山陽道「3000台とんだ大迷惑」たった30台のせいで消えた「16時間の日常」――個人の“大丈夫”とインフラが噛み合わなかった現状を考える

高速道路の立ち往生

 高速道路は時代とともにさまざまな課題を抱えてきた。近年では、積雪による車の立ち往生が目立っている。止まった車は後続車の流れを遮り、交通全体に影響を及ぼす。

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 2026年1月2日の夜、山陽自動車道(山陽道)の広島岩国道路上り線で、大竹インターチェンジ(IC)から廿日市(はつかいち)ICまでの区間において、約30台のノーマルタイヤ車が雪にタイヤを取られて動けなくなった。渋滞は岩国ICまで延び、3日4時の時点で約23km、計3000台が長時間立ち往生した。

 年明け前から全国的に積雪の可能性が伝えられ、高速道路でも冬用タイヤやチェーンの装着が推奨されていた。しかし現実には抑制が十分に効かず、今回の立ち往生を招いた。

 日本の高速道路は地形の影響で勾配が急な箇所が多い。トンネルやIC周辺では速度が低下しやすく、車を止めやすい条件が重なる。高速道路は

「止まらないこと」

を前提としたインフラであり、その価値は特に近年高まっている。雪による立ち往生は道路の機能だけでなく、社会的な価値にも影響を及ぼす事態だ。

ノーマルタイヤの立ち往生

ノーマルタイヤで走行する車(画像:写真AC)

 高速道路で雪により立ち往生するケースの多くは、ノーマルタイヤ車が原因だ。冬季には冬用タイヤやチェーンの装着が推奨されているが、利用者の間に十分に浸透しているとはいえない。

 冬季にノーマルタイヤで走行することを個人の責任に任せる構造には、そもそも問題がある。立ち往生した場合、報道では個人の責任が取り上げられることが多いが、道路の形状や運用判断の適否についてはほとんど議論されない。

 山陽道での立ち往生も同様に

「ノーマルタイヤ車の影響」

として伝えられるにとどまり、規制や注意喚起の経緯には触れられていない。高速道路での立ち往生は、現場での交通混乱にとどまらず、経済的損失も引き起こす。こうした状況では、事業者側の早めの対応や適切な判断が不可欠となる。

 対応があいまいなままでは、利用者が

「走行可能か否か」

を誤って判断する危険もある。特に積雪情報は、リアルタイムで提供されることが求められる。個々の判断に任せるだけでは限界があり、制度や情報提供のあり方が、道路の安全性と交通の安定性に直結するのだ。

個人装備の不足

雪道の高速道路(画像:写真AC)

 高速道路の積雪による立ち往生を減らすには、いくつかの方向性を考える必要がある。

 まず、個人の装備不足をどう減らすかが課題となる。高速道路を利用するのは一般のドライバーが中心で、スタッドレスタイヤやチェーンなど冬用の装備が求められる。

 しかし、スタッドレスタイヤは商品によって価格が高く、交換や保管を専門業者に依頼すればさらに費用がかさむ。この費用面が装着の大きな障壁になっている。近年はオールシーズンタイヤの普及も進み、選択肢は増えつつあるものの、完全な解決にはほど遠い。

 次に、渋滞が発生した場合の救援体制の強化も重要だ。積雪による立ち往生はほぼ毎年どこかで起きており、事前にある程度の規模を想定して救援や解消の手順を整備しておく必要がある。事業者側でも救援体制は進められているが、どうしても

「発生ありき」

の対応にとどまり、根本的な解決にはつながりにくい面がある。

 さらに、高速道路の前提そのものをどう考えるかも選択肢のひとつだ。高速道路は信号がなくノンストップで走行できることを前提としており、これが大きな利点となっている。その前提を変更し、立ち往生にも対応できる制度にするという発想もある。しかし、近年の暫定2車線区間の4車線化によって事故件数や通行止めは大幅に減少しており、

「止まらない前提」

が依然として有効であることが示されている。前提を変えることは、社会全体や高速道路事業にとって逆効果になる可能性もある。

個人判断の限界

早めの注意喚起やアナウンスが大事(画像:写真AC)

 積雪時の高速道路利用を個人の判断に任せるには限界がある。実際には走行が難しい状況でも、ドライバーはこれくらいなら大丈夫と過信しやすく、交通の統制は取りにくくなる。

 高速道路での立ち往生は、個人が負える責任の範囲を大きく超える場合が多い。そのため、事業者側からの情報提供や事前対応は不可欠だ。冬季の積雪に備えた対策や制度の見直し、経済面や技術面も含め、交通を抑制する仕組みをあらかじめ整えておく必要がある。

 検証を進めると、個人判断に任せる危険性の高さが際立つ。全員が統一した判断を下すことは困難で、過信による立ち往生のリスクも大きい。立ち往生が起きれば被害や損害は個人の範囲をはるかに超え、利用者が意識をもって判断するだけでは限界がある。

 こうした現実を踏まえ、制度や経済、技術を組み合わせた事前遮断型の仕組みが求められる。近年では、首都高速道路(首都高)やNEXCOが積雪の予報や観測に応じ、早めに通行止めを実施する例が増えている。電光掲示板などでの早期告知も活用され、利用者自身が情報に敏感であることも、事故や渋滞を減らす上で重要な要素となる。

