フランス伝統菓子の第一人者、オーボンヴュータン・河田勝彦さんが歩んだ道。57年前に渡ったパリで苦悩する日々「お前が変われ」兄の言葉が変えた仕事との向き合い方

東京・尾山台にあるフランス菓子店「オーボンヴュータン」のオーナーシェフ・河田勝彦さんに、菓子職人として歩んでこられたお話を伺いました。80歳を超えたいまもなお、第一線で働き続ける河田さんの仕事に対する想いとは? 菓子づくりで大切にしていることも教えてもらいました。

(『天然生活』2024年7月号掲載)

僕らの表現方法は、つくる菓子がすべて, 57年前に渡ったパリで学んだこと, いま目の前にあることに集中する, 甘さは控えるものではなく、秘めるもの

僕らの表現方法は、つくる菓子がすべて

僕らの表現方法は、つくる菓子がすべて, 57年前に渡ったパリで学んだこと, いま目の前にあることに集中する, 甘さは控えるものではなく、秘めるもの

店名になっている「オーボンヴュータン」は‟思い出の時”という意味合い。フランスでの修業時代、若き河田さんが抱いた熱い思い、懐かしむ気持ちなどが込められている

生菓子、焼き菓子、チョコレート、アイスクリーム、コンフィズリー(砂糖菓子)、コンフィチュール……。「オーボンヴュータン」の店に並ぶお菓子の幅広さと種類の多さには目を見張ります。

「自分がおいしいと思う菓子をつくってきました。ここに並ぶ菓子は、フランス菓子というくくりではなく、自分なりのお菓子なんです」と河田勝彦さん。

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開店当時から残っているお菓子は全体の3分の1くらい。試作を重ねてつくりあげてきたものなので、味も形もずっと同じスタイルのまま

57年前に渡ったパリで学んだこと

57年前、船とシベリア鉄道、飛行機を乗り継いでパリに渡った河田さん。本場のフランス菓子を目にして驚いたといいます。

日本で目にしていた洋菓子は実在せず、ほとんどが知らない菓子ばかり。また、粉やバターの質の違い、果物の味わいの濃さ、国民性、すべてのものにカルチャーショックを受けたと。

日本とは異なる価値観のフランス社会になじめず、自問自答を繰り返す日々。とある日、兄から届いた手紙の「お前が変われ」という言葉に考え方を改め、その後、職場を転々としながらたくさんの菓子や人との出会いを繰り返し、さまざまなことを経験しながら自分の引き出しを増やしていったのです。

「ムチャクチャ怒られたし、働かされました。失敗すること、つらいこと、なんでも経験していいんです。けれど、これを自分で楽しむ方向にもっていかないと。次に進んで、また同じことをするかもしれないけど、それでも成長する部分はあるし、何かが見えてくるんじゃないかな」

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画像: 57年前に渡ったパリで学んだこと

いま目の前にあることに集中する

隅々まで磨き上げられた工房では早朝6時から仕事がスタート。河田さんも毎日ここで作業にあたります。

「仕事中、何を考えているかって? 何も。考えることは多岐にわたってあるけど、いま目の前にあることを集中してしっかりやること。やっていれば、次にすることが読めてくるはずで……。人の生き方もそうだと思います」

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若いスタッフと一緒に黙々と働く河田さん。「フランスではどの店も先頭きって働いていたのはシェフでした。まるでトップが働かなかったら下はついてこないとばかりに。将来シェフとして働くことがあれば、自分も同じように働こうと思っていました。現場で働いていれば僕もいいたいことがいえます」

午前中はその日、店に出すものをつくり、午後はチョコレートや焼き菓子など保存できるもの、素材づくりなどを行う。

この素材づくりとは「生のアーモンドを仕入れ、ゆでて皮をむき、キャラメリゼにしてから何度かローラーにかけ、プラリネにする」など2次、3次加工を施してひとつの菓子をつくりあげていくためのもの。素材からつくるには手間と時間がかかり、ここまで手掛ける菓子屋は多くはありません。

「時代と逆行している生き方かもしれませんが、僕には時代がどうかなんてまったく関係がない。このスタイルが自分には一番合っていると思って長年続けているだけです。だって、うまいのは確実だから」

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材料が一番いい状態にある瞬間に仕上げないと味が劣化してしまう。菓子づくりにおいては何より大切なことだという

甘さは控えるものではなく、秘めるもの

そして、世の中は甘さ控えめの風潮ですが、河田さんは砂糖の糖分の甘さについてこう語ります。

「いちごジャムでもいえることですが、僕ら菓子職人は‟甘さ”をどう表現するかなんです。ひと口食べて砂糖の甘さが先に感じられるようでは僕らの負け。

これはどんな菓子でもそうで、甘さは控えるものではなく、秘めるもの。ここが職人の技術。菓子を追求して行き着く先は、甘さをどう表現するかだと思っています」

妥協などできない手作業の大切さと、甘さの表現に魂を注ぎ込む姿は、年を経ても変わることなどありません。

僕らの表現方法は、つくる菓子がすべて, 57年前に渡ったパリで学んだこと, いま目の前にあることに集中する, 甘さは控えるものではなく、秘めるもの

自分の仕事に没頭するだけでなく、その日をどうこなしていくか、常に職人たちの動きを見て気を配り、むだがない仕事ぶり

〈撮影/星 亘 構成・文/水野恵美子〉

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画像: 甘さは控えるものではなく、秘めるもの

河田勝彦(かわた・かつひこ)

1944年生まれ。1967年パリに渡り、菓子屋、レストラン、ホテルなどで約10年修業。その合間各地の郷土菓子を食べ歩く。帰国後1981年、東京・尾山台に「オーボンヴュータン」を開店。フランス伝統菓子の第一人者。

オーボンヴュータン

東京都世田谷区等々力2-1-3

☎03-3703-8428

営業時間:10:00~17:00

㊡火・水曜日