土星の衛星タイタンは数億年前に衛星どうしの合体で誕生した可能性? 環の形成にも影響か

土星の最大の衛星Titan(タイタン、ティタン)は、窒素を主成分とする厚い大気を持つ太陽系唯一の衛星です。液体メタンの雨が降って川や湖が形成されているという、地球の水によく似た循環システムが存在するほか、地下には内部海が広がっている可能性も指摘されています。

そんなTitanの起源について、SETI研究所のMatija Ćukさんたち研究チームから、これまでの定説を覆す新たな説が提唱されました。Titanは最初から現在の姿で形成されたのではなく、過去に存在した2つの衛星が衝突・合体することで誕生した可能性があるというのです。

研究チームが提唱した新たなシナリオは、Titanの形成だけでなく、土星の環や、奇妙な外観をした衛星Hyperion(ヒペリオン、ハイペリオン)などの謎を一挙に説明できる可能性があるといいます。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「The Planetary Science Journal」への掲載が受理されており、arXivでプレプリント版が公開されています。

【▲ NASAとESAの土星探査機Cassini(カッシーニ)が撮影した土星と衛星Titan(タイタン)(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)】

現在のTitanとHyperionは衛星どうしの衝突で形成された可能性

研究チームによれば、今から約4億~5億年前、土星には現在のTitanとほぼ同じ大きさの衛星と、それよりも小さな衛星が存在していた可能性があります。研究チームはこの2つの衛星をそれぞれ「Proto-Titan(プロト・タイタン)」および「Proto-Hyperion(プロト・ヒペリオン)」と呼んでいます。

コンピューターシミュレーションを用いた解析の結果、2つの衛星の軌道が不安定になり、最終的にProto-HyperionがProto-Titanに衝突した可能性が高いことが示されました。この大規模な衝突によって現在のTitanが形成され、その際に飛び散った破片の一部が集まって現在のHyperionになったと考えられています。

【▲ NASAとESAの土星探査機Cassini(カッシーニ)が撮影した衛星Hyperion(ヒペリオン、ハイペリオン)(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)】

TitanとHyperionは軌道共鳴(※)の関係にあることから、その起源や年齢がこれまでにも議論されてきました。今回のモデルは、HyperionがTitanとの軌道共鳴の状態にある期間が比較的短いというデータとも整合するとしています。

※…ある天体と別の天体の公転周期が、重力を介した相互作用によって整数比になる現象。

Iapetusの軌道の傾きや土星の環の謎も説明できる?

今回の研究で示された「衛星の衝突・合体説」は、土星系における他の謎についての答えも提示しています。

一つは、土星から離れた軌道を公転する衛星Iapetus(イアペトス、イアペトゥス)の謎です。Iapetusは軌道傾斜角が大きな衛星ですが、どうしてそのような軌道になったのかはわかっていませんでした。今回のシミュレーションでは、衝突前のProto-HyperionがIapetusに重力を介して影響を及ぼしたことで、現在の傾いた軌道へと変化した過程が示されました。

【▲ NASAとESAの土星探査機Cassini(カッシーニ)が撮影した衛星Iapetus(イアペトス、イアペトゥス)(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)】

もう一つは、土星の象徴である環の新しさです。近年、NASA(アメリカ航空宇宙局)とESA(ヨーロッパ宇宙機関)の土星探査機「Cassini(カッシーニ)」による観測データの分析を通じて、土星の環は場合によっては約1億年前に形成されたばかりである可能性が示唆されています。

研究チームは、2つの衛星の合体によって現在のTitanが形成された後、その軌道が楕円形にゆがんだことで、さらに内側を公転する複数の衛星の軌道が乱された(軌道共鳴による不安定化)と考えています。

その結果、内側の衛星どうしが連鎖的に衝突することになり、発生した大量の破片の一部は再び集積して衛星を形成した一方で、残りの破片が現在の土星の環になったのではないか、というのです。つまり、土星系では現在のTitanを誕生させた衛星どうしの衝突が引き金となり、少し遅れてから環が形成されたことになります。

【▲ NASAとESAの土星探査機Cassini(カッシーニ)が撮影した土星、環、衛星(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)】

また、近年では観測装置・観測技術の向上にともなって惑星の衛星が数多く発見されるようになりましたが、土星の衛星は2025年3月時点で合計274個も見つかっています。最近になって見つかった土星の衛星の多くは、1億年ほど前に起きた衛星どうしの衝突によって形成されたのではないかとも指摘されています。

・土星の衛星が新たに128個追加され総数274個に “ごく最近” の天体衝突イベントを示唆?(2025年3月22日)

今回の研究では直接言及されていないものの、Proto-TitanとProto-Hyperionの衝突をきっかけにした土星系の混乱というシナリオは、こうした衛星の起源も説明できるかもしれません。

Dragonflyミッションでの検証に期待

このシナリオを検証する鍵となりそうなのが、NASAが計画しているドローン型の無人探査機「Dragonfly(ドラゴンフライ)」です。

2028年以降に打ち上げられる予定のDragonflyは、Titanの地表にある物質の成分や地質を詳細に調査します。もしもTitanが2つの衛星の衝突によって形成されたのであれば、その痕跡が地質学的あるいは化学的な証拠として残されている可能性があります。

【▲ 土星の衛星Titan(タイタン)の空を飛行するNASAの「Dragonfly(ドラゴンフライ)」探査機のCGイメージ(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)】

土星の印象的な環や特徴的な衛星は、数億年前に発生した衛星どうしの衝突という、比較的最近に激動の時代があったことを物語っているのかもしれません。Titanの空を飛んで移動しながら探査を行う意欲的なDragonfly探査機の打ち上げが今から楽しみです。

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典

・SETI Institute - Saturn's Moon Titan Could Have Formed in a Merger of Two Old Moons

・Ćuk et al. - Origin of Hyperion and Saturn's Rings in A Two-Stage Saturnian System Instability (arXiv)