朝ドラ「女性へのデリカシー」欠けてる? 男性ばかりの制作陣には「荷が重いかも」と感じさせたシーン〈ばけばけ第79回〉

『ばけばけ』第79回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第79回(2026年1月22日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)

錦織、次期校長に打診される

「校長、校長というのはあの校長ですか」

「もちろん あの校長だ」

 そろそろこの「あの」会話はお腹いっぱいになってきた。

 場所は、知事室。新聞を読んでいる江藤(佐野史郎)。ヘブン(トミー・バストウ)の記事が人気だという話を枕に、錦織(吉沢亮)に次期校長にならないかと持ちかける。

 ヘブンが松江に留まったのは、ひとえに錦織の力だと江藤は高く評価していた。

「ヘブン先生のおるこの街の未来は明るい」

 松江始まって以来の秀才として、「大盤石」と呼ばれ、ヘブンに絶大な信頼を置かれている錦織は、松江の教育界の「リーダー」だと江藤はものすごく錦織を持ち上げる。教育界のリーダーと聞いて筆者は「新しい学校のリーダーズ」を思い出してしまった。

 錦織が校長になれば、ヘブンもきっとずっと松江にいるだろうと江藤は踏んでいた。

 それほどヘブンが松江の教育に寄与しているのか、ドラマではよくわからない。ただ、当時、西洋人に学問を教わることは権威になり得たのだろうと想像はできる。

 ところが錦織は「大変光栄なお話ではあるんですが」となぜか浮かない顔をしている。そのときの江藤のリアクションがまた奇妙だ。

「案ずるな。わしがおる。かわいい生徒たちに君のような道をたどってほしくはないだろうが」

 君のような道とはどんな道か。

 錦織には何か秘密がありそうなことは、東京にいたときからうっすら匂わされていた。そろそろ錦織もヘブンのお世話係としてだけではない、彼の物語が描かれてもいい頃だ。そういえば遊郭が苦手な理由も知りたい。

街にはトキとヘブングッズが絶賛販売中

「私は校長というものにあまり興味がありません。今まで通り友人としてリテラリーアシスタントとして執筆のお手伝いができれば、それで十分なので」

 錦織はヘブンにそう語る。

「ありがとう。たのもしい。But、錦織さん校長する 楽しみあります。錦織さん校長、ヘブン安心 中学校ずっとずっといたい、思います」と勧めながら、「もちろんあなた、生きるの道。あなた選ぶ。でも友達変わらない」とあくまで錦織の気持ちを大事にするヘブンに、錦織はうれしい表情をする。

 ヘブンはトキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)にも、あなたの言葉、あなたの考えで、と言うし、錦織にも彼の気持ちを尊重する理想的な人物だ。

 そして、吉沢亮は、ヘブンの言葉にいつも心からうれしそうな顔をする。吉沢の表情によって、錦織は、お金や権威に興味がなく、心から尊敬するヘブンを助けることに意義を見出していると感じる。

 真摯に学んだ人ほど、謙虚であり、学問が自分個人のためではなく、これからの役に立つものであることを知っている。だから錦織はヘブンの仕事を手伝うことを選びたいと考えたのだろう。

 もともとは貧しい家に生まれ、そこからの脱却のために学びはじめたわけだが、学べば学ぶほど学問の尊さに気づいたに違いない。錦織の存在はとても美しい。それは外観のことではなく(外観も美しいが)魂が美しいのだ。

 ここにもうひとり、教育を目指している者がいる。サワ(円井わん)である。サワの場合は、教師になることでお金を稼ぎたいと思っている。貧しい生活から脱却するにはそれしかないのだ。

 サワが出店の並ぶにぎやかな通りを歩いていると、「え」とびっくり。通りにはヘブングッズがいっぱい。似顔絵の描かれたうちわやヘブンの愛用のブードゥー人形のパチモンとか。トキがしじみを買うのはうちだと自慢している商人たちもいる。

 そこにフミ(池脇千鶴)が来て、サワに声をかける。平安時代の壺装束のような市女笠と虫の垂れ衣で顔を隠しているが、余計に目立つ。案の定気づかれ、「おトキにたまには会いに来てあげて」と言ってそそくさと去っていった。

