大学生のときの衝撃から10年。「緊急避妊薬を薬局で買える」実現までの長すぎた道のり
FRaUwebの編集者が福田和子さんと初めて直接会ったのは、2018年12月7日、衆議院第一議員会館で開催された『生きづらさを抱える女の子たちの心と体を守るには? 性の健康の課題を語ろう!』という緊急避妊薬に関する第1回院内勉強会だった。
当時、国際基督教大学大学院の学生だった福田さんが、「#なんでないのプロジェクト」というコンテンツを立ち上げ、世界から大きく遅れている日本のSRHR(性と生殖と健康に関する権利)の課題を発信していたことは知っていた。その福田さんが、勉強会で声をつまらせ涙しながら、女性たちが緊急避妊薬を求める切実な声を伝えていた。「彼女の声を聞かねば、そして、記事として届けねば……!」と感じ、日本での緊急避妊薬の課題について寄稿してほしいと依頼をした。
その最初の記事が、FRaUwebリニューアルの2019年3月15日に公開された。

2019年3月、福田和子さんが最初に寄稿してくれた記事
あの日から約7年、福田さんは、「誰もが必要なときに入手できる形に」と緊急避妊薬の薬局販売の活動を続けてきたが、他の国では当たり前のことが日本ではなかなか実施されなかった。そのたびに苦しい思いを重ね、国の課題や思いを寄稿してくれた。
そんな活動を続けてきた福田さんらの思い、緊急避妊薬について声を挙げてきたすべての人たちの思いが2月2日「緊急避妊薬、薬局販売」という形で実現する。実現に至るまでの思い、そして今もある課題について、改めて福田和子さんが前後編で寄稿する。
ついに、実現した薬局販売
2026年2月2日、緊急避妊薬、通称アフターピルの薬局販売がついに開始となる。
緊急避妊薬とは、なるべく早く、遅くとも72時間以内に服用で高い確率で妊娠を防ぐことができる薬であり、その時間的制約と薬の高い安全性、必要性から、世界では90ヵ国以上で処方箋の必要なく薬局で入手が可能だ。金銭的負担についても、国民保険などでカバーされたり、特に若年層には無料で提供されたりする国もある。
一方日本ではこれまで、医師の診察、処方箋が必要で、価格も15,000円前後と他国に比べて非常に高額だった。そんな日本の実態に疑問を感じた仲間たちと2018年から、「#緊急避妊薬を薬局で」というスローガンを掲げアドボカシーをはじめた。そして、このたび、ついに薬局販売が実現することとなった。
販売名は「緊急避妊薬 ノルレボ®」。価格はメーカー希望小売価格で税込1錠7,480円だ。緊急避妊薬の知識や入手方法などについて、第一三共ヘルスケアの「ノルレボ®」のブランドサイトにも記されている。2月2日の発売にあたり、サイトでは厚生労働省が公開予定のリストをもとに、取扱店舗の検索をサポートするシステムの公開の準備も進めているという(2026年2月1日現在)。

販売店の検索や緊急避妊薬の使用方法などについても知ることができる「ノルレボ®」のサイト
始まりはスウェーデンの薬局での衝撃
私は、2016~2017年の2年間、スウェーデンへ交換留学に行った。私が緊急避妊薬について取り組むきっかけとなったのは、ある日何気なく薬局に行ったときのことだった。「NORLEVO(ノルレボ)」「Levonorgestrel(レボノルゲストレル)」と、緊急避妊薬を意味する言葉を冠したパッケージが目に入った。よく見るとやはりそれはやはり緊急避妊薬で、価格は1500円弱(2016年当時)。話を聞くと、若者には無料になることもあるという。値段が安く、さらに処方箋の必要なく入手できることに衝撃を受けた。
当時日本では、緊急避妊薬を入手するには処方箋を病院でもらうことが必須。今はジェネリック医薬品なども出て、価格は1万円前後が一般的になりつつあるが、当時はそれもなく、病院によっては2万円を超える場合もあった。しかも、「ヤッペ法」と呼ばれる、中用量ピルを使用する方法も存在した。ヤッペ法は、緊急避妊薬のノルレボよりも効果は低く、2度に分けて服用する必要がある。副作用も強く出やすいのが特徴だ。しかし、価格は緊急避妊薬よりも安い5000円程度。
あのころの私たちは、この2種類の緊急避妊の間で、「妊娠したらどうしよう」という恐怖、「少しでも避妊成功の可能性を高めたい」という切迫感、そして「2万円も出せない」という現実を前に、究極の選択を迫られていた。そんな苦しい状況の中、なんとか病院にたどり着いても、冷たい視線や責められるような言葉に直面することもしばしばあった。それでも、病院に行くことができればまだいい方で、お金が足りなかったり、近くに病院がなかったりすると、ネットを検索しまくって真偽不明の緊急避妊薬に手を伸ばさざるを得ないという声も聞いてきた。しかし、日本の状況しか知らなかった私は、そういったアクセスの困難さを疑うことさえなかったように思う。
だから、スウェーデンの薬局で緊急避妊薬を見つけたときには、その不条理さがあまりに悔しくて、白昼であったが泣いてしまった。今、私は腕を伸ばせば、棚に置かれた緊急避妊薬を入手することができる。でも日本では、それができずにこの瞬間にも妊娠するのではないかという不安で押しつぶれそうになっている人が山ほどいるはずだ……。こんなことがあっていいのか。過去の自分を振り返り、日本で暮らす女性たちを思い、涙が止まらなかった。
しかもよく調べてみると、世界では90ヵ国以上で薬局販売がされ、WHO(世界保健機関)も「意図しない妊娠の不安を抱える全ての女性・女の子に緊急避妊にアクセスする権利がある」としていた。スウェーデンが特殊なのではなく、日本の状況がおかしいんだ。日本でも、処方箋の必要なく、薬局で売られていいはずだ。そんな強い思いを抱え日本に帰国。そして、産婦人科医の遠見才希子さん、性教育を行うNPO法人ピルコンの染矢明日香さんと3人で、緊急避妊薬を必要とする誰もが安心して確実にアクセスできる社会を目指し、「#緊急避妊薬を薬局で」プロジェクトをはじめたのである。

