小学館「マンガワン」炎上、危機管理広報のプロが指摘する初動のマズさ 漂う不誠実さの正体

小学館「マンガワン」炎上、危機管理広報のプロが指摘する“初動のマズさ” 漂う不誠実さの正体
小学館の漫画配信サービス「マンガワン」が物議を醸している。漫画「堕天作戦」の原作者である山本章一氏が児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)の罪で逮捕・略式起訴され連載中止になったにもかかわらず、漫画「常人仮面」の原作者としてペンネームを変更の上起用したことが問題視されたもので、SNSでは同社やマンガワン編集部に批判が集中。同サービスから作品を引き上げる漫画家も続出している。
炎上の背景には、未成年への性加害に関する根本的な嫌悪感だけでなく、小学館側の初動のまずさもあった。例えば当初マンガワンのアプリ上でしか声明を出さなかった点や、一度出した声明を削除した点などは、同社への不信感を増幅しただろう。
製造メーカーやIT企業で長年クライシスコミュニケーションに携わる、東北大学の長沼史宏氏(特任准教授、コミュニケーションアドバイザー)も、小学館の対応には不誠実な印象を強める点があったと指摘する。
●専門家が指摘 小学館の“初動のマズさ”
長沼氏が一例として挙げたのは、マンガワン編集部名義(2月27日)と小学館名義(28日)、それぞれの謝罪声明の足並みがそろわなかった点だ。「(片方が)犯罪者をサポートしているような構図になった。当初から全社を挙げて対応すべきだった」という。
他にも、28日の声明に「小学館」としか署名がなく、どの部署や管理者に責任の所在があるか明らかでない点や、対応がネット上で終始している点も、事態を軽視しているような印象を強めたと話す。
タイミングにも問題があった。今回の騒動が広がったきっかけは、2月20日に札幌地裁が下した判決だ。判決では、男性が教え子に性的虐待を繰り返していたとして、男性に1100万円の支払いが命じられた。
この事実が報じられた後、Xでは男性と山本氏が同一人物だとする告発投稿が物議に。その根拠として「漫画の配信や単行本の出荷が停止している」と指摘する声も相次いだが、長沼氏は「本来であれば20日やそれより前に小学館側から明らかにすることが重要だった。SNSで話題になる前に小学館側から発表し、徹底的な調査や、場合によってはこの時点で第三者委員会を設置する発表もできたはず。リスク広報の教科書的な観点から見ても、そうした対応が真摯(しんし)な姿勢を示すものだった」と指摘する。
「個人の問題ではなく、組織の問題であることが見え隠れする形になった。根本的な問題は、編集担当者がなぜ問題のある作家を起用し続ける判断をしたか。その検証や再発防止が重要。今後は早急に謝罪会見を開き、潔い姿勢を示すことが必要」
露呈した「不祥事は金曜午後に発表」への不信感
同じくタイミングの問題として、最初の謝罪声明を金曜日の午後に発表した点もSNSで批判の対象となった。例えば「金曜午後に発表すれば、土日で話題が沈静化すると考えていたのではないか」といった具合だ。
実はこの「金曜午後に発表」という手法、小学館の一件に限らず、セキュリティインシデントや不正会計など、さまざまな不祥事の発表で頻繁に見られる手法でもある。土日は報道機関も身動きが取りにくいことや、別のニュースが話題になれば追及が弱まることを期待するわけだ。
ただし長沼氏は「準備に時間がかかり、結果的にその時間帯での発表になる可能性もあるが、今後なぜそのタイミングでの発表になったのかという追及は今後もついて回る」と指摘する。「発覚した段階で発表しておけば、そういった疑念は持たれず、後々の対応にも響く。寝かせれば寝かせるほど追及も厳しくなる」という。
●「アクタージュ原作者も起用」続報発表の是非
一方、小学館の炎上は一般的な不祥事とは少し違う点もある長沼氏。今回の話題が広がるきっかけは地裁の判決。それがSNSでの告発により広がった形で、オールドメディア含め報道機関が事実関係を暴いたものではなかった。
一般的にメディアは自分たちが暴いたものは報道意欲が高まりやすいが、そうではないと“二番煎じ”になるため、炎上の度合いが変わると長沼氏。そのため、不信感を与えないためには、本来はメディアや外部に先んじての情報公開がベターだったと話す。
一方で小学館は2日、漫画「アクタージュ act-age」の原作者で、2020年8月に強制わいせつ容疑で逮捕・起訴され有罪判決を受けたマツキタツヤ氏を、別名義で起用していたことも発表した。起用していた作品の連載開始は25年8月で、強制わいせつの執行猶予は満了していたが、山本氏の一件も踏まえ、SNSではさらなる物議を醸すことにつながった。
マツキ氏に関する発表については、週刊誌が報道をにおわせており、その影響を受けた可能性もあると長沼氏。つまりは報道に先んじた動きだったかもしれないわけだが「こういった形で出てくるということは、(組織の)体質的な問題であることが明らかになりつつあるということ」と指摘する。そのため今後は類似の案件がないか徹底的に調査したり、既知の案件はいち早く公開したりするなど、メディアやSNSに先んじた対応が求められると話す。
●「早急な謝罪会見が望ましい」 今後求められる対応は
長沼氏はクライシスコミュニケーションだけでなく、それ以前のリスクマネジメントにも問題があった可能性を指摘する。「本来、漫画家と出版社の間には冷静な関係があるはずで、犯罪行為が分かったら即座に契約解消するべきだが、出版社がかばうような構図になった。担当者に『これくらいは大丈夫だろう』という正常化バイアスが働き過ぎていたのでは」
一連の状況から、小学館は危機管理広報の視点からも早急な謝罪会見を実施するのが望ましいという。小学館は第三者委員会の設置を発表しており、続報が待たれる状態だが「もしかしたら幹部の辞任が必要かもしれない。事態が深刻なところに来ていると踏まえたうえで、なぜこうなったのか、どういった再発防止策が必要なのかを示し、信頼回復を行うことが必要なフェーズなのでは」
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