【東京大学大学院・真鍋陸太郎氏】都市は「情報の織物」である。コミュニティ・アーカイビングが書き換える、没場所性を超えるレジリエンス
- テーマ1:「教育DX」と「街づくり」の意外な接点:情報の循環
- 90年代、自力でコードを書いて「地図」を民主化した
- デジタルは、市民が手に入れた「新しい民主化」の武器
- テーマ2:コミュニティ・アーカイブが「街の基盤」になる:記憶の錬金術
- 「金太郎飴」の再開発に対抗する「はかない記憶」の力
- テーマ3:メタ観光の「次」:情報のレイヤーが変える都市の価値
- 市民は「センサー」である:25年前の世田谷から続く思考
- 地図プラットフォームの自作と「アスキー×真鍋」の可能性
- テーマ4:「歩きたくなる街」の数値化:体験的価値の推定
- 「アーカイブ」ではなく「アーカイビング」と呼ぶ理由
- 大森の商店街で「みんなの声」をサイネージに変えた実践
- 2030年、価値を「トレード」できる街へ
街づくり、街おこし、そして都市計画。その最前線には、常に常識を書き換える「キーマン」たちがいる。元ウォーカー総編集長であり、長年日本の街を見つめ続けてきた玉置泰紀が、いま最も話を聞きたい相手に直撃、大きく変容する日本の「新しい街の形」を紐解いていく。
第2回は、東京大学大学総合教育研究センター教授の真鍋陸太郎氏。効率重視の都市計画が地域の個性を奪う「没場所性」に対し、真鍋氏が提唱するのは、住民の記憶や物語を資産化する「コミュニティ・アーカイビング」だ。黒電話を使った記憶の収集から、最新のスマートフットウェアによる歩行データの解析まで。デジタルとアナログを往来しながら、都市を「意味の充満する場所」へと再定義する、真鍋流・まちづくりのOSに迫る。
【真鍋陸太郎氏プロフィール】

真鍋陸太郎氏
真鍋 陸太郎(まなべ りくたろう) 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 准教授。博士(工学)。専門は都市計画、まちづくり、コミュニティ・アーカイビング。ジェイン・ジェイコブズの思想をデジタル技術で現代に実装する試みや、メタ観光、教育DXなど多岐にわたるプロジェクトを牽引。著書に『まちづくりデジタルトランスフォーメーション』など。
テーマ1:「教育DX」と「街づくり」の意外な接点:情報の循環
玉置: 真鍋さんは今、東大の教育DX推進を担当されていますよね。一見遠い「大学のDX」と「まちづくり」ですが、先生の論文ではその二つが共通のプロセスで語られています。まずは今、大学で具体的にどんなお仕事をされているのか、そこからお聞きしてもいいですか?
真鍋: 正確には「大学総合教育研究センター」という全学組織の「教育DX推進部門」に所属しています。今まさに手掛けているのが「UTokyo ONE(ユートン)」というシステムです。 今の東大って、学生が使うデジタルサービスが多すぎてバラバラなんですよ。それを一元化してワンストップで使えるようにしようという試みです。
玉置: 窓口を一本化する。学生にとっては切実な話ですね。
真鍋: そうなんですが、これが一筋縄ではいかなくて。大学には「学務システム(履修や卒業判定)」と、授業で使う「LMS(ラーニング・マネジメント・システム)」という巨大な二つの山がある。これらが部局(学部)ごとの細かいルールで設計されているので、中身を置き換えるのはほぼ無理なんです。だから、せめて入り口だけでも一つにしよう、と格闘している最中です。
玉置: 他にも、コロナ禍で注目された「MOOC(ムーク:大規模公開オンライン講座)」や、学外向けの「東大TV」なんかも先生のセンターの担当ですよね。
真鍋: はい。もう一つの「TL(ティーチング・アンド・ラーニング)推進部門」が担当しています。講義を収録して公開し、単位認定までつなげたり。そうした「情報の集積・蓄積・活用の連環」をデザインする仕事が、僕の中では「まちづくり」と分かちがたく結びついているんです。
90年代、自力でコードを書いて「地図」を民主化した
玉置: 真鍋さんの論文でも「情報流通による関係性の再構築」という言葉がキーワードになっています。まちづくりの専門家である真鍋さんが、なぜこれほど「情報の連環」を重視されるようになったんですか?
