“飛びすぎバット”応用で話題のミズノ「JPX ONE」ドライバーはなぜ発売を“1年延期”したのか?

型破りな発想で作られた「JPX ONE」

 ミズノといえば軟鉄鍛造アイアンを代表とする、伝統的なクラブづくりのイメージが強いメーカーです。打感や打音などのフィーリングに定評がある一方で、飛距離や寛容性については海外メーカーが優位と見る向きもあります。

 筆者(ゴルフライターの田辺直喜)もこれまではそのように考えていました。しかし、新たに発表された「JPX ONE」を試打したことで、その印象を見直すことになりました。フェースにボールが乗るような感触を残しながら、反発性能の向上が数値面でも確認できたためです。

ミズノの「先行開発プロジェクト」に所属する若子竜也さん

 なにより驚きだったのは、新たに搭載された「NANOALLOY(ナノアロイ)」フェースです。鍛造チタンフェースの上に、樹脂素材の「NANOALLOY」製シートを重ね合わせるという発想は、今までにないものでした。ミズノはなぜ、ここまで型破りな発想に至ったのか。調査を進めていくと、2022年に発足したというミズノの「先行開発プロジェクト」の存在に行き着きました。

【写真】これが東レとミズノ日本企業の技術を結集した“カーボンじゃない”ミズノの樹脂フェースです

5年先を見据えた新しい構造を模索する部署

「先行開発プロジェクト」は、リリースを控えた目先のモデルではなく、3年後、5年後を見据えた新しい構造を模索する部署です。ミズノでは2022年に先行開発プロジェクトが発足し、野球やゴルフ、テニスなどのスポーツ用品に活用する新しいテクノロジーの開発を行っています。今回は先行開発プロジェクトに所属し、ゴルフ部門を担当する若子竜也さんに話を聞きました。

若子さんは「ボール初速アップ」という命題をクリアすべく、さまざまな素材、構造のフェースを試したという

「配属された当初、ゴルフ部門にはいくつかの開発目標が設定されました。そのうちの一つが『(ウッドクラブの)ボール初速の向上』でした。市場において、多くのゴルファーがミズノの“アイアンにしか”興味がない状況の中で、飛びという明確なメリットを持って、ウッドクラブの認知を高める必要があったのです」

「ボール初速を伸ばすにはいくつかの方法がありますが、製品の大きなターニングポイントとなるフェースに絞って、開発に着手しました」(若子さん)

 目先のモデルであれば、製品のベースがほぼ固まっており、細部を作り込んで性能をブラッシュアップすることが主たる目的になります。一方、若子さんが担当する先行開発では、どこにあるか分からない新テクノロジーの「種」を地道に探さなければいけません。そんな中で大きなヒントになったのが、他のスポーツで先行開発を行うエンジニアのアイデアだったといいます。

「先行開発プロジェクトでは定期的に各スポーツ分野の担当者が集まって、意見交換会を行います。その中で生まれたアイデアが、フェースの表面に樹脂系の素材を用いることでした」(若子さん)

「芽」になりそうな新テクノロジーの「種」を見つけた若子さんたちは、すぐにプロトタイプのシートを用意し、ロボットテストを実施しました。ボール初速やスピン量がシートによってどう変化するのか。数値を確認していくと、他の素材よりも明らかな優位性を示したのが前述した「NANOALLOY」だったのです。

「フェース面に樹脂を貼るのはパーシモンクラブ以来のことになりますが、検証を重ねて、ボール初速が伸びるという確証を得ました。今まではチタンをうまく活用することばかりを考えていましたが、複合素材にすることで、チタン単独では到達できなかった性能を実現できました。そして、検証したデータを基に会社へのプレゼンを行い、新たに発売するドライバーへの搭載が決まったのです」(若子さん)

さらなる改良のために発売が1年延期に

 新テクノロジーの開発に成功した先行開発プロジェクトですが、製品化が決定した後で再び苦難の時が訪れます。

「JPX ONE」のベースとなるヘッドの模型

「ミズノの過去モデルと比べて、明らかな優位性のあった『NANOALLOY』フェースですが、製品化を前に他社のドライバーとしっかり比較するべきという話になりました。そして改めて調査をすると、飛距離差は1ヤードほど勝る結果に。新しいテクノロジーを大々的に売り出していく中で、他社製品との差がわずか1ヤードで、しかも発売する頃には新製品も登場しています。自信を持って勝てるとは言えない結果でした」(若子さん)

 若子さんたちには、発売まで1年の猶予が与えられました。

「『NANOALLOY』の厚みを変えたり、前作で採用した『CORTECH CHAMBER(コアテックチャンバー)』を入れたりもしました。その中で最も効果的だったのが、ベースとなるチタンを鍛造し、薄く仕上げることで反発力を最大限に高めることでした」(若子さん)

 ドライバーはルール上、クラウンからフェースまでが同一の平面になければならず、段差が付くと違反になります。「JPX ONE」では、フェース面に段差を付けてヘッドを成型し、そこに「ナノアロイ」シートを貼った上で、同一平面になるように調整する必要がありました。

 そのため「JPX ONE」の開発段階初期のモデルは、溶かした金属を型に流し込む「鋳造」でヘッドを作っていました。ヘッドとフェースを一体成型することで、コストを抑えながら、ルールに適合することが可能だったからです。

 しかし、鍛造に比べて鋳造は強度が劣る分、耐久性を考慮してフェースを厚く作る必要があり、反発力が落ちてしまいます。コストは上がりますが、鍛造でチタンフェースを薄く成型することで反発力はさらに向上しました。

「プロトタイプのドライバーが完成した際に、契約プロの皆さんにもテストしていただきましたが、ほとんどの選手がその時、使用していたものよりも初速がアップしていました。自分たちで『種』を見つけて、育てたアイデアが『勝負をかけるクラブ』とうたってもらえたのはうれしかったです」(若子さん)

 一見すると奇抜に映る「JPX ONE」の「NANOALLOY」フェースですが、その裏には地道な開発の積み重ねがあったのです。

田辺直喜

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