「借りた場所には戻しません」レンタカーは往復利用が常識――という前提は壊れ始めているのか?
高すぎる「ワンウェイ料金」がつくってきた日本の常識
日本でレンタカーを片道利用しようとすると、必ず意識させられるのが「ワンウェイ料金」という存在だ。ワンウェイ料金とは、借りた営業所とは別の場所に車を返却する際に発生する追加料金のことだ。返却先に車が滞留すれば、事業者はスタッフを手配し、交通費や人件費をかけて元の拠点へ車を戻さなければならない。その負担をあらかじめ利用者に織り込んだものが、この料金である。
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この料金は決して軽いものではなく、基本料金と合わせると支払総額が2倍、場合によっては3倍近くに膨らむことも珍しくない。結果として、日本ではレンタカーは往復利用が前提、という認識が長く共有されてきた。
ところが、その前提がここにきて揺らぎ始めている。2025年から、期間限定とはいえワンウェイ料金を0円に設定する事業者が現れた。さらに、片道利用を前提に組み立てられたレンタカーサービスも登場している。こうした動きが各地で重なり始めた状況を見ると、2025年を
「片道レンタカー元年」
と呼んでも、あながち大げさではないように思える。
では、なぜこれまで片道レンタカーは広がらなかったのか。利用者の需要がなかったから、という説明だけでは少し足りない。そこには、日本のレンタカー事業が長く抱えてきた構造的な事情が横たわっている。
片道利用が変える移動の組み立て方

カタレン(画像:Pathfinder)
レンタカーを片道で使えるようになれば、移動の組み立て方は大きく変わる。選択肢が増える、というより、これまで想定しづらかった移動が現実的になる、といったほうが近いかもしれない。
例えば都心から空港まで向かう場合、レンタカーを使えばバスより高くはなる。ただし、費用が極端に跳ね上がるわけではなく、人数次第ではバスと同程度、あるいはそれ以下に収まることもある。そのうえで、出発時刻や立ち寄り先を自分で決められる余地が残る。
空港近くに温泉施設があれば、そこまで車で向かい、同じ車で空港へ行くという行程も考えられる。返却は空港周辺の営業所で済む。移動と寄り道を一続きで考えられる点に、これまでの公共交通にはなかった使い勝手がある。
実際、こうした利用を前提にしたサービスはすでに始まっている。Pathfinder(東京都港区)が運営する「カタレン」だ。実証実験を経て事業化された路線のひとつが、東京~成田である。
東京とはいっても範囲は広く、主に都心部のトヨタレンタカー各店で車を借り、トヨタレンタカー成田空港店で返却する形を取る。料金は5人乗りのスタンダードまたはコンパクトカーで4900円とされているが、筆者(上原寛、フリーライター)が確認した日は2200円まで下がっていた。こうした価格設定は一時的な例外ではなく、比較的頻繁に行われているようだ。成田空港店から空港ターミナルまでの無料送迎も含まれている。
この動きは、路線バスにとって見過ごせるものではない。一方で、カタレンは国土交通省の地域交通DX推進プロジェクト「COMmmmONS」に採択された事業でもあり、同様の片道利用を試す取り組みは各地に広がりつつある。まだ実験段階の色合いは残るものの、往復を前提としないレンタカー利用が、現実の選択肢として姿を見せ始めている。
空港をまたぐ周遊を後押しする仕組み

