「3000台を16時間封鎖した代償」山陽道を麻痺させた「ノーマルタイヤ車」、その不作為が奪った巨額の公的利益とは

中国地方を襲った年始の豪雪と道路渋滞

 2026年の年始は全国的に穏やかな天候が続いたが、中国地方では一転して記録的な豪雪となった。鉄道や高速バスといった公共インフラにも影響は出たが、社会全体に与えた損失として最も深刻だったのは道路網の機能不全である。1月2日から3日にかけ、鳥取、山口、広島の3県で発生した大規模な渋滞は、すべてノーマルタイヤで積雪路を走ろうとした車両が立ち往生したことが原因だった。

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 不適切な装備の車両が、公道という公共財を占拠し、他の車の通行を妨げた事実は軽視できない。確かに今回の豪雪は突発的で、事前の準備は難しかった。しかし、数台の車が引き起こした影響は、個人の不注意という言葉で片付けられる範囲を超えていた。

 特に広島県を通る山陽道(広島岩国道路)では、1月2日深夜から複数の車両が立ち往生し、最長23km、16時間にわたり3000台が孤立する事態となった。帰省ラッシュのピークにおいて、西日本の物流を支える大動脈が、わずか数台の不適切な行動によって物理的に封鎖されたのである。

 この状況を重く見た国土交通省中国地方整備局は異例の声明を発表し、大雪時の注意を呼びかけた。個人の判断が社会全体の利便性を大きく損なう例として、厳しい警告が突きつけられた格好だ。

タイヤ選びで大きく変わる雪道リスク

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時速40km/hからの制動距離(画像:JAF)

 毎年、ノーマルタイヤの危険性は指摘され、スタッドレスタイヤやタイヤチェーンなどによる備えが推奨されている。しかし、その装備の有無が生死や経済的損失の差につながることは、数字が明確に示している。JAFが行った雪道走行テストでは、コンパクトカーを使い、時速40kmから急ブレーキをかけた場合の制動距離を、ノーマルタイヤ、スタッドレスタイヤ、オールシーズンタイヤ、さらに各種滑り止めを装着した計6条件で比較した。

 結果は明瞭だった。圧雪路では、ノーマルタイヤが停止までに29.9m必要だったのに対し、スタッドレスタイヤは17.3mで止まる。わずか12.6mの差だが、衝突を避けられるかどうかを分ける決定的な距離である。個人の判断の甘さが、物理法則によって無慈悲に浮き彫りになった形だ。圧雪路ではチェーンを装着してもノーマルタイヤとの差が小さいという意外な結果も出ているが、氷盤路になると状況は逆転し、金属ピン付きのチェーンが最も高い制動力を発揮した。

 道路を利用するうえで、状況に応じた装備の選択は最低限の責任である。氷盤路のリスクを考慮しつつ、圧雪路でも高い性能を維持できるスタッドレスタイヤの装着は、安全を確保するための義務的な投資といえる。準備を怠れば、自身の事故リスクだけでなく、他者の通行を妨げるリスクも抱えることになるのだ。

法令でも定められる雪道の安全対策

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スタッドレスタイヤ(画像:写真AC)

 雪道を滑り止め対策なしで走行することは、法治国家における明確な違反行為にあたる。多くのドライバーは、スタッドレスタイヤの購入費や交換の手間を嫌い、そのまま雪道に入ってしまう。しかし、この行為は道路交通法第71条第6号に触れ、各都道府県の公安委員会が定める積雪や凍結時の規則に違反する可能性がある。違反すれば罰則が科される場合もあるのだ。

 個人のリスク管理の甘さは、そのまま法的責任に直結する。降雪が年に数回しかない地域では、スタッドレスタイヤを準備する費用対効果は低いと考えられがちだ。しかし、もし判断を誤った車両が渋滞を引き起こせば、数千台規模の交通混乱を招き、社会的責任を免れることはできない。レンタルなど、必要な時だけ装備を確保する手段も存在するが、大雪が予想される局面では供給が追いつかず、利用は困難になる。

 情報収集や事前の備えを怠ることは、公道という公共インフラを安全に利用する権利を自ら放棄することと同義である。雪道走行が予想される場合、ドライバーには確実な滑り止め対策が求められ、準備を欠いたままの走行は許されない行為である。

雪道リスクを高める急激な気候変化

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気象庁気象研究所のウェブサイト(画像:気象庁気象研究所)

 近年、ノーマルタイヤによる立ち往生が目立つ背景には、気象の極端化がある。地球温暖化の影響で冬の平均気温はこの100年で約1度上昇し、氷点下の日数は減少している。その一方で、これまで考えられなかったような突発的な大雪が増えている現実がある。

 気象庁気象研究所が2025年まとめた研究によると、東北地方では温暖化の影響で大雪の積算降雪量が6%増加し、北海道でもピーク時の積雪量が10%増加した可能性が指摘されている。シーズン全体としては雪が減っても、一度降れば破壊的な規模になる確率が高まっているのだ。筆者(青弓茂、自動車ライター)が2026年1月2日に中国地方で経験した状況も、前日の穏やかさからは想像できない急激な積雪だった。

 予測困難な天候こそが現代の常態であり、それに備えないことは変化への適応の失敗を意味する。不測の事態でも他者に損害を与えない準備を持つことは、現代のドライバーに課せられた重い責任である。環境の変化をいい訳にせず、咄嗟の事態に対応できる雪対策を常備しておくことが、現代の道路利用における最低限の条件である。

共有財としての道路を守るための選択

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雪道ノーマルタイヤ走行の危険性。

 2026年の年始、中国地方で露呈したのは、一部の無準備なドライバーの行動が、社会の血液とも言える物流や移動を瞬時に停滞させる現実だった。3000台もの車両が16時間にわたり極寒の路上に取り残された代償は、立ち往生の原因を作った個人が支払う反則金や数万円のスタッドレスタイヤ代とは比べ物にならない重さを持つ。

 高速道路という巨額の投資で成立する共有財を、個人の不作為によって事実上私物化し、機能不全に追い込む行為は、国家の生産性への重大な裏切りにほかならない。

 気候変動にともなう突発的な豪雪が常態化しつつある現状を前提にすれば、これまでの

「ドライバーの良心」

に依存した運用や注意喚起だけでは不十分だ。高速道路の入口でAIカメラによる装着タイヤの自動判別や、ETCデータと連動したリアルタイムでの不適合車両排除といった技術的な措置が求められる段階に来ている。同時に、不適切な装備で渋滞を引き起こした者には、道路復旧費用や他者の損失を賠償させるなど、受益者負担の徹底も不可欠だ。

 公道を走る権利は、必要な準備を整え、他者の通行を妨げない義務を果たしたうえで初めて成立する。準備不足によるリスクを社会に押し付ける者は、社会の一員としての資格を欠いている。自らの選択がもたらす損害の大きさを冷静に自覚し、万全の装備を整えること。それが、変化する気象条件の下でハンドルを握る者が負うべき責任だろう。