「猫の日」に猫虐待では?と「猫同伴イベント」に抗議殺到。動物行動学者に取材してわかった「猫の幸せ」
2月22日は『猫の日』だ。1987年に愛猫家である文化人が制定した「猫の日制定委員会」が猫の鳴き声から、2月22日を『猫の日』に制定したという。決めるにあたって、根幹にあった猫への思いは、「猫と一緒に暮らせる幸せに感謝し、猫とともにこの喜びをかみしめる記念日」だという。
制定から39年、記念日の意味を果たしているのか疑問に感じるイベント情報がSNSを賑わしている。それは、『猫同伴イベント』だ。
JR東日本は、猫用の駅長帽子を着用し、通常は入室できない駅事務室内での撮影が体験できる猫同伴の「猫駅長体験イベントを開催」を企画していた。しかし、情報が公開されてから、愛猫家たち、猫好きたちから疑問の声が溢れた。
「猫を外に出すのは危険」
「そもそも猫は外出したがらない。犬とは違う」
「猫の生態を知らないでイベントを企画しているのか」
「最近、こういった猫同伴のイベントが増えている。猫のことを考えて」
「一見楽しそうに見えるけど、猫にはストレスだよね」
2月19日、JR東日本はイベント中止を決めた。中止理由がこういった愛猫家たちの声に応えたものだったのかはわからないが、JR東日本の決定に安堵の声がSNSに多く上がった。

猫同伴のイベント、あなたはどう思いますか? photo/iStock
調べてみると、JR東日本以外にも『猫の日』に猫同伴の写真撮影などを企画しているイベントが複数あることがわかった。「猫同伴」が流行っているのか!? これは衝撃だ。物心ついたころから猫と暮らし、猫関連の記事をたびたび作ってきた筆者が、『猫同伴』問題と『猫の日』について、動物行動学の専門家の見解も交えながら考えてみることにした。
外出が大っ嫌いな我が家の猫。これ普通よね!?
世の中には、そんなに外出が好きで、イベントにも同伴できる猫がいるのだろうか!? 幼いころからずっと猫と暮らしてきて、今も傍らに2匹の猫がいるが、我が家の猫たちは、外出が苦手だ。
病院に連れて行こうとキャリーバッグに入れれば、断末魔の叫びで「ここから出して!」と鳴きまくる。移動中の車内でも過呼吸になりそうな勢いで鳴き続け、最後は諦めたように体を硬くする。病院の待合室で「あら、猫ちゃんなのね」と隣の人に話しかけられれば、さらに緊張して可能なかぎり、体を小さく縮め、固まってしまう……。そんなわけで、動物病院に行くことすら悩ましく、「ごめんね」と何度も言いながら、通院している。
過去に筆者が手術入院した際に、猫好きの知り合いの方に1ヵ月半ほど預かっていただいたことがあったが、そのときも約2日間、ベッドの隅から出てこなかったという。そんなうちの猫に「猫同伴」なんてあり得ない、いや考えたこともなかった。「でも、それはあなたのうちの猫が臆病なだけ」と思う方もいるのだろうか。え? そうなの? そんなことはないでしょ!? 実際、猫はどう思っているのだろうか? 動物行動学の専門家に話を伺ってみることにした。
動物行動学から診た、「猫同伴」のリスク
「基本、猫はイベントなどに参加するのに適した動物ではありません。よく『人より家につく』と言われますが、飼い主への信頼や愛着より、“縄張り”に安心感を得ます。これは飼い主に愛がないわけではなく、飼い主が大好きでも、知らない場所では、パニックに陥り、冷静に対応できなくなることが多々ある、という意味です。
家ではとてもおとなしい猫でも、知らないところで大きな音や慣れないニオイに囲まれると、興奮してしまい、暴れてケガをしたり、脱走したりすることもあります。

自宅という縄張りから外に出るとパニックになる猫も。photo/iStock
でも、中には外出が大好きな猫もいます。リードをつけて散歩したり、散歩中の犬と挨拶したり、知らない人に撫でられることが平気な猫もいます。そういった猫は、飼い主との旅行などを楽しめることもあるでしょう。また、撮影などで活躍するようなタレント猫は、小さいころから特別な訓練を繰り返し、イベントや撮影に慣らすので、そういった場所でパニックにならずに過ごすことができます。
こうお話すると、練習すれば猫同伴は大丈夫なの? と思うかもしれませんが、イベントや他にも猫が集まる場で、普段どおりに行動できる猫は、ごく稀、ほとんどいないと考えた方がいいでしょう。単体で首輪や胴輪を使って散歩ができたとしても、会場は多くの人でごった返しています。さらに他の猫もいれば、自宅とはまったく異なる環境です。そこで興奮して暴れてしまう猫がいれば、周りにいる猫たちにその興奮が伝播することも……。普段と違う環境なので、どんなリアクションになるかは、猫にも飼い主にもわからず、ケガやトラウマに苦しむ可能性もあると思います。
また、猫用のお散歩できる首輪や胴輪も発売されていますが、サイズにあったものを付けても、犬のようにはいかないことも。猫はとても体が柔らかい、“猫は液体”と称されるように、しっかり締めていても、するりと首輪や胴輪をすり抜け、逃げることもあります。知らない場所や野外でそういったトラブルが起きれば、そのまま迷子になってしまうこともあるでしょう」
こう話してくれたのは、犬猫の生態や行動学に詳しい獣医師でペットライフアドバイザーの高倉はるかさんだ。やはり「猫同伴」は慎重に考えた方がいい、それは断言できそうだ。