「あんべいい旅支援 レンタカーで周遊キャンペーン」(画像:庄内空港利用振興協議会)
2025年4月1日から2026年3月31日まで、庄内空港店を起点に秋田空港および大館能代空港へ向かう片道利用を対象とした「あんべいい旅支援 レンタカーで周遊キャンペーン」が行われている。企画に関わっているのは、株式会社クオカードに加え、庄内空港利用振興協議会、秋田空港利用促進協議会、大館能代空港利用促進協議会である。
内容は明快だ。庄内空港店から秋田空港、または大館能代空港へレンタカーを片道で利用すると、最大1万円分のQUOカードPayが付与される。利用者にとっては、通常であれば負担となるワンウェイ料金を気にせず行程を組める仕組みになっている。
ただし、この取り組みは民間の販促企画という枠には収まらない。申請手続きには山形県の電子申請・施設予約プラットフォーム「やまがたe申請」が使われており、山形県と秋田県の自治体が関与していることがわかる。実質的には、ワンウェイ料金に相当する部分を自治体の予算で補っている形だ。観光分野では、かなり踏み込んだ手法といってよい。
背景にあるのは、観光客の動きを一部地域に集中させないという狙いである。行きも帰りも同じ空港を使う旅程では、移動範囲はどうしても限られる。これに対し、行きは庄内空港、帰りは秋田空港とすれば、その間の移動そのものが旅程に組み込まれる。結果として、立ち寄り先が増え、消費も広い地域に分散する。
地元の立場から見れば、観光に伴う支出が特定の拠点に偏らず、周辺へと広がっていく。片道利用を後押しするこの仕組みは、そうした流れを意識したものでもある。
車庫法と回送の現実

レンタカー店のイメージ。
このように、片道で車を返せるレンタカーは、地域間の移動や需要の掘り起こしという点で、すでに大きな経済的波及を生むことがわかっている。にもかかわらず、なぜこれまで「片道専用」のレンタカーはほとんど見当たらなかったのか。そもそも、なぜレンタカーの片道利用には「ワンウェイ料金」が当たり前のように上乗せされてきたのか。こうした疑問について、片道レンタカーを手がけるPathfinderは、noteで内情を率直に記している。
理由として挙げられているのは、
・車庫法
・人件費
だ。レンタカー業界では、借りた店舗とは異なる場所で返却することを「乗り捨て」や「ワンウェイ」と呼ぶ。この利用方法は基本料金には含まれず、別途「乗り捨て料金」が必要になるのが一般的だ。同一県内であれば無料としてきた事業者もあったが、近年は最大手を含めて有料化が進んでいる。距離が延びるほど、この追加料金は重くなる。
例えば東京から大阪まで車を返す場合、乗り捨て料金は3万~4万円程度になる。これに一泊二日の基本料金、およそ1万円が加わると、支払総額は4万~5万円に達する。長距離ゆえに極端な例ではあるが、今回話題になった東京~成田空港間でも、料金はおおむね倍近くになるという。
背景にあるのは、レンタカー車両が特定の車庫と結び付けられて管理されているという制度だ。原則として、車は登録された車庫に戻っていなければならない。そのため、片道利用が発生すると、事業者は返却先から元の店舗まで車を戻すためのスタッフを手配する必要が生じる。この回送にかかる人件費が、そのままワンウェイ料金として利用者に転嫁されてきた。
Pathfinderが提供する「カタレン」は、この回送が必要な車両と、片道利用を望む利用者とを結び付けることで成り立っている。従来はコストとして処理されていた移動を、需要としてすくい上げる発想だ。なぜ片道レンタカーが広がらなかったのか。その答えは、新しい工夫の不足ではなく、既存の仕組みが抱えてきた制約のなかにあった。
カーシェア解禁が示した可能性と限界

