【パソコンが買えない】本当は起きていないメモリー不足?それでもPC向けメモリーの高騰が今年末頃まで続くと予想する理由
メモリー価格の上昇に始まり、各PCメーカーが受注停止を公表するなど、一般メディアなどでも「PCが買えなくなるのでは?」「今買わないとヤバいかも」といった報道がなされている昨今。その背景に何が生じているのか、PC業界の識者にそれぞれの視点から分析いただいた。
値上がりが進むPCとPC用メモリー
OpenAIとSamsung/SK Hynixの協業発表が発端とされるが……?
昨年11月頃に端を発したメモリー不足(「PC値上がり始まる メモリ、SSD高騰で」)。DDR5 DIMMのみならずGDDR7やLPDDR5、ついにはSSDにまでその影響は及んでおり、2025年中はちょっとした騒ぎになっていたわけだが(「PCメーカー公式アカウント「なるべくお早目の購入をオススメします」 パーツ高騰時代本格化か」)、2026年になっても収束する兆しは見えない。
実際のところ、「何がキッカケでこのメモリー不足が生じたのか」の根本原因は、まだ因果関係が完全に証明されてはいない。ただ、非常に怪しいとされているのが2025年10月3日に発表された、OpenAIとSamsung/SK Hynixとの協業の発表である(https://openai.com/index/samsung-and-sk-join-stargate/)。

OpenAIとSamsung/SK Hynixが協業を発表。これはキッカケにすぎないのだろうか?
この協業では、SamsungとSK Hynixが生産するDRAMについて、両社合計で毎月ウェハ90万枚分を独占的にOpenAIに供給することが決まったとしている。ちなみにいきなり11月から90万枚をOpenAIに納入する訳ではなく、「targeting 900,000 DRAM wafer starts per month」とあるように最初は少量の納入であり、次第に枚数を増やして最終的に毎月90万枚のウェハ相当分を納入するという話である。
では、これがどの程度の枚数か? という話だが、先端プロセスについて言えばSamsungの1c nm DRAMは2026年末で20万枚/月、SK Hynixの1c nm DRAMも月産60万枚強の生産量を予定している。つまり両社の先端プロセスのDRAMウェハをほぼ全量をOpenAIが持っていく計算だ。
両社ともに更に生産能力を増強する予定なので、おそらく2027年中には両社あわせて90万枚/月を実現可能になるだろう。端的に言えばこの報道を受けて、さまざまなメーカーが少しでも自社利用分を確保すべく、先行して大量の契約をMicronなどと行ない、結果としてPCマーケットに流れる分がほぼなくなってしまったというのが、おそらくは現状のメモリー不足の実情だろう。
PC用/グラボ用/GPU用でDRAMの作り分けをしている
製造能力の大半がGPU用に回されると、誰かが「予測した」
もう少しかみ砕いて説明しよう。たとえばSK Hynixだと、2021年7月に1a nm、2023年5月に1b nm、2025年5月に1c nmを利用したDRAM製品をそれぞれ発表している。
「1a」→「1b」→「1c」の順に少しずつ微細化が進み、これにともなって記憶密度の向上や動作速度の向上、省電力化などが実現されている。
といっても、DDR5-4800であれば1a/1b/1c nmのどの世代のDRAMでも実装できる。ただ1b/1cの方が1aを使ったものよりも原価が低く、かつ消費電力も少なくできるし、Overclock時のヘッドルームも大きい。逆に最先端の、たとえばDDR5-6400やHBM3e、GDDR7などは1a nmだと性能的に間に合わないので、最低でも1b nm、できれば1c nmが望ましいし、今後登場するDDR5-8000やHBM4、LPDDR6Xなどは1c nmでの製造が前提になっていると考えられる。
このDRAM技術そのものは、DDR/LPDDR/GDDR/HBMですべて共通であるが、仕様(動作周波数・動作電圧・アクセス粒度・I/F)は異なっている。SK Hynixであれば、現在同社の利川キャンパスにあるM14 FabとM16 Fabで1c nmの製造が行なわれており(まずM16 Fabで1c nmの製造がスタートし、次いでM14 Fabが1b nmから1c nmに転換した)、これに加え清州キャンパスのM15 Fab(ここは本来NANDの製造を担っている)に追加されたM15X FabでHBMの製造をスタートすべく準備中。ここもおそらく1c nmでの製造拠点になる。さらに2027年3月には龍仁キャンパスで新たなFabが製造を開始される予定とされる。
