キスを求めても「ここは日本です」と拒否! 明治の国際結婚はカルチャーショックがすさまじかった〈ばけばけ第72回〉

『ばけばけ』第72回より 写真提供:NHK
今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第72回(2026年1月13日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)
「なにヘブンさん挟まってますよって」
ヘブン(トミー・バストウ)と隣同士で寝るはじめての夜。
トキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)はひとりで予行演習。
「おやすみなさいヘブン」と呼び捨てにしてみるがやっぱりためらわれ「ヘブンさん」。
「ひじが当たっちょります」
「ヘブンさん挟まってますよ」
「無理―」「なにヘブンさん挟まってますよって」
完全に令和な言葉遣いで、ひとり芝居のトキ。ほんと、なに「挟まってる」って。
そこにヘブンがぬっと顔を出す。
「日本滞在記」があと2、3日で書き終わるので、まだ寝られないと言うヘブンに、「あまり遅くなりませんよう頑張ってごしなさい」としおらしいトキ。
何かを求める手つきをするヘブン。名前を呼んでほしいという意味と解釈したトキは「ヘブン先生」と言ってしまう。
「先生ない」「あなたの夫ヘブン」とヘブンはやや不服そうだが、今日のところは諦めて、やさしく「おやすみ」と言って仕事部屋に戻る。
ちょっとしっとりした空気になったかと思うやいなや、「言えん〜」とひとしきりはしゃぐトキ。初婚ではないながら、やっぱり、新たな相手にはときめきや恥じらいがあるものなのだ。いつだってときめいていたい。
と、ここで主題歌。明けて、翌朝。
家族の暮らし、第1日目。
ヘブンは松野家のモーニングルーティーン・朝日と出雲大社に祈る。
しあわせいっぱいの朝。
フミ(池脇千鶴)とトキが腕によりをかけて品数いっぱいの朝食を作る。
ヘブンはトキが料理できることに「サプライズ」。「まあ、一応は」と応えるトキ。視聴者はたぶんここで、女中といいながらほんとに料理してなかったのか! と驚いたに違いない。
「朝、出雲パンパンパンパン。私日本人です」
花田旅館に食事は頼んでいたとはいえ、それで20円とはなかなかおいしいお仕事であったことよ。
お人よしにもほどがある、経済的にザルなヘブンは、そんなこと気にもしないで、家族一緒の食事を喜ぶ。
トキの大好きなしじみ汁を味わって「グッド」と感嘆。
トキはひさしぶりに「あーー」。
「これはトキのはしたないやり方じゃ。ヘブン、まねするじゃないぞ」と注意する司之介(岡部たかし)。ヘブンは松野家のやりかたを倣おうとしているので「あー」まで倣ったらいけないということだ。司之介は「あー」にはうるさいがそれ以外ははしたないことだらけ。彼なりの美学があるのだろう。まったくおもしろい人である。
ヘブンは、魚の小骨もこれからは自分でとることにする。トキは女中として料理はつくらないが小骨をとるのは仕事にしていた。
この時代の仕事の分担はわからないが、料理は料理人が作り、女中はもっと雑多な仕事をするものだったのかもしれない。確かに、いい家では、料理人とメイドと執事などがそれぞれ存在している。
そこへ梶谷(岩崎う大)が張り切って取材にやって来る。
ふたりが結婚した記事が飛ぶように売れたから、後追い取材をしに来たのだ。
ここでのトキと梶谷のやりとりがおもしろい。
「あ でも あさげ中なんですが」
「いや。わしは昨日から何も食べちょりませんよ」
「聞いちょりませんが」
噛み合わなくておかしいやつ。