成田国際空港(画像:写真AC)
これらを踏まえて考えを進めると、次に浮かんでくるのは、片道レンタカー事業そのものを前提にした法整備の余地である。現在の車庫法は原則として「1台につき1か所」を求めているが、この枠組みが見直され、片道利用を前提とした事業にとって扱いやすい法的な土台が用意される可能性はあるのだろうか。
国が地方自治体の要請を受け、特例法を設ける展開は想定としてはあり得る。複数の路線バス会社が運賃や時刻表を調整する際に、独占禁止法の特例を使っている例と似た形で、一定の条件下で片道レンタカーを認める仕組みが整えられる、という見方だ。ただし、その場合は担当大臣による認可が前提となり、基準はかなり厳しいものになるはずである。それ以上に踏み込んだ改正が行われる可能性は、高いとはいいにくい。
もっとも、国土交通省が過去に、法の解釈や運用の範囲で大きな判断を示した例がないわけではない。2014(平成26)年に実施された、カーシェアリングサービスにおける片道利用の解禁がそれだ。この経緯については、日経ビジネスの2015年10月27日付の記事が詳しい。
2014年3月、国交省が出した通達は、カーシェアリング事業にとって転機になると受け止められた。それまでレンタカーでは認められていた「乗り捨て」を、カーシェアリングでも可能とする考え方を示したからだ。レンタカーの場合、利用後の車両は車庫法で定められた保管場所に戻す必要がある。乗り捨てが成立するのは、事業者が回送して保管場所に戻しているためである。
一方、無人での運営を基本とし、拠点数がレンタカーよりもはるかに多いカーシェアリングでは、必ず保管場所に戻すという要件が壁となり、片道利用は認められてこなかった。これに対し国交省は、各車両をITで管理できることを条件に、必ずしも保管場所へ戻さなくてもよいと明示した。「かなり踏み込んだ解釈だった」と、当時は業界内で評価する声も多かったという。
無人の駐車場を使えるカーシェアリングで片道利用が可能になれば、市場が一気に広がるのではないか。そんな期待があったのも事実だ。しかし、結果として描かれていたような展開にはならなかった。解禁後、別の問題が表面化したためである。
それが、乗り捨て専用の駐車スペースを確保するという課題だ。片道利用を提供するには、複数台分の専用スペースをあらかじめ押さえておく必要がある。利用者は原則としてそこにしか停められず、逆に一般車が入り込むことも許されない。問題は、そのスペースが使われているかどうかに関わらず、常に確保し続けなければならない点にある。車が停まっていない時間帯であっても、実質的には収益を生まない場所に費用を払い続けることになる。
国交省は、この点について事業者との「確約書」を通じて対応を求めてきた。1台につき何台分という明確な数字は示されていないものの、複数台分の用意を求めていることは伝えられているという。結果として、この条件が事業者の負担となり、片道利用は広がり切らなかった。
この経緯は、カーシェアリングやレンタカーに限らず、交通分野の事業全体に共通する難しさを示している。この領域では、法律そのものを変えることが容易ではない。解釈や運用の工夫で前進を図ったとしても、どこかで既存の枠に突き当たる場面が出てくる。その現実をどう乗り越えるのかが、今後も問われ続けることになる。
現行法の中で動き始めた事業者たち

日本の片道レンタカー新常識。
ともあれ、ここでは、現行の法律の枠内でもカタレンのようなサービスが生まれ、すでに事業として動き始めている点に目を向けたい。片道で使われたレンタカーは、最終的には回送車両として登録された車庫の場所へ戻さなければならない。この点はすでに触れた通りだが、ワンウェイ料金を設定しているとはいえ、事業者の本音は明快だ。回送そのものを、できるだけ減らしたいのである。
人手不足があらゆる業界で常態化するなか、東京から大阪まで新幹線で移動し、そこから片道利用された車に乗って再び東京へ戻る。そうした行程を担えるスタッフを、どれほど確保できるのか。現実的に考えれば、簡単な話ではない。この負担を軽くしてくれる存在があるなら、大手のレンタカー会社にとっても歓迎すべき話だろう。
国土交通省の側にも、片道レンタカーの広がりを慎重に見極めたいという意図があるように映る。現行法のもとで、どこまで実務として成り立つのかを確かめたいという事情はもちろん、
「交通ルールの秩序を乱す存在にならないか」
「事業者が無理のない形で運営を続けられるのか」
といった点を見定める必要もあるはずだ。
そうした確認をひとつずつ積み重ね、その段階を越えた先で、レンタカーは往復が前提ではない使われ方へと移っていく可能性がある。片道利用が特別な選択ではなく、ごく自然な使い方として受け止められる時代が来るのかどうか。今は、ちょうどその手前に立っているようにも見える。