「勉強する場所がない」と中高生から切実な声 車のショールームなどを「自習室」として提供
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図書館やカフェなど、自宅以外の場所で勉強する高校生を多く目にするようになりました。それに伴って、「自習できる場所が足りない」「長時間いられる席がほしい」という声も聞かれるようになっています。そうした要望に応えて、自治体や企業が学生に勉強場所を提供する動きが増えてきています。神戸市は2025年7月から、「まちなか自習室」の取り組みを始めました。制度開始までの経緯や現在までの歩みについて、市の担当職員に聞きました。(写真=放課後、フリースペースで勉強する生徒たち。神戸市こども家庭局こども未来課提供)
「自習室格差」が発生
スマホやテレビの誘惑から逃れたい、自室がない、幼いきょうだいがうるさくて集中できない――。さまざまな理由で、自宅以外の場所で勉強したいと考える中高生が増えています。しかし、図書館の座席にも限りがあり、カフェやファストフード店は有料な上、長時間の勉強利用を断る店舗も出てきています。行き場のない若者のために、自治体が自習スペースを用意するケースが増えてきました。
千葉県市原市では、生涯学習センターの一角に「理想の自習室」を開設しました。山形市では、官民複合ビルに「学習空間 mana-vi(マナビー)」をオープン。いずれも予約不要・無料で使えます。新潟県では、えちごトキめき鉄道の直江津駅ホームに、待合室を利用した学生専用の自習室を設置し、「乗り継ぎの時間も有効に使えるアイデア」と話題を呼びました。
神戸市でも、2025年7月に新たなサービス「まちなか自習室」を開始しました。公的施設だけでなく、さまざまな民間企業の協力を得ていることが特徴です。この取り組みを担当する神戸市こども家庭局こども未来課の上米良(かみめら)洋介課長は、「2024年2月に実施した市内の子どもへのアンケートでとても多かったのが、『自習室を作ってほしい』という要望でした。これは近年の中高生との意見交換会でも、必ず聞かれる声です。ニーズが非常に高まっていることを感じ、これはなんとかすべきだと思いました」と話します。
それまでも自習に使える場所が全くなかったわけではありません。神戸市では市内8カ所の図書館の席のほか、ユースプラザやユースステーションという場所を作り、1300席分のスペースを用意していました。これらは、各区の拠点となる場所に設置されていますが、行動範囲が限られる中高生にとって、誰もが利用しやすい場所とは限りません。そこで、上米良さんたちは、中高生が日常的に活動しているそれぞれのエリアに自習スペースを作ることはできないか、検討を始めました。
民間の協力で、街なかに自習室を
子どもたちに「どんな自習室なら使いやすいか」と尋ねると、「外から中の様子が見えたら入りやすいかも」「自宅の最寄り駅の近くにあったらうれしい」などの意見が出てきました。
「自習室のあるべき姿は見えてきたものの、こうした条件を満たす施設を市で確保するのは難しいことでした。しかも街なかに数多く用意できなければ意味がありません。そこで、民間の力を借りてみようと考えました」(上米良さん)
子どもたちに勉強場所を提供してもらえないか――神戸市がそう声をかけたのは、カフェやフードコート、コワーキングスペースなど。意外なところではカーディーラーなどにも打診しました。
「無料で協力してくれる施設を見つけることが、やはり一番苦労しました。しかし予想以上に多くの企業が『地域貢献をしたいと思っていたけれど、何をしたらいいかわからなかった。声をかけてもらってよかった』と言ってくれました。最近は先方から『うちも自習室をやりたい』と連絡をもらうことも増えています。初年度の協力店舗数は30を目標にしていましたが、12月現在で50店舗に上っています」
利用は無料で、スマートフォンからアクセスできる専用サイトで、事前に登録をしておくだけで簡単に利用できます。混雑状況も確認できるので、「せっかく行ったのに満席だった」などと無駄足になることがないのもうれしい点です。