真鍋: 僕の原点は、1992年の都市計画法改正にあります。この時「都市計画マスタープラン」の策定に市民参加が義務付けられ、日本中で市民参加の会合が盛んになりました。でも、当時大学生だった僕は思ったんです。「週末ごとに街のことを考えに集まるなんて、普通は無理だよ。遊ぶ方が絶対いいに決まってる」と(笑)。
玉置: 確かに、ごく一部の熱心な人しか参加できない仕組みですよね。
真鍋: そう。その「積極的な参加」を強いるまちづくりに疑問があって。もっと日常の中で、なんとなく情報を得たり意見を伝えたりできないか。そんな時、Windows 95が出て、ガラケーにGPSや写メが付いた。1998年に博士課程に行った頃、「これだ、インターネットの地図に直接書き込めればいいじゃん!」と思いついたんです。
玉置:1998年! Googleマップすらない時代ですよね。
真鍋: 何もありません。だから全部自分でコーディングしました。一からピュアJavaでサービスを書き、JavaScriptを使用したユーザーフレンドリーな機能を入れて、地図は1/3ずつ都度サーバに読みにいってスクロールさせるシステム「カキコまっぷ」を作ったんです。これが僕の「アーカイビング」の始まり。市民から情報を集め、地図の上に蓄積し、それを公開して活用する。まさに今の研究に直結しています。

カキコまっぷ(初代)
デジタルは、市民が手に入れた「新しい民主化」の武器
玉置: 都市工学の真鍋さんが自力でそこまで……。その実感が「デジタル=共通言語(コモンズ)」という思想に繋がっているんですね。
真鍋: そうですね。まちづくりにおけるデジタルやネットワークの本質は「新しい民主化」です。かつてはミーティングを一つ設定するのも電話やFAXで大変な時間がかかったし、個人が情報を発信する方法もなかった。 それが今や、SNSやLINEで誰でも写真や動画を共有できる。これは市民側が「力」を手に入れたということなんです。情報発信ができるようになれば、市民同士のつながりも、行政との関わり方も書き換わる。
玉置: デジタルを単なる効率化の道具ではなく、コモンズ(共有財)を作るための基盤として捉えるわけですね。
真鍋: はい。学生にもいつも言っています。「君たちが当たり前に使っているそのスマホは、市民が力を手に入れるための武器なんだよ」と。教育DXもまちづくりも、その「力」をどうデザインして、新しい関係性を築くか。そこが僕のやっていることのすべてなんです。
テーマ2:コミュニティ・アーカイブが「街の基盤」になる:記憶の錬金術
玉置: 「アーカイブ」が今回のインタビューの本丸だと思っているんですが、真鍋さんがやってきたことで僕が特に面白いと思うのが、文京区の「テレフォノスコープ(Telephonoscope)」。黒電話を使った、一見するとちょっと「怪しげな儀式」のような情報収集ですよね。これまで「デジタル、デジタル」と最先端っぽく話してきましたけど、あえてアナログな手法で個人の記憶という極めてミクロなデータを集める。これが街の持続可能性にどう繋がっていくのか、ぜひ教えてください。
真鍋: 都市計画という分野は、今の「ビッグデータ」なんて言葉が出るずっと前から、いわゆる「高所」から俯瞰して、都市施設の最適配置を考えるということをやってきました。でも、やっぱり最後は「そこで暮らしている人間個人」のことを考えないといけないのが、まちづくりであり都市計画の本質なんじゃないかと思うわけです。 今でいうビッグデータや、昔ながらの統計とは違う、個人の話をしっかり聞いた上で、それをどうまちづくりに活かすか。その「活かし方」はまだ完全には解けていない部分もありますが、まずは集めること、蓄積していくことに価値がある。そう考えて始めたのが文京区の「あなたの名所ものがたり」です。
玉置: あの黒電話(テレフォノスコープ)は、どういう経緯で生まれたんですか?
