「人生は短い」、前だけを見て59歳ひとり暮らし

子どもの頃の驚きを手放さない, 父のようには生きられなかった, “ミーハー”は、生き延びるための知恵だ, 太陽と月を見て暮らす理由, 無理して“家族”を演じない生き方

目黒区にある有田さんの部屋。戸建てでの家族との暮らしを経て、今は目黒区のワンルームでひとり暮らし(撮影:今井康一)

ひとりで住む人の部屋と人生を紹介する連載「だから、ひとり暮らし」。今回話を聞いたのは、デザイナーで大学講師の有田昌史さんだ。

【写真】星、月、地球、など天体モチーフが多い有田さんの部屋

法律の仕事から29歳で転身し、デザインやアートの分野で歩んできた有田さんは、かつて家族と一軒家で暮らしていた。いまは、アトリエやセミナールームとしても使うこの部屋で、ひとり暮らしを楽しんでいる。目黒区にあるワンルーム、24㎡、家賃約11万円。

家族と暮らす時間を経て選び取った「ひとり」の暮らしから、人との距離のとり方や、感性を保つ工夫を見ていく。

子どもの頃の驚きを手放さない

カラフルで、配色に独自のリズムがある有田さんの部屋は、つい立ち寄ってみたくなる雑貨店のような、美意識の行き届いた空間だ。

有田さん自身がデザインしたテキスタイルや、さまざまなモチーフのオブジェ、ページをめくりたくなるアートブックが、壁や棚のそこかしこにレイアウトされている。

アイテムも色数も多いはずなのに、まったく雑多な印象がない。天体、旅、ファンタジー。そうしたモチーフがコーナーごとにゆるやかにつながり、部屋全体を見まわしたとき、ひとつのストーリーが立ち上がる。こういう部屋を「世界観がある」というのだろう。

月や星、宇宙のモチーフがそこかしこにあることを指摘すると、「子どもの頃から、天体が好きだったんですよ」と有田さんは言う。

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星、月、地球、など天体モチーフが多いインテリアが、淡い空色の壁に映える(撮影:今井康一)

「星座そのものというより、星がどう動いているのかを見るのが好きでした。天体の動きをずっと追っていくと、きれいな軌跡を描くんです。あれって、花みたいな形になることもあって、とてもシンボリックで美しい。

昔の人って、星を見上げて、本当に驚いたと思うんですよね。空を見て、あれだけのものが動いているって、すごいことじゃないですか。僕は、そういう“最初の驚き”みたいなものが、ずっと好きなんだと思います」(有田昌史さん 以下の発言すべて)

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有田 昌史(ありた・まさふみ)/島根県生まれ、59歳。図案作家、占星術家、女子美術大学芸術学部講師、名古屋芸術大学デザイン学部客員教授。現在はこの部屋(リノベーション賃貸の REISM の賃貸物件)で私塾も運営。 https://lit.link/izumoarita (撮影:今井康一)

父のようには生きられなかった

夢を見ているような表情で話す有田さんを見ていると、生粋のアーティストという印象だ。しかし意外にも、最初のキャリアは法律関係だったという。

「父が法律家だったんです。父のことが好きで、尊敬もしていました。だから、まずは父のために、親孝行でその道を選んだという感じですね。でも父は、早くに亡くなったんです。そこから『自分は何が好きなんだろう、何をやりたいんだろう』と、考えるようになりました」

法律の仕事から、デザインやアートの分野へ転じたのは29歳のときだった。

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部屋は、作品の展示室としても利用している(撮影:今井康一)

「父は、家族のためにかなり無理をして生きていた人。それが良いとか悪いとかじゃなくて、そういう時代で、そういう役割を自然に引き受けていたんだと思うんです。でも、自分は同じ生き方は選ばなかった、というか……たぶん、選べませんでした」

それからの有田さんは、自身の興味に導かれるようにデザインの分野へと身を投じ、その経験を重ねながら、美術大学で教える仕事にも携わるようになった。家族をつくり、子どもを育て、その時間を終えたいま、この部屋でひとり暮らしている。

有田さんの顔には、59歳という年齢が刻みがちな疲れが、あまり見当たらない。この部屋にもまた、我慢や苦労を積み重ねてきた人にありがちな重たさは感じられない。

子どもの頃、天体を見上げて感じたという‟最初の驚き”。29歳で進路を切り替えてからの有田さんは、それを置き去りにすることなく、ここまで来たのかもしれない。

「クリエイティブに生きたい」と願う若者は多い。けれど、「クリエイティブに生きてきた」と、改めて胸を張れる大人は、そう多くないのではないか。

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さまざまな雑誌にも、その活躍が取り上げられている。(撮影:今井康一)

“ミーハー”は、生き延びるための知恵だ

「僕はずっと恵まれてきたように見えてしまうみたいで、よく『創作とか生活がうまくいかなくなった時期なんてあったんですか?』って言われるんですけど。普通の人だったらメンタル的に無理だろうな、っていうところを通ってきていますよ(笑)

よくアニメや映画とかで、吊り橋を全力疾走してわたり切って、振り返ったら、今来た橋が崩れている……ってあるけれど、まさにあれ。躊躇すると、落ちちゃうんです。向こう岸まで渡れない。前だけを見て思い切り走って、思い切り飛ばないと」