ただ現状で言えばM14 FabとM16 Fabで、すべての1c nm向けの需要を担う必要がある。“通常であれば”なので「HBM3eとHBM4を10%、GDDRを10%、DDR5を60%、LPDDR6を20%」などと比率を決めて、それぞれのウェハをM14 FabとM16 Fabにおいて1c nmで製造することになる訳だが、今回のOpenAIとの契約で、HBM3eやHBM4をかなり多めの比率で製造する必要が生じたと『考えられた』わけだ。
これはつまり、DDR5やそのほかの生産が今後大幅に滞るであろうと『予測される』ことになる。
そこで、本当に注文を受けつけてくれなくなる前に、大量の発注を先行してすることで、少しでも自社利用分を確保したいというベンダーが続出することになった。そしてSamsungとSK HynixはそもそもOpenAIとの契約で生産量のかなりの部分を持ってかれるから、そうそう注文を受ける余力はない。となると残るDRAMベンダーはMicronであり、この結果MicronがCrucial事業をたたまざるを得なくなる事態に追い込まれたというわけだ。
DRAMベンダーにとって上客であるサーバーベンダーが
サーバー用DIMMを確保すべく、一斉に大量発注した?
問題はこの『考えられた』『予測される』をしたのは誰か? という話で、SamsungやSK Hynixが明示的にそう示したというのならわかるのだが、報道を見ている限りそうではない。これはベンダーが自発的にそう考えた/判断したと考えるのが妥当と思われる。また、ここで言う「ベンダー」とは誰? という話をするためは、ちょっと説明が必要だろう。
以下の図はDDR5 DIMMの流通工程の構図である。
まずDRAMベンダーではSK Hynix/Samsung/Micronがトップ3で、ほかに台湾NanyaとかWinbondなど組み込み向けを中心にDRAMチップを製造している。ほかの大手は中国CXMTだが、ここはDDR5世代をまともに量産できていないし、流通は中国国内に限られるのでここでは除外する(他に台湾PowerChipもあるが、ここはDRAMメーカーというよりDRAMファウンダリの傾向が強いのでこれも議論から外す)。
このDRAMベンダーは、自社でもDIMMを製造しているが、これはサーバーやワークステーション、あるいはソリューションベンダーなど極めて限られた顧客に対するものである。一般向けは? というと、KingstoneとかCorsairといったDIMMベンダーにDRAMチップを卸し、こうしたDIMMベンダーがDIMMに仕立て上げる形になる。ここまではすべてContract(事前契約ベース)での供給である。つまり供給期間や供給量・価格を事前協議して納入する形態だ。

筆者手持ちのCorsair Vengeance DDR5-5200MHz 32GB DIMM。メモリーチップそのものはMicronが製造し、それをCorsairがDIMMに仕立てている
そしてDIMMベンダーは直接、あるいは代理店/商社を経由して自社のDIMMをショップに卸す。ここはContract以外にSpot(都度取引、一回だけの取引でその都度供給量や価格が変わる)の形態も入る。現実問題としてDIMMベンダー→代理店はまだContractの比率が多いかもしれないが、ショップとの取引はSpotのパターンが非常に多い。これはショップとしては在庫を多数抱えるのがリスクになりかねないためである。
さて話を戻す。先に書いた『考えられた』や『予測される』をしたのは、先ほどの図で赤破線で囲んだ部分である。サーバーベンダーやAI向けのソリューションを提供するベンダーが、一斉にDRAMメーカーに対して買い占めのContractを相次いで締結。結果としてDRAMベンダーの供給能力がオーバーしたと考えられる。
こうしたベンダーはDRAMメーカーにとっても無下にできない、いわば上客である。なにしろこれらのベンダーは高価なサーバー向けのECC Registered DIMMを大量に購入してくれてきたし、新技術や新規格のメモリーを開発する際に、その検証などにも協力してくれるから、DRAMメーカーに対する発言力は相応にある。強く求められたら、ほかの契約を多少犠牲にしてでも要求に応えざるをえない。
OpenAIがHBMを大量に確保したと言っても
HBMと組み合わせるGPUチップがそもそも足りているの?
