サンダーバードは雷鳥じゃない それでも愛される日本の列車名の名づけのセンス

【JR西日本】683系8000番台+681系 特急「サンダーバード」(JR京都線:島本~山崎) Photo:PIXTA

JR西日本の特急「サンダーバード」は、北陸本線を走っていた「雷鳥」の後継列車のため、雷=サンダー、鳥=バードと単純に置き換えた言葉による命名なのではないか?との憶測が絶えない。日本生まれの鉄道英語、アルファベット表記について、都立高校の英語教師だった旅行作家が解説しよう。※この記事は、野田隆『鉄道で親しむ英語』(交通新聞社)の一部を抜粋・編集したものです。

列車名を英訳する

 日本の鉄道の特徴のひとつに、列車名がある。行先や運転系統、車両などの違いに応じて個性的な列車名が付けられていて、おかげで覚えやすく、親しみやすく利用できるわけだ。

 日本で最初に命名された列車のひとつは1929(昭和4)年、東京~下関間を走る特別急行「富士」だが、この時代、欧亜連絡を担う国際列車だったため当然英訳されており、日本語そのままの「FUJI」 だった。

 このように、わが国の列車名は短く、分かりやすい言葉が多い。新幹線の列車愛称名に限ってみても明らかで、東海道・山陽新幹線の「のぞみ」「ひかり」「こだま」、山陽・九州新幹線の「みずほ」「さくら」「つばめ」、東北新幹線の「はやぶさ」「やまびこ」、北陸新幹線「かがやき」「はくたか」「つるぎ」、西九州新幹線「かもめ」など、すべてひらがな3~4文字で表現されている。

 おかげで、これらはそのままローマ字で英訳すれば事足りてしまう。しかも新幹線で使われる列車名は、かつての名門特急列車名を引き継いだものもあり、日本を代表する列車名として恥ずかしくないものばかりだ。

 こうした日本の列車名は大和言葉や地名であるものも多いので、日本を訪問する外国人にとっても最初は意味不明な列車名だろうが、むしろそんな日本らしさを説明してあげれば、きっと喜ばれると思う。

 その一方、在来線を走る特急列車名の中には、カタカナの外来語由来と思われるものが多々あるのも特徴である。新幹線の列車名とは、全く違うインパクトだ。

 現在唯一の定期寝台列車となった「サンライズ・エクスプレス」は、鉄道好きのアメリカ人なら現在でもアムトラックの列車として走っている「サンセット・リミテッド(Sunset Limited)」(ロサンゼルス~ニューオーリンズ)を連想するだろう。

 また、西武鉄道の特急「レッドアロー」は、偶然かどうか知らないけれど、かつて、スイスを走っていた真っ赤な電車と同名で、現在、ルツェルン交通博物館に本物やその模型が展示されている。

 この「〇〇アロー」は海外では意外と多く、英仏海峡を介してロンドンとパリを結んでいたのはGolden Arrow(金の矢)で、国際列車として一世を風靡した。フランス国内では、Fleche d'Orというフランス語の愛称で走っていた。西ヨーロッパ最北端の駅ナルヴィクを目指した北欧の長距離列車「ノルドピーレン」は英訳すれば、North Arrow(北の矢)、デンマークの首都コペンハーゲンからスウェーデン南部を走っていたローカル急行は「クストピーレン」と言い、英訳すればCoast Arrow(海岸の矢)。

「矢」は速いものの象徴なのであろう。したがって、西武特急「レッドアロー」は違和感なく訪日外国人にも受け入れられているものと思う。

 その一方で、同じカタカタ語の由来でも、英語の造語とおぼしき列車名が誕生しているのは、近年の傾向のひとつである。西武鉄道は、「レッドアロー」の後継車両として独特の風貌の特急電車を開発した。名付けて「ラビュー(Laview)」で、この英語は世に存在しない。L=luxury(贅沢)なlivingのような空間、a=arrowのような速達性、view=大きな窓から移りゆく眺望という想いを込めたそうで、言うなれば英語の造語だ。

Photo:PIXTA

 東武鉄道のRevaty(リバティ)も造語で、varietyとliberty(自由)に由来するそうだが、LとR、VとBの違いが判別しがたい日本人ならともかく、liberty(自由)に由来するなど、英語のネイティブ・スピーカーにとってはまず連想しない言葉だと思う。

 このあたりは本来の英単語と、造語しやすい日本語スピーカーの言葉遣いの技が合わさって語感のいい列車名になっているが、日本を訪れる外国人はどんな印象を受けるのか、気になってしまう。

 JR西日本の特急「サンダーバード」は、北陸本線を走っていた「雷鳥」の後継列車のため、雷=サンダー、鳥=バードと単純に置き換えた言葉による命名なのではないか? との憶測が絶えない。

『鉄道で親しむ英語』 野田隆(交通新聞社)

 雷鳥の英語はグラウス(grouse)あるいはターミガン(ptarmigan)であり、一方、サンダーバード(thunderbird)は架空の巨鳥を指すのだが、やはりこの特急列車の存在感の大きさからか、雷鳥を英訳すると「サンダーバード」だと思い込んでいる人すら多い。

 北陸地方の動物園には、「雷鳥=サンダーバード」ではありませんと掲示しているほどだ。そうした経緯を知らない外国人にとって、「サンダーバードは雷鳥のことである」などと思うはずもない。高速で走る特急列車なので、イギリスで生まれたテレビ番組の国際救助隊やアメリカ製のクルマを連想するのかもしれない。

 このように、日本の列車名と英語の関係を見ると、日本語そのままの列車名、英語などの外国語を採り入れた列車名、外国語を模した造語の列車名に分類される。それぞれを仔細に見てみると、大きく質が違うことが分かる。

 それだけ外国語が日本で定着していることの証であろうが、英語教師の立場からすると、それぞれの語源や由来はしっかりと区別しておくべきと、身を律する気持ちにさせてくれるのも、日本の列車名なのだ。