梶谷は「面倒なことないですか? 日本人と住むいうのは」とヘブンに直撃。
でもヘブンは日本のやりかたをがんばると言う。
「新婚のお嫁さんの前でしんどいですとは言えんもんね」と梶谷は言葉の裏を読もうとする。
そして「日本での生活がしんどうなって国に帰る異人は多いけん。それは事実だけんね」と言う。
だがヘブンは「私、大丈夫、魚、小骨取る、できる。朝、出雲パンパンパンパン。私日本人です」と意地を張る。
そこで梶谷は難題をつきつける。日本人と言うなら正座はできるのか? と。なかなか意地悪である。これもおもしろい記事を書くためだろうか。
「もちろん 問題ありません」とヘブンは正座してみせる。
「日本人 日本人」と、はやし立てられ、無理して正座を続けるヘブンだが、たぶん、無理している。
上座は簡単に受け入れたが、正座は難しい。
「ごめんなさい。それだけは」キスを拒むトキ
朝早くからなんやかんやいろいろありまして。ようやく出勤。
第72回はシーン数が多い。いろんな人が出てきてエピソードが詰め込まれている。でもひとつひとつがたわいないことばかり。第69回がワンシーン15分だったのとはえらい違い。このように緩急があるのが飽きないひけつかもしれない。
専属車夫・永見剣造(大西信満)が錦織(吉沢亮)により雇われていた。
「不器用ですけん」と高倉健のようなことを言う車夫。
出かけに、ヘブンはトキにキスをしようとするが、トキは驚いて、「きゃあ」と避けてしまう。
キスという行為も名称も知らなかったトキに「頬への口づけは、西洋では親しい人への挨拶(あいさつ)」と錦織が説明する。
つまり、昨晩はトキが先に眠ってしまい、ひじが当たるとか挟まるとか何もなかったということと想像できる。まあ、そんなこと想像しなくてもいいのだが。
「ここは日本ですけん」とトキはキスを拒むが、ヘブンは「西洋、やり方も願います」と譲歩を要求する。
「ごめんなさい。それだけは」
ヘブンは一生懸命、日本のやり方に従おうとしているのに、トキは「先生」呼びもやめないし、キスも受け入れない。ヘブンは不機嫌な様子で出かけていく。
翌朝、さっそく梶谷の記事が新聞に掲載された。
「ヘブン先生、松江大好き、正座大好き。魚の小骨取り大好き。日本人より日本人であると豪語された」と書いてあった。
今度は江藤県知事(佐野史郎)も引っ越し&結婚祝いにやって来た。県知事がじきじきに訪問するとはすごいことで恐縮しまくりの松野家。
「だんだん」と島根の方言を発する県知事。
“ただの松江市民”も新聞を見て、大挙してきた。松野家と異国人ヘブン家の婚姻は、いま松江で大注目なのだろう。
「しかし、うちのおリヨ(北香那)をお断りになったときには、まさかご家族をお持ちになるとは思いもよりませんでしたが。まあ、これも出雲の神様の縁結びですわ」と言う江藤。嫌味なのか本気なのか、わからないが。
自分の娘には異国人と結婚して苦労してほしくなかったから安堵(あんど)のうえ、トキと結婚したことで優秀な英語教師が日本に残ってもらえたことで一石二鳥、内心ほくほくなのかもしれない。
「おリヨさん、元気ですか」と尋ねるヘブン。正座している足の裏がもじもじ。
そのリヨから引っ越しの祝いは下駄(げた)。さらに足の裏もじもじ。
正座って日本人ですらなかなか難易度が高い座り方で、ヘブンが無理している気持ちが痛いほどわかる。
ちなみにリヨ役の北香那は現在、NHKで夜ドラ「替え玉ブラヴォー!」に主演中だ。クセの強いキャラでこちらもおもしろい。
「錦織は、とても美しい魂を持っている人ですよね」
ではここで、「日本人よりも日本人」を演じるトミー・バストウのコメントを紹介しよう。
――撮影が進み、明治時代を生きるヘブンを演じて、日本の印象も変わりましたか?
