半導体を大学で学ぶ意味とは? 「物理が赤点すれすれでも大丈夫」 20年後も役立つ未来の学問

■特集:大学の特色ある学び

スマホ、ゲーム機、テレビ、冷蔵庫、自動車をはじめ、日常生活に欠かせない機器に使われているのが半導体です。AI(人工知能)関連の需要が増加していることも影響して、半導体市場は拡大しています。業界に熱い視線が注がれる中、京都産業大学は2024年度から理学部物理科学科に「半導体産業コース」を新設しました。何を目的とし、どんなことを学ぶのでしょうか。(写真=ICの実習の様子。京都産業大学提供)

「ものづくりの土台」となる力

アメリカの半導体メーカー・エヌビディアや、台湾のTSMCの株価が上昇し、エヌビディアがチャットGPTを開発したオープンAIに最大1000億ドル(約15兆円)の投資を発表するなど、世界的に半導体業界が注目を集めています。

半導体の増産は、国内でも急務になっています。経済産業省は、半導体産業の振興を重要な政策課題と位置づけ、21年に「半導体・デジタル産業戦略」を策定しました。戦略的支援を行い、22年に約6兆円だった売上高を、30年には15兆円に伸ばすことを目指しています。生産体制の整備に伴い、将来は半導体産業で働く人が不足すると考えられています。

24年度に開設された京都産業大学理学部物理科学科の「半導体産業コース」は、学生が決められた授業の単位を取得すると、履修認定が得られるプログラムです。理学部の牛瀧文宏学部長は、コースの特徴を次のように話します。

学生と企業の両方にとって、大学での学びがどのように半導体産業とつながっているのかが見えるように、このコースを設計しました。

物理を学ぶには数学が欠かせません。物理科学科ではこの両方にしっかり取り組むことで、数学を用いて論理的に物事を捉え、解決する力が養われます。これは、ものづくりの根幹を支える、何にも代えがたい基礎力です。ただ、その力を就職活動でどう伝えるかに悩む学生も少なくありません。

そこで、大学での学びと半導体産業とのつながりを明確にし、学生が自分の強みを自信を持ってアピールできるよう、『半導体産業コース』を設けました」

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牛瀧文宏・理学部長

新コースの開設は、企業へのメッセージも込めています。

「理学とは、『これはなぜだろう』という、ものの理(ことわり)を考える学問ですから、どうしても企業との連携が持ちにくい部分があります。しかし、物理科学科は1年次から実験を豊富に行い、理論も数学も学んでいます。半導体産業コースの新設によってそこをアピールし、ものづくり系の企業に注目してもらいたいと思っています

コースの開設は、京都産業大学の建学の精神である「将来の社会を担って立つ人材の育成」にも沿っています。21年に政府が決めた成長戦略実行計画では、宇宙、量子、AI、スーパーコンピューター、半導体、原子力、先端素材、バイオ、海洋などの分野で先端技術の育成を支援することなどが計画されています。その中で、理学部が役に立てるのは半導体と宇宙の分野と考え、24年度に「半導体産業コース」と「宇宙産業コース」の2つを同時に設置しました。

半導体はどうやって動いている?

未来を見据えた「半導体産業コース」では、どんなことを学ぶのでしょうか。

履修が必要なのは、「半導体工学基礎」のほか、「固体物理学B」、「実験または計算機の実習」の3つの科目です。理学部物理科学科の瀬川耕司教授は、「根幹となる物理学をしっかり学ぶとともに、半導体の基礎を知り、実習で半導体を使う経験をしてほしい」と話します。

例えば、アナログ回路の実習です。そもそも半導体とは、ある条件によって電子を通す物質のことです。物質にはほかに、電子を通す「導体」と、電子を通さない「絶縁体」があります。半導体であるトランジスタ、ダイオードなどの電子部品を、1枚の基板の上に組み合わせたのがIC(集積回路)です。実習ではICを電源や信号に接続してLEDを点灯させたり、モーターを動かしたりします。

