3月25日解禁「クレカ乗車」できる事・できない事

首都圏全体で約820駅まで対応拡大, SuicaやPASMOは不要になるのか, 「クレカ乗車」まだできないこと&気をつけること, 来春にはクレカ定期券も登場, 公共交通の決済手段を広げる試金石

「タッチ決済乗車」から「クレカ乗車」に呼び名を変更。首都圏の私鉄・地下鉄11社729駅でも新たに使えるようになる(写真:筆者撮影)

Suicaの残高が足りない。改札で止められ、チャージの列に並ぶ――。多くの人が経験したことがあるであろう、こんなトラブルが3月25日から過去のものになるかもしれない。

【写真あり】これは便利かも!? 来春スタートの「クレカ定期券」が予定している2つの“サービス方式”

三井住友カードが首都圏の私鉄・地下鉄11社729駅で始める「クレカ乗車」。手持ちのクレジットカードやスマートフォンをかざすだけで改札を通れるサービスだ。インバウンド対応を足がかりに広がってきたこの仕組みが、いよいよ首都圏の日常に入ろうとしている。何ができて、何がまだできないのか。

首都圏全体で約820駅まで対応拡大

3月25日の始発から、小田急電鉄、小田急箱根(箱根登山鉄道)、京王電鉄、京浜急行電鉄、相模鉄道、西武鉄道、東急電鉄、東京メトロ、東京都交通局(都営地下鉄)、東武鉄道、横浜高速鉄道(みなとみらい線)の11社で、タッチ決済対応のクレカやスマホによる改札通過が可能になる。相互利用なので、直通運転や乗り換えで事業者が変わっても、都度精算する必要はない。

すでにサービスを始めている横浜市営地下鉄やゆりかもめなど7事業者を含めると、首都圏全体で約820駅まで対応駅の数は増える。箱根の強羅駅から日光の鬼怒川温泉駅まで、1都3県をまたいで乗り継いでも、改札でカードをかざすだけで済む。

三井住友カードの大西幸彦社長は、3月9日のシンポジウムでこの仕組みの呼び名を「タッチ決済乗車」から「クレカ乗車」に変えると発表した。

Visaだけで国内1億6000万枚がタッチ対応として発行され、対面でのカード利用の6割がタッチに移っている。「あと1〜2年で、カード決済はタッチ決済だという認識になる」(大西社長)。もはや「タッチ」を冠する必要がなくなった、という判断だ。

これだけの規模で一斉に相互利用が始まるのは、ロンドンやニューヨークにも例がないと大西社長は語る。stera transitが茨城交通のバス乗車でサービスを始めたのは2020年7月。5年半で232事業、45都道府県、2200駅にまで広がった。

【2026年3月11日11時35分追記】stera transitの事業展開について上記のように修正しました。

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三井住友カードの大西幸彦社長は「導入から利用促進のステージに入る」と宣言した(写真:筆者撮影)

利用件数は過去2年で約11倍。「導入から利用促進のステージに入る」。大西氏はシンポジウムをそう締めくくった。

SuicaやPASMOは不要になるのか

海外では、すでにクレカによる交通乗車が870以上の都市に広がっている。国内でクレカ乗車がスタートした背景の1つは、21年の東京オリンピックにある。

海外からの観光客が交通系ICカードを買わなくても電車やバスに乗れるようにしたい。そんなインバウンド対策が、国内展開の足がかりになった。

コロナ禍で五輪は1年延期されたが、開発は止まらなかった。「当初はインバウンド対策で一部の路線だけという事業者が多かった」と、三井住友カードの石塚雅敏トランジット本部長は振り返る。

空港まわりの利用率は今も高い。新千歳空港の連絡バスで約30%、京急の羽田空港第1・第2ターミナル駅では24%がクレカ乗車で、そのうち67%が海外発行のカードだ。

変化は空港の外にも広がり始めている。石塚本部長によると「最近は地域住民の利便性向上や、高齢者のお出かけ支援など、対応する課題が増えてきた」という。

国内の日常利用が増えてくると、当然こういう疑問が出る。「SuicaやPASMOはいらなくなるのか」。

結論から言えば、そういう話ではない。交通系ICカードは処理速度が速く、定期券との一体運用に長い実績がある。一方、クレカ乗車はチャージ不要で、ふだん電車に乗らない人ほど恩恵が大きい。それぞれ強みが違う。

両方が使える環境で何が起きるか。福岡にヒントがある。

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福岡空港と博多駅を結ぶバス路線の現金比率は、23年7月の75%から25年12月には26%まで下がった(写真:筆者撮影)

西鉄は九州の交通系ICカード・nimocaを維持したまま、クレカ乗車を並行導入した。福岡空港と博多駅を結ぶバス路線の現金比率は、23年7月の75%から25年12月には26%まで下がった。

クレカ乗車がICの客を食ったのかというと、逆だ。IC利用はむしろ増えている。減ったのは現金だけ。「お客様が状況に応じて最適な支払い手段を選べる環境を整えることが大事だ」(ニモカの田端敦社長)。