リードで散歩できる猫もいるが、基本的には犬のようにはいかず、嫌がる猫がほとんど。photo/iStock
『猫の日』の本来の意味を噛みしめたい
高倉さんは「下記の6項目のチェックリストにひとつでも懸念があるなら、猫にとって大きなストレスになるので、通院など必要不可欠な外出以外、猫を伴うおでかけは避けてほしい」と助言する。
1)動物病院でもスタッフにフレンドリーに接することができますか?
2)他の犬や猫がいても落ち着いて過ごすことができますか?
3)友だちや知り合いの家に連れて行っても隠れたり怖がったりしませんか?
4)大きな音や知らないニオイで神経質になったりしませんか?
5)食餌内容や水の容器が変わっても、食べたり飲んだりできますか?
6)トイレの場所や素材が変わっても、ちゃんとトイレで排泄できますか?

他の猫がいるとバトルモードになってしまう猫も……。photo/iStock
高倉さんがあげてくれた6つの項目を我が家の猫に当てはめたら、1)はフレンドリーというよりも固まって静か、他の項目に関してはすべてアウトとなった……。もともと猫同伴でお出かけする気はなかったが、通院など必要な外出をする際にもストレスがかからないように、より工夫をしなければ、と心した。
とはいえ、SNSには、今回の猫同伴イベント中止に関して、「楽しみにしている人や猫もいただろうに、中止だなんて残念だよね」といった声もチラホラ見かけた。JR東日本の企画に関していえば、開催地域は、昔「猫村」と呼ばれていたらしく、そこで猫のイベントを開催したい気持ちはとてもよくわかる。
でも、やり方はもっとあったはずだ。猫の日には猫関連のイベントが各地で行われているが、猫好きのアーティストや作家たちが制作したおしゃれなグッズを販売し、保護活動などのチャリティーを行い、人気を集めるイベントもある。猫そのものをイベントに絡めずとも、楽しめる形はもっとあるのではないだろうか。メディアも押しかけるような混雑する会場で、複数の猫が集まる猫同伴のイベントが、果たして『猫の日』の本来の目的だった「猫と一緒に暮らせる幸せに感謝し、猫とともにこの喜びをかみしめる記念日」に合う内容なのか、企画側も参加する側も考える必要があるのではないだろうか。
本来、猫好きの人たちは、猫と同伴でお出かけすることよりも、猫にストレスなく、心地いい毎日を過ごしてほしいと願っている。今回、SNSで開催に疑問の声を挙げた人たちはまさにそういった人たちだ。筆者の周りの猫好きたちも「猫にストレスをかけることをするなんて!」と今回の件に憤っていた。もっと言えば、「癒やされたいから猫と暮らすのではなく、結果としてなんだかんだ癒やされてしまうけど、本来は猫たちを癒やしてあげたい」「いや、下僕(自分)の修行が足りず、猫に癒やされてばかりで申し訳ないと思っている。せめてもストレスなく毎日楽しく過ごしてほしい」と、みな猫への愛を語る。みんな猫の健康、長寿を願い、“猫ファーストな暮らし”が喜びなのだ。
以前、犬猫好きな人たちのオフ会イベント(野外の公園)を取材したことがあった。犬と暮らす方は犬同伴の参加者が多く、ドッグランなどで交流されていた。確かに、猫ではこういうことはできんなぁ~。アクティブで楽しそうだな~と思った。そして、猫と暮らす人たちをみると、公園のベンチに集まり、スマホに保存してある画像やプリントしてきた愛猫の写真を見せ合いながら、猫愛を語っていた。
参加者からは、「猫が同伴でないからつまらないなんてことはない。写真があればいくらでも“うちの子愛”は語れます」「うちの子もかわいいし、よその子もかわいい。話は尽きません」と、とても盛り上がっていた。自分もそうだが、猫の下僕となった者たちにとって、「猫同伴」はまったくキラーワードではないのだ。こういった猫と暮らす人たちの心理をイベント企画側が理解していない、と感じてしまう。

本当の猫好きは、「猫にストレスを感じてほしくない」と思っている。photo/iStock
そして、高倉さんは最後にこう話してくれた。
「猫の日には、猫のしあわせを考えたいですね。快適なベッドをひとつ、陽当たりのいいところに増やしてあげるとか、新しいおもちゃで遊びを提案するとか。獣医師の視点でいえば、病院の定期健診を予約するとか……。これは猫にとっては嫌な外出になりますが、病気の早期発見のためですから」
本当にそのとおりだと思う。2月22日は改めて、この星に猫がいるしあわせをかみしめ、“猫のしあわせ”に思いを馳せる1日であってほしいと、愛猫家のひとりとして願ってやまないのだ。

『猫の日』は世界中の猫のしあわせを願いたい。photo/iStock