「半導体がどうやって動いているのか、自分の手で実感してもらいます。今は何でも動画を見てわかった気になってしまうところがありますが、実際に自分の手で触って動かしていく経験は、得られる情報量が圧倒的に多いです

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理学部物理科学科の瀬川耕司教授

現在のICや半導体は高度に進化していますが、根幹の部分は変わりません。そこをしっかり体験するのです。物理学の研究をする時に回路を組むことがあり、その基礎としても役立ちます。「半導体工学基礎」の授業では、量子コンピューターについても学びます。

半導体産業コースでは、どのような

人材を育てようとしているのでしょうか。

「最新の技術は企業が持っていますから、大学で教えることはできないし、技術は急速に進歩していくので、今の新しい技術を教えたとしても、時がたてば陳腐化してしまいます。それよりも、技術の根底に流れているものをしっかり身につけてほしいです。物理は自然科学の基礎の基礎であり、技術はその上についてくるものです。つまり、物理を勉強していれば、何にでも応用できるのです。10年後、20年後と長期的に役に立つと思います」(瀬川教授)

高校の物理は赤点すれすれ

京都市には、TOWA、ローム、京セラなどの半導体関連企業があり、企業から人を招いて講義をしてもらう授業も予定しています。牛瀧学部長は「京都産業大学は京都市内では数少ない、理系の学部を持つ私立大学です。市内の企業とつながることによって、京都の活性化にも寄与できたらと考えています」と話します。

24年度の物理科学科の新入生に志望理由をアンケートしたところ、開設したばかりにもかかわらず、「半導体産業コースがあるから」と回答した学生がいました。瀬川教授はこう話します。

「大学受験の傾向が変わってきているのを感じています。以前は偏差値の高い大学で合格できたところに行く傾向がありましたが、最近は大学のことをよく調べていて、ここに行きたいと一点に絞ってくる学生が増えています

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モーターの回転を制御するアナログ回路を組むことで、実際の半導体の動作を学ぶ

物理科学科は1学年40人、そのうち女子は約5分の1で増加傾向にあります。25年度の入学者のうち、半導体産業コース修了の認定者は、10人ほどになる見込みです。

瀬川教授に、受験生と保護者へのアドバイスを聞きました。

「理科や数学で楽しそうに見えるものがあったらその方向に進むといいと思います。私は高校1年の時の物理のテストが赤点すれすれでしたが、数学を入り口にして物理が面白くなり、研究者になりました。大学からの物理学には、微積分を使うため高校までとは違う面白い世界が広がっています。保護者の方には、赤点を取った子がその後物理に進みたいと言っても、『無理だから志望を変えなさい』などと言わないでもらいたいと思います」

そしてオープンキャンパスに行くことを勧めます。

「高校生にとっての物理は力学、電磁気、音などですが、大学の授業を体験すれば、その先にまったく違う世界が広がっていることがわかってきます。希望していない学部ものぞいてみてください。社会科は暗記科目ではないことなど、全然知らない分野が見えてきます。オープンキャンパスの授業科目を調べておいて質問するなど、予習をしてから行くといいですね。同じ大学に何回行ってもいいんです。中学3年や高校1年くらいの早い時期から、複数の大学のオープンキャンパスに足を運んでほしいと思います」

プロフィル

牛瀧文宏(うしたき・ふみひろ)/京都産業大学理学部長、理学部数理科学科教授。専門は位相幾何学。大阪大学理学部数学科卒、同大学院理学研究科数学専攻博士課程修了。理学博士。2009年から京都産業大学教授、23年から理学部長。

瀬川耕司(せがわ・こうじ)/京都産業大学理学部物理科学科教授。専門は物性物理学の実験研究。京都大学理学部卒、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程修了。電力中央研究所研究員の後、東京大学博士(理学)。大阪大学産業科学研究所准教授などを経て、2015年から現職。

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(文=仲宇佐ゆり、写真=京都産業大学提供)