トライアル「かつ重299円」激安でうまい舞台裏

トライアルのロースかつ重299円、これはどのように実現されているのだろうか(写真:筆者撮影)
前編では、トライアルの惣菜売り場に足しげく通う筆者が、「おすすめ惣菜トップ5」を紹介した。299円のロースかつ重、たっぷり玉子サンド、甘さ控えめなのに満足感あるおはぎ――。どれも「この価格でこの味?」と驚くものばかりだ。
【写真】「299円で本格的な味!」卵とろとろでおいしいロースかつ重
昼間は仕事の休憩中と思われる男性客がお弁当を求め、夕方は食材の買い出しに来たひとたちで惣菜売り場はにぎわっている。トライアルが地域の食堂にも冷蔵庫にもなっているように感じる。
安くておいしいトライアルの惣菜は、いかにして実現されているのか。どのように作られ、店頭に並ぶのか。今回は、トライアルの惣菜事業を担う「こはく本舗」の北川雅章社長への取材をもとに、その舞台裏に迫る。
ロースかつ重299円、驚異のリピート率
トライアルの惣菜のなかで、圧倒的な人気を誇るのがロースかつ重だ。年間の販売数は1300万食(※2024年9月1日~2025年8月31日実績)。そしてリピート率は高いという。
私がこの商品に惹かれる理由のひとつは、卵の「トロトロ感」だ。半熟の卵が、出汁がしみたごはんとかつに絡み合う。あの出来立ての感じが、299円で味わえる。
いつも疑問に思っていた。このトロトロ卵のかつ重が299円。なぜこんなに卵が絶妙なトロトロ加減で提供できるのか――。
北川社長に尋ねると、意外な言葉が返ってきた。
「実は、シズル感はかなり意識しています」
シズル感――。299円の惣菜を作る現場から、この言葉が出てくるとは思わなかった。

半熟卵がうれしい、ロースかつ重(299円)(写真:筆者撮影)
さらに驚いたのは、このトロトロ卵を安定して再現するために、専用の機械を開発したというのだ。その専用機械を各地の調理拠点に導入することで、どの店舗で買っても、同じトロトロ卵が味わえるようにしている。「299円でおいしい」を実現するために、専用機械を開発する。いや、専用機械を開発することで、「299円でおいしい」を実現できているのかもしれない。「安くておいしい」の実現にトライアルは本気だ。
おいしさへのこだわりと、299円という価格。この両立は、どのように実現されているのか。その答えをさらに掘っていく。
「安モノ売り」から「食が武器の店」へ
今では、このロースかつ重を目当てに来店する顧客も多いという。
スーパーの惣菜といえば、買い物の「ついで」に手に取るものというイメージがあった。しかし、筆者自身もそうであるように、トライアルでは惣菜が来店の目的になっている。
「惣菜を目的としてお客様がトライアルを選び、来店されるようになってきている」と北川社長も手応えを感じている。
その背景には、大きな転換点があった。
「昔のトライアルは、いわゆる『安モノ』『ディスカウントストア』というイメージを持たれている方が多いと思います。食品という部分に対して、お客様に訴求していなかった時代がありました」
北川社長は振り返る。
ところが2016年頃、社会環境の変化やビジネスの持続可能性を考えたトライアルは、「食が大きな武器になる」という考えのもと、“生鮮繁盛店”を目指すことにした。
その取り組みのひとつが、「商品力の向上」だ。
惣菜の企画から製造までを総括するプロ集団と組んで、ロースかつ重や卵サンドといった人気商品が生まれていった。「来店のスイッチ」となる惣菜は、この転換から生まれた。
変化は、売り場にも表れている。
多くのスーパーは、入り口から野菜、鮮魚、精肉と続き、惣菜コーナーは一番奥にあることが多い。しかし私が通うトライアルでは、入り口を入ってすぐに惣菜売り場がある。昼ごはんを買いによく通う私には、この動線がありがたい。そこには、単に利便性以上の思いが込められていた。