なみが身請けされたら、サワはひとりになってしまう

 長屋に戻ると、なみ(さとうほなみ)がいて、サワに身請けの話が来たが迷っていると打ち明ける。

「身請け ええだないですか。何迷うことあるんですか。そこから出られるんですよね。もう遊郭で働かんでええんですよね」

 そう言うサワだが、トキだけでなく、なみまでここを出ていくチャンスを得たと知ったら彼女の落胆はどれだけ大きいことか。

「出てしまったら私どげなことになるんだ」と、なみは迷っていた。「もちろんその人の嫁になって暮らしてくんだろうけど。私ずっとここにおるけん ここしか知らんけん。『男と一緒になるしか、おなごは生きていけん』とか言っときながら、いざ男と一緒になれるとなったら急に怖くなってしまって」。だから「一緒にずっと傷をなめあって生きていこう」と、なみは言い出す。

 なぜ、人は悪気なく他人の気持ちを考えずに自分のことばかり話してしまうのだろう。悩むのは仕方ないが、いまのサワに言う案件じゃないと思う。サワには単なるのろけにしか聞こえないと思う。でもドラマでは、なみには他に話す人がいないからサワに話すしかない。

 そこに遊郭の主人が福間(ヒロウエノ)が来ているとなみを呼ぶ。

 福間は通りで売っていたブードゥー人形を持ってきた。売れに売れていると聞いて、なみは感心する。

 今日、福間は返事を聞きにきたのだ。

「もちろん。だどもまだ迷っちょります。だいたいなして私を。若い子だってよくおるのに」

「それは正直わからん。わからんけどあんたは悲しい。ここにおる。誰よりも」

「情けってこと?」

 おなみ、カチンと来た? と思ったところで――。

「ほんとうは惚(ほ)れちょるんだ。おなみに惚れちょる。だけん、一緒になりたい。それだけだけん」

 福間はなみの手を握る。

 こんなふうに言われたら、サワと傷を舐めあって生きていこうとは思わないだろう。残酷な持ちかけだったよなあと思う。たぶんサワも本気にはしていないとは思うが。たぶん、なみも川の向こうに行ってしまい、自分だけが残されるんだと思っているだろう。

 サワは正規の教師になるため勉強するしかない。白鳥倶楽部で勉強に励んでいると、トキが現れる。

 たちまち、土江(重岡漠)や門脇(吉田庸)がトキに話しかけて持ち上げる。サワは面白くなくて帰ってしまう。

 トキが慌てて1階に追いかけていくが、サワはもういない。と思ったら、サワが戻ってきて――。

 気まずい空気がたちこめる。

 こんな状況、お互い、何を話していいかわからない気がするが、どうなるのだろう。

 とてもデリケートな話を、短時間でたたみかけていくのはこのチームは得手ではなさそうだなあと筆者は感じた。そもそも、脚本家も演出家もプロデューサーも男性ばかり。それで女性の微妙な状況や関係性に挑むのは荷が重くないだろうか。

 おもしろいところもたくさんあるが、結婚や友情などの問題に関してはデリカシーにやや欠けているのではないかといまのところ感じる。今後の展開で挽回に期待したい。

フォトギャラリー

主なシーンより

第16週(1月19日~1月23日)

「カワ、ノ、ムコウ。」あらすじ

ヘブン(トミー・バストウ)の日本滞在記がついに完成し、トキ(高石あかり)たちは完成祝いパーティーを開く。錦織(吉沢亮)や山橋(柄本時生)も参加する中、梶谷(岩崎う大)がふらりと現れる。ヘブンと松野家の日常を記事にしたいと密着取材を申し込む梶谷に、一同は困惑するも引き受ける。「ヘブン先生日録」として記事の連載がはじまり、一躍松野家は時の人に!

連続テレビ小説『ばけばけ』

作品情報

連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。

【作】 ふじきみつ彦

【音楽】 牛尾憲輔

【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」

【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / 柄本時生 さとうほなみ 円井わん 濱正悟 大西信満 岩崎う大 重岡漠 吉田庸 / 渡辺江里子 木村美穂 / 吉沢亮 / 岡部たかし 池脇千鶴 佐野史郎 ほか

【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始