「日本では『大根役者』って言うんだよ」トミー・バストウの舞台裏を蓮佛美沙子が暴露〈ばけばけ第109回〉

『ばけばけ』第109回より 写真提供:NHK
今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第109回(2026年3月5日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)
奥様ネットワークにご注意
トキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)はヘブン(トミー・バストウ)に『フィリピン滞在記』執筆の話が来ていることを知っていた。
第109回はついにヘブンがトキの妊娠を知る大きな見せ場がある。第108回がひとつのクライマックスだと橋爪國臣チーフプロデューサーが言っていたが、第109回がほんとのクライマックスとなる。
喜びに満ちたトミー・バストウの演技がすばらしい。でもそこに至るまでにはもやもやが続く。順に見ていこう。
トキが知っていた、というか、ラン(蓮佛美沙子)がうっかりしゃべってしまったのだ。
当然知っているものだと思ってロバート(ジョー・トレメイン)から聞いた話を軽い気持ちで。
「私が本当にすみません」と平謝りのラン。
ヘブンも英語で話せるロバートに心を許していたと思うが、それがまわりまわって、奥様ネットワークで秘密が漏れてしまうとは思ってもみなかっただろう。奥様ネットワーク、要注意である。
トキはヘブンの決断を待っていた、自分の考えを主張することなく。いつも「あなたの言葉、あなたの考え」を聞きたいとヘブンは求めてきたが、この件に関してはトキは自分の意見を決して言うことはなかったのだ。こういうのを奥ゆかしいというのであろうか。こういうときだけ武家の娘感がある。
ヘブンはランの考えを聞く。
「私でしたら旦那の行きたい道を選んでほしいと思います」
このときの蓮佛美沙子の少し逡巡(しゅんじゅん)した表情がとてもいい。もともと彼女は夫ロバートがアメリカに戻るときには離婚すると言っていた。でもトキのことを考えたら、自分の意見がふさわしいかわからない。でも、自分の考えをはっきり言う。
その迷いと決断。もしかしたらランだって本当は割り切れていないのかもしれない。そんなことも想像できる。
トキは知ってる、ヘブンは知らない
その頃、トキは家にいる。
縁側に座るトキのけだるい姿勢は、おなかが大きいからというのもあるだろうし、浮かない心情も感じられる。このポーズも時代劇の女性の風情が漂う。
妊娠したトキは、正々堂々と(?)労働禁止されていい身になったといえるだろう。クマ(夏目透羽)はヘブンの部屋の掃除中にうっかり本を散らかしてしまう。「奥様いかんですよ」と拾おうとするトキを止める。
トキがヘブンの本をめくっていると、「奥様、わかるとですか」とクマが興味津々。なにしろ英語がずらりと並んでいる本だ。
「わからん」「ひとつもわからん」とトキはつぶやく。ただ、ヘブンが一生懸命書いていたことだけは誰よりも知っている。
熊本編になってから、トキは「(自分は)学がない」とコンプレックスをしきりに口にするようになった。
インテリのヘブンの妻として、自分ははたしてふさわしいのか、気に病んでいるのではないだろうか。そんなときフィリピン行きの話が来ているとあれば、自分は不要になるのではないかと心配であろう。
すでにフィリピン行きの話が来ていることを知っているトキをヘブンは散歩に誘う。
ヘブンの好きな高台である。
妊娠しているトキには身体に負担がかかるのではと視聴者は思うが、何も知らないヘブンなので、仕方ない。
まあ、運動も大事だとは言うけれど。
ヘブンはここでフィリピン行きの話が来ていることを話そうとしていたわけだが、結果的に、トキが妊娠していることを知ることになるのだ。
この日は風が強く、からだが冷えてしまうのではと視聴者は心配になる。
ヘブンは思いきって「私、日本――」と言い出す。
日本で生きていく? or 日本で書くことない?
