山陽道「3000人襲った理不尽な停滞」 なぜ30台の不備を“走行中”に暴けるのか? 1台ずつ止めていた「あの検問」を過去にする驚きのシステムとは
冬の高速道路と装備の義務
日本高速道路保有・債務返済機構(神奈川県横浜市)のウェブサイトでは、冬の高速道路を走行する際には最新の気象情報や交通情報に留意するとともに、「冬用タイヤの装着とチェーンの携行をお願いします」と案内している。NEXCO西日本でも同じように、冬用タイヤの装着と、万が一に備えたチェーンの常時携行を走行上の遵守事項としている。こうした呼びかけは、冬季の高速道路で天候が短時間に変化し、突発的な大雪によって移動の安全が脅かされるリスクを前提にしたものだ。
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実際に2026年1月3日には、広島・山口県境の山陽自動車道で積雪による立ち往生が発生した。約30台の車両が立ち往生し、付近は通行止めとなった。最大で約23kmの渋滞が起き、
「約3000台」
が影響を受けた。広島県警には「ノーマルタイヤで雪にはまり立ち往生した」との通報が寄せられていた。
こうした事例は、個々の車両の装備不足が交通網全体の機能を麻痺させ、数千台規模の車両の時間価値を奪うという現実を示している。ひとりひとりの判断の誤りが、広域の物流や人の移動に多大な損失をもたらすことがあるのだ。冬用タイヤ規制は形式的なルールにとどまらず、インフラの稼働率を保ち、社会活動の停滞を回避するための強固な仕組みとして機能している。
こうした状況を避けるため、高速道路には降雪時の安全確保を目的とした規制が設けられている。日本自動車連盟(JAF)のウェブサイトによれば、その規制は
・速度規制
・冬用タイヤ規制
・チェーン規制
・通行止め
の四種類に分類される。なかでも「冬用タイヤ規制」は、雪や氷が道路を覆う可能性が高い状況で発動され、適切なタイヤを装着していない車両の進入を制限し、交通事故の発生確率を下げることを目的としている。
そのため「駆動輪へのチェーン装着」あるいは「全車輪に冬用タイヤ(スタッドレスタイヤなど)装着」の車両でなければ通行は許可されず、規制がかかる際には高速入口などでタイヤチェックが行われる。かつては1台ずつ人員が目視で確認していたが、現在は「冬用タイヤ自動判別システム」が導入され、選別プロセスの効率化と精度向上が進められている。
自動判別の導入背景

冬用タイヤ自動判別システム設置実績(画像:西日本高速道路エンジニアリング四国)
西日本高速道路エンジニアリング四国(香川県高松市)によれば、冬用タイヤ規制は積雪による通行止めを避けつつ、スタッドレスタイヤ装着車の通行を確保し、物流の停滞を防ぐことを目的としている。そのため道路を走行する車両がノーマルタイヤかスタッドレスタイヤかを確認するプロセスが必要となる。
かつては誘導員が車両を止め、確認員が目視でタイヤを確認する手法が一般的だった。しかし1台ずつ停止させる方式では後続車の滞留を招き、物流の定時性を阻害することがあった。規制対象となる地域ではマイナス5度からマイナス10度に達することも珍しくなく、屋外で長時間作業を続ける人員には大きな負担がかかる。加えて労働力の確保自体が難しい状況もあった。
少子高齢化で労働人口が減少するなか、人的負荷の大きい保安業務を人海戦術で維持し続けることは、インフラ管理の制約となっていた。『AIを用いた冬用タイヤ自動判別システムの開発』(西日本高道路エンジニアリング四国、愛媛大学、東京大学)という論文でも、多くの人員が必要な体制が負担を増大させていることや、交通量が多い時間帯に発生する渋滞を解消するためには省力化と作業の高速化が求められていることが指摘されている。
こうした状況を背景に、2016(平成28)年度から西日本高速道路エンジニアリング四国は「冬用タイヤ自動判別システム」の構築を進めた。判別作業の自動化によって規制業務は効率化され、現場に関わる人々の負担も軽減された。導入は四国エリアにとどまらず、京都府の舞鶴若狭自動車道 福知山インターチェンジ、広島県の中国自動車道安佐サービスエリア上り、大分県の大分自動車道狭間BS、そして上越地方や中部地方にも広がっている。
2024年時点では設置台数25台(うちレンタル18台)に達しており、限られた人的資源をより高度な判断や復旧作業に優先的に振り向けるための合理的な手法として定着しつつある。
運用の効率化と経費削減