さて、ここまでが現状起きていることへの説明になる訳だが、実を言うと「本当にDRAMが足りないのか?」というと、実は結構怪しいという話がある。
まず冒頭のOpenAIとSK Hynix/Samsungとの契約の話だが、OpenAIはHBM4メモリーを単独で購入してどうするのか? というと、実はどうにもならない。現在OpenAIはBroadcomと共同でCustom AI Chipを開発中であり、初期生産は2026年後半といった話になっているが、いきなり全量をそこに突っ込むわけではない。
なので、2026年中で言えば、NVIDIA及びAMDと契約したGPUカードに積載されるHBM3e/HBM4メモリーを、OpenAIが独自に確保したという格好になる。この場合、AMDなりNVIDIAのGPUについては、まずGPUのダイをTSMCで製造後、OSAT(Outsourced Semiconductor Assembly & Test:実装とパッケージング、テストを担う後工程)企業にそのダイを送付。このOSAT企業にはSK HynixやSamsungからHBMチップも送付されており、これを組み合わせてOpenAI向けのGPUが完成という形となる。
通常の場合、メモリーメーカーからOSATへDRAMを納入するのは、GPUメーカー(NVIDIAまたはAMD)の注文によるが、今回の場合はOpenAIの注文によるというのが唯一の違いである。問題はHBMだけあってもGPUは完成しないことだ。今回の場合、明らかにNVIDIAやAMDのGPUのチップの方がボトルネックになっている。
つまりTSMCのN3の製造能力が突如2倍とか3倍になって、MI400XやRubinのダイが山ほど生産されているなら、HBMが足りないという話になるのだろうが、そんな話はどこにもない。
加えて言えば、MI400XとおそらくRubinも、TSMCの「CoWoS-L」を使っている関係で、このCoWoS-Lの実装はTSMC本国のFabのみになっており、ここがおそらくボトルネックになる。要するに現状OpenAIが必要とするHBMはそんなに多くなく、これが増えるのは2026年末~2027年以降になると考えられる。なのでSK Hynix/Samsungとも2025年~2026年前半は、そこまでのHBMシフトを敷かなくても十分対応可能であり、その間に生産力増強をすることでOpenAIとの契約を果たせると踏んでいた節があるし、実際その見立ては妥当だと思う。ただ一部のベンダーが焦って先行してContractを大量に結んだことで、この目論見が崩れてしまった訳だ。
サーバー用DIMMの在庫が倉庫に山積みされていく可能性
PC用DIMMの順番が回ってきて、価格が落ち着くのは今年末以降!?
さてその結果どうなるか? サーバーメーカーには大量のDIMMが在庫として納入されるだろう。ただしGPUの方は別に増産されている訳ではない(というか、既に増産の余地がないほどフル稼働で生産されているのにそれでも足りない)から、AIサーバーの出荷量そのものは増えない。
結局DIMMだけが無駄に不良在庫になって倉庫を圧迫し始めるはずだ。サーバーベンダーは最低でも1年程度のContractを結んでいると思われ……ということは「やっぱ余った」とか言ってみたところで、Contractは(高額な違約金を払わない限り)解約できない。結局無駄にサーバーベンダーの倉庫に、ECC Registered DIMMの形で積みあがる1年になるだろう。おそらく来年以降のContractに関しては見直しが入り、このタイミングで大幅にContractの価格も下落。DIMMベンダーへの供給量も増えることになるだろう。
逆に言えば、今年の11月くらいまではContractに縛られており、PCマーケットへのDIMMの価格は高騰しっぱなしという状況が続くだろうというのが筆者の予測である。少なくとも2026年はPCを買い替えるにはちょっと向いていないと言うべきだろう。