筆者が通うトライアルは、入り口を入ってすぐ左手にお惣菜売り場がある。すべての店舗ではないが、入り口すぐに惣菜売り場になっているトライアルの店舗は多い(写真:筆者撮影)
「商品をよくするだけではなく、惣菜を店の入り口近くに配置し、お客様に見ていただくことで、トライアルの取り組みを伝えることにもつながっていると思います」と北川社長。
「安モノ」ではなく、「食に力を入れている店」だと感じてもらう。入り口の動線設計には、その意図が込められていた。(※ただし、一部店舗は入り口付近が惣菜売場でないこともあります)
「食」のプロ集団が生み出すお惣菜
ロースかつ重のように「来店のスイッチ」となる商品は、どのようにして生まれるのか。
惣菜の商品開発から製造までを担うのが「こはく本舗」だ。料理の専門家や職人が約50人いるという。「食」のプロが50人も集まるスーパーの惣菜部門と聞けば、それだけでも、「食」に力を入れていることがわかる。
さらに驚いたのは、売り場に並ぶ商品の選抜方法だ。
年間で約1600ものレシピが考案され、実際に店頭に並ぶのは約1割だという。毎週開かれる会議で、採用するメニューが決まる。
最終的に太鼓判を押すのは、こはく本舗の創業者であり会長を務める大塚長務氏。辻調理師専門学校を卒業後、一流レストランや星付き料亭を巡ってきた人物だ。その目と舌を通過したものだけが、トライアルの店頭に並ぶ。299円の惣菜の裏には、職人たちの試行錯誤があった。

「今日はどんなおにぎりが並んでいるかな」と楽しみになる、おにぎりコーナー(写真:筆者撮影)
トライアルのお惣菜は、採用されて終わりではない。
「職人が作る味を、どう再現するかが課題なんです」
北川社長は慎重に語る。
職人の手仕事には、どうしても属人的なブレが生じる。全国の店舗で同じ味を届けるには、再現性が必要だ。
そのために専門家やメーカーの知見を取り入れながら製造工程の整備、専用機械の導入など設備投資を行うことで工業化し、店舗ごとの品質のばらつきを抑え、安定した「シズル感」を提供している。「おいしさの再現」のために、さまざまな工夫を重ねているのだ。
「職人品質を全国展開」する。
一見、相反しそうなこのふたつを両立させているところに、トライアルの惣菜の強さがあるのだと感じた。
安くておいしいを両立する「全体最適」
「職人品質を全国展開」と同じように、「安くて、おいしい」の両立も難しそうに感じる。
一般的に、このふたつはトレードオフだと思われている。安いものは、安いなりの味。おいしさを求めれば値段が上がる。しかしトライアルは、このトレードオフを超えようとしている。
「原材料を削ったり、質を落としたりはしません。あくまでも『おいしい』が軸なんです」
北川社長は言い切る。

ロースかつ重(税込299円)卵のとろとろ感がおいしい(写真:筆者撮影)
では、どうやって両立しているのか? 答えは「全体最適」だった。商品開発の職人、原材料を調達するバイヤー、製造を担う工場、さらにメーカーや商社まで――。部門や会社の壁を越えたチームで工程全体を見直し、「おいしい」を軸に無駄を削ぎ落としていく。
原材料の仕入れにも、そのこだわりは表れている。
北川社長によれば、産地やブランドにこだわることもあるが、最優先するのは「狙った味を長期的に再現できるかどうか」だという。
特定の産地に固執するよりも、長期的な取引や数量を前提とした調達を行うことで、品質と価格のバランスを取りながら、全国の店舗で「おいしさの再現」を実現している。
299円のロースかつ重は、こうした全体最適の積み重ねの上に成り立っている。

11時頃店を訪れるとズラリとお惣菜が並んでいた(写真:筆者撮影)
「近くで作る」出店戦略
ほんのり温かい惣菜を手に取りながら、いつも気になっていた。トライアルの惣菜は、どこで作られているのか。北川社長に尋ねた。
半分以上が、店舗のバックヤードで作られているのだ。
数字の意味を、私は店頭で実感していた。スタッフがロースかつ重を売り場に並べはじめると、どこからともなくお客さんが集まってきて、あっという間になくなっていく。並べられたかつ重を手にとると、ほんのり温かい。