戦いはあまりに長かった
それからが長かった。当時の私は、「たまたま忘れられてしまっていただけ、3年も経てば薬局販売は実現するのでは?」そんな希望的観測でいたが、早々に打ち砕かれた。今思えば、最初の厚生労働省での検討、パブリックコメント募集が2017年だったので、ほぼ10年の時がかかっている。このとき、国は「時期尚早」とし、この状態が長く続くこととなった。
2018年、「#緊急避妊薬を薬局で」プロジェクトの私たちがまず始めたのは、オンラインでの署名活動と国際的なエビデンスやガイドラインの翻訳、そしてアンケートを実施し、当事者の声を集めることだった。それらを合わせて、国会議員や厚生労働省、産婦人科医会など、関連するアクターたちに届けたのだ。

第1回目の院内勉強会のとき。衆議院第一議員会館の前で。写真提供/福田和子
2021年5月には、厚生労働省に正式に再度の検討を要請した。オンラインでの署名は18万筆を超え、議員会館で行う院内勉強会の開催は10回も重ねた。オンラインでの調査もこれまで合計4回実施し、回答者が1万人を超えることもあった。2023年、国が国民の意見を集めるパブリックコメントを行った際には、オンライン上で「パブコメをしよう」と呼びかけた。年末年始を挟む短い募集期間であったものの、日本各地で、緊急避妊薬の薬局販売への声が広がり、友人同士や有志で集まってパブコメを送る会なども開かれた。
結果として、今まで国が行ったパブリックコメントでは異例ともいえる4.6万件超の意見が集まった。そしてその声の約98%がOTC化、つまり処方箋なしでの薬局販売に賛成という結果になった。この力は大変大きなものとなり、最初の検討時のように「時期尚早」と打ち棄てることはできず、その後に続く「試験的運用」としての薬局販売をもたらした。
緊急避妊薬入手に関する議論は、国内にだけにとどまらなかった。国連における2023年のUPR審査(普遍的・定期的レビュー)や2024年のCEDAW(女性差別撤廃委員会)でも、緊急避妊薬のアクセス改善に関して、勧告が出た。
CEDAWについては私自身、仲間たちとともにジュネーブに赴き、日本のSRHRの実情を訴えてきた。「すべての女性と女児に、緊急避妊薬を含む手頃な価格の現代的避妊法への十分なアクセスを提供すること。これには、16歳と17歳の女児が避妊法を利用するために親の同意を得るという要件を撤廃することも含まれる」という勧告が出たとき、やはり「おかしい」と声を挙げてよかったんだと、心底励まされたことを覚えている。
こういった活動を重ね、2025年5月、ついに染矢氏とともに厚生労働省の検討会の構成員として参加し、2026年2月の薬局販売へと至ったのだ。喜びとともに、あまりに長かったというのも正直な思いである。
浮かび上がる当事者なき検討の問題点
緊急避妊薬の問題に取り組むようになって、さまざまな声を伺った。声はどれも、苦しくなるほど切実なものばかりだった。会見や提言の際、寄せられた声を読み上げるとき、必死で涙を抑えることもたびたびあった。せっかくかさぶたのできかけた心の傷を引っ掻くような気持ちで、声を届けてくれた方も少なくなかった。その声なしに、緊急避妊薬の薬局販売の実現は不可能だったと、つくづく思う。しかし、本来ならそれはおかしなことだ。涙を流して訴えずとも、当然の権利として保障されていいのが、医療アクセスであるはずだ。
にもかかわらず、すでに世界中で薬局で売られていて、思春期の女子含め安心安全に利用できるというエビデンスもあった薬に対して、痛みを伴う山ほどの声を前にしてもなお、「悪用の懸念」「知識が足りない」「安易な服用」と、国際的なエビデンスに基づかない個人的な私見による議論が永遠かと思われるほどに続いたのだ。そういった国の姿に、私たちの痛みがこの社会では、こんなにも些細なこととしてしか扱われない現実を痛感した。思い付きのような一言で議論や調査が延期されるたび、一体どれだけの人たちが心を押し潰されそうな日々を過ごすのか、今この瞬間も切実な思いを抱え戸惑っている人がいるというのに……。そういった危機感や切迫感をまるで感じられず、絶望した。
今回、緊急避妊薬は確かに薬局販売が叶った。しかし、本件を通じて浮かび上がった、当事者不在、多様性に欠けた意思決定層の問題は、十分に検証されるべきだと思う。加えれば、処方箋なしでの実現したというものの、課題は山積みだ。
後編「北海道は札幌で買えない…!?「緊急避妊薬を薬局で買える」実現後も山積みの「問題点」」では、詳しい入手方法に加え、残された課題についてお伝えする。