「生成AIの学習」「AI検索」が著作権侵害に当たるケースは?日本弁理士会が解説
日本弁理士会が2026年1月28日、生成AIと著作権に関するメディア向けの説明会を開催した。
同会ではこれまでも「生成AIと著作権法の論点整理」、「生成AIと創作活動」、「生成AIと知的財産権」などのテーマで継続的に説明会を開催してきた。今回は、「生成AIに著作物を学習させる行為」や「AI検索サービスと著作権」をめぐる問題が中心テーマとなった。

説明を行った、日本弁理士会 著作権委員会 委員長の久村吉伸氏
2025年の動向を総括、「AIを著作権の観点から見ることがより重要に」
説明会の冒頭、日本弁理士会 著作権委員会 委員長の久村吉伸氏は、2025年の出来事を示しながら「著作権分野では、2025年も『生成AI』が話題の中心だった」と述べた。
たとえば日本国内では、人気アニメのキャラクターのポスターを生成AIで複製販売した男性が書類送検されたり、自分の顔写真を有名な作風(ジブリ風など)に真似た画像を生成することが流行したりする動きがあった。
また、AI学習における書籍の無断利用を合法(フェアユース)とする判決が米国で出たり、新聞記事を無断利用しているとして日本の大手報道機関がPerplexity(パープレキシティ)を提訴したりといった、法的な動きも見られた。その一方で、ディズニーがキャラクターの利用についてOpen AIとライセンス契約を結ぶといった、知的財産のAI利用に前向きな動きも始まっている。
日本では、日本民間放送連盟が生成AI開発者に対し、無許諾でのコンテンツ学習中止などを求める声明を発表した。さらに公正取引委員会が、AI検索の実態について調査を開始する動きも見られた。
こうした動向を総括して、久村氏は「AIを著作権の観点から見ることがより重要になってきた」と強調したうえで、次のような見方を示す。
「AI学習用途も、AI検索用途も、使用される書籍やインターネット記事は多種多様であるものの、いずれも著作権での保護は『創作性のある部分/ない部分』で分かれる。だが、権利制限規定の具体的な適用が異なり、議論を要する部分も存在する」
2025年の著作権分野における主な出来事
著作権法30条の4:“AI学習用途ならば著作権侵害にならない”と単純に理解してはいけない
久村氏が取り上げたひとつめの題材が、2025年6月に米国で判決が出た“作家 VS. Anthropic(アンソロピック)”の訴訟だ。これは、AnthropicがAIモデルの学習に書籍を無断利用したとして、米国の作家たちが著作権侵害の集団訴訟を起こしたもの。
判決では、正規ライセンスに基づき入手した書籍データをAIに学習させることはフェアユースと判断する一方で、Anthropicが海賊版書籍のデータを用いた部分が著作権侵害に当たるとされ、最終的にはAnthropicが15億ドル(約2200億円)を支払う形で和解が成立した。
「米国ではフェアユース(公正利用)を個別に判断することになるが、ひとつの判断例として『海賊版書籍についてはフェアユースに該当しない』ことが示された」
久村氏は、日本においても同様の見解になる可能性があると説明した。
日本では、著作権法30条の4において、AI学習やデータ解析に著作物を無断利用してよいという例外規定があり、“学習パラダイス”と表現されるほどだ。ただし、条文には「著作権者の利益を不当に害する場合を除く」とも明記されている。文化庁ウェブサイトで公開されている資料「AIと著作権Ⅱ」では、「海賊版等と知りながらの学習データの収集を行うといった行為は、厳にこれを慎むべきもの」との考え方が示されている。これらのことから、久村氏は次のような見解を述べる。
「AI学習を目的に海賊版書籍をデータ収集に利用する行為は、例外規定とされる30条の4が適用されない可能性があると考えられる。正規版であれば著作権者に多少なりとも利益があるが、海賊版は『著作権者の利益を不当に害する』と見られるからだ」
AI学習用途での著作物利用に対する制限が比較的ゆるやかな日本だが、もちろん制限されるケースはある(出典:文化庁 資料「AIと著作権Ⅱ」
さらに、正規版の書籍(電子書籍)はダウンロード先やデータ改変に制限がかかっていることが一般的だが、海賊版にはそうした制限がなく、コピー&ペーストやデータの改変が容易にできることも、著作権者にとっての懸念点だと付け加える。
もうひとつ、正規版書籍を用いる場合でも、その利用目的が30条の4に示された「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」という例外規定に該当するかどうかが議論になるという。
「AI学習を目的とした書籍データの収集および利用行為は、常に30条の4(の条文解釈)がつきまとう問題となる。“日本は学習パラダイス”などと言われるが、AI学習目的であればデータ収集利用が何でもOKになっているわけではない。正規ダウンロードなどで合法的に入手したもの以外は、原則として著作権侵害となる。著作権法30条の4は『例外』として、一定の範囲内でのみOKであるという基本に立ち戻って考える意識が大切だ。例外なので、海賊版の利用以外でも、行為が認められないことは十分にありうる」
ちなみに日本では近年、海賊版書籍への対策が進んでおり、海賊版をアップロードした人物だけでなく、海賊版書籍のダウンロードサイトへのリンクを張った場合や、海賊版書籍に関する情報掲載をサイト管理者が放置した場合にも著作権侵害と見なされる。
利用が急増する「AI検索」、著作権の視点から見た問題点