一般的なタイヤチェックと冬用タイヤ自動判別システムの違い(画像:西日本高速道路エンジニアリング四国)
西日本高速道路エンジニアリング四国のウェブサイトによると、冬用タイヤ規制の一次選別には自動判別システムが導入されており、目視で確認する必要のある車両は以前に比べておよそ6割減少したという。
単位時間あたりにチェックできる台数も3倍に増え、規制にともなう渋滞の発生を抑える効果につながっている。以前は全ての車両を一時停止させていたため、走行経路上に物理的な抵抗が生まれていたが、このシステムによって交通の流れはより円滑になった。
人的資源の使い方も見直されている。2021年以前の現場では、誘導員5人、タイヤ確認員5人、補助員3人、規制車2台という体制で運用していた。それが2022年以降は誘導員ひとり、タイヤ確認員ふたり、規制車1台にリースの自動判別機1台を加えた運用が可能となった。限られた労働力を効率的に活用できることで、人件費の抑制だけでなく現場の安全性向上にもつながっている。
費用面での効果も明確だ。導入前には1か所あたり月額約430万円が必要だったが、導入後は月額約280万円に低減し、月間で約150万円の節約を実現した。この数字は単なる収支改善にとどまらない。渋滞緩和による燃料消費の抑制や、物流の定時性維持がもたらす広域的な利益を考えれば、運用の価値はさらに大きいだろう。
インフラ維持費を抑えつつ利用者の時間を守るこの取り組みは、持続可能な交通網の運営にもつながっているのだ。
システムの仕組みと精度

冬用タイヤ自動判別システム(画像:西日本高速道路エンジニアリング四国)
冬用タイヤ自動判別システムは、チェックエリアの数十m手前に設置され、時速約30kmで通過する車両のタイヤのトレッド面を撮影する形で運用されている。撮影した画像はAIが解析し、スタッドレスタイヤ特有の溝を認識して判別を完了する。判別の結果、ノーマルタイヤと判断された車両だけが誘導員によってチェックポイントへ案内される仕組みだ。
開発過程では、実際に使われているおよそ1万5000本のタイヤをAIに学習させており、気象や路面状況、時間帯などの変動が判別精度に影響しないよう、多様な条件下で撮影した画像を網羅している。また信頼度が基準に満たない場合には安全側に倒し、ノーマルタイヤと判断するよう調整されており、リスク回避の仕組みも組み込まれている。
このシステムを活用して、国土交通省関東地方整備局は2025年12月、栃木県那須町高久甲で冬用タイヤ装着率の調査を実施した。調査台数は887台で、装着率は
・全体:69%
・大型車:59%
・普通乗用車:73%
だった。早期調査であることを考慮しても、冬期の交通網において依然として一定数の車両が停滞を誘発する潜在的リスクを抱えていることが示された。
自動判別システムの導入は規制時のボトルネック解消に有効な手段ではある。しかし交通の流れを支える役割にとどまるのも事実だ。冬道の安全性やネットワーク全体の信頼性を最終的に左右するのは、結局のところ利用者の装備水準である。インフラ側の技術が進化しても、利用者の備えに対する意識が後退すれば、社会全体の移動効率は損なわれる。
高速道路を利用する際には予期せぬ積雪に備え、早めに冬用タイヤを装着するという、利用者側の責任と行動が円滑な交通の前提になるのである。
技術と利用者の責任

AI冬用タイヤ自動判別システムの革新。
AIによる自動判別システムの普及は、高速道路管理が抱える根本的な課題に向けたひとつの対応策として現れている。これまで雪道の保安業務は人手に頼らざるをえず、限られた労働力で渋滞や事故のリスクを抑えてきた。
背景には高齢化や人手不足といった社会的な制約があり、効率化は避けられない課題だった。自動判別は車両の停止やチェックにともなう摩擦を減らし、物流や通行の定時性を支える現実的な判断の延長線上にある。
ただし技術を導入したからといって、交通網全体の安全性が自動的に担保されるわけではない。どれだけ高度な仕組みを整えても、各車両が冬期に必要な装備を欠いていれば機能不全は避けられない。
自動判別はあくまで選別を迅速化する手段であり、最終的な責任は道路を利用する者自身に残る。高速道路の円滑な運用は、管理側の技術革新と利用者の備えが互いに支え合うことで成立する。
今後このシステムで蓄積されるデータは、交通管理の精度向上に活用され、冬季の移動にともなう不確実性を減らす役割を果たすだろう。目指すのは予期せぬ積雪に振り回されず、安定して計画的な移動が可能な道路環境の実現である。