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テキスタイルの分野では、さまざまなブランドやデザイナーとコラボレーションし、世界を広げた(撮影:今井康一)

有田さんが活動を始めた90年代から今日まで、表現の場は何度も形を変えている。けれど彼は、ひとつの場所にとどまることなく、その都度、次の岸へと飛び移ってきた。

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アートブックは見せる収納にしてインテリアに(撮影:今井康一)

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オリジナルデザインのタロットカードやハンカチ(撮影:今井康一)

「僕がアート活動を始めた頃はIDÉEやBEAMSみたいな文化の発信地的なカフェがあって、そこで展示をやらせてもらったりしていました。壁に作品のテキスタイルやポスターを飾ったりしていると、たまたま来ていた出版社の編集の人が声をかけてくれて雑誌に掲載されたり。わりとトントン拍子。

でも同じことを、いまやってもうまくいかないですよね。カフェに作品を置いていれば、誰かが見つけてくれる、という時代ではなくなってしまった。

その代わり現代は、Instagramに作品を出しておくと、それを海外の人が見つけて、直接メッセージが来たりする時代です。それって昔にはない回路で、別の良さがあるじゃないですか。だから僕もInstagramには力を入れています。

表現方法でも、音楽やアートなどのカルチャーでも、いいなと思ったら、新しいものを素直に試すんです。年齢は関係ない」

有田さんの新しいことを試す姿勢は、何かを計算して動いているという感じでもない。面白そうなものがあれば、さっと飛びつく。そのくらいの距離感だ。

「僕、基本的にミーハーなんですよ。いいなと思ったら、すぐ触ってみたくなる。あんまり深く考えてから動く、というタイプじゃないですね。直感を研ぎ澄ますことが大切だと思います」

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蔵書を展示するコーナー。「ここにあるのは一部で、残りは倉庫に。気分で入れ替えています」(撮影:今井康一)

太陽と月を見て暮らす理由

もともとは仕事部屋だったセカンドハウスに、寝泊りもしている有田さん。この部屋で、いちばん好きなところを聞くと、それは窓からの風景だという。

「太陽の動きが見えるのが、すごくいいんです。朝の光と、夕方の光って、全然違うじゃないですか。その違いが、ちゃんとわかるのがいい。そして夜になったらなったで、月が出ていると、やっぱり見ちゃいますね。

ついつい目が惹かれることを、大事にしたいんです。感性を研ぎ澄ます、って言うと大げさかもしれないけど、当たり前のようにそこにあるけれど『見ちゃう』『感じちゃう』ものに対する感動を、ちゃんと感じ取れる状態でいることなのかな、と思います」

アートを教える現場で、学生たちにそういった話をすることも多いという。

「彼らにも、『気になるものは、ちゃんとていねいに見ておいたほうがいいよ。それは後から必ず自分の感性に還元されるから』って、アドバイスしています。だってたとえば、とても素敵な人がそこにいるのに、素通りするなんて馬鹿げているでしょ。ちゃんと足を止めて感動しないと」

目を奪われるものを見過ごさず、惹かれるほうへ足を向ける。有田さんはそんな選択を積み重ねてきた。

「人生って、思っているより短いじゃないですか。けっこうみなさん、あっけなくこの世を卒業される。だったら、もったいない時間の過ごし方はしたくないですよね。

自分らしく生きて、お互いリスペクトがある人との接点を持つことに、もっと貪欲になっていい。僕がひとつひとつの仕事に振り切れるのも、同じ理屈です。人生一度きりなんだから、考えすぎて躊躇していたらもったいない」

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美大の講師として長年勤務している(撮影:今井康一)

無理して“家族”を演じない生き方

そういった感覚は、人間関係にも通じている。家族について話すとき、有田さんは少し言葉を選びながら、こんなふうに表現した。

「家族って、よく考えると、異星人の寄り集まりみたいなもの。みんな、違う星から来たと思えば、無理にわかろうとしなくてもいいし、わかり合えたときは、より嬉しい。

僕には25歳の息子と20歳の娘がいるんですが、もう彼らも大人です。だんだんと親子の関係性をほどいた、人間同士の付き合いに移行しつつあります。

親として彼らを育てていた期間は、その関係性も楽しんでいました。音楽や文学、アートなどの、僕が好きなカルチャーを教えたりね。でも大人同士の付き合いも、また楽しい。信頼関係があれば、適度な距離を取っていても温もりを感じられるものです」

完全にわかり合うことを前提にしない。だからこそ、相手に過剰な期待をせず、自分を押し殺すこともない。その結果、役割を終えた関係が形を変えることもある。有田さんは、それを断絶ではなく、自然な更新として受け止めている。

この部屋を中心とした有田さんと人々の関係は、惑星の軌跡のように独特で、定型ではないかもしれない。それでも彼の部屋の窓には、今日も太陽が昇り、夜になれば美しい月が顔をのぞかせているはずだ。

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大きな窓から、空の移り変わりを眺めて(撮影:今井康一)

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キッチンは物が多いが、テイストが揃えられているから雰囲気がある。かわいいスポンジがアクセント(撮影:今井康一)

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飾り棚の上に何を置くかも、すべて計算されているようだ(撮影:今井康一)