「クレカ乗車」まだできないこと&気をつけること

便利になるのは確かだが、「どこでもクレカで乗れる」わけではない。

まず、首都圏ではSuicaの開発企業であるJR東日本が入っていない。喜㔟陽一社長は25年11月、「クレカタッチを導入する予定はない」と明言している。

Suicaの機能拡張で対応する方針で、今回の相互利用にも参加していない。途中でJRの改札を通る経路ではクレカ乗車が使えず、従来どおりSuicaか切符が必要になる。

一方、JRグループで唯一動いているのがJR九州である。22年にJRグループ初の実証実験を始め、26年4月から鹿児島本線(門司港〜久留米)を中心に92駅で本格導入に移る。JR東日本が距離を置く中、JR九州が先行している構図だ。

事業者の対応にばらつきがある一方で、使い勝手にも課題が残る。

対応改札が1台だけの駅では、筆者の体験では反対側から出てくる人が途切れず、しばらくタッチできずに立ち尽くすことがあった。タッチする場所も駅ごとに違い、SNSでも「読み取り部の位置がわからず、立ち往生した」といった声は少なくない。

利用の仕方自体はシンプルだ。プラスチックのカードでもスマホでもいい。とはいえ、Suicaより体感では一拍遅い。

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クレカ乗車は0.3秒前後で立ち止まるほどではないが、「ちょっと待つ」感覚が残る(写真:三井住友カード)

Suicaの改札処理は0.2秒以内で、かざす前から処理が始まるので体感的にはほぼ一瞬。クレカ乗車は0.3秒前後で立ち止まるほどではないが、「ちょっと待つ」感覚が残る。

筆者がスマホで試した際には、画面表示や決済音がタッチの瞬間とずれて、通れたのかどうか一瞬わからなかった。慣れの問題ではあるが、最初は戸惑う人もいるはずだ。

来春にはクレカ定期券も登場

三井住友カードはシンポジウムで、26年から27年にかけて投入する新サービスを一気に並べてみせた。

利用者にとって最もインパクトが大きいのは定期券だろう。27年春にバス向け、同年秋に鉄道向けの提供を予定している。窓口に行く必要はなく、手持ちのクレカやスマホをアプリで登録するだけで、そのまま定期券になる。

登録した運賃以内なら路線を問わず乗り放題になる金額式と、従来型に近い区間式がある。在宅勤務で「毎日は出社しない」人にとって、上限を超えたら定額になる仕組みは相性がいい。事業者にとっても窓口業務の負担が減る。

4月から神戸市のみなと観光バスで始まるマイナンバーカード連携も、定期券との接続が見える施策だ。カード番号と乗車情報から年齢と居住地を判定し、対象者なら何もしなくても敬老割引が受けられる。将来的には、小児運賃の自動適用や地域住民限定の定期券割引にも応用できる。

首都圏全体で約820駅まで対応拡大, SuicaやPASMOは不要になるのか, 「クレカ乗車」まだできないこと&気をつけること, 来春にはクレカ定期券も登場, 公共交通の決済手段を広げる試金石

クレカ定期券は、登録した運賃以内なら路線を問わず乗り放題になる金額式と、従来型に近い区間式を展開予定(写真:筆者撮影)

26年夏には乗車Vポイントも始まる。クレカで買い物をすればカード会社のポイントが貯まるのは従来どおりだが、今回はそれとは別に、「乗車」という行為そのものに対してVポイントが付与される。

公共交通の利用にVポイントをつけるのは日本初だという。提示不要で、クレカ乗車をすれば自動的にポイントが貯まる。

公共交通の決済手段を広げる試金石

首都圏に暮らしていると、交通系ICカードの不便さにはなかなか気づかない。Suica1枚でJRにも私鉄にもバスにも乗れる。オートチャージを設定しておけば残高を気にすることもない。だから「クレカで乗れるようになります」と言われても、正直ピンとこない人が多いだろう。

だが東京を一歩離れると、景色は変わる。交通系ICカードに対応していないバス路線はまだ多いし、そもそもICカードを持っていない人も少なくない。地方では、現金で券売機から切符を買うのが当たり前という路線がいくらでもある。

そういう場所で、財布に入っているクレカ1枚でバスや電車に乗れるようになることの意味は大きい。逆に言えば、交通系ICカードを持っていない地方の人が東京に来たときに、迷うことなく電車やバスに乗れるということでもある。

クレカ乗車は、SuicaやPASMOを置き換える話ではない。首都圏では交通系ICの完成度が高く、その優位は当面揺るがない。 一方で、チャージ不要でそのまま乗れる仕組みは、訪日客や地方からの来訪者、たまにしか公共交通を使わない人にとって有力な選択肢になる。

現金依存を減らし、移動のハードルを下げる効果も見込める。JR東日本が加わらないなど課題は残るが、3月25日の首都圏729駅は公共交通の決済手段を広げる試金石になる。