原子力発電を地底にぶっ刺す。これが次世代の発電なの?

image: Deep Fission
重力も地球資源のひとつ、なんですね。
「原子力発電所」と聞けば、巨大なドーム型の建物や、広大な敷地が必要そうなイメージですが、それを覆すやり方で期待を集めるスタートアップがアメリカにあります。
Deep Fission社が手掛けるのは、地下約1.6キロメートルの掘削孔に小型の原子炉を埋め込むという発電方法。2026年3月10日から、カンザス州パーソンズにてデータ取得井の掘削を開始すると発表しました。
地面の深さが「圧力容器」の代わりになる
なぜ、原子炉を埋めるのか。そこにはなかなか面白い物理の話があります。
まず標準的な加圧水型原子炉(PWR)は、水を高圧で沸騰させて蒸気をつくり、その蒸気の力で発電機につながるタービンを回して電気をつくります。
この沸騰させるための仕組みが、原子力発電所では原子炉内にあるウランの核分裂によって発生した熱を利用しているわけです。

image: 関西電力
Deep Fission社の小型原子炉を地下1.6キロメートルの深さへ埋めると、上に重なる水柱が生み出す静水圧が約160気圧になり、これはPWRの運転に必要な圧力とほぼ一致します。
プールの底に潜ると耳が痛くなりますよね。あの水圧って、深くなればなるほど強くなります。そういう自然の力を、そのまま原子炉の動力源にしてしまおうというのが、この技術の核心です。

image: Deep Fission
要は、従来の原子炉が必要とする巨大で高価な圧力容器や大規模な格納施設が、地球そのものに置き換わるわけです。
さらに、周囲の岩盤が放射線を遮る天然の壁となり、安全性に追加の一手を打つことにもなります。
共同創設者でCEOのLiz Muller氏は「重力は自然界で最も信頼できる力のひとつであり、その信頼性を原子炉設計に組み込んだ」と語っています。
Deep Fission社がこの小型原子炉を「Gravity Nuclear Reactor」と名付けたのも、そんなところから来ています。
サイズ感は「立てた電柱」くらい

image: Deep Fission
Gravity原子炉は高さ約9m、直径約0.75mで、掘削孔に収まるサイズに設計されています。
1基あたりの出力は15MWe(メガワット電力)で、複数基を組み合わせることで最大1.5GW(ギガワット)までスケールアップできるモジュール式の構造を採用しています。地上型の原子力発電所に比べても、はるかに少ない土地面積で同じ出力を実現できるという目算です。
一般的な電柱が12〜16mで、いずれも全体の長さの6分の1が地中にあるそうですから、長さ的には電柱の見えている部分が全部地中に埋まっている感じですね。太さは3周りくらいは大きいくらいでしょうか。そう捉えると、かなり小型に思えます。
安い・早いもメリット
また、Gravity原子炉のユニークな点は、まったく新しい技術を一から開発するのではなく、3つの確立された技術を組み合わせていることにもあります。
原子力分野の標準的なPWR、石油・ガス産業で実績のある深層掘削技術、そして地熱発電の熱移送技術です。既存のサプライチェーンと低濃縮ウラン燃料を活用できるため、コストは最大80%オフ、建設期間は約6カ月とコストメリットが大きいのも魅力です。
建設コストは従来型の原子力発電所と比較して70〜80%削減できる可能性があるとのこと。
現在プロジェクトとして進んでいるのは地質や水文(地下水の存在状況)といったデータ取得のための掘削井で、深さ約1,800m、直径約20cmに掘削される予定で、まだ原子炉は設置されません。初臨界達成は2026年7月が目標。商用については、規制承認の進捗次第ですが、2027〜2028年の着工が見通しとなっています。
地下に埋めれば何が「安全」になるのか?
地上設置の原子炉は、実は様々なリスクを抱えている存在です。航空機や車両が衝突したり、竜巻や洪水といった天災に見舞われたり。日本では地震と津波についても、僕らは容易に想像できるようになりました。
原子炉が地下に埋まっていることで、最悪のシナリオでも原子炉やボーホールへの経済的損失にとどまり、「人や環境への影響は少ない」とMuller氏は主張しています。また、運転終了後は同じ掘削孔を核廃棄物の地層処分に活用することも検討されています。
さて、日本でこのアイデアの実現性を考えると……どうしても「地震は?」という疑問が頭をもたげます。深い地盤が安定しているかどうかは地域によって異なるでしょうし、活断層が多い日本では、地下1.6キロメートルといえど地盤評価は慎重にならざるを得ません。
カンザス州は地震活動が比較的少ない地域であることも、最初の実証サイトとして選ばれた背景のひとつと考えられます。
とはいえ、電力の安定供給という課題は日本も抱えています。地下型原子炉という発想が今後どう発展するか……その答え合わせはもう少し先になりそうですが、未来の原子炉は埋まっているのが当たり前、という可能性もあるのです。
Source: Deep Fission, FabScene, hdblog.it