なぜエンジンなしで「数百キロ」も飛べるのか? 大気と重力を味方にした「省エネ機体」の正体

グライダーの経済性

 かつて、一度は鳥のように空を飛びたいと考えた人もいるだろう。飛行機やヘリコプターを操縦する場合、免許取得だけでも数千万円単位の費用がかかる。一方、グライダーであれば免許取得と機体購入を合わせても数百万円程度で済み、自動車に乗るのと大きく変わらない費用で飛行体験を楽しむことができる。

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 グライダーは基本的に「エンジンを持たない航空機」である。翼の周囲を流れる空気で揚力を得る仕組みで、自ら推進力を生み出すことはない。動力飛行機と異なり、空力設計や重力、自然に発生する上昇気流を利用して飛行する。効率的な翼形状や大気現象を活用すれば、条件次第で何時間も滞空でき、数百kmから数千kmの長距離飛行も可能だ。

 自力発進や安全確保を目的に、小型エンジンを搭載した派生型も存在する。モーターグライダーは基本的に滑空飛行を主体としつつ、緊急時や自力発進のためにエンジンを備える。ツーリングモーターグライダーは、動力飛行と滑空飛行を両立させ、より実用的な巡航性能を持つ機体である。

上昇気流の活用

グライダー(画像:写真AC)

 グライダーは自力で離陸できないため、外部の力で初期高度を確保する必要がある。代表的な方法がエアロトウとウインチ発進である。

 エアロトウは、動力飛行機に曳航されて上昇し、所定の高度で切り離す方法だ。発進位置や高度を柔軟に設定できる利点がある。ウインチ発進は、地上のウインチでケーブルを高速に巻き取り、急角度で上昇する方式である。短時間で効率的に発進できるが、高度には制約がある。

 曳航を終えたグライダーは、上昇気流を利用して高度を維持したり、さらに上昇したりする。最も一般的なのは、太陽熱で暖められた地表から立ち上る暖気の柱、サーマルを旋回して上昇する方法である。

 また、風が山や尾根に当たって生じるリッジリフトや、山脈越えの風によって発生するウェーブリフトも重要な揚力源である。状況に応じてこれらを使い分けることで、長距離飛行が可能となる。

飛行に働く基本力

グライダー(画像:写真AC)

 動力飛行機は、推力が抗力に打ち勝つことで速度を維持する。一方、グライダーには推力がない。そのため、重力と空力効率によって滑空の方法が決まる。

 グライダーは周囲の空気に対して緩やかに下降しながら前進する。高度という位置エネルギーを運動エネルギーに変換して飛行するのである。

 グライダーの飛行原理を理解するには、飛行中の航空機に働く基本的な4つの力を知る必要がある。揚力は翼の周囲を流れる空気によって生じる上向きの力である。重力は機体の質量によって生じる下向きの力である。

 抗力は空気抵抗によって進行方向と逆向きに働く力である。推力はエンジン搭載機で前進力を生む力である。グライダーはこの4つの力のうち、揚力、重力、抗力を主体に飛行する。

翼設計と揚力生成

グライダー(画像:写真AC)

 グライダーが長時間滞空できるかどうかは、空力効率に大きく左右される。限られた高度や上昇気流のエネルギーを最大限に活用するため、抗力を抑えつつ揚力を効率よく得る設計が施されている。

 とりわけ重要なのは翼である。グライダーの細長い翼は誘導抗力を低減し、低速でも高い揚力効率を実現する。翼の上下で生じる空気流速の差により圧力差が生じ、これが揚力となる。機体は重力で下降しながら前進し、その運動に対してほぼ直角方向に揚力が作用する。

 グライダーは外部の力で発進した後、上昇気流を利用して高度を維持するか、さらなる上昇を狙うソアリング飛行に入る。飛行中はバリオメーターで上昇率や下降率を把握し、上昇気流の位置を判断する。着陸時にはスポイラーやエアブレーキで降下率を調整する。エンジンを持たない特性を踏まえ、慎重な進入計画が求められる。

 グライダー飛行は、空力設計と大気エネルギーの活用が高度に融合した飛行形態である。

多様な飛行機種

グライダー(画像:写真AC)

 グライダーは約100年前にドイツで誕生し、現在もその中心地となっている。

 種類は幅広い。紙製の模型や簡易的なおもちゃから、競技やレクリエーションに用いられる高性能機まで存在する。固定翼グライダーのほか、パイロットが機体に吊り下がって操縦するハンググライダーや、パラシュートに似たパラフォイルを用いるパラグライダーもある。いずれも空力設計と自然の風を活用し、エンジンなしで高度に制御された飛行を可能にしている。

 発進技術や空気力学的効率、上昇気流の活用によって、長時間かつ長距離の飛行が可能である。気象と空気力学の知識を習得することで、空に潜むエネルギーを体感できる。鳥のように自由な飛行体験を実現する飛行形態である。