真鍋: あれはメディア論の水越伸(関西大学・教授)先生が東大の情報学環にいらっしゃった頃に研究をやる機会があって、水越先生が「黒電話で録音できるの、いいんじゃない?」と。 もともとの発想として、震災直後の被災地に繋がっていない電話ボックスがあって、そこで受話器を持って語ることで被災の傷が癒やされていく、という取り組みがありました。そこからヒントを得て、黒電話の持つ懐かしさや物理的な素材感、あの受話器に向かって話すという行為そのものに、今の若い人たちも何らかの「意味」を見出してくれるんじゃないか、ということで作りました。

テレフォノスコープの内部
玉置: 最初はiPadを使っていたとか。
真鍋: そう、最初はiPadに受話器型のイヤホンマイクを繋いだだけのシンプルなガジェットだったんです。でも、そこから「黒電話を改造しよう」ということになって、今のテレフォノスコープができました。 実はYouTubeにプロモーションビデオがあるんですけど、これ、中身を大改造しているんですよ。外見は完璧に黒電話ですが、中にiPod Touchが入っていて、受話器を上げた信号を感知して自動で録音が始まる。録音された音声はそのままサーバーに蓄積されていきます。YouTubeの動画はアルス・エレクトロニカ(メディアアートの祭典)に出そうとした時のビデオです(笑)。
玉置: (動画を見ながら)本当だ、完璧に黒電話だ。
「金太郎飴」の再開発に対抗する「はかない記憶」の力
玉置: 文京区での「あなたの名所ものがたり」についても、改めて詳しく教えていただけますか。
真鍋: 例えば文京区の三四郎池。普通なら「夏目漱石のゆかりの地」といった文学的な説明がなされますが、そうじゃなくて、そこを訪れた地域の人や学生が、その場所でどんな思い出を持ったかを聞くんです。「漱石がどうこう」じゃなくて、「三四郎池に行って蚊に刺されまくって、めちゃくちゃ痒かった」という、そういう個人の記憶。それを「あなたの名所」として記録していくんです。
玉置: 文京区と東大の共同事業として、もう18年目になるんですね。
真鍋: 2007年からずっと続いています。年2回ほどのワークショップで、ファシリテーターが参加者の「はかない記憶」を引き出し、3分間の物語として録音する。これは文京区の公的な「アカデミー推進計画」にも位置づけられた、文京ふるさと歴史館が担当する立派な公的アーカイブなんです。 ネットのSNS(Xなど)での単なるつぶやきより、ずっと手間をかけて「ものがたり」として書かれ、録音されたもの。その質的な価値は高いと思っています。
玉置: 真鍋さんの論文に、効率重視の都市計画が地域の個性を奪う「没場所性」という言葉がありました。
真鍋: まさに駅前再開発がその最たるものです。僕らの分野では「金太郎飴」なんて言われますが、かつての再開発はどこも同じビルを建てて、そこにあった歴史ある路地や小さなお店、人々の生業を全部潰してきました。でも、そこには豊かな歴史や個人の記憶が必ずあったはずなんです。それをしっかり聞き取って、再構築される街に活かしていかないといけない。
玉置: ビッグデータによる統計的な分析と、こうした極めて私的な「物語」の収集。この二つは真鍋先生の中ではどう共存しているんですか?
真鍋: ビッグデータを否定しているわけではありません。従来的な分析で都市に必要なものを導き出しつつ、そこに「名所ものがたり」のような個人のピースを足していく。 実は僕の研究チームで、大森や文京区、宮代町のX(Twitter)の過去データをずっと収集して蓄積していた時期もありました。それらを並行して分析することで、「この街は今、どういう方向に向かっているか」が見えてくる。 これまでの都市工学は、新しい技術があってもなかなか自治体の現場に落ちていかない、行政が動かないというジレンマがありました。でも、今後はこういう「物語」と「データ」を繋ぐことで、もっと軽やかに街を動かしていけるんじゃないか。そう思っています。

あなたの名所ものがたりワークショップでの録音の様子
テーマ3:メタ観光の「次」:情報のレイヤーが変える都市の価値
玉置: 僕も理事として一緒に活動している「メタ観光」について教えてください。大きく言えば、「情報のレイヤーが都市の価値を変える」という話です。 真鍋さんの論文の中でも、代表理事の牧野友衛さんがよく仰っている「観光は情報の消費である」という定義を引用しつつ、墨田区でのメタ観光祭の実践などを紹介していますね。行政がこれまで決めてきた「公式な観光資源」だけでなく、一個人の「マンホールの蓋」への偏愛や、行き止まりの「ドンツキ」といったものまで、フラットに価値化していく。こうした「文化の民主化」が進むことで、専門領域である「都市計画」はどう変わっていくのでしょうか。
