉が通じなくても、ラーメンの魅力はちゃんと伝わるんだなと思いました」

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「佐野ラーメン 佐よし」のラーメン。麺とスープがよく絡みうま味が増す(写真:筆者撮影)

「県外から食べに来てもらう流れを」同志の想い

この挑戦を、佐野ラーメンの第一線を走りながら見つめてきたのが、「麺屋ようすけ」店主・田邉庸介さんだ。

「今回の日本一は、佐藤さんが佐野ラーメンを背負って頑張った大きな挑戦だったと思います」

田邉さんは、近年の佐野ラーメンの変化をこう語る。

「店をやりたい若手は確実に増えています。ただ、簡単に増やせる状況ではない。だからこそ、『みんなでやろう』という意識は前より強くなってきたと思います。外に出て発信しないと、活性化はしない。県外から佐野にラーメンを食べに来てもらう流れを作りたいんです」

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ラーメン作りに励む「麺屋ようすけ」店主の田邉さん(写真:筆者撮影)

和食業界で20年腕を磨き、ラーメンの道へ, 「佐野ラーメン予備校」で芽生えた“使命”, 「日本ご当地ラーメン総選挙」連敗を受けて…, 「県外から食べに来てもらう流れを」同志の想い, “ご当地ラーメン日本一”はゴールでなくスタート

「麺屋ようすけ」自慢の1品。田邉さんは佐野ラーメン人気向上に意欲的だ(写真:筆者撮影)

田邉さん自身も、県外イベントへの出店を積極的に行ってきた一人だ。一方で、「佐野らーめん予備校」を経ての独立については、冷静な視点も忘れない。

「独立して形にはなります。でも、クオリティを保てるかは本人次第です。佐藤さんのように覚悟を持って積み上げられる人でないと簡単にうまくはいきません。

それでも、佐野ラーメンには他地域にはない強みがあります。伝統のあるラーメンなのに、次の世代がちゃんと熱を持っている。これはかなり珍しいことだと思います」

佐藤さん自身も、今の佐野ラーメンには課題が多いと感じている。原材料費の高騰をはじめ、店主の高齢化やそして青竹手打ちの技術継承についてだ。

「年を取ると、青竹打ちは本当にきつい。だからこそ、きちんと技術を残していかないといけないと実感しています」

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残された課題の解決も視野に入れると、佐藤さんの挑戦は始まったばかり(写真:筆者撮影)

“ご当地ラーメン日本一”はゴールでなくスタート

受賞後、佐藤さんは佐野市長を表敬訪問し、行政と連携しながら味と技術を「文化」として残していく意志を伝えた。

「全国の人が、佐野ラーメンを食べる機会がまだ少なすぎると思うんです。まずは佐野に人を呼びたい。町が上がらないと、店も続かないですからね」

ご当地ラーメンの日本一はゴールではない。それは、佐野ラーメンがもう一度、全国へ向かうためのスタートラインだ。今回の日本一を通じて、確実に町と文化が動き始めている。

和食業界で20年腕を磨き、ラーメンの道へ, 「佐野ラーメン予備校」で芽生えた“使命”, 「日本ご当地ラーメン総選挙」連敗を受けて…, 「県外から食べに来てもらう流れを」同志の想い, “ご当地ラーメン日本一”はゴールでなくスタート

佐野ラーメンがさらにはばたいていく様子を見守りたい(写真:筆者撮影)