10分の1サイズ「G-SHOCK」の指時計が開けた風穴

10分の1サイズで「20気圧防水」を実現, 「指輪型商品」は企業のDNA, 「カプセルトイ」人気が開発魂に火をつけた, 時計に対する消費者意識が変わる中…, 「腕」から「指」に変えて可能性が広がった

G-SHOCKの約10分の1のサイズで品質はほぼ同等のG-SHOCK nanoは指につける(撮影:梅谷秀司)

カシオが発売した「指時計」(指輪型の時計)が大人気だ。2024年12月に最初の商品(「CASIO RING WATCH CRW-001」=リング)が発売されると予約分は即完売。

【写真を見る】G-SHOCKの約10分の1のサイズで品質はほぼ同等のG-SHOCK nanoは指につける

そして昨年11月には同社の人気腕時計「G-SHOCK」を小型化した「G-SHOCK nano」(商品名は「“G-SHOCK nano” DWN-5600」=ナノ。税込み価格1万4300円)も登場した。

なぜ、“腕ではなく指につける時計”を開発し、積極的にシリーズ展開しているのか。G-SHOCK nanoの企画責任者に聞いた。

10分の1サイズで「20気圧防水」を実現

「“G-SHOCK nano”は計画比で130%の売れ行きと大変好調です。通常のG-SHOCKの約10分の1のサイズですが品質はほぼ同等。G-SHOCKの特長である耐衝撃構造と防水性も備えています」

カシオ計算機の小島一泰氏(時計事業部 商品企画部 第一企画室 チーフプランナー)は、こう話す(以下、発言は同氏)。小島氏は1992年入社後にG-SHOCKやBABY-Gの機能時計デザインを担当。現在はG-SHOCKとPRO TREKの企画推進責任者を務めている。

まずは「ナノ」の開発で苦労した点を聞いてみた。

10分の1サイズで「20気圧防水」を実現, 「指輪型商品」は企業のDNA, 「カプセルトイ」人気が開発魂に火をつけた, 時計に対する消費者意識が変わる中…, 「腕」から「指」に変えて可能性が広がった

企画推進責任者としてG-SHOCK nanoを担当した小島一泰氏(撮影:梅谷秀司)

「サイズを小さくしても“G-SHOCK”の名前を付ける以上、ブランドを傷つけてはいけない責任感がありました。最も苦労したのは通常のG-SHOCKと同じ『20気圧防水』です。

少し専門的な話になりますが、20気圧防水にするとサイドのボタン部分から水が入りやすくなるため、G-SHOCKでも二重のパッキンを使っています。今回は小さな留め具をはめ込んだ特殊な接着技術を採用し、防水性を保てるようにしました」

10分の1サイズで「20気圧防水」を実現, 「指輪型商品」は企業のDNA, 「カプセルトイ」人気が開発魂に火をつけた, 時計に対する消費者意識が変わる中…, 「腕」から「指」に変えて可能性が広がった

通常のG-SHOCKとG-SHOCK nano(撮影:梅谷秀司)

小さくても質感があり、ストップウォッチやライト機能も備えている。「本気すぎる作り込み」が、メカ好きやファッション好きにも支持されているようだ。

「指輪型商品」は企業のDNA

そもそも指時計の開発は、どんな経緯で始まったのか。

「カシオが時計事業に参入したのが1974年で、2024年12月に“時計事業50周年”の一環として指輪サイズの時計が誕生しました。でも当初は『こんなのがあると面白いよね』という発想からスタートしたのです」

23年3月末、新技術について社内で意見交換する会議の中で、カシオの中国工場が得意な金型技術を用いて作製した「時計の形状が忠実に再現された指輪」が披露された。

「G-SHOCKの魅力を別の形で世の中に出したい」と考えた開発本部からの依頼に中国工場が金型で応えたものだった。その後の雑談の中で「これにモジュールを組み込んで、きちんとした時計にしたら面白い」と盛り上がり、同年4月から開発が始まったという。

「当社は“ゼロから1を生み出す”のが得意で、好奇心も旺盛です。設計とデザインの関係もスムーズで、ユニークな提案は盛り上がります。『これができない』という否定的な意見よりも、『こうするといいか』『じゃあ考えてみよう』と肯定しながら進めていきます」

過去には時代を彩った「カシオミニ」(パーソナル電卓、72年)や「G-SHOCK」(83年)、「QV-10」(液晶デジカメ、95年)などを生み出してきた。

「ちなみに指輪サイズでは、創業者の樫尾忠雄が46年に発明した『指輪パイプ』があります。戦後の物資不足の時代に指輪にタバコを挟んで最後まで吸える商品として大ヒットし、当社の原点となりました。研修などで何度も紹介され、社員は共有しています」

「カプセルトイ」人気が開発魂に火をつけた

23年4月から開発が始まり、24年12月に最初の指時計「CRW-001」(リング)が発売された。同社の時計事業50周年に間に合ったが、製作期間は1年8カ月。指輪サイズの精密機械としては異例のスピードだ。なぜこんな短期間で完成したのか。