お昼前、作りたてのロースかつ重が補充されていた(写真:筆者撮影)
私が通う店舗でスタッフに聞いたところ、1回の製造で限られた個数しか作れないため、できた分から売り場に並べ、並んでは売れていくそうだ。この仕組みによって、温かい惣菜が常に売り場にある状態が生まれていた。スーパーで温かい惣菜を手に取れる。当たり前のようで、実はありがたいことなのだと気づかされた。
ちなみに、今東京出展で話題の「トライアルGO」は小型店であり、バックヤードにキッチンはない。ではどうしているのかというと、セントラルキッチンを店舗の“近く”に配置する「サテライト方式」を採用している。セントラルキッチンとは、複数の店舗に供給する調理施設のことだ。西友との統合によって得た店舗をサテライトキッチンとして活用している。
実は、調理施設と売り場の“近さ”に、トライアルGOのこだわりがある。
遠くの工場で作れば、物流に時間とコストがかかる。届くころには冷め、出来立ての温度や見た目――つまりシズル感が失われてしまう。近くで作ることで、鮮度と品質を保ちながら、物流コストも抑えられる。「安くておいしい」の両立は、ここでも実現されていた。

ロースかつ重が並ぶとお客さんが集まってくる(写真:筆者撮影)
新規出店する際にも、まず「どこで作るか」から設計する。30分以内をメドに惣菜を届けられる距離に店舗が作られているのだ。出店戦略とセントラルキッチンの配置は、セットで考えられている。
店内調理であれ、サテライトキッチンからの配送であれ、「シズル感を意識する」という北川社長の思いがこもっている。
「安くておいしい」は、物流の設計にまで及んでいた。
データで無駄を減らす
意外と知られていないが、トライアルはもともとIT企業だ。1974年に福岡市内で開業したリサイクル店が発祥だが、84年にPOSシステムの開発業に転換。その後、米ウォルマートの手法を学び、92年にディスカウントストア1号店をオープンした。データを経営に生かすことは、トライアルのDNAなのだ。
その姿勢は、惣菜事業にも色濃く表れている。トライアルでは、時間帯別・店舗別の販売データを細かく分析し、「いつ、何が、どれだけ売れるか」を予測している。そのデータをもとに、補充や調理のサイクルを設計しているのだ。
午前中はおにぎりなどの軽食、昼どきは弁当類が中心、夕方になると温かい惣菜が増える。この品揃えの変化は、経験則ではなくデータに基づいている。適切な時間に、適切な量を届ける。その仕組みが、緻密に設計されているのだ。

トライアルの惣菜売り場(写真:筆者撮影)
また、時間帯に応じて自動的に価格を変更する「自動値下げ」の仕組みも導入されている。フードロスの削減と、値下げ作業にかかる人手の省力化につながっているという。
さらに現在は、AIを活用した需要予測にも挑戦している。天候やイベント、周辺の人の流れなどを加味して、「明日はこれが売れそうだ」を予測する取り組みだ。メニュー開発においても、データは活用されている。世のなかのトレンドやメーカー・商社からの情報を常に収集し、「次に何を作るか」の判断材料にしているという。
フードロスの削減、人手の効率化、そして商品開発――。データを多角的に活用することが、「安くておいしい」を支える土台になっている。IT企業として始まったトライアルならではの強みが、惣菜売り場にも反映されている。

リニューアルや新メニュー、人気メニューはPOPでしっかりアピール。おいしさを伝える努力も惜しまない(写真:筆者撮影)
惣菜事業は「のびしろしかない」
取材の終わり、北川社長に今後の展望を聞いた。
「惣菜事業は、のびしろしかないと思っています」
その言葉に力強さを感じた。
物価高が続き、ライフスタイルも変化している。共働き世帯が増え、家庭で一から料理を作る機会は減っているそうだ。競合となるファミレスやコンビニといった外食や中食のトッププレイヤーたちとの垣根も取り払われてきているという。
職人品質×スケールメリットを生かし、「安くておいしい惣菜」を届けられるトライアルには、まだまだチャンスがあると北川社長は見ている。
「来店のスイッチになる商品を、もっと増やしたいんです」
ロースかつ重のように、「これを買いにトライアルへ行こう」と思ってもらえる商品を、一つひとつ積み重ねていく。その先に、トライアルの未来がある。
取材を終えて、いつもの惣菜売り場をのぞくと、ロースかつ重が並んでいた。
「かつ重あるけど、いる?」。もちろん確認の連絡を入れた。
299円に込められた、シズル感――。そこにトライアルの強さとこだわりが詰まっている。

トライアル外観(写真:筆者撮影)