真鍋: 都市計画とメタ観光が普段から直接結びついているわけではないんですが、メタ観光的な「資源を見つける」あるいは「あるものを可視化する」というプロセスは、都市計画における物理的な整備に非常に重要なヒントをくれると考えています。 というのも、物理的な空間を作る際に一番難しいのは、「どんな文脈(コンテキスト)でそのものを作ればいいか」という判断なんです。これまでの都市計画が「金太郎飴」的なハコモノばかり作ってきたと言われますが、それは作る側が無能だったからだけではなく、その町にふさわしい固有の文脈を「読み取る手段」を僕たちが持っていなかったという側面もあると思うんですね。
玉置: 読み取るための「道具」がなかった、と。
真鍋: そうなんです。メタ観光のように、ニッチな視点から大衆的な視点までを「レイヤー」として重ねて可視化できれば、整備の際に「どのレイヤーに力点を置くべきか」を住民と一緒に決めやすくなりますよね。 最近だと江東区でもメタ観光の取り組みが始まっていますが、あれは江東区の方から「やりたい」とアプローチがあったんです。最初、僕と玉置さんで区役所を訪問しましたよね。あの時の担当の方のセンスが素晴らしくて。一気に盛り上がって、これから5年かけて展開していくという話になっています。

すみだメタ観光マップ
市民は「センサー」である:25年前の世田谷から続く思考
玉置: 山口県での取り組みも盛り上がっていますよね。地元の高校生たちが探究学習の一環としてメタ観光に取り組んでいて。
真鍋: 山口県での、メタ観光のプロジェクトは本当に面白いですね。地元の「株式会社3in(さんいん)」という、元高校教師の方たちが立ち上げた組織の熱意が凄まじいんです。 最初は、ほかの理事も「高校5校を一度に相手にするのは、防衛的に準備を固めないとパンクする」と心配していましたが、実際には彼らがメタ観光の本質を深く理解して、自律的に動いてくれた。高校生の「探究学習」とメタ観光の「資源発見」が見事にマッチしたんです。
玉置: 真鍋さんは論文の中で「市民をセンサーにする」という言葉を使われていますが、これは先生の原点でもありますよね。
真鍋: はい。僕が博士論文で取り組んだのは、世田谷区での「子育て支援情報」の集積でした。当時はまだベビーカーで入れる店や、駅のエレベーターの場所なんてどこにも載っていなかった。そこで子育て団体と一緒に情報を集めてマップ化していったんです。その時、障害者団体の方たちとも繋がりができました。「ベビーカーが行ける場所は、車椅子でも行けるよね」と。「子育て」と「障害者」という異なる視点(レイヤー)を持っていても、見ている対象や価値は重なる。この「違う視点で同じ場所を語り、レイヤーを重ねる」という思考は、僕の博士論文から現在のメタ観光まで一貫して流れている方法論なんです。
地図プラットフォームの自作と「アスキー×真鍋」の可能性
玉置: 地図システムについてですが、Stroly(ストローリー)の高橋真知さんは独自のプラットフォームを展開されています。一方で、メタ観光はGoogleマップやオープンストリートマップを使っていますよね。
真鍋: 今はもう、リーフレット(Leaflet)などのライブラリを使えば、自分たちで地図を自由に描ける時代です。地図プラットフォームを介さなくても、自分たちでデータベースを組んで、国土地理院の地図などの上に表現できてしまう。 僕が本当に作りたいのは、単なる地図ではなく、そこに紐づく「アーカイブシステム」です。人々の「はかない記憶」や、多様なレイヤーを蓄積し、引き出せる場所。
玉置: それは面白い! アスキーと真鍋さんがタッグを組んで、自治体が手軽に導入できる「物語のアーカイブ・システム」を構築できたら、ものすごい価値になりそうです。
真鍋: ぜひやりたいですね。ソフトな「物語」を地図上で重ね合わせる。過去から現在、そして未来の予測までを多層的に可視化する。そんな新しいサービスの形を、アスキーの皆と一緒に作っていけたら最高ですね。
テーマ4:「歩きたくなる街」の数値化:体験的価値の推定
玉置: 真鍋さんの論文に出てくる「歩きたくなる街(ウォーカブル・シティ)」の数値化。今回の論文で特に気になったのが、「スマートフットウェア」を使った研究です。歩行の質をデータ化して、体験的価値を推定する。これこそデジタルと街づくりの融合の最先端だと思うんですが、人間の感情や散歩の質なんて、本当に数値化できるものなんですか?