「これまで培った時計技術や精密機械技術の知見もありましたが、開発陣の熱意を後押ししたものがもう1つあります。23年7月に発売されたカプセルトイ(ガチャガチャの『CASIOウオッチリングコレクション』)の大ヒットです。時計機能はない玩具ですが、発売前から反響があり、発売されると完売が相次ぎました」

「おもちゃではなく本物が欲しい」という声もSNSに上がったという。ミニサイズ時計の市場性もわかり、開発のスピード感もさらに高まった。

10分の1サイズで「20気圧防水」を実現, 「指輪型商品」は企業のDNA, 「カプセルトイ」人気が開発魂に火をつけた, 時計に対する消費者意識が変わる中…, 「腕」から「指」に変えて可能性が広がった

驚きの精巧な作り(撮影:梅谷秀司)

「私の娘がカプセルトイ発売を知り、『お父さんの会社、こんな商品を作ったんだ』と話していましたが、こちらの本心は『これを本物の時計にしたい』。関係者は、みんな同じ気持ちだったと思います」

「時計事業50周年」という明確なゴールにカプセルトイの話題性も加わり、試作品をブラッシュアップして完成した。ついでに記すと、かつての電卓が象徴するように「既存の商品を小さくする」のも同社のDNAだ。

時計に対する消費者意識が変わる中…

腕時計市場の近年の傾向については、どう感じているのか。

「価格帯については、国内市場は数十万円する高価格と数万円以下の日常使いに二極化していると思います。都市部を中心にスマートウォッチをつける人も多いですが、その普及も一段落し、レトロ感を支持するような伝統回帰にもなってきました。

もうひとつ個人的に思うのは、ネットワーク社会の中で動かされている“IT疲れ”への反動です。こうした小さいモノを自分の意思で動かせるのもよかったのかな、と思います」

そうした時代の風も人気を後押ししたようだ。“ナノ”はG-SHOCKの名品「DW-5600」(87年発売)をミニサイズで再現したが、同商品は、映画『スピード』(94年公開)に主演したキナヌ・リーブスが着用してG-SHOCK人気が爆発したモデルだ。

映画公開から30年以上たち、今回は購買者層の若返りにも成功した。国内の主要購買層は「リング」が20~30代、「ナノ」が30~40代だという。

グローバルでもECサイトを中心に一部実店舗でも販売している。どんな反響なのか。

「お客さまの好みによって変わりますが、大きく分けてアメリカではデザインに対する評価が高く、欧州は商品のユニーク性、コレクター性を支持する声が寄せられています。アジアではアセアン圏・中華圏ともに小さなメタルへの作り込みを評価いただいています」

一方で改善を求める声もあった。「サイズ調整ができるようにしてほしい」という要望だ。

当初「リング」はサイズ調整がなく、本体サイズは「22号」(内径20㎜)のみだった。フルメタルの一体成形デザインのため、リングそのものの大きさは変えられないが、商品に同梱包されているサイズ調整用スペーサー(中と小)を用意した。これをリング内側にはめ込むと、スペーサー(中)は「19号」、同(小)は「16号」相当になるようにした。

「ナノはリングでのご要望を踏まえて、サイズ調整の自由度を高めました。通常のG-SHOCKと同じように樹脂製バンドにベルト穴とバックルをつけ、リングサイズでは約8号から30号ぐらいまで調整できるようにしています」

「腕」から「指」に変えて可能性が広がった

使う時の消費者意識も関係者にとって新たな気づきとなった。

「例えば『冬は何枚も重ね着をするので、腕時計だと腕まくりして時間を見るのは意外に面倒。指の方がラク』という声もありました。会議中など、露骨に時間を見るのがはばかられるシーンでも『指先ならさりげなく時間を確認できる』という声も寄せられました。

着用箇所としては複数のリングを指につける人もいます。特に“ナノ”はカラフルな色もあるのでアクセントになり、指以外にバッグのショルダーにつけるケースもあります」

10分の1サイズで「20気圧防水」を実現, 「指輪型商品」は企業のDNA, 「カプセルトイ」人気が開発魂に火をつけた, 時計に対する消費者意識が変わる中…, 「腕」から「指」に変えて可能性が広がった

複数の指につけるとこんな感じに。広報宣伝部の長合優希氏にモデルになってもらった(撮影:梅谷秀司)

開発現場の哲学の1つ「成熟市場でも、まだやり残したことがある」を再認識したようだ。

「腕から指に変えるだけで新たな需要が生まれました。つける場所が変わればデザインも変わっていきます。自分で操作できる時計には、まだまだ可能性があると感じました」

G-SHOCKがハードな環境でも対応できる腕時計として定番化したように、指時計も新たな定番となれるか。今後の同社の取り組みにも注視したい。