反ワクチン政策が進められたせいでアメリカの慢性疾患患者が増加してしまうと専門家が警告

アメリカでは陰謀論者でワクチン懐疑派のロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉省長官の下、ワクチン諮問委員の全員が解任されたり、小児へのインフルエンザ予防接種の推奨が終了されたりと、反ワクチン的な政策が進められています。こうした政府の方針により、アメリカでは感染症に起因する慢性疾患の患者が増加してしまう危険があると、イェール大学医学部の博士研究員であるジャンナ・モーエン氏らが警告しました。

Vaccine denial sets Americans up for more chronic illness | Live Science

https://www.livescience.com/health/viruses-infections-disease/vaccine-denial-sets-americans-up-for-more-chronic-illness

感染症については「回復するか死ぬか」という2つの結果で捉えられがちですが、これは正しい認識ではありません。実際のところ、感染症で死ななかった人の中にも後遺症や慢性的な疾患が残り、その後の人生が大きく変わってしまうケースがしばしば発生します。

感染症の後遺症について人々が知るきっかけとなったのが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の回復後に生じるロングCOVIDです。ロングCOVIDの患者は慢性的な疲労感や息切れ、筋力の低下、多臓器の症状、認知機能の低下などに悩まされます。多くのロングCOVID患者にとってこれらの症状は深刻であり、仕事や学校に行けなくなったり、日常生活をまともに送ることすらできなくなったりして、人生が一変してしまいます。

新型コロナの後遺症「ロングCOVID」は生活の質を著しく悪化させて月の半分以上を機能不全状態にしてしまう - GIGAZINE

ロングCOVIDは決して前例のないものではありません。「大規模な感染症が流行した後に少なくない人数が後遺症や慢性疾患に苦しむ」というパターンは、人類の歴史において繰り返し発生してきました。

たとえば1889~1990年に世界的パンデミックを引き起こしたロシア風邪の後、一部の患者は数カ月~数年にわたる倦怠(けんたい)感や筋肉痛、不安、睡眠障害、抑うつといった症状を訴えました。また、1918年からはスペイン風邪(H1N1亜型インフルエンザ)が世界中で流行しましたが、同時期に報告された嗜眠(しみん)性脳炎はスペイン風邪の後遺症という説があります。

さらに、20世紀に北半球各地で流行したポリオウイルスは感染者の多くが軽症で済んだものの、一部の患者は麻痺性疾患を発症しました。それだけでなく、感染から数年~数十年後に疲労や痛み、筋力低下などを特徴とするポリオ後症候群が引き起こされるケースも報告されています。

2002~2004年にかけて流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)から回復した一部の患者は「ロングSARS」と呼ばれる後遺症を発症し、持続性の肺疾患や筋肉の萎縮、睡眠障害、疲労、認知障害といった症状に1年以上悩まされることとなりました。2014~2016年に西アフリカで発生したエボラ出血熱の生存者の多くも、慢性的な眼の合併症や筋骨格系の痛み、神経認知障害、深刻な疲労といった後遺症を発症しています。

ワクチンは感染症の発症を防ぐだけではなく、数カ月~数年後に発症する可能性がある慢性疾患を予防してくれます。モーエン氏らは、「時代や地域、病原体を超えて得られる教訓は驚くほど一貫しています。それは感染症を生き延びたからといって、必ずしも回復できるわけではないということです」「端的に言えば、ワクチンは不可欠なのです」と述べています。

しかし近年のアメリカでは、ドナルド・トランプ大統領が任命したケネディ長官の下、反ワクチン的なメッセージが押し出され、人々をワクチン接種から遠ざけるような政策が実施されています。これによりワクチン接種率の低下が進めば、アメリカでは本来であればワクチンで予防できたはずの感染症が流行し、それに伴う慢性疾患に苦しむ患者も増えることが予想されます。

現代医学が多くの人命を救えるようになったのは、科学者や医師によるデータに基づいた研究の結果であり、現在だけでなく将来的な病気も防ぐワクチンは最大の成果のひとつです。モーエン氏らは、「いかなる医療介入にもある程度のリスクは伴いますが、ワクチンに伴うリスクは小さく、人間の健康に対するその大きな利点は他に類を見ません」「ワクチンやエビデンスに基づく医療を放棄しても、私たちはより自由にも健康にもなりません。むしろ、より病状が悪化するだけです」と述べ、ワクチン接種の重要性を訴えました。