聞いていたトキは精神的にしんどくなり、座り込んでしまう。
驚いたヘブンはトキを背負い、病院に行こうと駆け出そうとする。けっこう荒々しくて心配になるが、妊娠していることを知らないからしょうがない。
「私、パパさん」「私、最後の人」
トキはヘブンの事情を知っていて、ヘブンはトキの事情を知らない。そのすれ違いにハラハラする。
「病ではありません」
「病 ない どういうこと?」
トキはヘブンの事情を知っていて、ヘブンはトキの事情を知らない。そのすれ違い。
ここでようやく、ヘブンは自分の子どもをトキが身ごもったことを知る。
そしたら、それまでの重い空気は吹っ飛んで、ヘブンは喜びを爆発させる。
トキを背負ったまま走り、くるくる回るヘブン。
危ない。こわさすら感じる興奮具合。
いや〜、はらはらしたー。こんなにハラハラする妊娠の告白場面はなかなかない。
赤ちゃんができたと知るまでに、こんなにもったいぶるドラマもなかなかない。
「私パパさん」と感無量のヘブン。
すっかり、フィリピン行きは吹っ飛んでしまったようだ。
「I want to be with you」
トキは唯一褒められた英語でヘブンに語りかける。
「あなたと一緒にいたい」
その気持ちをトキが実感できるから、英語もうまく話せるのだろう。発音の正しさはもちろんながら、真意が伝わることが大事。教科書の例文のような英語の一節を覚えるよりも、実感を伴った言葉こそ、英会話の上達の秘訣(ひけつ)なのではないかと気づかされた第109回。
トキのモデルの小泉セツは『思い出の記』という本を出したが、トキは『英会話が上達する方法』という本を書けばいいと筆者はおすすめしたい。
妊娠を知ったのは自分が最後だったと知りちょっと拍子抜けするヘブン。「私、最後のヒト」と言う。
「通りすがり」と自認していたヘブンの放浪の旅はもう終わり。定住するときが来たのだろう。
ここでラン役の蓮佛美沙子さんのコメントを紹介しよう。
――現場の雰囲気はいかがですか?
BK(大阪放送局)の朝ドラは久しぶりですが、BK特有のホーム感のある空気は変わっていませんでした。また今回、出演者やスタッフの皆さんがリラックスして過ごされている様子が特に印象的で、私もとても居心地よく過ごせました。
(高石)あかりちゃんは、本当に自然体で、かわいい!! 常に気負わずそこにいる感じがとてもすてきでした。トミーさんとジョーさんとは実は同い年で、いろいろとお話できました。ある時にトミーさんがジョーさんに「日本では下手な役者のことを大根役者って言うんだよ」と教えていて、私もそれに混ざって「英語ではhamって言うんだよ」と教えてもらいました。お二人ともチャーミングでとてもすてきな方でした。
――撮影で印象的だったシーンを教えてください。
第109回(3月5日放送)の、「旦那の生きたい道を、選んでほしいと思います」とヘブンさんに伝えるシーンが印象的です。心の中では「アメリカに帰ってほしくない」と思っていますが、相手を思って、また明治の女性として“そうあるべき”と信じて、真逆のことを伝える。そこから本心をどれだけのぞかせるか、もしくは隠すのか、そのさじ加減が本当に難しかったです。
トキとは違い、ランは自分と同じ外国人と結婚した日本人妻の行く末をたくさん見てきました。「みんな最後は旦那が一人で母国に帰る」「だから籍も入れてない、帰るなら別れる」と言えるランだけど、ずっと心は「いやだ」と叫んでいて、いつ自分の夫が帰国するか心の底ではおびえていたのだろうと思います。
フォトギャラリー
主なシーンより
第22週(3月2日~3月6日)
「アタラシ、ノ、ジンセイ。」あらすじ
トキ(高石あかり)は熊本でラン(蓮佛美沙子)と出会い、交流を深める。ヘブン(トミー・バストウ)と同じく西洋人の夫ロバート(ジョー・トレメイン)をもつラン。英語もできるランをトキは慕っていく。そんなある日、ヘブンの元に一通の手紙がアメリカから届く。その差出人はイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)だった。日本を離れ、世界を巡って各地の滞在記を書いてほしいという依頼に、ヘブンは魅力を感じる。
連続テレビ小説『ばけばけ』
作品情報
連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。
【作】 ふじきみつ彦
【音楽】 牛尾憲輔
【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / シャーロット・ケイト・フォックス 大西信満 夙川アトム ジョー・トレメイン 原ふき子 橋本淳 杉田雷麟 日高由起刀 夏目透羽 / 渡辺江里子 木村美穂 / 蓮佛美沙子 / 岡部たかし 池脇千鶴 ほか
【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始