2つめのテーマである「AI検索」については、2025年8月、日本の大手報道機関が記事などを無断で利用しているとして、米国のAI検索サービスであるPerplexityを提訴したこと、その一方で、AI検索事業者と報道機関が提携して収益を分配する動きも見られることを題材に取り上げた。
現在利用者が急増しているAI検索は、ユーザーの質問意図をAIが理解し、ユーザーの代わりに検索を実行して、得られた情報をAIが統合/整理して回答を生成する「RAG(検索拡張生成)」の仕組みを使っている。このとき、インターネットで検索した結果を「複製」し、そのままAIに入力している場合が多い。ここで、情報を「複製」する行為が介在していることで、問題が起こりうると説明する。
「合法入手以外の部分は、原則、著作権侵害となる。だが、例外として一定範囲内の公正利用がある。日本では、著作権法30条の4 、47条の5、32条についての議論になる」
具体的には、先に触れた30条の4の例外規定(「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し……」)に、AI検索も含まれるかどうかが問題だという。久村氏は、文化庁の公開資料などを基に考えると「一部のRAGには30条の4は適用されない」と指摘する。検索AIが元記事と類似する表現を出力するようなケースでは「アウトと判断されることになると見られる」という。
さらに、AI検索がどのような回答を出力するのかは、ユーザー側の利用方法よりもサービス提供側の設計による部分が大きい。加えて、サービス提供側が、元記事と類似する表現を避けるような技術的対策も可能と想定される。そのため、「十分な対策がなされないまま、類似表現を頻繁に出力するようなAI検索サービスを提供した場合は、サービス提供者の責任が問われる可能性がある」と指摘する。
ただし、久村氏は「(サービス提供側に)そこまでの責任を問えるのかどうかが、著作権法の難しいところ」「果たして、侵害行為の責任主体はどこにあるのか。利用者なのか、提供者なのか。その点での議論が生まれることになる」とも語る。
もっとも、著作権法113条の3項では、ウェブサイトに海賊版の情報が掲載されている場合、サイトの提供者が技術的に可能な防止措置を取らなければ、著作権侵害行為と見なされると規定されており、AI検索でも同様の責任が問われる可能性があることを示唆した。
AI検索と従来型のインターネット検索の、著作権法上の扱いの違いにも触れた。
著作権法47条の5では、情報の検索や解析、およびその結果を提供する行為に付随した「著作物の軽微利用」を認めている。従来のインターネット検索では、検索にヒットしたサイトの冒頭の1~2行が複製して表示されるが、これは軽微利用に該当し、著作権侵害とは見なされない。
一方で、従来のインターネット検索との差別化を目的とするAI検索では、これまでよりも多くの情報が表示される。「これは『軽微利用』や『付随して』という範囲を超える情報を出力し得るものであり、47条の5は適用されないと判断される可能性がある」と指摘する。
それでは、著作権法32条で規定されている「著作物の引用」という利用行為についてはどうか。久村氏は「AI検索では、インターネット記事のほぼ全文を解析のために複製しており、引用の要件は満たしにくいと思われる」と述べつつ、「47条の5において、AI生成物の出力が著作権侵害になるかどうかという議論が出てくるとすると、そのAI生成物の出力が、引用に当たるのか当たらないのかも議論となり、判断が複雑化する可能性がある」とコメントした。
AI検索についてのまとめとして、久村氏は次のように語った。
「AI検索についても、正規ダウンロードなどの合法入手以外の部分は、原則、著作権侵害となる。『例外として』一定の範囲内のみをOKとするという考え方に立ち戻る意識が大切だ。また、30条の4などの創設時には、AI検索などは想定されていなかった。その点では、その条文が有効に働くのかどうか、設けられている権利制限規定の真価が問われることになる」
著作権法だけでなく、その他の法律も活用しながら権利保護を
久村氏は、著作権法の観点からは、AI学習用途、AI検索用途のいずれであっても「創作性に関して著作権が保護されるか否かがポイント」であり、使用時に著作物を複製する行為が著作権侵害になりうることや、情報解析用途などでの権利制限規定に関する議論が必要だと指摘する。
さらに、書籍やインターネット上の記事については、著作権法=「創作性」だけでなく、「努力への対価」「経済的利益」「公正競争」といった観点からも権利保護が検討されるべきだと述べた。
「書籍もインターネット記事も、表現の創作過程だけでなく、情報入手のための身体的労力、真正性を確認するための作業など、それ以外の過程でも多大な努力が存在する。しかし、これらは著作権保護の範囲外になる」「AI検索による“ゼロクリック時代”が訪れ、これらの努力への対価の回収が難しくなる懸念が生まれている。それを防ぐために無料公開をやめれば、タイムリーな情報を多くの人に提供することが難しくなり、本末転倒といえる事態を生みかねない」
まとめとして、生成AIと著作権法については国内でも訴訟が起きており、「権利制限規定の解釈や有効性などについては、今後、何らかの司法判断が出て来る可能性がある」と述べた。著作権法だけでは十分な対処が難しい問題も想定され、民法、不正競争防止法、独占禁止法なども「オプションとして活用すべき」だと提言する。また、ディズニーとOpenAIのようなライセンス契約による協業など、複合的なビジネスモデルづくりが進むことも予想されており、「当事者同士が互いに良い関係を築くことができる決着も期待される」と総括した。