吉沢亮の「変わり果てた姿」に高石あかりが放ったセリフがいい! 思わず唸らされた会話劇〈ばけばけ第114回〉

『ばけばけ』第114回より 写真提供:NHK
今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第114回(2026年3月12日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)
知事や錦織の気持ち
知事(佐野史郎)に直談判に来たヘブン(トミー・バストウ)。
怒ってなどいないと言いながら、表情は口角が下がっている。彼は東京の役人から「ヘブン先生が怪しげなもんだない。日本人になったとしても、問題のない人物だということを保証するためのハンコをつかなきゃいけない」と言われていると説明する。
「私怪しいない。問題ない」
「そげですかいねえ」
疑惑の細い目。松江にずっといてほしいと知事が思っていたにもかかわらず急に熊本に行ってしまったヘブン。
「そげな人物を問題なしと言うことは、知事の立場としては到底できませんわね」
「やっぱり怒ってる?」とヘブン。
ヘブンは鈍い。知事はそれだけヘブンが好きだったということだ。
おそらく、錦織(吉沢亮)も……と視聴者は思っている、だろう。第113回で錦織の背後にヘブンの本コーナーがあった。興味なさそうで実は彼の本はちゃんと読んでいるのだ。最初の本以外、2冊ずつあったのは自分も買って、弟の丈(杉田雷麟)も送ってきてダブっていたのだろう。というかヘブンは送っていなかったのか。
主題歌明け。トキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)は松江中学に来ている。サワ(円井わん)とまた偶然出くわすが、今回もトキはサワに会いに来たわけではない。すこし不満そうなサワ。夫婦そろって、熊本行ってから松江の人に連絡していなくて不義理。
トキの目的は錦織で、ちょうどよく錦織が通りかかる。
変わり果てた姿にトキは一瞬固まる。
「お達者ですか」
「うんまあ今日は達者なほうだな」
勘右衛門、松野家から籍を抜いていた
こういう会話がうまい。トキは錦織の姿を見て、彼の健康がかなりよくないと悟っただろうが、遠慮がちに「お達者ですか」としか聞けない。「まあ今日は達者なほう」という返しは、今日以外は相当悪いことを婉曲(えんきょく)に物語る。
錦織はトキが自分に会いに来た理由を薄々わかっている。
「あの話なら」「あの話だよな」とまた「あの」が出るが、錦織の体調があまりに悪そうなのと「あの話」を断ってしまうものだから、「あの」「あの」トークは楽しくはない。
力を貸してくれない理由は、やはりヘブンのことを怒っているのかとトキ。怒ってなどいない、と錦織が言うと、
「なして、知事にかけ合ってくださらないんですか?」
トキは迫る。なんか失礼だよ。トキ。
錦織はトキの無礼に怒ることなく(そんな気力もないだろう)、ヘブンは日本人にならないほうがよいと思っていると応え、「君なら少しはわかってくれると思っていたが」と捨てセリフを吐いて去っていく。
残されたトキとサワ。サワは「君ならわかってくれると思っていた」の意味がわからない。
トキは「わかる」と言ったり「わからん」と言ったりする。トキはほんとにわかっているのだろうか。
ここでトキの心理を推理。ヘブンが日本人にならないほうがいいと言うのは、近代化していくいっぽうのいまの日本人に価値がないと思っているから。あるいは、異邦人の視点で日本を見た書物の評価が高かったのだから、帰化するとその魅力の前提や価値が崩壊してしまうことを心配しているのか。
ついに司之介(岡部たかし)とフミ(池脇千鶴)、トキとヘブンが勘右衛門(小日向文世)に会いに来た。勘太も連れて。
トキは雨清水家の戸籍に戻ることの許可をもらいに来たのだが、当然ながら勘右衛門はいい顔をしない。
「これで松野家は末永く安泰。いつあの世へいっても案ずることはない。そげに思っておったら……」
勘右衛門が渋っていると、タツ(朝加真由美)がとりなす。
「それぐらいで、もうよそもんなんですけん」
よそもの? 驚いたことに勘右衛門は勝手に上野家の籍に入って、上野勘右衛門になっていた。
この展開、なんとなく釈然としないものがある。だが勘右衛門はペリー(ヘブン)に仕送りをもらっていることを松江の人たちに知られるとトキによくないと考えたようなのだ。トキたちが松江に連絡していなかったのも同じ理由だろうか。
八雲、日本人になる
そんな疑問や不満は、司之介の嫌味で解消か。
「よそ者なのに、跡取りのことには口を出すんですね」
でもここもちょっとヘン。トキが松野を出たら、司之介はまた養子をもらえばいいというが、籍にまだ銀二郎(寛一郎)が入っているのだ。銀二郎の法的な尊厳がないがしろではないか。銀二郎が結婚するとき、どうするのだろう。
しかも、戸籍から勘右衛門の籍が外れているのがわかるのではないか? ここはなんとなく無理やりな感じがするのだが……。これも明治と令和の戸籍制度の違いであろうか。
ここはそういうおもしろコーナーでも、もやもやコーナーでもない。とてもとても重要な、ヘブンの日本名が付けられるシーンにつながるところなのだ。
「ラストおじじさま」こと勘右衛門は、ヘブンに「雨清水八雲」と命名する。例の日本最古の和歌と言われる古事記に載った「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」からとった縁起のよさそうな名前。
「素晴らしい、私! 日本人になったの気持ち」
従来であればここを手厚く描くであろうところ、その前のわちゃわちゃが手厚いのが『ばけばけ』らしい。
そして、朝方、ヘブンはなつかしい旅館で休んでいると、音で目を覚ます。
米をつく音だ。ヘブンは起き上がり、外に出る。
活気にあふれた物売りの声。寺の鐘の音。
あのとき、あんなに感動した幻想的とも思えた光景。
ところが、ヘブンは焦りだす。
「NO」を連発し、「どうしてだ」と混乱しながら、橋を登る。
「何をうろたえているんですか」と声がして、見ればそこに――。
錦織が。
この錦織は実体? それとも幻?
今週、いろんな大事なことが描かれているが、最後に錦織のことで頭がいっぱいになる構成が徹底されている。
フォトギャラリー
主なシーンより
第23週(3月9日~3月13日)
「ゴブサタ、ニシコオリサン。」あらすじ
トキ(高石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)に息子・勘太が産まれる。初めての孫に喜ぶ司之介(岡部たかし)とフミ(池脇千鶴)よりも、勘太にデレデレなヘブン。丈(杉田雷麟)や正木(日高由起刀)、クマ(夏目透羽)もその溺愛ぶりに目を丸くする。ある日、勘太の出生届をだすためにトキとヘブンの国籍を決めることに。手続きのため家族で久しぶりに松江へ帰ることになり、錦織(吉沢亮)やサワ(円井わん)と再会する。
連続テレビ小説『ばけばけ』
作品情報
連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。
【作】 ふじきみつ彦
【音楽】 牛尾憲輔
【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / 吉沢亮 / 北川景子 / 蓮佛美沙子 / シャーロット・ケイト・フォックス 板垣李光人 円井わん 濱正悟 岩崎う大 ジョー・トレメイン 杉田雷麟 日高由起刀 / 岡部たかし 池谷のぶえ 池脇千鶴 朝加真由美 佐野史郎 生瀬勝久 小日向文世 ほか
【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始