立ち往生の連鎖

冬用タイヤ規制の情報を伝える電光掲示板(画像:写真AC)

 高速道路では、たった1台の立ち往生が数十台、場合によっては数百台の交通に影響を及ぼすことがある。実際、1台の車がスタックしたことで道路が遮断され、複数の車が10時間以上身動きできなくなった例もある。止まった高速道路は機能を失い、

・物流の遅延

・救急搬送の阻害

・燃料消費の増加

といった問題を引き起こす。立ち往生した車の体力や精神力だけでなく、貴重な時間も奪われることになる。

 首都高でも2018年1月、中央環状線の山手トンネルで3件の立ち往生が発生した。西新宿ジャンクション(JCT)から大井JCTまで約12kmにわたる渋滞は解消に10時間を要し、大雪の影響で首都高20路線、計230kmの通行止めが行われた。全線の通行止めが解消されるまでには97時間を要し、山手トンネルでの立ち往生の影響は距離にして約19倍、時間にして約9倍に広がった計算になる。

 別の視点もある。高速道路では積雪や路面状況に応じてチェーン規制や冬用タイヤ規制が設けられる。規制に従わなければ通行できないが、監視が不十分だとノーマルタイヤ車が走行してしまうこともある。関越自動車道では、群馬県と新潟県の県境にある関越トンネル付近で冬用タイヤ規制が行われ、通過直後の土樽パーキングエリアでタイヤチェックが実施される。

 規制の判断は簡単ではない。かけなければ積雪が予想以上に増え、かけすぎれば交通量に影響する。いずれにせよ、交通への損害は避けられない。近年は、高速道路でのスタックによる立ち往生が注目されていることもあり、首都高などでは積雪予報が出れば早めに通行止めを実施する傾向が強まっている。ただし、規制が後手に回る場合もあり、事後的に正当化されるケースもある。天候の急変は事業者にとって大きな課題だ。

 山陽道では今回の立ち往生を受け、1月11日に各IC入口で冬用タイヤ装着のチェックを実施した。その結果、本線での雪による渋滞は発生しなかったが、チェックに時間がかかり、広島県広島市の広島ICでは入口流入路で渋滞が生じた。

制度による通行管理

AIテクノロジーのイメージ(画像:写真AC)

 個人の判断に頼るだけでは限界がある。高速道路の積雪時には、事前に明確なルールを設ける必要があるだろう。たとえば、積雪予報の2~3時間前に通行や流入を制限する仕組みだ。利用者も事業者もルールを理解していれば、それに沿った対応が可能になる。

 積雪時にノーマルタイヤで走行し立ち往生した場合に、ペナルティを課すことも検討できる。各都道府県の道路交通法施行細則や道路交通規則では、積雪や凍結時のノーマルタイヤ走行を禁止しており、違反すれば普通車で6000円の罰金となる。ただ、世間の認知はまだ十分ではない。今後はドライバーやトラック事業者への周知が不可欠である。

 首都高の山手トンネルで発生した立ち往生は、ノーマルタイヤのトラックが原因だった。そのためトラック事業者に対して冬用タイヤの装着や十分な溝の確保を呼びかけている。積雪時にスタックした場合のペナルティ導入も、検討の余地があるだろう。

 車両自体の技術進化も見逃せない。ナビと連動した各種システムを積雪時の走行可否判断に活用することも可能だ。あるいは、道路上に利用者が判断できる仕組みを設置し、情報を増やすことも重要である。各所が責任を持つのではなく、

「雪道は行けない」

という前提で行動できる環境づくりが求められる。

 AI技術の進化により、気象・交通・車両情報を組み合わせ、個人の判断ではなくデジタルで通行可否を判断することも現実味を帯びている。高速道路は現状、自己責任の要素が強いが、将来的には管理が行き届いた公共交通機関に近い性格を持つ可能性もある。自由に走れる魅力は薄れるかもしれないが、限られたルールの中で楽しみ方を見つけるのも利用者の役割である。

 なにより、個人判断の負担から解放されることはストレスの軽減につながる。余裕を持って状況に対応できれば、ドライブはより安全で、より楽しい体験になるだろう。

過信のリスク

山陽道。広島JCT周辺(画像:写真AC)

 山陽道での立ち往生は、ドライバーの過信が引き金になったと考えられる。過信を生みやすい背景には、現行の制度や道路の仕組みがある。立ち往生は大規模な渋滞や人的被害をもたらすだけでなく、経済的な損失もともなう。

 もちろん、ドライバー自身の知識や経験を高めることも重要だ。しかしそれ以上に、止めるべき場所で確実に通行を止められるシステムを整える必要があるだろう。現場の混乱を最小化するためには、個人の判断だけに依存してはいけない。

 今後、高速道路の安全性を高めるには、制度や技術を組み合わせた総合的な対策が欠かせない。冬季に備えた装備の確保や、最新情報の確認を日常化することが事故や渋滞の予防につながる。さらに、AIやデジタル技術を活用すれば、通行可否の判断をより客観的に行える可能性もある。

 読者には、運転時の過信を抑え、制度や情報を積極的に活用する姿勢を持ってほしい。安全の確保は個人の努力だけで完結せず、社会全体で交通を守る意識が求められる。高速道路の利便性を享受しつつ、立ち往生や事故のリスクをできる限り減らす行動こそ、安心で快適な移動につながるだろう。