ヘブンを演じるようになって、イギリス人としての自分がより強くなったような気がしています。それは、日本について、以前よりも理解することができたからかもしれません。私は今、実際に日本に住んで、日本の人たちと一緒にお仕事をさせてもらっていますが、ここで目的を持って過ごすことで、お互いの文化の違いを尊重できるようになったのだと思います。ヘブンも日本で暮らし、日本の文化を体験し、そこで知った日本の魅力を海外にも伝えたかったのだと思います。
――いよいよトキとヘブンは夫婦になります。演じる中で意識していることはありますか?
トキ役の高石あかりさんとは、撮影が始まった頃から夫婦のような空気感があるのを感じていました。逆に、最初の頃のシーンの方が、夫婦の段階ではないお芝居を意識しなければいけなかったんです。ほぼ時系列どおりに撮影を進めていただけたので、あまり深く考えずに、ただ台本を読み、現場ではあかりさんとのお芝居を信用して集中し、流れに任せて演じてきた感じです。トキと夫婦になってから意識的に何かを変えたというよりは、今も自然に関係を築けているような感覚で撮影をしています。
――ヘブンと錦織との関係性も深まっていきます。錦織役の吉沢亮さんの印象を、改めて教えてください。
錦織は、とても美しい魂を持っている人ですよね。演じる吉沢さん自身が本当にすてきな人で、それが錦織という役にも表れていると思います。共演する中で、本当に優しくて思いやりのある人だと感じていますし、彼と共演したことがある俳優たちからも、同じような印象を持っているという話を聞くので、本当にすばらしい人なのだなと思っています。
彼とは、違う国で、違う言語でお芝居をしてきたという違いはありますが、俳優としての価値観が似ていると感じています。錦織との関係性を深めるお芝居の中でも、その感覚を一番大事にしてきました。
――トキと夫婦になり、ヘブンにも新しい家族ができます。松野家の印象を教えてください。
松野家の人たちには、本当に温かく迎え入れてもらえて、すごく演じやすかったです。ただ、最初の頃は、松野家の全員が日本語なので、撮影の合間も上手くコミュニケーションが取れずに悩んだ時期がありました。しかし、皆さんがすぐにそのことに気づいてくれて、言葉が違う中でどうすればコミュニケーションが取るのかを、一緒に工夫してくれたんです。特に、私にいつもやさしく辛抱強く付き合ってくださった、松野家の両親にはすごく感謝しています。
――物語も後半に突入しますが、視聴者の方へのメッセージをお願いします。
『ばけばけ』という作品は、すばらしい物語だと思います。ヘブンとトキは、幼少の頃から大変な苦労をして育ってきましたが、「怪談」を通じて心を通い合わせ、ともに歩んでいくことを決めました。そして、トキと夫婦になったことで、ヘブンは「家族」という生きがいも手に入れることができました。ただ、2人の物語は、最後まで見てすべてが理解できるものだと思っています。視聴者の皆さんにも、絶対に最後まで見ていただきたいです。
フォトギャラリー
主なシーンより
第15週(1月12日~1月16日)
「マツノケ、ヤリカタ。」あらすじ
晴れて結婚が認められ家族となったトキ(高石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)。司之介(岡部たかし)とフミ(池脇千鶴)も連れ、長年暮らした長屋から橋の向こうの城下町へと引っ越す。サワ(円井わん)やなみ(さとうほなみ)に見送られ、トキたちは武家屋敷に向かう。新居での新たな生活、ヘブンは日本式に合わせると言うが松野家と一緒に暮らしていけるのか!?
連続テレビ小説『ばけばけ』
作品情報
連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。
【作】 ふじきみつ彦
【音楽】 牛尾憲輔
【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / 柄本時生 さとうほなみ 円井わん 岩崎う大 前原瑞樹 / 渡辺江里子 木村美穂 / 吉沢亮 / 岡部たかし 池脇千鶴 朝加真由美 佐野史郎 小日向文世 ほか
【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始