真鍋: なかなか難しい挑戦ですが、これは内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)という大きな枠組みの中で、企業さんと一緒に進めている研究です。名古屋をケーススタディにして、渡部一郎氏が中心となって進めています。靴の中にセンサーを仕込んで、歩幅や速度、加速度などの歩行データを取るんです。
玉置: 靴そのものがセンサーになるわけですね。
真鍋: そうです。どこで立ち止まり、どこで速く歩いたか。そのビッグデータと実際の街の状況を照らし合わせることで、「ここで人はどんな感情になっているか」を推測していく。さらに、スマートウォッチでのバイタルデータ取得や、その人がもともと何に興味を持っているかという「ペルソナ設定」も組み合わせます。こちらも若手の井上拓央氏が中心となっています。パートナーの竹中工務店は、例えば「こういう開発をすれば、こういう人たちが来て、こう感じる」という予測精度を上げたい。彼らが持っている「エモスケ(エモーショナル・スケープ)」という、空間と感情の相関を測るサービスの精度を上げるための共同研究でもあります。
玉置: ご自身もかなり細かく動いておられますよね。
真鍋: ついつい細かいことが得意なもので(笑)。会議でも「ここまで細かい作業をさせるのか」なんて言われます。僕らがやりたいのは、位置を特定して「どの場所にいた時に、どんなバイタルで、どんな動きだったか」を厳密に紐付け、分析すること。それが「意味」と「データ」を繋ぐ鍵になるんです。
「アーカイブ」ではなく「アーカイビング」と呼ぶ理由
玉置: 論文の中で僕が非常に刺激を受けたのが、「コミュニティ・アーカイビング」という言葉です。最後に「イング(-ing)」が付いている。これは先生が作られた言葉ですか?
真鍋: 僕が「-ing」をつけました。これにはこだわりがあって。都市計画って英語で「アーバン・プランニング(Urban Planning)」と言うんです。プラン(計画案)という「静的な成果物」ではなく、プランニングという「動的なプロセス」を指している。 アーカイブも同じで、収集・蓄積・活用という一連のプロセス全体こそが大事なんです。だからあえて「アーカイビング」と呼んで、プロセスそのものをデザインすることを提唱しています。
大森の商店街で「みんなの声」をサイネージに変えた実践
玉置: その「動的なプロセス」の好例として、大森山王の商店街でのプロジェクトがありますよね。
真鍋: 大森山王の商店街では、ワークショップで集まった地域の人たちの声を、いかに街に還元(フィードバック)するかに腐心しました。最初はアーケードに「みんなの声」を印刷したフラッグをぶら下げたんです。当時、東京オリンピック2020の誘致フラッグが並んでいましたが、「これ、情報量ゼロだよね」と思って(笑)。もっと街の生の声を載せよう、と。

大森山王まちづくりフラッグ
玉置: でも、紙だと張り替えが大変だったりしますよね。
真鍋: そう、ラミネート代もバカにならないし、数ヵ月に一度しか更新できない。そんな時、商店街の副理事長さんが「予算を確保したからサイネージを入れよう」と。2013年頃の話ですが、大手メーカーに頼むと高すぎるので、地元の腕利きの若手と一緒に自作したんです。OSにLinuxを積んで、メールで写真を送るだけで店舗前の表示を変えられる仕組みを作った。これが「まちまど」です。
玉置: 10年以上前に、商店主が自分で「今日のおすすめ」をリアルタイムで出せる仕組みを自作していたとは。
真鍋: ポイントは、単なる広告板にせず、まちづくりの情報収集とセットにしたことです。年末には「今年の一文字」をサイネージに表示したり、スマホの写真で「かるた」を作ったり。商店街の販促費を使って綿あめやカニ汁を配り、その代わりに街への想いを書いてもらう。そういう「泥くさい仕掛け」と「デジタル」を掛け合わせることで、初めてアーカイブが街の基盤として動き出すんです。

大森山王まちまど
2030年、価値を「トレード」できる街へ
玉置: 最後に、真鍋先生がこれから先、見据えている未来について一言いただけますか。
真鍋: 個人の思いがどう街に反映されるか、そこをもっと追求したい。街の価値って、人それぞれ違いますよね。その多様な価値を可視化して、お金ではないところで「価値をトレード(交換)」できるような社会的な仕組みを作りたい。 竹中工務店さんとの研究もそうですが、コンサルとして入るのではなく、学術的な支援として「価値の交換」に基づいた開発のあり方を提示できれば、街はもっと面白くなる。そう思っています。

筆者(左)と真鍋氏
【編集後記:玉置の眼】
「情報の民主化」ならぬ「地図の民主化」を掲げるStrolyの高橋真知氏と、地域の記憶を「情報の織物」として編み直す真鍋氏。二人の根底にあるのは、巨大なシステムに回収されない「個人の物語」への敬意だ。 真鍋氏が語る「没場所性」への抗いは、デジタル技術を単なる管理ツールとしてではなく、私たちが自分たちの街を「自分たちのもの」として取り戻すための筆として使う挑戦でもある。未来は、誰もが自分の視点で街を書き換え、歩くたびに新しい物語に出会える。そんな「多層歩行」の時代がすぐそこまで来ている。