兵庫トヨタ甲南店も協力店舗の一つ。ショールームの商談スペースを「自習室」として提供している
子どもたちが集中して勉強できることが一番ですが、取り組みでは、ほかにも複数のメリットが生まれています。あるコワーキングスペースの席に来ている子どもに、上米良さんが「なぜこの自習スペースを選んだの?」と聞くと、「周りで大人が頑張って仕事しているのを見ると、自分もモチベーションが上がるから」という答えが返ってきたそうです。
「最初は少数派の意見かと思いましたが、ほかにも同じように答える高校生がいて、非常に嬉しかったですね。中高生が働く大人を間近に感じる機会はあまりないものですが、まちなか自習室はその貴重な場になっているのだと思います」
地域が一丸となって子育て
まちなか自習室は、子どもが働く大人を見るだけでなく、大人にとっても地域の子どもたちと触れ合う接点になっているようです。
「取り組み開始前、受け入れ店舗からは『もし子どもたちが騒いだらどうすればいいのか』といった不安の声がありました。それは私たちも懸念していたことではあるのですが、実際に始動したら、『礼儀正しい子が多くて驚いた』という声のほうが多く寄せられました。取り組みは大人に地域の子どもに関心を持ってもらうよいチャンスになっていて、懸命に勉強する姿を目にして『もっとできることはないか』と言ってくれる店舗が増えています。例えば学校の夏休み期間には席を増やしたり利用時間を延ばしたりと、柔軟な対応もしていただいています」

JR住吉駅近くのカレー専門店「おひさまかれぃ」。駅に近い場所は生徒たちにとってありがたい存在だ
子どもたち自身が取り組みの“宣伝部隊”になってくれる動きも出ています。市内のある高校では、探究の授業で、受け入れ店舗を探して協力依頼をするなど、まちなか自習室の拡大活動を行うグループが現れました。また、ある中学校では、生徒会の子どもたちが学校付近の自習室について模造紙にまとめ、校内でPRを行ったそうです。こうしたことを心強く感じながら、上米良さんは市としてもさらなる発信に努めると語ります。

街をあげて、学びたい生徒たちを応援しようという空気が高まりつつある
「7月の開始から半年が経ち、利用状況やさらなるニーズもつかめてきました。今の最大の課題は、自習室の情報を必要とする子どもたちに届けることです。現在もインスタグラムなどで若者の目に入りやすい情報発信を心がけていますが、『存在を知っていても、何となく使いづらい』という声も。こうしたためらいを取り払って、実際の利用につながるアピールの仕方を探っていきます」
神戸市では、2026年度から中学校で部活動の地域展開を開始することが決まっています。教員の働き方改革も叫ばれる中、校外の大人が子どもと関わり、地域全体で子どもたちを支えていく取り組みは、今後さらにその意義を強めていくでしょう。
「神戸市は『共働き子育てしやすい街ランキング』*で1位になったこともあり、行政も住民も子育てへの意識が強い土地です。もともとあったその機運がこの『まちなか自習室』で可視化され、より高まっているのではないかと感じています」
いいことずくめの取り組みをわがまちでも取り入れたいと、複数の自治体から視察などの問い合わせが入っているといいます。
*「共働き子育てしやすい街ランキング」
働く女性向けウェブメディア「日経クロスウーマン」(発行:日経BP)と日本経済新聞社が「自治体の子育て支援制度に関する調査」を実施してまとめたもの。調査は共働き子育てを巡る現状と課題を明らかにする目的で、15年から毎年実施しており、24年で10回目を数えた。首都圏、中京圏、関西圏の主要都市区と全国の政令指定都市、道府県庁所在地、人口20万人以上の都市の、計180自治体を対象に24年9~10月に実施し、155自治体から得た回答を集計。総合編で神戸市が1位、栃木県宇都宮市が2位、東京都板橋区、東京都豊島区、東京都福生市、千葉県松戸市が同点3位となった。
(文=鈴木絢子、写真=神戸市こども家庭局こども未来課提供)